今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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VSウツロイド③

 ウラウラ島──ポータウン──周辺道路。

 

「……断る」

「何故だ」

 雨の降る中、他に何もない道路にポツンと立つ交番の前で二人の男が話をしていた。

 このウラウラ島のしまキング──クチナシ──と、国際警察──ハンサム──その二人である。

 

 クチナシはしまキングであると同時に、アローラの警察組織の一員だ。

 気怠そうな表情や格好からは想像も付かないが。

 

 

 対してハンサムは国際警察。

 その頼みを断るクチナシの表情は、どこか苛立ちが見え隠れしている。

 

 

「このアローラに(ロケット)団の手が及んでいるかもしれないんだぞ。なぜ協力してくれない? 元同僚の力になってくれても───」

「昔の話だ。それに、国際警察のやり方は気に入らないんでね」

 ハンサムの言葉をそう遮ると、クチナシは彼に背を向けた。

 その肩を掴んで振り向かせようとするハンサムの手を、彼は強く払い除ける。

 

 話を聞く気はない。その背中はそう語っていた。

 

 

「……許してはくれないか」

「……態々危険に仲間を突っ込ませ、挙句死に追いやる。人が足りない? 時間がない? そんな下らない理由でこれまで何人の仲間を失ったんだ」

 背中を向けたままそう語るクチナシに、ハンサムは何も言葉を返す事が出来ない。

 そうなってしまったのは誰のせいでもない筈だが、それでもハンサムは拳を握る。

 

 

「……今アローラで活動してるのはアンタと何人だ?」

「一人だ。クリスと言ってな、まだ若いが優秀な───」

「ほらな、そうやって仲間を危険に晒す。相手は地元のチンピラじゃないんだぞ。何も変わっちゃいないな」

「それは───」

「帰れ。話は聞かない」

「───……っ。わ、分かった」

 振り向かずに手でハンサムを払うクチナシ。

 ハンサムは俯きながら、雨の降る道に振り返った。

 

 

 それでも自分が国際警察である以上、R団を野放しにはしておけない。

 

 

「なぁ、そのクリスってのは」

「……ん?」

「今何処に居る?」

 突然クチナシはハンサムを引き止めるかのように、少し大きな声を出す。

 クチナシの視線の先にはテレビが設置してあり、メレメレ島のショッピングモールで謎の停電と電波障害が発生しているというニュースが流れていた。

 

 

 それを見たハンサムは慌てて携帯電話端末──ポケギア──を取り出し、クリスの番号に電話を掛ける。

 しかしポケギアから帰ってくる音声は、相手のポケギアが圏外であると知らせるアナウンスだけだった。

 

 

「……そ、そこに居るのか? クリス」

「……知らんがねぇ。おじさんは国際警察じゃないが、おまわりさんだ。こういう時は地元のおまわりさんが働く物だ」

「クチナシ……」

「勘違いするなよ、自分の仕事を全うするだけだ。このアローラを守る警察官として、しまキングとして」

 頭を掻きながらそういうクチナシは、一枚のメモを背中を向けたままハンサムに向ける。

 ハンサムが受け取ったそのメモに書かれていたのは、一つの電話番号だった。

 

 

「……アローラの警察組織の上層部とお話が出来る番号だ。上には後で言っとくから、クチナシの名前を使って勝手に動かせ」

「い、良いのか?」

「だぁからぁ、勘違いするな。おじさんは仕事してるだけよ。国際警察でなく……おまわりさんのな」

「……恩に着る」

 深く頭を下げてから、ハンサムはポケギアを手に雨の中を駆ける。

 

 

 メレメレ島で何が?

 

 

 その場所に居るのか?

 

 

 

「リアの奴、大丈夫かねぇ……」

 

「クリス、無事でいてくれ……っ!」

 

 

 二人は意味さえ違えど、お互いにとって大切な存在の安否を気に掛けながらそれぞれのするべき行動に移った。

 

 

 しまキングとして。

 

 国際警察として。

 

 

 しかし、その二人共───モールで何が起きているかは知りもしない。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 メレメレ島──ハウオリシティ──ショッピングモール。

 

 

「そ、そんな……」

 目の前の信じられない光景に、シルヴィは後退りしてその場に座り込む。

 自らを救う為にウツロイドからシルヴィを庇い、取り込まれたリア。

 

 ウツロイドは彼女を身体に取り込み、その姿を変貌させていた。

 

 

 

「…………ちゃ……ど……こ……?」

「り、リアちゃん……。ど、どうしたら……」

 肥大化し、黒く変色した身体。大きくなった触手は、何かを探すように振り回される。

 リアのポケモン達はそんな彼女を心配そうに見上げていた。少女を取り込んだまま浮遊するウツロイドの触手が、そんなポケモン達を捕まえる。

 

 

 デルビルも、ゾロアも、ゾロアークも、そんな触手に抵抗はしなかった。

 いや、出来なかったと言う方が正しいだろう。

 

 トレーナーを人質に取られてはポケモン達は手出しが出来ない。

 ポケモントレーナーとポケモンの絆というのは、多くの場合がそれ程までに堅いものなのだ。

 

 

 触手に触れられたポケモン達は、一度俯いてからリアを取り込んだウツロイドに背を向ける。

 そして禍々しい光を身体から漏らしながら、三匹のポケモンはシルヴィ達を血走った瞳で睨み付けた。

 

 

「さ、三匹共……? どうしちゃったの? リアちゃんを助けないと───」

 シルヴィの言葉を遮ったのは、高温の炎の塊。

 三匹はシルヴィ達向けてかえんほうしゃを放つ。もう技を出せない筈のゾロアですらも。

 

 

「うわぁ?!」

 なんとか炎を避けるシルヴィ。その場にいた老婆はフライゴンが守り、デデンネは燃やされた。

 

 

「……クチィ」

 というか、クチートが盾にした。

 

 

「デネェ!!!」

「クチチ、クチィ」

「三匹共どうしたの……? 私達は敵じゃないよ?」

 敵?

 

 

 敵ってなんだろう?

 

 どうしてこのポケモンは、彼女を取り込んだのだろうか?

 

 どうして彼女のポケモンは突然自分を襲い出したのだろうか?

 

 

 考える暇もなく、ゾロアークが前に出る。低い姿勢から放たれるその技は───けたぐり。

 

 

「……ラァィッ!!」

 ゾロアークのけたぐりを、フライゴンがドラゴンクローで受け止めた。

 顔を持ち上げて放たれるかえんほうしゃは、同じ技で応戦する。

 

 広がる炎。

 つい先程戦う事を望んだ相手だが、こんな戦いは望んでいなかった。

 

 

 

「……に…………こ……の……?」

「リアちゃん大丈夫?! 直ぐに助けるからね!!」

 でもどうやって?

 

 自分に何が出来る?

 

 

 そこまで考えてシルヴィは頭を横に振る。

 

 さっきその自問自答で何も出来なくなったばかりじゃないか。

 何が出来るかじゃない。何かするんだ。

 

 もう誰にも悲しい思いをして欲しくないから。

 

 

 目の前の少女にも、ポケモン達にも。

 

 

 

「フライゴン、おばあちゃんをさっきの場所まで連れて行って! あなたが帰って来るまで、ここは私達でなんとかするから」

「フラィ?!」

 シルヴィの言葉に、ゾロアークと向き合っていたフライゴンは驚きの声を上げる。

 今ここで自分が離れたら、この血走った眼をしたポケモン達はシルヴィに攻撃する筈だ。

 

 それが分かっているのだろうか?

 

 

「大丈夫、あなたが戻ってくるまではなんとか耐えてるから。多分今の私にはあなたの力がないと何も出来ないけど、それでもおばあちゃんの安全が第一だから……っ!」

 優しい人間だな。

 きっとフライゴンはそう思ったのだろう。

 

 

 呆れたような、安心したような表情をして、彼は老婆を持ち上げた。

 

 

 

「グァゥァッ!!」

 デルビルから放たれるかえんほうしゃを同じ技で返してから、フライゴンは両脚で走る。

 今はまだ飛ぶ事が出来ないため、走って老婆を送り届けてから戻って来るしかない。

 

 全速力で一分か。その程度の距離、その程度の時間だが───命というのはその程度の時間で灯火を消す事だってあった。

 

 

 それは、この中で少女が一番知っている。

 

 

 

「クチートは下がっててね。炎技は苦手でしょ?」

「く、クチィ……」

 リア達から眼は離さずに、屈んでクチートの頭を撫でてから少女は一度パーカーのフードを整えた。

 振り向いた先では三匹のポケモンが威嚇をしながら隙を伺っている。

 

 少しでも隙を見せれば、次こそ炎で少女を燃やす気でいるのだ。

 

 

「おに……ん…………ど……る……?」

「リアちゃんを離して……っ!」

「何処に……居るの?」

 ウツロイドがリアに話させているのか?

 それは意識を失ったリアの呻き声なのか?

 

 

「リアちゃん……?」

 ───そのどちらでもない。

 

 

 ウツロイドは寄生した相手に強力な神経毒を打ち込む。

 

 それは対象の肉体を限界まで酷使させ、極度の興奮状態に陥らせる神経毒だ。

 さらにウツロイドや寄生した身体を守らせるように心理誘導させる作用も含まれているが───自身を守るという事以外は、今のリアは興奮した本能的な自我(・・)により行動している。

 

 

「お兄ちゃんは……何処にいるの?」

 つまり、その言葉は彼女の本音だった。

 シルヴィにはその意味を知る余地も、彼女の自我を垣間見る事も出来ない。

 

 

 ただ、一つ言える事は───

 

 

「……怖いの? 辛いの?」

 ───リア(ウツロイド)からは、悪意のような物は感じない。

 

 

 感じるのは怯えているような、寂しがっているような、そんな暗い感情ばかりだ。

 

 

 

「───お兄ちゃんは何処?! 嫌だよ、一人にしないでよ。寂しいよ。ねぇ、何処にいるの?! お兄ちゃん……っ!! ……っぁああ!!」

 ウツロイドに取り込まれたまま、リアは心の叫びを口にする。

 それがどういう意味なのかはシルヴィには理解出来ない。何故リアがこの状況でこんな風に叫んでいるのか、理屈は分からない。

 

 

 ───でも、一つだけ分かる事があった。

 

 

「寂しいんだよね? 怖いんだよね? ……ごめんね、私はお兄ちゃんにはなれないけれど。一緒に居てあげる事は出来るよ。……いきなりよく分からない場所に来て怖がってただけなのに、攻撃してごめんね。大丈夫、私は敵じゃないよ」

 一歩ずつ歩み寄りながら、シルヴィはリア(一人)ウツロイド(一匹)に語り掛ける。

 

 

 なんとなく、ウツロイドはただ怖がっているんじゃないかと思った。

 だから自分を守る為にモールの人達を襲っていたんじゃないだろうか?

 

 

 どうしてこのポケモン達がモールに現れたのかは分からない。

 けれど、元々この場所に居なかった事だけは確かで、つまりは別の場所から迷い込んできたという事。

 

 

 だから、ただ怖がってるだけなんじゃないかな?

 

 シルヴィはそう思いながら、ゆっくりと一歩ずつ足を進める。

 

 

 

「グァゥァッ!!」

 だが、リアのポケモンはそれをただ見ているだけではなかった。

 口を開き、血走った瞳をシルヴィに向ける。この距離では避けれない。勿論、当たれば大怪我では済まない。

 

 

「───デデンネ、ほっぺすりすり!!」

 それを見た瞬間、シルヴィは走りながら声を上げた。

 しかしデルビル達の視界にはデデンネは映らない。

 

 そのポケモンは何処にいるのか?

 だが今の三匹は視界に映らないポケモンを気にしていられない程に、冷静さを欠いている。

 

 

 ただ大切な主人に近付く者を焼き払うのみ。その少女だけを見て、三匹は攻撃の姿勢を取った。

 

 

「───デネェッ!!」

 しかし、突然三匹の目の前にデデンネが現れる。

 少女の背後から肩を蹴って飛び出したデデンネは、突如現れた自身に驚いた三匹向けて相手をまひ状態にする技──ほっぺすりすり──を放った。

 

 

 突然の奇襲、そしてデデンネの行動の早さも相まって三匹は技を避ける事が出来ずにまひ状態になる。

 

 デデンネは何処に隠れていたのか? ボールから出てから技を出したのでは、今の奇襲は成り立たなかった。

 ポケモンがボールから出てから行動するには、若干のタイムラグがあるからである。

 

 

 

「ごめんね三匹共。大丈夫、リアちゃんは私が助けるから」

 身体が痺れて動けない三匹を横目で見ながら、シルヴィはパーカーのフードをまた(・・)整え直した。

 そう、デデンネは彼女のフードの中に隠れていたのだ。クチートの頭を屈んで撫でたその時から。

 

 

「なんだお前……お兄ちゃんじゃない。私はお兄ちゃんに会いたいんだ! お前じゃない!! そこをどけぇ!!」

 三匹を行動不能にされたリア(ウツロイド)は触手を振り回してシルヴィを攻撃する。

 シルヴィはその触手を走って躱しながら、一瞬で懐に入り込んだ。運動神経なら彼女はあの国際警察のクリスよりも高いだろう。

 

 

「デデンネ、三匹を見張ってて。……リアちゃん!」

「来るな……っ! お兄ちゃんを返せよ!!」

「……っ?!」

 デデンネを控えさせた瞬間、至近距離からの触手がシルヴィを捉えた。

 ウツロイドの神経毒は身体中から放たれる。それは勿論、触手も例外ではない。

 

 

「デネ?!」

「大丈夫……っ!! だから、三匹を、お願い……っ!!」

 そのまま触手に巻き込まれ、リアと同様ウツロイドに取り込まれていくシルヴィ。

 勿論デデンネやクチートは心配の悲鳴をあげるのだが、シルヴィは大声と伸ばした手で助けを拒んだ。

 

 このままリアに近付いて、彼女を助ける魂胆なのだろう。

 

 

「───ぇ」

 しかし、ウツロイドの神経毒が彼女の身体を蝕んだ。

 

 

 

 嫌だ。

 

 

 見たくない。

 

 

 私じゃない。

 

 

 私のせいじゃない。

 

 

 死なないで。

 

 

 殺さないで。

 

 

 助けて。

 

 

 見せないで。

 

 

「───ぁ……ぁぇ……っぅぇ…………ぁぁ」

 思い出したくない光景が次々に脳裏に浮かび、少女の瞳からは溢れんばかりの大粒の涙が流れ落ちる。

 

 

 ただ助けたかっただけだ。

 

 ただ守りたかっただけだ。

 

 あんな事になるなんて知らなかった。分からなかった。

 

 私のせいじゃない。

 

 

 神経毒はシルヴィをウツロイドが完全に取り込む前に、彼女の心を蝕む。

 極度の興奮状態に陥り、彼女は心の中に閉じ込めていた筈の自我に苦しめられていた。

 

 

 逃げて来たあの日(・・・)の事。

 

 

 目の前で命が消えていったあの日の事。

 

 

 

 助けたかった。

 

 

 助けたい。

 

 

 ───だが少女は。

 

 

「───だから私は今、ここに居る……っ!!」

 助けるんだ。

 

 強い自我は逆に彼女を奮い立たせる。あの時の事を繰り返したくない。もう目の前で誰かの大切な人を失わせたくない。

 ウツロイドに取り込まれながらも振り向いて、シルヴィはリアのポケモン達の様子を見た。

 

 まひ状態でまだ動けないが、その瞳はしっかりと大切な主人を見ている。

 

 

 

 助けるからね。

 少女は心の中でそう決意して、目の前のリアを抱きしめた。

 

 

「な、なんだよお前……っ! 邪魔だよ、退けよ、前が見えないだろ! お兄ちゃんを探せないだろ!!」

「私、リアちゃんとは船で会って少しお話ししただけだけど。友達だと思ってる。私がアローラで始めてお話しした友達だって思ってる」

 ウツロイドの神経毒。

 それがどういう物なのか、シルヴィはその身をもって知った事になる。

 

 だからか、今のリアがどういう状態なのか少し分かる気がした。

 

 

「ちょっと強気でいじっぱりな所あるけど、本当は寂しかったんだよね。お兄ちゃんの事は私分からないけど、友達にならなれる。なんならお姉ちゃんになってあげる! ここから出よう? 私が側にいるよ。一緒にお兄ちゃんだって探す。だから一人にならないで! ……こんな所で、意地になってもしょうがないよ!!」

 腕を伸ばす。リアを抱きしめたまま、シルヴィはウツロイドから脱出しようともがいた。

 

 

 

 絶対に助ける。

 

 

 なんだろう、不思議な感覚だ。

 

 

 今なら出来る気がする。

 

 

 

 それはウツロイドの神経毒の力なのか、彼女の心の強さなのか。

 リアを引っ張りあげて、シルヴィは遂にウツロイドの体内から頭だけ抜け出す事に成功した。

 

 

「───っ?! ……っぅ? あ、あれ? 私は?」

「リアちゃん、正気に戻ったの? よーし、今ここから脱出するからね!」

「……ぁ、ぇ、いや、なんでこんな事に───って、待て!! 待て待てデルビル! ゾロアーク!!」

 気が付いたリアを安心させようと声を掛けると、リアは突然青ざめた表情で声を上げる。

 

 

「───ぇ」

 そんな彼女に釣られてリアの視線の先に向けられたシルヴィの眼に映ったのは───

 

 

 

「待───」

 ───デルビルとゾロアークから放たれる、業火だった。




お久しぶりです。全然ポケットじゃないモンスターと戯れていました。はい、モンハンです。

VSウツロイド、後一話か二話で終わる筈。そしたら私はほのぼのを(きっと)書くんだ。
次は早めに更新できるようにしたいです。


あとイラスト描きましたー。

【挿絵表示】

何話か前にシルヴィがモールで買ったアシマリパーカーです。他にニャビーパーカーとモクローパーカーも買ったそうな。随時描いていくと思います。

それではまた、次回もお会いできると嬉しいです。
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