合州国の怪物達   作:あかしあ

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 ”銀行の利益”

 銀行という職は一体どのようにして利益を上げているのか?

 信用創造、貸出金利、債権の購入、各種取引の手数料などが代表的な銀行の収入源だ。信用創造によって生み出したお金を、資金を必要としている企業や投資家に貸し出し、その金利によってお金を得るのは、最早社会にとって必須の機能と言って良いだろう。また、信用創造で生み出されたお金を国債等の比較的安全な債権によって利益に変えることも少なくないし、窓口業務において手数料が発生するのは人の手を通して管理されるため当然のことである。

 

 時々、「銀行は多くの人達から集めた資金によって、債権や株式を買って荒稼ぎしている連中だ」等と言う人がいるが、これは正確な認識ではないだろう。信用創造によって生み出された資金によって、それらの活動を行っているのであって、別に集めた資金を使っているわけではない。

 

 ただし、ジョージ・スペンサー・モーガンはそんな事を言っている人間を気にしてはいないし、前世にあってもバンカーであった彼は銀行が社会に齎す利益をよく理解していた。

 当然銀行がどのように利益を上げているのかは熟知していると言っていいだろう。

 そんな男が、改めて銀行の利益を口にしたのに、フラウホーンとデイヴィッドは疑問を覚えて眉を顰めていた。

 確認の意味を込めて疑問を口に出したのは、ウィスキーを注ぎだしたフラウホーンである。

 

 「あー。ジョージ。以前から君が口を酸っぱくして言っている利益のことかね?投資の回収。それに尽きるということだろう?」

 「その通りだよ。ただ、どうやって回収するのかということさ」

 「いつも通り回収すればいいんじゃないか?その為に、帝国に肩入れした条約を民主党に結ばせたんだろう?」

 

 合衆国民主党政権が帝国を結んだ条約を要約すると「仲良く商売しましょうね。合衆国さんは軍事・弱電・自動車・一部食料品の門を帝国に開くので、帝国さんは軍事・一部食料品・弱電の門を開いてくださいね。それから、完全な戦争状態や外交的に断絶しない限り、お互いの資産を接収するのは辞めましょうね」という、若干合衆国が不利な条件で結んだ条約だ。一部の保守系メディアにおいては「孤立主義を捨てたうえにこんな条約を結んだリーリウム大統領の脳みそが心配」と書かれる程度には不評だった。

 当初こそ、帝国-合衆国通商条約はこき下ろす連中が居たが、ここに居るフラウホーンと自動車バカがその評価を修正させた。フラウホーンは、帝国弱電業界を1年かけて”これはひどい”と言ってよい程度に殴り込みをかけて市場を開拓した。

 そして、かの有名な帝国自動車企業は合衆国において敗北した。セカンドライフ唯一の馬鹿である自動車業界の雄に「帝国ってドイツでしょ?つまりベンツ。つまりライバル。俺はジャパニーズコミックからライバルと競い合うのは良い事だって学んでいるからむしろ大歓迎」という謎理論の基、新しい工場を5つぶっ建ててジョージに本気で頭を心配された男が奇跡の勝利を手にしたのである。

 軍事に関しては微妙に負けている。やはり、最新鋭の軍事技術を持っている帝国系企業は特許や独自の技術が傑出しており、一部の特許は特許料を支払って製造しても精度が安定しないために、結局損をすることが分かりデイヴィッドが結構割りを食っている。

 なお、軍事関係に100億ドル、それ以外に50億ドルの投資が帝国に対して行われており、気がついたら軍需産業にきっちり食い込まれてしまった帝国政府の支持率は徐々に下がっている。孤立主義を曲げて自分達に肩入れしてくれたからといって、甘い顔などするからこうなるのである。

 

 「会議の最初に、さっさと資金を引き上げるだのなんだの言ってたのはフラウホーン。君だと思うんだけれど?」

 「それはそうだろう。思い出してくれジョージ。我々セカンドライフの現在の短期的目標は”欧州世界の疲弊”だったはずだ。そして、その目標を達成するための戦術として、軍需産業へ食い込み帝国へテコ入れを行って戦争をコントロールする。まあ、コントロールと言えば聞こえはいいが、泥沼をさらに煽るというだけの話だがな。しかしだ、それならば既に目的の大半は果たした。俺もキッチリ市場は作ったし、戦争によって被害が出る前に資産を引き上げたいというのは経営者として当たり前の心理だろうが!」

 「ああ、お前の言ってた資金って自分のとこのかよ。そんなんだから……。すまん。なんでもない」

 

 デイヴィッドは、また喧嘩をする気なのか?という咎める視線を送るジョージに謝った。

 フラウホーンは、少々天然ボケの気質がある。主語述語が抜けているというか、頭良いがGEを守りたいという思いが強く、時々抜けた発言をすることがあるのだ。

 気を取り直したジョージは黒い笑みを浮かべながら、フラウホーンに返事をする。

 

 「資金の引き上げってそういうことかい。まあ、それはいい。ただね。コントロールという事をその程度で済ませようだなんて僕は一言でも言ったかい?」

 

 そう言い放ったジョージの笑顔のドス黒さに、フラウホーンとデイヴィッドは息を飲む。

 この男は、セカンドライフで一番の根性悪なのだ。

 

 「僕は戦後に、連合王国や共和国に何一つも渡してやるつもりはない。だからあんな条約を提案したし、君達には申し訳ないがリーリウム大統領とウチの政治家には話を通してある」

 

 二人は、目線でジョージに続きを促す。

 本当に楽しそうな笑顔をしながらジョージは続きを語る。

 

 「戦後。連合王国や共和国。ハイエナであるイルドア。彼らは、きっと帝国の全てを奪おうとするだろう。死傷者を多数だした、連合王国と共和国には最もその権利があるだろう。そう。それが帝国の物であるのならば好きなだけ持っていくといい」

 

 フラウホーンとデイヴィッドはここで、ジョージのやろうとしていることをだいたい理解した。

 しかし、あんまりにも酷い事をしようとしているので、確認のための言葉が出なかった。

 それに気がついたのか分からないが、笑いをこらえるようにジョージは話を続ける。

 

 「そうさ。合衆国の物は渡さない。僕達が1セントでも投資した企業。1ミリでも合衆国系企業の関わった製品。1グラムでも合衆国の物が混じった品物。それら全ては僕達合衆国の物だ!!そう、主張するのさ!!連中はそれを拒否できるかな!?だって僕達合衆国は彼らにとって救いのヒーローだ!僕達が戦場に現れなければ彼らは勝てなかった!それなのに、僕達合衆国の物を奪うなんてできるかな!?アーッハッハッハ!」

 

 机をバンバン叩いて大笑いするジョージを、何ともいえない愛想笑いを浮かべながら二人は見つめている。

 所謂ドン引きというヤツである。

 

 「イーッヒヒヒ!しかも、現状は戦争が起こるだなんて微塵も考えてないから、連合王国の首相様はロンドンでメディアにこう発言したそうだ『合衆国が孤立主義を捨てたのは大きな前進だ。今後の合衆国に期待したい』。傑作だよ!!おおかた、合衆国の投資額を見て投資を期待してるんだろうけど。プクク……。お前らにトドメを刺すための条約なんだよバーーーカ!!ウヒヒヒヒ!」

 「おい。またジョージの持病が再発したぞ。前回はいつだった?」

 「他人を陥れるとこうなる。薬は他人の不幸だ。ああ、前回は2年前に共和党を地獄に叩き落した時じゃないかな?あいつ、共和党支持者なのに、大統領候補と意見が合わなかったからって民主党勝たせただろう。あの時だ」

 

 ジョージのやろうとしている事は、タチが悪いにも程があるといわれても仕方のない事だ。

 合衆国がそう主張したら、連合王国と共和国は絶句する以外に選択肢などほとんどない。軍事産業においては、帝国の反撃の意思を削ぐために大幅に制限させるのだろうが、今後数年の戦争で発生する莫大な利益は投資したデイヴィッド達の懐に入る。それで投資を回収する見通しは立っている。たとえ、帝国が利益を流出させなかったとしても、戦後戦勝国となった合衆国が「ちょっとジャンプしてみようか?なんかポケットからチャリチャリ鳴ってるよね?」と言えばその利益は簡単に請求して回収することができる。最悪の場合、使われた武器の数から逆算して金を出させりゃいいのだ。当然。それらは、合衆国の物である。

 

 結局、連合王国や共和国は植民地や領土や賠償金で戦争で空いた経済の穴を埋める事になる。

 勿論。帝国系企業の工場や製品は押さえられるだろうが、それは好きにやったらいい。むしろ、帝国民のヘイトは自国内の資産を押さえていく連合王国や共和国に向くし、合衆国に利益を吸い上げられるとはいえ、国内に資産を残してくれる合衆国のヘイトが彼らを上回ることはない。

 さらに、戦後に合衆国系企業がバンバン戦後復興に金や物を出せば、帝国にとって合衆国はヒーローになる。

 欧州は、修復不可能な溝を作る。

 

 その上で、両陣営にとってヒーローに成りうるというペテンである。

 これを阿漕なやり方と言わずして何というべきだろうか?

 

 そんな事を、笑顔で語る男の笑い声がピタリと止まった。

 愚痴を言っていたことが気に障ったのかと焦った二人がギクリとする。

 ジョージは思い出したように言う。

 

 「そうだった。まだ説明が途中だった。この為にはとある国に、帝国の領土を指一本触れさせてはならない。最悪でも、首都ベルンと工業地帯は守り抜く必要がある。二人はその国がどこだか分かるかい?」

 「「ルーシー連邦」」

 

 フラウホーンとデイヴィッドは即答した。

 合衆国の国際企業にとって、ルーシー連邦は許しがたい存在である。当然、フラウホーンとデイヴィッドもルーシー連邦を嫌っているし強烈な反共主義者だ。

 特に、フラウホーンは合衆国中の人間が反共主義者だと知っているレベルである。

 

 「そうか。あの国もこの戦争に関わるのだったな。脳みそが拒絶反応を起こすせいか、その存在を忘れていたよ」

 

 そう呟くように言ったフラウホーンの右手は、手に取ったグラスを握りつぶさんばかりの力が込められている。

 フラウホーンは、乱暴に中身を飲み干すと。机にグラスを叩きつけ、ジョージに問いかける。

 

 「それで?あの国が関わると何が問題なんだ?」

 「君たちに、この話をするのは釈迦に説法なのだが……。奴等は、我々の意見は聞かないだろう。僕の考えた思惑にルーシー連邦は乗ってこない。奴等は押さえた領土にある物は全て自分達の物にするだろうし、合衆国の所有権を主張しても奴等は何かしらの理由をつけて話を聞かない。だからルーシー連邦に戦後に発言力を持ってもらっては困るんだよ」

 「なるほど。もっともな話だな」

 

 デイヴィッドは大いに納得した。フラウホーンも無言で頷いて、それを返事としている。

 

 「そこでデイヴィッドにお願いがある」

 「ん?俺にか?」

 「ああ。陸軍の人事に介入して、我々に都合のよい将軍を派遣できるようにしたい」

 「分かった。準備は進めておこう。丁度いい人材に心当りもある」

 

 デイヴィッドは即決した。銀行の利益とジョージは言うが、元々この軍需産業への投資を主導したのはデイヴィッドである。セカンドライフの意思を受けて、自分が主導したとはいえ、これは自分がこなすべき仕事だと確信を持っていたデイヴィッドは進んでこの仕事を行っていた。

 他人事ではないという意識は当然ある。そのため、ジョージの提案を受けるのに抵抗はなかった。自分個人の伝手だけでなく、”ディロン・ライト”CEOとしての権力すら振りかざすことに躊躇いはない。

 

 今後の戦争へ向けての会議は、これでひと段落という空気になる。

 フラウホーンの利益のために行う外交工作の方針、ジョージとデイヴィットの投資の回収方法。これらの利益が、一応見込めることが共有できた。

 ここからは、彼らのビジネスの話となる。

 

 「まあ、戦争関連の話はここまでだろう。おい、デイヴ。ウィスキーを飲むなら注いでやるが?」

 「それじゃもらっておこう。あんまり乱暴に入れるなよおい」

 「あー二人とも。一応禁酒法があるって忘れないでくれよ?外で酒の匂いを漂わせてる所を記者に見つかったら面倒だよ」

 「安心しろ。その場で、秘蔵のワインでもって買収してやるとも」

 「はぁー。まあ大丈夫だとは思うけどね。飲みすぎてこの後の普通のビジネスのお話を忘れたなんていわないでくれよ?」

 「無論だとも。この程度で酔っ払っていたらCEOなど勤まらんからな」

 「酒量と経営の最高責任者であることに何のカンケーもねーけどな」

 

 彼らの夜はまだ終わらない。

 

 




思ったのですが、語句の解説とか原作幼女戦記みたいに面白可笑しくやった方がいいでしょうか?
無知を晒すようで恥かしいのですが、語句を検索しながら書いてることが多かったりするので、分かり難いかなーと不安です。

原作の解説ですきなのは、交戦規定の解説ですね。
要約するとまあその通りだなって思いました。
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