今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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突然の過去篇です。


【番外編/コラボ回】過去──少年は信頼たる背中を追いかけて
国際警察はねこのても借りたい


 とある地方──国際警察本部──総務室前。

 

 

「ここだったかな」

 手に握られた地図と部屋の看板を見比べながら、金髪の少年が呟く。

 ベージュ色をした大きめのコートの肩に乗る平均よりも小さなサイズのゲンガーは、彼の言葉に頭を縦に振って同意した。

 

 

「失礼します、新人のクリスです。本日演習を───」

 総務室の扉を開け無礼のないように名乗り、そこまで言ってから少年──クリス──は口を閉じる。

 話しかけている目の前の人物が電話をしている事に気が付いたからだ。失態である。

 

 

「いや、すまない。何せ人手が足りなくてな……」

 電話をしているのは少年の上司、ハンサムだ。

 彼は携帯電話端末──ポケギア──を片手に、申し訳なさそうな声で電話越しに話をしている。

 

 どんな用事なのか?

 クリスは今日、上司であるハンサムに演習を実施してもらう予定だった。

 そこで「人手が足りない」と耳にすると、自分の存在が迷惑を掛けているのでは? そんな事を推測してしまう。

 

 悪い癖だ。

 

 

「安心してくれ、君より年下で、期待も出来る子なんだ」

 しかしハンサムのその言葉で推測は確信に変わる。

 

 自分が期待出来るかはさておき、一連の会話から察するにハンサム自身が忙しくなり演習に付き合う事が出来なくなった。

 それで代役を任せるために電話をしているのだろう。

 

 

「私が見るつもりだったんだが、今日中に纏めないといけない資料があるんだ。第三演習所は予約してある、新人は十時に本部の待合室に来る筈だ。……頼む」

 資料を片手間に触りながら、ハンサムは電話越しの相手に頭を下げた。

 自分の為に上司にそこまでさせるのは申し訳がない。

 

 

「わかっている、手当は出すさ」

 文句でも言われたのだろうか?

 その一言に少し間を置いて、ようやくハンサムは電話を切る。

 

 そうして資料を片手間に振り向いた彼は、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「すまないクリス、見ての通り急な仕事が入ってな。お前の先輩に代役を務めさせるから、聞いていた通り十時に待合室に向かってくれないか?」

「……あ、はい。それは良いんですけど、その……代役の人って気難しい人ですかね?」

 まだ幼い顔立ちを残した少年は、その顔を若干引き攣らせてそう答える。

 

 先程の電話から察するに、その先輩はとても気難しい人物なのではないだろうか?

 そう察したクリスは、過酷な演出を想像して首を横に振った。

 

 

 どんな相手であれ、未熟な自分の演習を見てもらうのだから真剣に向き合わなければならない。そうでなければ自分の目的は達成されない。

 

 今は居ない友達(ポケモン)の事を思っては手を強く握りしめ、少年は前を向く。

 

 

「……どちらかというと、気難しい。周りと距離を置いていて好かれていないし、面倒くさがり屋だしな」

「最悪じゃないですか」

 前言撤回したい。

 

 

「だがな───」

 ただ、ハンサムは一度目を瞑って言葉を繋げた。

 当人の事を思い出しているのだろうか?

 

 周りと距離を置いて、好かれていなくて、面倒くさがり屋で。

 それでもハンサムは彼の事を信頼して、目を開いて言葉を続けた。

 

 

「───与えられた仕事は的確にこなす、実力も信じられる私の自慢の部下だよ」

 当人を評価するハンサムの表情は真剣な物で、そこに嘘も冗談も含まれていないと断言出来る。

 

 

 一抹の不安を残しながらも、クリスはその足で待合室に向かった。

 

 時刻は九時四十三分。五分前行動、十分前集合を考えるに適切な時間だろう。

 

 

 少し時間が経って十時になり、いつ当人が来てもおかしくない。

 そんな緊張から椅子に座る動作も硬くなるが、影に出入りして遊んでいるゲンガーは少年の気など全く気にする様子もなかった。

 

 

「じっとしてろ」

「ゲー?」

 気難しい面倒臭がり屋という人物像が頭から離れない。

 

 そんな事を考えた矢先、クリスの前にある扉から一人の青年が姿を現わす。

 青いコートを着た銀髪の青年は、首から掛けたゴーグルを揺らしながら気怠そうにクリスの元に向かって来た。

 

 

「……初めまして。国際警察新人、コードネーム──クリス──です。宜しくお願いします」

 それを見て急いで立ち上がり、深々と頭を下げながら挨拶をするクリス。

 

「……コードネーム──ブライ──だ。早速だけど演習所まで移動するぞ」

 そうして青年──ブライ──は軽く挨拶を返した後、踵を返して待合室を後にする。

 急いでゲンガーを引っ張り上げ、後を追うクリスが彼に感じた第一印象は───

 

 

「……物凄く怖いんだけど」

 ───最悪だった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「……な、何をしているんですか? 先輩」

 駐車場に着くなり車のボンネットを開いて車両点検をし始めるブライに、クリスは恐る恐る声を掛ける。

 

 

 ブライは入念にタイヤの状態を凝視した後、鍵を開けてウインカーのライトの点滅を確認。

 車両点検を細かく済ませたかと思えば、車の前後に律儀に初心者マークを張り出した。

 

 

 先輩を怖いと感じた矢先にそんな真面目な行動を取られて、クリスは若干表情を引き攣らせる。

 勿論、笑わない為だが。

 

 

 

「言っておくが、車はポケモンより怖いぞ」

 彼の過去に何があったのか。むしろ助手席に座るのが怖くなったクリスだが、彼の眼光に促されるままに車内に乗り込んだ。

 

 どうか初日から交通事故で殉職なんて事にはならないようにと、切に願う。

 

 

 

 

「国際警察といってもやってる事は普通の警察と変らねぇ。ただ行動範囲が広いだけで、警察の仕事としてやるべき事はやる」

 想像よりも安全運転───というか、ゆっくりな運転にクリスが安堵する中でブライが口を開いた。

 ハンサムは面倒臭がり屋と言っていたが、手当も出るという事で彼なりに責任を持って指導しようとしているのかもしれない。

 

 しかし、そんなブライの表情はなぜか青ざめている。

 

 

「……あの、車酔───」

「酔ってない」

 真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐを見て運転するブライを見てクリスは一つの結論に辿り着く。

 

 

 この人、車の運転苦手だ。

 

 

 シートベルトの影に入ってベルトで遊ぶゲンガーに、クリスは本気で「止めてくれ」と願う。

 第一印象から反対の印象を受けた所で、車は道路脇に一時停止した。

 

 

 

「どうしたんですか?」

「言ったろ、普通の警察と変わらねぇって。トラブルを見付けたら対処するのが仕事だ」

 軽く舌打ちしながら扉を開け、近くの小さな家電ショップに向かうブライ。クリスも急いで彼の後を追う。

 

 

 家電ショップの目の前では店員と思われる男性と、今さっき店から出たと思われる客の男が揉め事を起こしていた。

 客の男に関しては手にモンスターボールを持って今にもポケモンを出そうとしている。

 

 

「あんたが店の冷蔵庫を持ち逃げしようとしたんだろう?!」

「そんな事する訳ねぇだろ!! この冷蔵庫が勝手に付いてきたんだよ!!」

「何言ってんだアンタ頭おかしいんじゃないのか?!」

「誰が頭おかしいだボケェ!!」

 どうやら会話から察するに、冷蔵庫の盗難事件のようだ。

 

 よくも冷蔵庫なんて盗もうと思ったな、と内心呆れつつもブライは客の男が投げたモンスターボールに警戒する。

 暴力沙汰になれば連行しなければならなくなる為、その前に止めたい所だ。

 

 こちらのポケモンを選んでいる暇はなく───ならば、対応力の高いポケモンを選ぶ。

 

 

 

「もう構ってられるか! モジャンボその店員を眠らせちまえ! ねむりごな!」

「アリゲイツ、みずのちかい!」

 直接攻撃に出る事はなかったが、仕事中の店員に睡眠作用のある技──ねむりごな──を放つのは頂けない。

 初めから用意していたボールを投げると同時に、指示を出したブライのポケモン──アリゲイツ──は体内のエネルギーを伸ばした手から地面に送り付けた。

 

 

 分類通り大量のツルからなるツル状ポケモン──モジャンボ──が放つねむりごなを、地面から柱のように放出された水が無効化する。

 突然の第三者の加入に驚いた男が反応する前に、ブライは次の行動をアリゲイツに指示していた。

 

 

「───れいとうパンチ」

 みずのちかいによりモジャンボを覆った水の柱向けて、アリゲイツは氷点下の拳を叩き付ける。

 水の柱は瞬時に凍り付き、モジャンボは行動不能。一瞬の出来事に男はおろかクリスも開いた口が開かなかった。

 

 

 

「これが……国際警察か」

 何もする隙もなくトラブルが解決して、クリスは手に持ったモンスターボールを腰にしまう。

 視界に映るのは店の売り物と見られる、男の身長より少し大きい冷蔵庫だった。

 

 

 ……しかし、これを盗もうとしたのか?

 

 

 

「国際警察だ、抵抗しなければ技を向けた事は厳重注意で終わらせてやる。モジャンボをボールに戻して両手を上げろ」

「ひぃ?! ち、違うんだよお巡りさん聞いてくれよ! 俺は何もしてないのに冷蔵庫を盗んだなんて言い掛かりを付けられたんだ」

「嘘つくな!! 現に冷蔵庫が店の外にあるじゃないか、金も払ってないのに」

「だから冷蔵庫が勝手に付いてきたんだって!!」

「そんな訳があるか!!」

「はぁ……? どうなってんだ?」

 二人の証言の違いにブライは眉間に皺を寄せる。

 

 

「あー、もう分かった。話は署で聞く」

「そんなぁ?! 待ってくださいって!!」

 しかし現象証拠だけ見れば男が冷蔵庫を盗もうとしたとなるのは当然だ。

 そもそもブライは今日非番で、突然ハンサムにクリスを見るように言われていてこれ以上面倒に関わるのは御免である。

 

 ここから先は署にいる人間に任せて、当初の目的通り演習所に───

 

 

「先輩、その人の言ってることは間違いではないかもしれません」

 本部に連絡を取ろうとしたその時、なにやら冷蔵庫を調べていたクリスが口を開いた。

 

 不思議そうにその様子を見るアリゲイツを尻目に、ブライは彼の元に向かって様子を見る。

 

 

「どういう事だ?」

「この冷蔵庫、引き摺られた後がないんですよ。これだけ大きいと冷蔵庫の下に付いてる車輪を使わないと人間が持ち上げるのは困難で、店の外に出て道路を転がしたら車輪に小さな跡が残る筈なのにそれがない。……少なくとも彼が運んだという根拠が見当たらないんです」

 クリスの言葉にブライは小さく「ほぅ」と感心するが、まだそれだけでは男の潔白を証明する事は出来ない。

 

 

「可能性として考えられるのは三つ。───彼のモジャンボが使えるようなつるのむちか、エスパータイプのねんりきか、ゴーストタイプのポケモンが冷蔵庫に入り込んでいたか」

 クリスがそう語ると同時に、冷蔵庫の影からゲンガーが飛び出した。

 

 確かにポケモンの力を使えば男が触らずに冷蔵庫を持ち出す事が可能である。

 しかし、彼は何が言いたいのか? ブライはその続きに注目した。

 

 

「そしてその中で彼が実施出来るのはつるのむちくらいです。他にポケモンを持っていない事は今ゲンガーが確認しました。彼はモジャンボ以外持っていません。……そしてモジャンボをボールから出したのは今さっき、犯行は不可能です」

「……なるほどな」

 ──期待も出来る子なんだ──

 ハンサムの言葉を思い出して、ブライは密かに口角を釣り上げる。

 

 

 なるほど、確かにな。

 

 

「じゃ、じゃあ、店の冷蔵庫は……?」

「何処かでエスパータイプのポケモンがなんて話は少し現実味がない。……お化けでも居るんじゃないですか? この店」

 ゲンガーに目を向けながらそう言うクリス。その類いの話が苦手だったのか、客の男は店を見て顔を真っ青にしていた。

 

 

「ほ、ほら見ろぉ?! 俺のせいじゃないじゃないか!」

「も、申し訳ありませんお客様!!」

「おばけのいる店なんて二度と来るか!」

「お、お客様ぁ!!」

 怒鳴り散らしながら去っていく客の男。それを見てクリスはブライに「捕まえなくて良かったんですか?」と問うが、ブライは答えずにクリスの証言を頭で整理する。

 

 

 確かそんな話が最近街で多くなったような?

 

 

「そういえば最近、うちの店で買った商品が夜中に勝手に動いたり設定以上の動作をしたりとクレームが絶えないんですよね……。本当にお化けでも居るんでしょうか? おまわりさん助けて下さい」

「いや、そういうのは管轄が違うから本部に直接言ってくれ。もう問題ないな?」

 泣きついて来る店員を押し退けてそう言い放つブライ。

 

 

 これ以上面倒に巻き込まれまいと、アリゲイツをボールに戻しながら彼は車に向かった。

 それをクリスが追いかけて来たのを確認して、ブライは気怠そうに口を開く。

 

 

「最近街で家電が火を吐いたとか、そんな事件が多発してるらしい。……まぁ、担当違いだから気にする事はないが頭に入れておけ」

「あ、はい。分かりました」

 エンジンを掛けて返事を聞いた所で、彼はアクセルを踏んだ。

 恐ろしくゆっくりと走る車の中で二人はそれぞれ実力のある先輩と、期待できる後輩という認識を確認する。

 

 

 そして何度か駐車をやり直して、二人はたどり着いた演習所に向かったのだった。




お久しぶりです。約一ヶ月ほどお待たせして申し訳ありません。

なんと今回はありあさんの『虹色の炎』とコラボして過去篇をやらせて頂きました。全三話で三日間一話ずつ投稿の予定です。
国際警察になったばかりの頃のクリス。先輩である国際警察のブライと共に実践演習へ。その日彼らが巻き込まれる事件とは? 乞うご期待。
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