今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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VSウツロイド④

「リアちゃん、正気に戻ったの? よーし、今ここから脱出するからね!」

「……ぁ、ぇ、いや、なんでこんな事に───って、待て!! 待て待てデルビル! ゾロアーク!!」

 ウツロイドから逃れようと踠く二人の視界に映ったのはデルビルとゾロアークが放つ業火──かえんほうしゃ──だった。

 

 

「ぇ、待───」

 迫り来る赤。リアを庇うようにそれに背を向けるが、思っていた衝撃と熱さは感じない。

 代わりに背中に感じるのは暖かい感触。そんなシルヴィとリアを、一匹のポケモンが引っ張りウツロイドから引き離す。

 

 

「───フライゴン?」

「……フラィ」

 二人を業火から救ったのはフライゴンだった。

 老婆を安全な場所に送り届け、ギリギリのタイミングで戻ってきたのである。

 

 

 かえんほうしゃを自らの背中で受け流してから二人を床に降ろし、彼はドラゴンクローを展開。ウツロイドとデルビル達を睨み付けた。

 

 

「ど、どうなって……。私、なんで……」

「待ってフライゴン! ちょっとだけ待って!」

 混乱するリアの前で、シルヴィは臨戦態勢のフライゴンに待ったをかける。

 驚いた表情を見せるフライゴン。目の前のポケモン達は今まさに彼女を襲おうとしているのだ、フライゴンには彼女の行動が理解出来なかった。

 

 

「デルビル達はリアちゃんを守りたかっただけなんだよね? 大丈夫だよ、もうリアちゃんは助けたから!」

「私、助けられたのか……。……ぇ、なんだこれ、変な感じ」

 デルビル達に語りかけるシルヴィの横で、リアは頭を抱えて蹲る。

 そんな彼女を見た三匹は、ハッとしたような表情でリアに駆け寄った。

 

 偶然か、必然か、ウツロイドの神経毒が抜けたらしい。

 

 

「あれ? リアちゃん大丈夫……?」

「グァゥ……」

 三匹は蹲るリアに強く頬擦りして安心の表情を見せる。

 とりあえず三匹は大丈夫。そう確信したシルヴィは、次にウツロイドに身体を向けた。

 

 

 

「あなたはきっと、怖かっただけなんだよね……? いきなり変な場所にきちゃって、いきなり仲間が攻撃されて、怖かっただけなんだよね?」

 ウツロイドは真剣な表情で語りかけるシルヴィの様子を眺めるように、ただ浮遊する。

 警戒するフライゴンの横にデデンネとクチートがやって来て、やはり二匹ともウツロイドの動向を凝視した。

 

 

 それでも、シルヴィは足を一歩前に出す。

 

 

 両手を広げて、語りかける。

 

 

「大丈夫、もう攻撃しないよ。帰ろう? あなたの元居た場所に……」

「じぇるるっぷ……」

 少女の言葉に反応したのか、ウツロイドは突然動き出した。

 フライゴンが身体を前に出すが、シルヴィは手を広げて彼を止める。

 

 

「大丈夫」

 いつか自身に向けられたような、そんな言葉。

 

 攻撃されても、投げ飛ばされても、少女はそう言い続けた。

 その真剣な表情と気持ちに自分は救われている。信じられない訳がなかった。

 

 

「ありがと、フライゴン」

 構えを解くフライゴンに向けてそう言う少女の目の前を、ウツロイドが通り過ぎる。

 そして半回転。まるでシルヴィ達に挨拶をするように少しその場で揺れてから、ウツロイドはステージの方に戻っていった。

 

 

 

「……帰ったのか?」

「多分、あの穴に戻るんじゃないかな? あの人も居るし、ステージの方は大丈夫だと思う。……それより、リアちゃんは大丈夫?」

「……べ、別にどうにもなってない」

 リアは俯いたままそう言葉を吐くが、どうも様子がおかしい気がする。

 シルヴィはそんな彼女の顔を覗き込むように、自身も姿勢を低くした。

 

 

「……っ、こっち見んなよ!」

 しかし、リアはそんな彼女を突き飛ばす。

 なんの抵抗もなしに尻餅をついたシルヴィは、それでも心配げな表情でリアを見詰めた。

 

 

「リアちゃん……?」

「……ほっとけよ!! 私に関わんな!!」

 急に立ち上がったかと思えば、リアはそう声を上げてボールを三つ取り出す。

 デルビルもゾロアもゾロアークも、心配そうな表情でリアを見詰める三匹をボールに戻して、彼女はトイレに駆け込んだ。

 

 

「え、ちょ、リアちゃん?! お腹痛いの? 大丈夫?!」

「ほっとけって言っただろ!! なんだよもう、なんなんだよもう!! 一人にして!!」

「リアちゃん……」

 自分が彼女を傷付けてしまったのだろうか?

 

 ウツロイドから助ける時、彼女に言った言葉で傷付けてしまったのかもしれない。

 そう思うと自分に出来る事はないんじゃないかと思えて、シルヴィは個室から離れる。

 

 

「……ごめんね、リアちゃん。あの、多分大丈夫だけど、またあのポケモンが来たらちゃんと逃げてね? 私広場が心配だから、少し戻るけど、また後で落ち着いたら、お話しよ? えと、ごめんね……。……またね?」

 そう言ってから、シルヴィはフライゴン達に「行こっか」と小声で話してトイレから広場に戻った。

 残された少女は一人、個室で蹲って涙を流す。

 

 

 

「……なんで、なんでこんなに思い出すんだ。……寂しいなんて当たり前で、こんな、泣く事ないのに」

 溢れ出る涙の理由が分からずに、少女はただ止まらない涙を拭き続けた。

 

 

 ウツロイドの神経毒は人間には強力であり、寄生から逃れて直ぐに消えるものではない。

 つまり、リアはまだ極度の興奮状態なのである。抑えられない自我、それが彼女の本心。

 

「……お兄ちゃんに会いたい」

 少女はただ、誰もいない個室で呟いた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「いや、クソだな。マジでクソだなお前」

 男は両手を上げてそう悪態を吐く。

 

 

 彼の目の前には、太い骨を構えた少年とホースを男に向けた洗濯機が一台。

 そして背後には目を回して倒れているドーブルとメタモンの姿があった。

 

 その横に一緒に倒れているのはかなり小さなサイズのゲンガーで、これは少年──クリス──のポケモンである。

 洗濯機も実はポケモンで、プラズマポケモンのロトムが入り込んだ姿だ。身体がプラズマであるロトムは、家電に入り込む事で家電の力を使う事が出来る。

 

 

 

「なんとでも言え」

 クリスはゆっくりと手錠を片手に取りながら、男に近付いた。

 

 周りにウツロイドの姿はなく、ウルトラホールも閉じている。

 先程トイレの方からウツロイドが戻ってきたのが最後の一匹だった。

 

 それを男が見届けた瞬間、彼の目の前でドーブル達が倒れる。

 影に入り込み隠れていたゲンガーのほろびのうたの効果だ。

 

 

 

「せっかくモールの客を助けてやってたのに、この仕打ちはないぜ。そう思わねぇ?」

「……元々この騒動を起こしたのはお前達だろう。さぁ、もう逃げられないぞ」

 男の目の前まで来て、クリスは男の手を取る。

 後はこの手錠を掛けるだけ。

 

 

 

 正直、この広場を離れて一階の客の救助に向かったのは賭けだった。

 この男が広場の客を全員助けるとは限らない。目的──ウツロイドを捕まえる事──さえ達成されれば逃げていく可能性すらあったのだから。

 

 もし男が律儀に広場に残り続けたなら、広場の安全を確認次第ゲンガーにはほろびのうたで二匹と相打ちになってもらうという作戦は立てた。

 その作戦自体は成功したが、クリスは今回完全に敗北である。事を起こした(ロケット)団本人の力を借りなければ、事の収拾が付かなかったのだから。

 

 

 

 だからこの事件、クリスは───国際警察は完全敗北だ。

 

 しかし、それとこれとは話が違う。

 R団に好き勝手される訳にはいかない。この男を捉え、事の真相を掴む事が、今の彼の仕事だった。

 

 

「いやぁ、そうだな、降参だ、参りました───」

 男はクリスに背を向けて、声を上げる。

 

 なんだ?

 そう思った時には、すでに遅かった。

 

 

「───なんていうと思ったかよカーバ。……やれ、カクレオン」

「───な?!」

 クリスの視界に突然現れるカクレオン。

 

「ソーラービーム……発射ぁ!!」

 日の光を集め、そのエネルギーを放つ技──ソーラービーム──にはエネルギーを溜める時間が必要である。

 カクレオンはそのエネルギーを溜めたまま、この瞬間までその名の通り隠れていたのだ。

 

 

「───っ、ロトム!!」

「前回のお返しだ、カクレオンは出来る子なんでなぁ!」

 洗濯機に入り込みウォッシュロトムとなっていたロトムはでんき、みずタイプ。

 くさタイプのソーラービームは効果抜群であり、一階でのウツロイドとの戦闘の疲労も相まってダウンしてしまう。

 

 

 これでクリスの手持ちは三匹とも戦闘不能。

 軍配は男に上がった───

 

 

「え、えーと、なんで二人が戦ってるの……?」

 ───しかし、不安定要素がその場に現れた。

 

 

 何も状況を理解していないシルヴィである。

 

 

 

「シルヴィ、国際警察として頼みたい。この男を捕まえてくれ!」

「えぇ?!」

「ま、まじかよ……」

「どうせお前は停電のせいで降りたままのシャッターで逃げる事は出来ない」

「いやいや、流石に相手してられねーよ! カクレオン、へんしん!」

 咄嗟の指示にカクレオンは反応し、突然ドーブルに姿を変えた。

 目を見開くクリス。カクレオンは──へんしん──を覚える事が出来ない筈である。それが、なぜ?

 

 

「……ものまねか?!」

「へいへいビンゴ、流石だねぇ。決着はまた今度着けようぜ。まぁ? 今回は目的も達成、お前はR団を捕まえられず、何も得られない。つまり俺の勝ちだ。……あばよ」

 ウツロイドを捕獲したウルトラボールを見せ付ける用に突き出しながら、男はドーブル(カクレオン)に「テレポート」と短く指示を出した。

 クリスが手を伸ばす前に、男はドーブル(カクレオン)と自分のポケモン達と共に姿を消す。

 

 

 

「……くそ」

 自分の非力さが憎い。

 

 

 

 何も出来なかった。

 

 

 

 目の前でR団が悪事を働き、人命を危険に晒していたというのに。

 あまつさえそのR団の力を借りて、やっと事件の収拾が付いたのである。

 

 これが国際警察のやる事か? こんな無様な結果を出す為に国際警察に入ったのか?

 

 

 

 違う。

 

 

 R団を捕まえる為に。これ以上悲しい思いをする人を増やさない為に、国際警察になったんじゃないのか?

 

 

 それがこのざまか?

 

 

「くそ……くそ…………くそ……っ!!」

 床に両手を叩き付けるクリスを、シルヴィはただ黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 誤作動で閉まっていたシャッターが開く。

 ハンサムの指示で外に待機していた警官達が次々に突入し、現状の把握と事態の収拾の為に動いた。

 

 

「あなたが国際警察のクリスさんですね? 事態の収拾へのご協力、アローラの警察を代表して感謝いたします」

「……はい」

 自分は何もしていない。何も出来ていない。

 

 そう思いつつも、仕事の為に頭を切り替える。

 失敗を引きずる事は誰にだって出来るのだ。今優先されるのは事態の収拾、そして今後の行動である。

 

 

「勿論、僕だけの力ではないですけど」

「ご謙遜を。流石、国際警察ですね」

 その言葉に悪意はない。だからこそ、余計にクリスは胸を締め付けられる思いだった。

 

 

 

「……多分R団はもうモールには居ないと思います。テレポートを使う奴が居たので」

「ウルトラビーストは?」

「何匹か分かりませんが一匹以上は捕獲されて、残りはウルトラホールに帰った筈。広場の監視カメラを確認しましょう。それで、R団の一人の男の顔も確認出来る筈」

「それが、監視カメラは破壊されてまして……。電波障害も発生しており、データは何も残っていないのです」

 対策済みか。

 

 

 どこまでも徹底的に負けている。このアローラで起きている事件、解決する事は出来るのだろうか?

 後先の不安に駆られながら、クリスは今出来る最善の行動を模索した。

 

 

「電波障害……。放送室に向かう途中でポケギアを使おうとしたけど、繋がらなかったのはそれが理由か」

 ロトムに指示を出してから走って放送室に向かうまでに、クリスは一度ポケギアでハンサムに連絡を取ろうとしている。

 しかし何故かポケギアは圏外で、その理由を調べる暇もなく今こうしてやっと原因が分かったのだ。

 

 

 突然の停電に、電波障害。流石に偶然とは思えない。

 

 

「情報ありがとうございます。僕はもう少し調べたい事があるので、持ち場に戻って下さい」

 敬礼してからそう言って、クリスは携帯電話端末──ポケギア──を取り出す。

 勿論電波障害はなく、通信が通っている事を確認してからクリスはハンサムに電話を掛けた。

 

 

『クリス?! 無事か? そっちで何があった?』

「すみません、全て僕の失態です。詳しい事は後に報告します。……一つ調べたい事がありまして、今回のモールの停電と電波障害。発生していた時間帯は分かりますか?」

 電話越しでも焦っているハンサムの声に、クリスはそう返す。

 それを聞いたハンサムは『調べる。一度切ってもう一度掛け直すが、無理はするなよ?』と言ってから電話を切った。

 

 

 

 直ぐに空間研究所に電話をして電波障害の発生時間を調べたハンサムから、折り返しの電話が掛かってくる。

 彼によれば、電波障害は停電の数秒前から継続的に発生していた。そして停電が発生、電気の復旧後も電波障害はシャッターが開くまで続いていたらしい。

 

 

 

「電波障害が先。そもそも停電は偶然なのか……?」

 あの停電は、アイドルのライチュウ達が放ったスパークにより発生したと思われる。

 流石にアローラのアイドルがR団の一員だとは考えにくいが、あの場に居たもう一匹のポケモンを思い出した。

 

 

 ──ご、ごめんなさいごめんなさいぃ! お願いレアコイル、フラッシュ!──

 

 レアコイルなら電波障害を発生させる事が可能ではないだろうか?

 

 

「……いや、あのレアコイルは一定時間フラッシュを放っていた。ちょうおんぱかなんかで電波障害を起こそうにも、基本的にポケモンは同時に技を出す事が出来ない」

 継続的に電波障害が起きている以上、電波障害の犯人はあのレアコイルではない。

 モールの中にはあのドーブル使いの男以外にもR団は潜伏していたし、隠れた場所で電波障害を起こしていたのだろう。

 

 どちらにせよ、停電を起こした彼女への事情聴取はした方が良いがそれは後回しでも問題はない。

 

 

「……考え過ぎて頭が痛くなってきた。ゲンガー達も休ませたいし、今日はもうポケモンセンターで休ませて貰おう。見る限り死者行方不明者はいな───」

「クリスさん、ステージ裏に来て下さい」

 手持ちのポケモンが入った二つのボールと、腕の中で目を回しているゲンガーを休ませようとモールを後にしようとした矢先。

 先程の警官が焦った様子で声を上げながら駆け寄ってきた。

 

 

 嫌な予感がする。

 

 

 彼の言葉は聞きたくない。

 

 

「ポケモンの……や、ヤングースの───」

 本能的にそう思い後退りしたが、警官は彼の気持ちを知る由もなく。

 

 

「───死体が見付かりました」

 ただ業務的に、口を開いた。




ほのぼのが書きたい(血涙)
ヤングースは実は伏線があるのですよ……。


ほい、最後のメインキャラ描きました。未だにこの人名乗らないから実はモブなんじゃないかと思われてそうだけど、名前はライルって言うんです。グラサンのセンスが悪い。


【挿絵表示】


次回もお会い出来ると嬉しいです。
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