今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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先輩は後輩をおどろかす

 大小様々な建築物が並び、一つの小さな街を模した演習所。

 

 

 ここ──第三演習所──は街中での戦闘を想定して造られた演習所だ。

 国際警察である以上大規模な犯罪組織と衝突する事もあり、人々が暮らす街中での戦闘も充分に起こりうる。

 

 街中での戦闘訓練、そして有事の際に建築物をシェルターとして利用できる施設。それがここ、第三演習所だった。

 

 

 そんな第三演習所の、少し開けたスペースにブライとクリスは立っている。

 これから始める演習を予測しては、クリスはどんな内容でもこなせるように頭を整理していた。

 

 

「……んじゃ、さっさとやるか。演習」

「宜しくお願いします」

 さて、どんな演習を行うのか?

 

 街中という広い空間でのポケモンバトルか、建築物内という狭い空間でのポケモンバトルか。

 どちらにせよ、国際警察として鍛錬を積まなければならない。クリスはブライの指示を待つ。

 

「じゃ、この演習所の中で鬼ごっこでもするか」

「はい。…………え?」

 そして言い放たれた演習内容に、クリスは間も開けずに返事をした。

 しかし少し時間を開けてから、ブライが真顔で不自然な事を言った事に気がつく。

 

 

 鬼ごっこ?

 

 

 今、鬼ごっこと言ったか?

 

 

 クリスはブライの言葉を頭の中で何度も復唱した。

 何か裏が隠されている? いや、どう考えても彼は鬼ごっこと言っている。

 

 あの、子供の頃に良くやったアレか?

 

 

「ルールは簡単。一時間以内に俺を捕まえるか、俺のポケモンを一体戦闘不能にしたら終わりだ。勝つ為なら何してもいい。……あ、安心しろ、俺は一体しか使わないし、最初の十分は反撃もしないから」

 そう説明すると、ブライは身体を伸ばしながら「何か質問は?」とクリスに目で問いかけた。

 その説明で自分の先輩が何をしようとしているかは理解出来たが、その目的が分からない。

 

 

 逃げる犯人を捕まえる訓練?

 

 

 ポケモンを使って?

 

 

 ポケモンの力を使えば逃げる悪党なんて簡単に捕まえられる筈だ。それを一時間も時間に猶予を持って行う理由が分からない。

 

 

「先輩、それって僕のポケモンで先輩を攻撃してもいいってことですか?」

「当たり前だろ」

 確認するも、ブライは当然のように返事をする。

 この男はどういうつもりなのか。理解が出来ない。

 

 

「……危ないですよ?」

「……当たり前だろ。安心しろ、多分お前じゃ無理だから」

 ただ、彼の身体を心配するクリスにブライはそう淡々と返した。

 

 挑発しているようには見えない。

 かといって自信に満ち溢れた表情をしている訳ではない。

 

 ただ単純に、事実としてそう捉えている。そういった言い方である。

 

 

「……わかりました。後悔しないでくださいね」

 だとしても、ポケモンを使っても人一人捕まえられないとまで言われてしまうと国際警察としての立場もない。

 クリスは年相応な表情でブライにそう言い放った。伊達にこの若さで国際警察に入った訳じゃないと見せつけてやろう、と。

 

 

「それでいいんだよ。……開始は一分後な」

 そう言い残すと、ブライは軽く走り建物の影に消えていく。

 

「……絶対捕まえてやる」

 ジャスト一分。ポケギアのストップウォッチを起動してから、クリスは決意の篭った声でそう呟いた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「ハァ……ハァ……あの人……ジュプトルか何かなのか……?」

 階段の手すりで身体を支えながら、クリスは息を荒げて悪態を吐く。

 彼の隣ではゲンガーが何かを探すように辺りを見回していた。

 

 

 演習開始から十五分。

 ブライを五回見付けるも、直ぐに見失ってしまう。

 

 

 街を模した演習所は建築物も模型ではなく実物として作られており、野外階段も多く索敵しなければならない範囲は想像以上に多い。

 それでもクリスは持ち前の推理力と判断力でブライを見付ける事だけは叶うのだが、その後が問題だった。

 

 

 ブライを見付けても、彼はまるでマンキーだかゴウカザルかのように地面から飛び上がり地表何メートルかの取っ手を掴んでそのまま一階分階段を飛び越したり。

 壁を蹴って二階の窓に手を伸ばしたと思えばそのまま屋上まで登っていくだの、最早人間とは思えない動きでクリスの追っ手を回避する。

 

 

「くそ……あ、あの人は本当に人間なのか」

 ゾロアークに幻影でも見せられていると言われた方が納得がいく現状に、クリスは息を整えながらも悪態を吐いた。

 

 自分が追っているのは人間の筈。

 

 なぜかそこで疑心暗鬼になる程に、ブライの身体能力は常識を逸脱している。

 それは勿論、クリスの中での常識なのだが。

 

 

 

「まあ、ポケモンバトルが強いだけじゃどうにもならないこともあるからな」

 建物の屋上からクリスを見下ろし、ブライは息を整えながら独り言を呟いた。

 世の中の悪党が、全て一般人程度の身体能力なら苦労しないだろう。

 

 それを身を持って教えているつもりだが、ブライとしても驚く事が少しはあった。

 

 演習所に来る時に見せた状況把握力と推理力はやはり高く思える。

 しかし、体力や瞬発力は足りていない。ポケモンやバトルの実力はともかく、本人がそれに付いて行けなければ意味はなかった。

 

 

「……見付けた! ゲンガー、屋上だ!」

 屋上にいたブライに気が付いたクリスがゲンガーに指示をしながら階段を上る。

 それではゲンガーの方が先に辿り着くし、クリスが付いた頃にはブライは走って飛んで別の建物の屋上だ。

 

 その間ゲンガーはただ指示を待つだけ。

 彼の欠点でもあるだろう。

 

 

 

「嘘……でしょ……。……はぁ」

 やっとの思いで登って来たクリスだが、そこには戸惑うゲンガーしか居ない。

 向かいの建物に立っているブライを見ては、クリスは顔を引き攣らせながら彼を睨み付けた。

 

 どうなってるんだ、畜生。

 

 

 逃げる素振りも見せないブライに、これまでポケモンの攻撃を向けるのだけは気が引けていたクリスだがついに腰のモンスターボールに手を向ける。

 

「ニダンギル、ラスターカノン!」

 自らの主戦力を放ちながら、クリスは苛立ちの篭った声で指示を出した。

 

 

 現れたのは二本の剣のような姿をしたとうけんポケモン──ニダンギル──である。

 ニダンギルはボールから飛び出すと同時にエネルギー剣先に集中、それを一本の光として放った。

 

 ラスターカノン。

 身体の光を一点に集めてエネルギーとして放つはがねタイプの技である。

 

 速度も早ければ威力も申し分ない。

 

 

 しかしブライはその攻撃を見切り、屋上から飛び降りた。

 正直そんな芸当をされるのはまだ信じられないが、クリスとて彼を追いかけて無駄な時間を過ごしたつもりはない。

 

 

 行動パターンを読んで先を行く。

 

 

「ゲンガー!」

 ブライが飛び降りたと同時に、ゲンガーがブライを追い掛けた。それを追ってクリスも階段を駆け下りる。

 

 

 ゲンガーが追うブライは行動を読まれた事だけ(・・)は心の中で褒めながら、ボールを腰から抜いて開閉スイッチを押した。

 

 

「ジュペッタ、かげうち!」

 繰り出されたぬいぐるみポケモン──ジュペッタ──は、小さく笑ってから右手を自らの影に入れ込む。

 ブライが振り返る事もなく──かげうち──がゲンガーを襲って動きを止めた。

 

 

「はぁ……はぁ……。って、ゲンガー!? くそ……捕まれられる気がしなくなってきた」

 クリスが階段を降りた時には倒れたゲンガーが地面に転がっているだけで、辺りにブライの姿は見当たらない。

 

 

 自分のポケモンにすら着いていけないクリスは、ゲンガーが何をされたのかすら分からないのである。

 勿論、ブライがポケモンを使ったのかも。そのポケモンがなんだったのかも分からない。

 

 

 

 

 そして演習開始から五十分経過。

 

 ゲンガーが倒れてから、クリスは一度もブライの姿を発見すら出来なくなっていた。

 まるで、探している場所を常に見られている(・・・・・・)ようにも思える。

 

 

 ブライはその通りに、ジュペッタの特性おみとおしと技──みやぶる──を駆使してクリスの居場所を常に特定していた。

 相手の場所が分かれば見付からないように動くのは容易い。

 

 そしてクリスにはそれを覆す身体能力もなければ、影に入り込める特性で索敵能力の高いゲンガーも戦闘不能である。

 さらにゲンガーを倒したポケモン(ジュペッタ)の存在も知らないクリスはブライがどう隠れているかすら推測が出来ない。

 

 

 

「……時間切れだな」

 演習開始から一時間経過。結局クリスは、ブライを捕まえることは出来なかった。

 

 背後に現れタイムアップを知らせるブライに、クリスは信じられないような物でも見るような様子で息を吐く。

 

 

「状況把握力、思考力は大したもんだが、体力と瞬発力が追い付いてねえ。それじゃジムリーダーや犯罪組織の幹部級には手も足も出ないだろうな。……まあ、バトルのエキスパートであるジムリーダーに勝てる奴なんか普通いないが」

 ブライは息を切らさずに淡々とクリスの評価点と問題点を挙げた。

 若干文句を言いたい所でもあるが、クリスはブライに実際手も足も出なかった為大人しく聞くしかない。

 

 

「まあ、躊躇無く俺に技ぶっぱなした度胸は認めてやる。新人にしちゃあよくやった方だ……。はい、面倒だし今日の演習終わり。どうせ今から続きやってもその体力じゃろくに動けないだろ。帰るぞ」

「それは……どうも」

 息も切らさずに踵を返して帰りの支度を進めるブライに、クリスは小さく返事をする。

 これが国際警察の実力なのか、この先輩が異常なのか。

 

 頭の中で問答していると、ジュペッタが小さく笑いながらクリスの頭を軽く撫でた。その意味は解らない。というか、ゲンガーを倒したのはジュペッタだったのか。

 

 

 それが分かっていたら対策を───いや、こちらの動向が掴まれていたのならゲンガーを失った時点で追跡は不可能である。

 ブライの言った体力と瞬発力の意味を少し理解しながら、クリスは彼の後を追って第三演習所を後にした。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 入れ替わりで駐車場に来た車を眺める事数分、車の点検を済ませたブライが慎重にアクセルを踏んで演習所を後にする。

 

 

 今回の失敗を踏まえて今後の課題にしなければならないだろうか?

 そんな事を思いながら、一時間前安全とはかけ離れた行動をしていた先輩の安全運転で走っていた車が急に止まった。

 

 

「ど、どうかしたんですか?」

「あのポケモンセンター、様子がおかしくないか?」

 ハザードランプを光らせながら、ブライは道路脇にあるポケモンセンターを見てクリスに問いかける。

 

 釣られてポケモンセンターを見てみれば、まだ昼間だというのに街灯が光ったり消えたりしていた。

 電光掲示板が不可解な図面を表示していたり、全くもって人の出入りが見られないのも不自然である。

 

 

「何かトラブルですかね?」

「はぁ……なんつぅ日だ」

 頭を掻きながら車を降りるブライにクリスも続いた。

 立ち止まって、その横を通り過ぎるクリスにブライは「不用意に前に出るな」と注意しながらモンスターボールの開閉スイッチを押す。

 

 

「アリゲイツ、みずのちかい」

 ボールから出て来たアリゲイツが拳を地面に向けると同時に、辺りの地面から水が噴き出した。

 すると空中に浮いていた何か(・・)に水が付着し、まるで小粒の雨を写真に切り取ったかのような光景が辺り一面に広がる。

 

 

 

「……ねむりごな?」

「その辺りだろうな。あの中で何が起きているのか……。ジュペッタ、ポケモンセンターの状況を知りたい。みやぶるだ」

 ブライが投げたボールから飛び出したジュペッタは、小さく笑いながら演習所でクリスの動向を探っていた技──みやぶる──を使った。

 

 

「……シシッ」

「立て篭もりか……。犯人は一人とポケモンが数匹。中に居る奴は殆ど寝てる、と」

 短いジェスチャーだけでジュペッタから状況報告を受けたブライはどうしたものかと頭を捻る。

 

 本部に連絡を入れて応援を呼ぶ事も出来るが、中で何が起きているか分からない以上迅速な対応が求められる筈だ。

 だが空気中に漂うポケモンの技といい、犯行は計画的だと見られる。

 

 犯人の目的も分からない。

 

 

 下手に動けば思わぬ事態を招くかもしれない。

 

 

 ───どう動く?

 

 

「まず目的はなんだ……。金か? 治療中のポケモンか? 愉快犯だったら考える時間も無駄だが」

「犯人の目的、お金ではないと思います」

 気怠そうにポケモンセンターを睨むブライの後ろから、クリスがそんな事を呟いた。

 どういう事だ? 返事を待つと、クリスは顎に手を向けながら口を開く。

 

「お金が目的なら直ぐに逃げると思うんですよ。ポケモンが目的でも同様です。しかしセンターから技が漏れる程時間が経っても、ジュペッタによれば犯人は中で何かをしている」

「確かにそうだな。……だがそれなら目的はなんだ?」

 ブライの質問にクリスは少しだけ間を置いてからまた口を開いた。

 

 

「考えられるのは三つ。一つは先輩の言う通り愉快犯である事。もう一つはセンターの中に珍しいポケモンが居てそれを探しているか。そしてもう一つはセンターの機材を盗み出す事ですかね」

 現状で考えられる選択肢を一つずつ纏めるクリス。

 そんな後輩の推測にブライは補足を促す。それだけでは説明が足りない。

 

 

「二つ目ですが、例えば犯人があのポケモンセンターに珍しいポケモンが居る事を知っていたとします。そのポケモンを手に入れる為にセンター内を無力化させて、ポケモンが見付からないから立て籠もってるのかもしれません」

 ポケモンセンターには様々なトレーナーがポケモンを預けに来る事がある。

 その中に珍しいポケモンが居ると睨んだ犯人が立て篭もりを起こしたというのが二つ目の推測だ。

 

 

「三つ目は単純にポケモンセンターの機材は貴重な物も多くて高く売れるからですね。ポケモン転送マシーンや回復マシーン、固定電話みたいに重くても重要な機材が沢山ありますから。時間を掛けてでも持ち出す価値がある。……それと、今朝の案件です」

「今朝の……? あぁ、あの冷蔵庫か」

 ブライは演習所に向かう前に起きたトラブルを思い出す。

 

 家電ショップの冷蔵庫を持ち逃げされたと店員が騒いでいたが、客は無実だった。

 そういえば結局あの冷蔵庫が勝手に動いた理由は分からず終いだったか。いや、まさか───

 

 

「───あの冷蔵庫同様って事か……」

「そうですね、個人的には三つ目が本命です。家電ショップでの事や、街で家電のトラブルが起きている事実にも少し繋がる気がしますし。一つ目なら眠らせずに犯行に移るだろうから一番可能性が低い、二つ目は少し気になりますが。……どちらにせよ犯人はセンター内部の人達を眠らせて目的を果たそうとしている筈、急いだ方が良いと判断します」

 クリスの推測を聞くなりブライは現状を整理し始める。

 

 

 先程放ったみずのちかいでついでに少し無効化されてはいるが、足元には──まきびし──まで散らばっていた。

 相当な計画犯であり、油断は出来ない。

 

 しかし、もし二つ目三つ目のどちらかだとしても急がなければ犯人の目的は達成されてしまうだろう。

 

 ブライはクリスに「付いて来い」と短く言い放って駆け出した。

 突然の判断にクリスは十歩ほど遅れてセンターに向かう。

 

 足元に散らばったまきびしを避けながら走るクリスを尻目に、それらを飛び越えて進んだブライは自動で開かなくなっていた自動ドアをアリゲイツと共に開いた。

 

 

「国際警察だ!」

 ポケモンセンターに突入すると同時に声を上げるブライ。

 しかし室内は静まり返っていて何も返事は返ってこない。

 

 それ事態が緊急事態なのだが。

 

 

 

「キノコのほうしか……」

 視界に映るトレーナーやポケモン達は全員眠っていて縄で縛られている。部屋中には広範囲に胞子を飛ばして相手を眠らせる技──キノコのほうし──が残っていた。

 ここまで念入りに邪魔者が入らないようにして居るという事は、犯人の目的は余程時間が掛かるという事だろうか?

 

 

「すまない起きてくれ。ここで何があった?」

 ブライはカウンターの横で倒れているポケモンセンターの従業員──ジョーイ──の肩を揺らしながら声を掛ける。

 ゆっくりと瞳を開けたジョーイは、自分が縄で縛られている事に気が付いて驚きの表情を見せた。

 

 それでセンター内を見渡すジョーイだが、何があったか分からないといった感じで頭を横に振る。

 

 

「え、えーと。そうだ、業者さんがパラセクトを出したと思ったら……うとうとして?」

「業者だ……?」

「先輩、何か分かりましたか?」

 遅れて来たクリスがそう聞くと、ブライは「遅い。何をしてる」と振り向かずに答えた。

 

 先輩みたいにまきびしを飛び越えられる訳ないんですけど。なんて口にすると怒られるだろうか?

 クリスは素直に「……すみません」と返す。さっきまきびしを踏んだ右足の踵が痛い。

 

 

 

「ここ最近、ポケモンセンターの洗濯機とか冷蔵庫……家電とか設備の調子がおかしくて。丁度良くその手の事に詳しいっていう業者さんが来たんですよ。そしたら……あれぇ?」

「その業者は今どこにいる?」

 ほぼ間違いなくその業者がこの事案の犯人だろう。

 

 そう推測するブライだが、肝心の犯人が見当たらない。

 もう逃げたのか? いや、ジュペッタ曰く犯人はまだ施設内だ。

 

 

 

 犯人の目的が設備なら倉庫や治療室か?

 急いで向かう為に立ち上がるブライだが、振り向いた先に見知らぬ第三者が映りその必要はなくなる。

 

 

 

「まさかこんなに早く警察が出て来るとはな」

 巨大なキノコを背負ったポケモンと腕の様な大きな耳を持つポケモンを従わせた男が一人、センターの奥から現れて口を開いた。

 

 

 

「ニダンギ───」

 それを見て直ぐ様ボールを手に取るクリスだが、ブライがそれを静止する。

 もう既に遅いが、相手が動いていないのに此方の手を先に見せるのは愚行だ。

 

 今はアリゲイツとジュペッタがボールから出ている為、ポケモンの数で負けている訳でもない。

 

 

「この有様はお前の仕業か。目的はなんだ?」

「答える義理はねーよ! もう少しで捕まえられるんだ、大人しくそこで眠りやがれ。パラセクト、キノコのほうしだ!!」

 男の指示で、きのこポケモン──パラセクト──は背中のキノコから胞子を放出する。

 

 その胞子に触れれば一瞬で眠りに落ちるうえに範囲も広く命中率も高い強力な技だ。

 

 

「アリゲイツ、みずのちかい!」

 だがブライはアリゲイツにそう指示して、今朝方モジャンボのねむりごなを止めた時のようにキノコのほうしの放出を防ぐ。

 そして水の柱に囲まれたパラセクトにアリゲイツは肉薄。ブライの意図を読んで既に拳を振るう準備をしていた。

 

 

「そいつを止める───れいとうパンチ!」

「させるかよ! テッカニン、れんぞくぎり!!」

「───三匹目か?!」

 れいとうパンチを放とうとしたアリゲイツの脇を高速の攻撃が切り裂く。

 ブライの視界に映る事すらなかったソレは、激しい羽音を立てながら目の前の悪党の背後に着いた。

 

 

 体格こそ小さいが全ポケモンの中でも屈指の素早さを誇る虫タイプのポケモン──テッカニン──の特性はかそく。

 動けば動く素早さを増していくテッカニンの攻撃は、ブライどころかジュペッタでも見切るのは困難だろう。

 

 

「……チッ」

 思わぬ反撃に舌を鳴らしながらも、ブライは冷静にアリゲイツを一旦下がらせた。

 厄介なパラセクトを倒そうにもテッカニンは無視出来ない。さて、どうするか。

 

 

 

「ハッ、国際警察って言ってもその程度かよ。よしホルード、お前はアイツを捕まえてこい。その間に俺は警察様と遊んでやるぜ」

 男は馬鹿にするような態度を取りながらホルードを施設の奥に向かわせる。

 

 捕まえてこい……?

 

 悪党の目的は機材じゃないのか?

 

 

 ブライの頭の中に思い浮かぶのは、先程クリスが推測した二つ目の仮説だ。

 

 

 ───目的はセンター内に居るポケモンか?

 

 

 だがそれだけでは情報が足りない。男の目的のポケモンが分からなければ、守るべき対象も分からない。

 それ以前にこの悪党とも戦わなければならない状態である。どうすればいい?

 

 いや───

 

 

「クリス、ホルードを追い掛けてアイツの目的を阻止しろ」

「え、僕が……? それより先輩、犯人を一人で相手する気ですか?!」

 先程の悶着をクリスは結局見ている事しか出来なかった。

 

 パラセクトのキノコのほうしは厄介で危険な技であり、あのテッカニンも充分に温まって(かそくして)いる。

 まだ隠し球を持っているかもしれない相手と一人で戦うという行動は、クリスにしてみればとても危険な行動だった。

 

 

 

「アイツは俺に任せれば良い。お前は自分のするべき事を目一杯やれ。お前の洞察力は俺が保証する」

「まだ見えてもいない悪党の目的を阻止しろって事ですね……」

「そう言う事だ。……俺との演習を無駄にするなよ」

「演習を……?」

「いいから行け」

 道は作ってやる。そう言わんばかりにアリゲイツとジュペッタ両方に技を支持するブライ。

 クリスはそんな先輩の言葉に答えるように床を蹴った。

 

 

「行かせるなテッカニン、れんぞくぎり!」

「ジュペッタ、かげうち!」

 クリスの正面に向かうテッカニンを、ジュペッタから伸びた影が襲う。

 

 バランスを崩したテッカニンの横を駆けるクリスは、信じられる実力のある先輩を尻目にホルードを追い掛けた。

 

 

 

「生意気な事してくれるじゃねーか……っ!」

「さて、お前の相手は俺だ」

 ブライは期待出来る新人を見送った後、鋭い眼光を犯人に向ける。

 

 

 状況としては二対二。ダブルバトル。

 

 

 両者は何の間もなく、何の断りもなく、何の前触れもなくお互いのポケモンに指示を出した。

 

 

 

 

「先輩なら信じられる。……なら、僕は自分のするべき事をするだけだ」

 

 

 ───任せましたよ先輩。




コラボ回二回目。次でラストです。さてさて、なんと立て籠り事件ですよ!
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