今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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VSウツロイド②

「もう一発、こころのめ───からのハサミギロチン!!」

 男の背後に構えていたもう一匹の(・・・・・)ドーブルが技を放つ。

 

 

 クリスは困惑していた。

 この男は(ロケット)団だった筈。それがなぜ、モールの人達を助けている。

 

 予想だにしない光景に頭が回らない。

 それでも男は二匹のドーブルでウツロイドを攻撃し続けた。

 

 

「……もう一匹はメタモンか」

「お、流石俺が見込んだ事はあるな。正解だけどよ、それは今関係あるか?」

 突拍子もなく口から漏れた言葉に男はそう返す。

 そんな分かりきった事を口にしてどうするんだ。クリスは頭を左右に振って、一度頭を空にする。

 

 

「……お前の、お前達の目的はなんだ?!」

「それを調べるのが国際警察の仕事だろ?」

 男は挑発的な態度でクリスの質問に答えるが、そんな彼を今攻撃する事は出来なかった。

 事実。彼が今こうしてウツロイドを攻撃してくれなければ、被害者は増えるだけである。

 

 

 その意図を探れ。

 

 

 クリスはようやく落ち着いた自分の頭を整理した。

 

 

 

 R団がウルトラホールを、この密閉空間で開けた理由は考えられるだけで三つ。

 

 

 一つ、ウルトラビーストに閉鎖空間となったモールを襲わせる。

 

 もう一つ、この混乱に乗じてモール内の物品を盗み取る。

 

 もう一つは、ウルトラビーストの捕獲だ。

 

 

 その内モールを襲わせる事は今目の前の男がR団であるなら否定される。

 そして残り二つの内どちらでも、人々に危害を加えるつもりがないという事か?

 

 

 

「ドーブル、こころのめ───からのハサミギロチン!」

 いや、これはフェイクだ。

 

 

「ハサミギロチン……」

 一撃必殺の技であるハサミギロチンだが、効果が期待出来ない相手が二種類いる。

 

 一つは、ゴーストタイプのポケモン。文字通り効果がないからだ。

 もう一つは、自分よりレベルが高いポケモン。放ったポケモンより元々の実力が高いポケモンを倒す事は出来ない。

 

 

 ───まさか。

 

 

「レベルの高いウツロイドを厳選して捕まえる……それがお前達の目的か」

「……お前、本当に凄いな」

 クリスの言葉を聞いた男は、目を丸くして声を落とした。

 彼のポケットにはウルトラビーストを捕まえる為のボール──ウルトラボール──が入っている。

 

 

 ウルトラビーストもポケモンだ。専用のボールさえ使えば捕まえる事が可能である。

 

 

 大量に現れたウツロイドの内、自分の手持ちよりも強いウツロイドを手に入れる事はそれだけで悪党にとって───R団にとって有意義な事。

 その為ならモールの被害なんて二の次だ。誰が死のうが物が壊れようが自分達には関係ない。

 

 

 それがR団。───その筈。

 

 

 

「……ならなぜだ。なぜ市民を助ける。お前がR団ならそこまでする理由はない筈だ!」

 R団は平気で人もポケモンも殺す。クリスはそれを身を持って知っていた。

 それなのに目の前の男は、自らをR団と認めながらウツロイドに捕らわれた人を助けている。

 

 理解が出来ない。

 

 

「お前は本当にR団なのか……?」

「なら俺がR団じゃない理由を聞きたいもんだぜ。……良いか? 勘違いするな。俺は俺のやり方をしてるだけだ。目的は果たす。ウツロイドを捕獲する目的はな」

 そう言ってから男は辺りを見渡した。

 

 

 フライゴンやロトム達がウツロイドを迎撃する中、捕らえられた人を二匹のドーブルが助ける。

 確実にウツロイドの数は減っていき、事態は収拾に向かっていた。

 

 

「そしておまわりさんよ、お前は今回完全敗北だ。自分の力じゃ市民を守れず、俺達の目的の邪魔は出来ない」

「まだお前を取り押さえればウツロイドを捕まえられずに済む……」

「そんな事したらどうなるか分からない訳じゃないだろ?」

 男をこの場で無力化すれば、捕まった人々を救う事が困難になる。

 

 

 そんな事は分かっていた。

 

 

 初めから───あの時この場所を離れた時点で、負けは確定していた。

 

 

「……僕はどうしたら良い」

「この場にいるウツロイドは俺一人でもどうにかなるが、例えばここから離れていった奴の対処は出来ないよなぁ? それにセキュリティシャッターが降りていても、ウツロイドが外に出る方法がある。トイレの下水道とかな。そこを守るべきなんじゃねーの?」

 この場を離れるのは男が好き勝手に動く事の出来る状態を作る事になる。

 しかし男の言う事は真実で、この階層だけでなく下の階でウツロイドが人々に危害を加えていないとは限らない。

 

 

 初めからクリスの完全敗北。

 

 R団の完全勝利は決まっていた。

 

 

「ひとつだけ質問させてくれ。……いや、する。少なくともお前は市民を助けてくれるんだな……?」

 希望的な言葉だとは自分でも分かっている。

 

 相手はR団だ。相手の命なんて考えていない連中だ。

 

 

 そんな相手に市民の命を託すなんて馬鹿げている。それでも、今クリスにはその選択肢しかなかった。

 

 

 

「……約束しても良いぜ」

 しかし、男はクリスと目を合わせずにそう言う。

 それが嘘か本当かすら分からない。だが、クリスには選択肢がなのだ。

 

 

「……シルヴィ、この階のトイレに行ってくれ。僕は下の階に行く」

「い、良いんですか……?」

「責任は僕が取る。何が起きても、君は悪くないよ」

 何があっても、自らが国際警察である以上最善の選択を行わなければならない。

 それがR団の思惑通りだとしても、男を完全に信用しなければならないとしても。

 

 

「で、でもロトムしか手持ちが……」

「大丈夫。下に家電屋さんがあったからね、あの場所なら僕のロトムは最強だよ。ロトム、先に行って洗濯機を探してこい」

 シルヴィに愛想笑いを見せながらロトムに命令を出して、クリスは拳を握りしめながら走る。

 背後の男はクリスがその場から居なくなっても、ドーブルへの指示を辞めなかった。

 

 

 男の目的がレベルの高いウツロイドの捕獲なら、なんら不思議な事ではないのだが。

 

 

 

「私、貴方にあった事があると思うんですけど……」

「気のせいだろ」

 クリスが居なくなってから、シルヴィは男に話し掛ける。

 彼が居た時に話せなかったのは、聞きたかった会話を聞かれると困るからだ。

 

 

「……私、R団───」

「それ以上はこのアローラで言うな」

 シルヴィの言葉を男が遮る。ならばと、シルヴィは質問の仕方を変えた。

 

 

「さっきクリスさんがあなたはR団って言ってましたよね? でも、貴方はあの飛行機に乗っていたイリマさんなんじゃないですか? 顔は違うけど、ドーブルと声が同じなんです。あと、ハサミギロチンも」

「……あんまり深い詮索をすると悪い人に消されちまうぜ。今お前の仕事はこの階のトイレに向かう事だろ?」

「あ、そうだった……」

 男は「やれやれ」と両手を上げる。

 

 

 全く狂気な運命だ。

 

 

「トイレに黒髪のポニテで目付きが悪い女の子がいたらさ、助けてやってくれないか?」

「……ぇ、それって」

 シルヴィの脳裏に一人の少女の顔が映る。

 

「一人で泣いてるかも知れねーんだ。寂しい思いをさせてるのは分かってるから」

「あなたは一体何者なんですか……」

「……ただのR団。悪党って奴さ。……ほら、行け」

 男の言葉を聞いてからシルヴィは三匹のポケモンとこの階のトイレへと走った。

 さっきから知り合いの少女の顔が見当たらない。

 

 黒い髪をポニーテールにした目付きの悪い女の子の姿が見当たらない。

 

 

 一抹の不安を覚えながら、少女はその場を離れる。

 

 

 

 残された男は微かに笑い、ポケットに入った青色のボールに手を伸ばした。

 

 

 

「こころのめ、ハサミギロチン。……さて、やっと見付けたぜ」

 そして男はドーブルの攻撃で倒れなかったウツロイドに向けて、そのボールを投球する。

 

 

 

 ウルトラビースト、ウツロイドはそのボールに収まり男の手に渡った。

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 ショッピングモール──トイレ待合室──。

 

 

 

「……んだ、お前」

 少女を五匹のウツロイドが囲む。

 

 

 赤いメッシュの入った黒い髪をポニーテールにし、目付きの鋭い少女は後ろにいる老婆の前に立ってウツロイドを睨み付けた。

 

 

 

「あわわわわ、メノクラゲが浮いておる」

「このばーちゃん怖がってるだろ。どっか行け、シッシッ」

 少女──リア──は手を払ってウツロイドを遠ざけようとするが、相手はそんな事を気にしてはいないらしい。

 少しずつ近付いてくるウツロイド達は、彼女の隙を伺っている。軽口を叩いてはいるが、リアは臨戦態勢だった。

 

 

 彼女の目の前には二匹のポケモンが構えている。

 

 

 ダークポケモンのデルビルと、わるぎつねポケモンのゾロアだ。

 

 

「……チッ。来るなら来いよなぁ! デルビル、ゾロア! かえんほうしゃ!!」

 リアの指示で二匹のポケモンは、同じ技を真ん中にいたウツロイドに放つ。

 高熱の炎がウツロイドを包み込むが、いわタイプを持つウツロイドにはあまり効いていないようだ。

 

 相手の攻撃を見定めた一匹のウツロイドが仕掛ける。

 デルビルの上を取り、パワージェムを放つがデルビルはそれを横に飛んで交わした。

 

 

「まだ引き付けろよデルビル(・・・・)。ゾロア、他の奴を近付けさせるな、かえんほうしゃ!」

 ゾロアのかえんほうしゃが、四匹のウツロイドに向けて放たれ壁となる。

 しかしデルビルを追うウツロイドはそんな事には構わずに、デルビルを追い詰めて接近しパワージェムを放った。

 

 この距離では外れない。

 

 

 ───側から見ればそう見えただろう。

 

 

 しかし、ウツロイドの正面からデルビルが消えた。代わりに現れた黒い影は、デルビルとは体格が全く違うポケモン───ゾロアーク。

 

 

 イリージョン。

 相手に幻影を見せ、自らの姿を別の姿に見せる特性である。

 

 

 

「みずタイプかと思ったけどその技ならいわタイプか。ゾロアーク(・・・・・)、けたぐり!!」

 デルビルの姿だと思われていたポケモン──ゾロアーク──は地面に手を付いて脚を振り回した。

 かくとうタイプの技であるけたぐりは効果抜群である。孤立したウツロイドはゾロアークと一対一を強いられ、二度目のけたぐりで戦う体力を失って逃げた。

 

 

「残り四匹……っ! デルビル、かえんほうしゃ!」

 ゾロアの攻撃による壁が消えた所で、隠れていた本物のデルビルがかえんほうしゃを放つ。

 決定打にはならないが、かえんほうしゃの連続でウツロイドは近付けなかった。

 

 

「ゾロア、まだ行けるか?」

「グァゥ……ケッ……ケッ」

 ゾロアは口から弱い炎を漏らして答える。本来かえんほうしゃは進化しなければ覚えないゾロアだが、努力で身に付けた技だ。

 その代わり放てる回数も少ない。これ以上は無理だとリアは判断して頭を切り替える。

 

 

「ゾロア、ナイトバーストで援護だ。なんとか一匹の孤立させる」

 相手の数が多い時は、孤立させて一匹ずつ倒すのが常套手段だ。

 しかしウツロイド達は中々孤立せず、デルビルとゾロアは疲労するばかり。

 

 

 今リアの手持ちでウツロイドに決定打を与えられるのはゾロアークだけである。

 強行突破するなら最低でもあと二匹は倒したい。

 

 

 背後で蹲る老婆を見ながら、しかしそれは出来ないとリアは選択肢から強行突破を消した。

 

 

 

「真スカル団なめんじゃねーよ。……アローラをぶっ壊すのはこの私だ。テメーらみたいなよく分からない奴に好き勝手されてたまるか!」

 少女は威勢良く睨みつける。ゾロアを下がらせて、デルビルにかえんほうしゃを指示した。

 

 

「何か突破口を───」

「クチート、アイアンヘッド!」

 唐突に聞こえてくる第三者の声。

 

 ウツロイド達の背後から現れた少女のクチートが、硬化した頭部でウツロイドに頭突きをする。

 態勢を崩したそのウツロイドを電撃が襲った後、駆けて来たフライゴンがドラゴンクローを放ちウツロイドを壁に叩き付けた。

 

 

 突然の奇襲で仲間を倒されたウツロイドは、その場に散らばる。シルヴィはリアを見付けるや、満面の笑みで彼女に抱き着いた。

 

 

 

「良かったぁ! リアちゃん無事だったぁ!」

「だぁぁっ! くっ付くな鬱陶しい!」

「リアちゃんは私が守るからね!!」

「いや邪魔だぁ!! 前見えないから!! まだバトル終わってないから!!」

「あ、そうだった」

 思い出したように抱擁を辞めるシルヴィは振り向いて辺りを確認する。

 

 ウツロイドが二匹、高い天井まで上がって彼女達を見下ろしていた。

 隙を見せれば直ぐにでも襲いかかる魂胆だろう。この距離ではデルビル達のかえんほうしゃも、デデンネのでんきショックも有効打は与えられない。

 

 

「……アレを倒さなきゃこのばーちゃんが襲われちまう。私は逃げないぞ」

「ふふ、リアちゃんって優しいんだね」

「はぁ?! だ、誰がだよ。別に私は優しくなんか───」

「うんうん、やっぱりいい子だなぁ」

 そう言いながらシルヴィは少女の頭を撫でた。リアは顔を真っ赤にしてその手を払い除けるが、少し寂しそうな表情を見せた後顔を左右に振る。

 

 

「あのポケモンを地面に下ろせば良いんだよね」

「……で、出来るのか?」

「出来る! から、一匹はリアちゃんが倒してね!」

「……お、おぅ」

 そう言ってからシルヴィは、デデンネとクチートに小声で作戦を説明した。

 それを聞いたデデンネは顔を真っ青にして首を横に振る。大丈夫なのかよ、とリアはデデンネを心配そうに見詰めた。

 

 

「よーし、お願いねデデンネ! クチート、デデンネを投げちゃって!!」

「クーーーチッ!」

 頭の上の顎でデデンネを掴み、その場で回った遠心力を使いクチートはデデンネを天井まで投げ付ける。

 

「デネェェエエエ?!」

 悲鳴のような鳴き声と共に宙に浮かぶデデンネ。大粒の涙を流しているように見えるのは、リアの気のせいではない。

 

 

「デデンネ、ほっぺすりすり!!」

「デネデネデネデネェ───……デネェェェッ!!!」

 ほっぺすりすりは身体中に電気を纏って体当たりし、相手をまひ状態にさせる技だ。

 二匹のウツロイドに向けて投げられたデデンネは、その二匹をまひ状態にする。

 

 身体が痺れたウツロイド二匹は徐々に高度を下げた。この距離なら攻撃は届く。

 

 

 

「フライゴン、お願い!」

「ゾロアーク、けたぐり!!」

 そして二人の指示で、二匹のポケモンがウツロイドに攻撃を放った。

 体力を失ったウツロイドはこの場から逃げて行く。フライゴンとゾロアークはお互いの力を認め合って、微笑んだ。

 

 いつかこのポケモンと戦いたい、と。

 

 

「……よし、後───」

「やったぁ! やったよリアちゃん! お婆ちゃんも、もう大丈夫ですからね!」

「メノクラゲは倒してくれたのかえ?」

「はい、倒しましたよ!」

「え、さっきのメノクラゲだったのかよ……」

 違う。

 

 

 

「これでこの辺りに来たメノクラゲはもう大丈夫だね。あれ? メノクラゲだっけ?」

「───バカ! まだ後一匹残ってるんだよ!!」

「ぇ───」

 安心して胸を撫で下ろすシルヴィを、突然リアが突き飛ばす。

 

 その背後から現れるウツロイド。

 シルヴィが来た時点でこの場に居たウツロイドは四匹。内一匹を奇襲で倒し、二匹をまひ状態にして倒したが───残り一匹はトイレの中に逃げて隠れていたのだ。

 

 

 隙を見付けシルヴィを襲おうとしたウツロイドだが、狙った獲物はリアに突き飛ばされて正面から居なくなる。

 しかしウツロイドにはそれは関係なかった。自身を守らせる為に寄生するのは、人間ならば誰でも良いのだ。

 

 

「───っ」

「そんな?! 待───」

 ウツロイドはシルヴィを突き飛ばして、体勢が崩れたリアを触手で捉える。

 そのまま逆さまにした金魚鉢のような身体に、彼女を取り込んだ。

 

 

「グァゥ?!」

「───リアちゃぁぁん!!」




ゾロアが本当はかえんほうしゃを覚えないと最近知った作者です。泣いた。
さて、実はタグにもある通り私は「ほのぼの」した作品が書きたいんですよね。どうしてこうなってるのか。しかしウツロイドを出したからには、アレを書かなくてはなりません……っ!


次回もお会い出来ると嬉しいです。感想評価もお待ちしております。
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