新学期早々、いつものように曜と千歌とともに学校に登校した。そしてその登校中、人目は少なかったとはいえ、道の真ん中で、曜をキスをしそうになった。しかしあと数センチというところで千歌が合流し、僕たちがキスをすることは寸前で止められた。よくやったととも、なぜこのタイミングなんだという思いを千歌に言うつもりはなかったが、もしも曜とキスをしたら僕たちはどうしていたのだろうということを考えていたら、あの後の登校中の記憶はあまり鮮明ではなかった。というよりもホームルーム中の今もあまり頭が働かない。かろうじで変わるのは、今はこのクラスの委員を決めようとしているが、誰も立候補者がいなくて先生が困っているという状況だけだ。このあたりに来てやっと思考がまともに動くようになったようで、先生の声もしっかりの耳に届いた。
「本当に立候補だれもいないの?じゃあ、推薦で誰かある人?」
先生の声は聞こえるものの、まだ体に力が入らない。委員長の推薦の話などどうでもいい、僕には関係ないと思いながら、聞き逃そうとしていると、右隣の曜の席から手が挙げられた。しかし隣を向く気力も起きない。
「渡辺さん、推薦ですか?」
「はい。水崎君を委員長に推薦します。」
水崎ねえ、・・・・あ、僕か。・・・ん?水崎?・・・って、僕じゃないか!僕を委員長に推薦って何を考えてるんだ。幼馴染なんだから僕がメンドクサイこと嫌いなのしってるだろ。でも僕なんかが委員長って誰も賛同しないだろう。・・・・・結果は誰も異論なしで、委員長が決まってしまった。この後、委員長が決まったので副委員長を決めることとなった。委員長が男子生徒なので副委員長は自動的に女子生徒となる。そして副委員長には曜が立候補し、こちらも異論なしで決まった。千歌は園芸委員会に立候補をした。なんでも冬に余ったみかんを食べることができるそうだ。
「それじゃあ、委員長と副委員長はこの後会議があるから、放課後は上の階の特別教室に行くように。」
ああ、めんどくさい。やだ帰りたい。なぜ曜は僕を推薦したのだろう。何を考えたのだろうか。とりあえず放課後に集まりがあるならその前くらいに聞いてみるか。
そして迎えた、放課後。千歌は先に帰り、僕と曜は特別教室に向かった。特別教室は講義室とも呼ばれていて、部屋の間取りは下の階の僕たちのホームルーム教室とほとんど変わらない。違う点をあげるならば、机の数が少ないくらいだろう。そしてこの部屋で今から委員会の会議が行われる。会議の内容は今学期の仕事をそれぞれの役割を決めるのだろう。委員会と一言でまとめても、さらにその中からいくつかの仕事に分けられる。例えば、委員会全体をまとめる男女二人を正副委員、この仕事は主に2年生がつく。会議の内容を決めたときにその会議の内容を記録する書記係、正副委員会のサポートをする庶務委員などがある。そして大体はこの委員会の中から生徒会も決められる、という仕組みになっている。そんな委員会に場違いなほど面倒事が嫌いな僕が参加している。今すぐにでも扉を開けて帰りたい気分だ。しかしそういうわけにもいかない。理由としては選ばれてしまったからということ。あの委員決めの時にぼっーとして反論意見を述べなかった僕に責任があるのだから。そしてもう一つは、さっきから隣の机に座っている曜が彼女の座っている机と僕が今座っている机の間隔でずっと僕の制服のブレザーをつかんでいて、離れるに離れられないからだ。まさか曜は、僕が逃げると思ってブレザーをつかんでいるのか。くそっ、これだから幼馴染は、お互いに気持ちが理解できてしまうから不便だ。どこかに逃げ出せるタイミングはないかと辺りを見渡していると、教室の前のドアが開き先生が入ってきてしまい、3年生の先輩が号令をかけて会議が始まってしまった。3年生の先輩は去年の正副委員の人だったらしく、この号令が最後の仕事となった。つまりこの後、新正副委員長が決まるのだ。前に立っていた先生は横に移動し、代わりに前に出た3年生の先輩のうち一人は後ろの黒板にそれぞれの委員会の名前を書き始め、もう一人は新2年生から正副委員への立候補者を募った。しかし誰も立候補をしない。その様子に困り果てた先輩は横に立っていた先生に目を向けた。すると先生は自分が持っていた手帳を開き、1ページ1ページめくりながら今まで閉じていた口を開いた。
「どうやら誰も立候補者がいないようなのでこの中で一番成績が高い人がいるクラスの委員長たちを正副委員にします。えーと、2年生で一番高いのは・・・・・・2組、水崎。」
またかよ、今日はどうしてこうも災難なことばかり起きるんだ。丁度教室の真ん中の列の窓側に座っていた僕は、先生と目が合ってしまった。
「お前が水崎か?」
「・・・・・はい。」
「そうか。それじゃあお前のクラスのもう一人の委員長は誰だ?」
先生の質問に、言葉は発さずに行動で示した。右隣に座っている曜を指さしたのだ。どうやら曜も僕が選ばれたことに驚いているようで、不思議そうな顔をしてどこか遠くな世界を見ているようだったが、僕に指させられると、やっとこちら側の世界に帰ってきたようで自分を指さしている指を見ていた。
「お前は、渡辺だな?」
「は、はいっ!」
名前の確認だけ取った先生は今度は前に立っている元正副委員の先輩たちに目を向けた。先生と目が合った先輩たちは同時にうなずくと、前の黒板の正副委員の欄に僕たち二人の名前を書きだした。黒板に書かれた二人の名前から目を離した先生は再び僕たちを見た。
「他のものも、これでいいな?」
反論を言う人は誰一人いなかった。本人たちの意見を無視してまたも決められた委員会。こんなことでよく今まで成り立ってきたな。と思い、横の幼馴染から同意見を貰うと思い右隣を見ると、そこには何やら真剣な顔で黒板に書かれた文字を見つめている曜の姿があった。曜のいつになく真剣な顔ぶりを見ていると、反対意見を述べることはやめておこうと思い始めた。結局、僕も曜もたクラスの委員も反対意見は述べず、正委員長は僕が、副委員長は曜がやることになった。
正副委員が決まってからも会議は続き、会議開始から半時間が経とうとしたころ、やっと先生が今回の会議のまとめに入った。この長ったらしいただただ先生がもう決まった内容を語るという、書記委員以外にはどうでもいい作業が終わったら、やっと解放される。帰ったら何しようかな。適当にネットサーフィンでもしようかな。などと真剣な顔で先生の話を聞いてるように見える綾斗であった。そして心の中ではどうでもいいことばかり考えている綾斗のことを真面目な奴だと感じている先生はやっと最後の話を始めた。
「・・・・で、正副委員は2年2組の水崎と渡辺になった。他の委員のみんなも二人のサポートを忘れないように。」
よし、これで帰れる、と考えている綾斗は先生の解散の一言を一言を聞き逃すまいとしていると、予想していなかった言葉が耳に届いた。
「それでは、引継ぎ式を始める。元正副と新正副は前に出ろ。」
なんだと?!まだ解散じゃないのか。もういいよ。早く返してくれよ。という気持ちを押し込みながら前に出た綾斗と、高飛び込みの前くらいに真剣なまなざしの曜に、元正副委員の先輩方は自分の腕につけていた腕章を僕らの前に差し出した。僕の前に来た先輩から腕章を受け取ると、腕章を渡してきた先輩が言葉を僕に送った。
「これから色々大変になるだろう。心が折れそうになるかもしれないが、君ならできると思うと。サポートにかわいい子もいるし。やる気は出るんじゃないかい?」
「・・・・善処します。」
この人、まさか曜を狙ってるのか。という疑問を感じたが、そそくさと自分が座っていた席に戻った。曜もほとんど同じタイミングで席に戻ってくると、再び先生が前に立った。
「これで今回の会議の全工程は終わった。」
よし!これで帰れる。というささやかな希望は次の先生の言葉で打ち砕かれた。
「2年生はこの後、修学旅行の説明会があるので残るように解散。」
そ、そんな。まだ帰れないのか。
この後2年生は30分ほど長々と2週間後に迫った修学旅行の話を聞かされた。僕たちは2週間後に京都に行くらしく、そのことの注意点を後日ホームルームで話すようにという内容だった。そんなもの先生が職員会議で言えばいいだろ!と言いたかったが、大人しく話を聞いていた。
会議が始まってから約1時間が経過し、やっと僕たちは解放された。すでに他の生徒は下校しているようで残された僕たちは、いつもの帰り道を今日は一人少ない状態で下校していた。校門を出たところで僕は曜に問いかけた。
「なあ、曜。」
「なあに?」
曜はいつもの笑顔で振り返ると、器用に後ろ歩きで歩きながら返事をした。そんな曜に僕はどうしても答えが見つからない疑問を聞いた。
「どうして僕を、委員長に推薦したんだ?」
「だってほかに誰もいなかったし。それに・・・・」
曜は続きを言う前に魔進行方向に向き直った。なぜか僕を目を会わせようとしてくれない。
「それに?」
「そ、それに・・・・綾斗君って、いざって時に頼りになるし。」
「僕が?」
「うん。小さいころとか、私が怪我した時とか、傷を洗って絆創膏張ってくれて、そのまま家まで送ってくれたり。」
いや、僕ら家が向かい合ってるんだから送るというよりは帰り道が一緒だっただけでは、という考えが頭によぎったが今は言わないほうがよさそうな雰囲気だったのであえて口にしなかった。
「なんだか、その言い方だと僕がヒーローみたいだな。」
「確かにそうだね。」
曜は再び振り返り笑いながら僕の感想に返答した。しかし今度はすぐに前に向き、綾斗のは聞こえない程度の小さな声でぼそりと呟いた。
「綾斗君はヒーローじゃなくて、王子様だよ。私が困ったときにいつも駆けつけてくれる大好きなかっこいい王子様だよ。」
「? 何か言った?」
「ううん、何でもないよ。さ、帰ろ。」
「そうだな。」
曜のつぶやきが気になったが、あまりこういうことは気にしないようにしている。人のフライベートは大事にしないといけないからね。
帰り道が残り半分ほどの距離になった時、あることを思い出した。
「そういえば、家の親出張中だった。」
「そういえばそうだったね。」
朝からいろんなことがあったせいですっかり忘れてしまった。今日起こったことを振り返ると、また恥ずかしくたってきてしまい、再び曜を意識せざる負えない状況になってしまった。今朝キスしようとした相手が今は隣を歩いているのだ。この状況をそう乗り越えたらいいのだろう。すると横から曜の声が聞こえた。
「綾斗君、私の家に来たらいいじゃん。」
「えっ?!」
い、家ですか。それは、なんですか。キス以上のことしようというお誘いか。いやいや、僕たちはまだ未成年だし、そんなことしたら僕が叔父さんに殺されそうになる。相手の本心を伺うために曜の顔を見ると、曜は真面目な顔をしていた。まさか、本気なのか。だとしたら曜はいつのまにこんなに積極的になったのだ。これは欲求不満という状況なのだろうか。曜も高飛び込みとかでストレスが溜まっているだろうし。もしかして僕をその悶々とした感情のはけ口にしようとしているのか。そんなの絶対にお断りだ・・・いやでもありかな・・・・いやだめだろ、未成年だぞ。などと悩んでいると曜はさらに言葉を添えた。
「そんなに考えたって綾斗君、料理できないじゃん。」
「へっ?!料理?」
「うん、夕食をどうするかって話でしょ違うの?」
「いえ、違いません。」
なんだ、夕食の話だったのか。びっくりした。でもどこか惜しいような・・・いや、これでいいんだ。これが正しい曜の姿だ。幼馴染の心配をして夕食に招待する、その優しさが曜の持つべきものだ。妙に積極的な曜なんて僕の知るようじゃない。・・・・でもちょっと違う曜もそれはそれで面白そうだな。
「でも悪くないか、急にお邪魔したら。」
「大丈夫だよ。お母さん料理好きだし。それにお父さんいないし。」
「な、なるほど。」
ダメだ、叔父さんがいないということが妙に説得力がある。曜の父は定期船の船長をしている。元からなのか、休日が少なく家に帰る時間が少ないからこそなのか、曜に近づく男子には容赦がない。かくいう僕も過去に何度かその餌食になったことがあった。その様子はまさに蛇に睨まれたカエルのようで曜と曜のお母さんはその様子を遠目で見守っていた。あの時のおじさんの威圧が怖くていまでもたまに悪夢に出てくる。それくらいの恐怖を植え付けられたのだ。しかし今は新学期も始まってすぐで叔父さんもいない。だったらまだ生き残る可能性は高い。
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しようかな。」
今回で委員会について触れましたが、書いてる本人はとくに委員会はやっていません。これを読んでいただいている皆さんは学生時代、委員会とかやっていたでしょうか。学生の方は今に当てはめて、学生を卒業した方は学生時代の記憶に触れながら読んでいただければ幸いです。
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを