今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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目標と期待は両者をふるいたてる

 そこまで広くない空間を走る。

 

 

 追っ手が来ない事を確認する気はない。あの先輩がそう易々と追っ手を許すとは思えなかった。

 

 

 センター内の角を曲がるホルードを追い掛ける。

 途中で見掛けたのは倒れたポケモンとトレーナーだった。このポケモンセンターを利用していた人だろう。

 

 それに、何故か通路や至る所で扇風機が外に向けて風を送っていた。

 おかげでパラセクトの技はセンターの奥には充満していない。

 

 

「……大丈夫そうだ」

 倒れている人が気を失っているだけだという事を確認して、クリスはまだ奥に向かうホルードに視線を戻す。

 

「目的はなんだ……? これだけ計画的な犯行をして、ホルード一匹に探させるなんて」

 倒れているポケモンは背後からの奇襲で前のめりに倒れ、その後にトレーナーも気絶させられたと現場から推測出来た。

 

 パラセクトのキノコのほうしだけでセンター内を制圧する事は不可能である。

 騒ぎにテッカニンを混ぜて、奇襲でキノコのほうしから漏れた人やポケモンを制圧するという計画的な犯行だ。

 

 

 そこまでする理由は?

 

 

 犯人がホルードに「アイツを捕まえて来い」と言っていたという事は、目的は金品でも重要機材でもなくポケモンだろう。

 しかし犯人の言いようからして目的のポケモンは一匹だ。それなのにここまで完璧にセンター内を制圧する理由はあるのか?

 

 そこまでしないと捕まえられないポケモンという事か……?

 

 

 

「ホゥゥルァ!!」

「っぉわ?!」

 クリスがもう一つ角を曲がると同時に、ホルードは自らの腕よりも太い耳を使ってダイニングスペースにあった電子レンジをクリスに投げ付ける。

 かろうじて───というかほぼ偶々それを避けたクリスは焦ってモンスターボールに手を伸ばして、ニダンギルを放った。

 

 飛んで来た電子レンジに眼を向けて、アレが当たっていたらどうなっていただろう。

 クリスはそんな事を考えながらホルードを睨み付けた。振り向く前に近くにあった扇風機が動いたのは気のせいだろうか?

 

 

「僕でも主人が居ないポケモンくらいなんとか出来る」

 ホルードの目的がどんなポケモンであれ、まずホルードを倒してしまえば全ての問題は解決される。

 相手も交戦してくれる気があるのだ、ここで倒してしまえばいい。クリスはそう算段を付けて、ホルードの動きに集中した。

 

 

 

「ホルゥァ!!」

 ホルードは一度耳を折りたたんでから、勢いよくそれを前に突き出す。

 まるで腕のような耳に握られていた土のような物がニダンギル向けて放たれた。

 

 

「マッドショットか?!」

 じめんタイプの技──マッドショット──がニダンギルを直撃する。

 効果は抜群で、ニダンギルは音を立てながら地面を転がった。

 

 

「……っ、ニダンギル?!」

 じめんタイプを持つホルードははがねタイプを持つニダンギルには有利である。

 そんな事は分かっていた。

 

 水は炎に強いです。炎は草に強いです。草は水に強いです。タイプです。相性です。

 

 

 そんな事は頭に入っている。ポケモンバトルの基本だ。

 

 

 ホルードはじめんタイプの他にノーマルタイプを持っている。

 ノーマルタイプは得意とする相手こそ居ないが、弱体となる相手が少ない事が特徴だ。

 

 

 しかし、その数少ないノーマルタイプの弱点──かくとうタイプ──の技をニダンギルは覚えている。

 

 

 

「……お返しだ、ニダンギル! せいなるつるぎ!!」

 ホルードに向かっていく一対の剣。速度こそ遅いが、挟み撃ちのように回り込み、ホルードは避ける事が出来ずに斬撃を受けた。

 

「……よし!」

 クリスの手持ちはゲンガーとニダンギルのみ。

 ゲンガーはポケモンバトルの戦力としては頼りにならないが、その代わりにずっとクリスと戦っていたニダンギルの実力は確かな物である。

 

 

 絶対的な信頼。───それが、あだとなった。

 

 

 

「ホルァ!」

「───な?!」

 ホルードはダメージを受けてはいたものの、ニダンギルを両耳で綺麗に捕まえていたのである。

 そしてそのまま地面にニダンギルを叩きつけ、ホルードはマッドショットを放った。

 

 効果は抜群。ニダンギルはクリスの横に音を立てて転がる。

 

 

 

「ニダンギル?! ……っ!!」

「ホルゥァ」

 満足気な表情でクリスに背中を見せるホルード。

 まるで勝ったと言わんばかりにその場に崩れ落ちたクリスを無視して、何故か辺りの機械をその大きな耳で壊し始めた。

 

 

「……な、何をしているんだ?」

 ホルードはポケモンを探している筈。

 

 

 それなのにホルードはポケモン転送マシーンや回復マシーンではなく、ダイニングルームにある家電を破壊していく。

 倉庫に入っていた芝刈り機、古い洗濯機、さっき投げてきたのは電子レンジだった。

 

 次にホルードは冷蔵庫に向かって、太い耳を振り被る。

 

 

 アームハンマー。

 一撃で冷蔵庫は粉々になったが、ホルードは首を横に傾けて不満気に辺りを見回し始めた。

 

 

 

「くそ……バカにしてるのか」

 今思えば自分はあの時犯人に自分のポケモンの名前を晒していたか。

 だから犯人は、ホルードが対応出来ると確信して必要以上の追っ手を向かわせなかったのだろう。

 

 

 そして事実、クリスはホルード一匹に何も出来ずに立ち尽くしていた。

 

 自分の未熟さを痛感する。

 演習ではゲンガーを先に向かわせて、トレーナーの居ないポケモンが如何に脆いか教えられた。

 それなのに、自分はトレーナーの居ない脆い筈のポケモンにすら負けている。演習を無駄にしているのと同義だ。

 

 

 

 だが、そんな事を今考えても仕方がない事くらいはクリスも分かっている。

 

 失敗を恥じて動かなくなる事は誰にも出来るんだ。そこでなにもしなければ、本当にただの敗者になってしまう。

 

 

 

 ───考えろ。

 

 

 

 ホルードの───犯人の目的はなんだ?

 

 

 

 そもそも何故ホルードなんだ?

 

 犯人のポケモンはパラセクトにテッカニン、ホルードの三匹だった。

 他に手持ちが居たかもしれないが、あの状況でポケモンを探しに行かせるならスピードの速いテッカニンが適任ではないのだろうか?

 

 

 単にホルードがアリゲイツと相性が悪いからか?

 しかしアリゲイツはパラセクトのキノコのほうしをみずのちかいで止めていたから、隙を突いてパワーのあるホルードで叩いた方が簡単な筈。

 何よりテッカニンでちまちま攻撃しながらホルードがポケモンを探すよりも、ホルードが牽制しながらテッカニンがポケモンを探した方が早い筈。

 

 

 

 逆に探しているポケモンに対してテッカニンが不利、またはホルードが有利という可能性はあるだろうか?

 

 テッカニンが不利とするのは、『ひこう』『いわ』『ほのお』『こおり』『でんき』と幅は広い。

 逆にホルードが有利なのは『どく』『ゴースト』『いわ』『でんき』である。

 

 

 いわタイプ、もしくはでんきタイプだった場合は確かにテッカニンよりもホルードの方が有利だ。

 

 だがそれだけに絞っても約百種類という選択肢がある。その中から犯人の目的を当てろと言われても情報が足りない。

 

 

 

「ホルゥ……?」

 破壊した冷蔵庫の下を覗き込むホルード。なにを探しているのか全く分からない。

 

 そういえば……今日冷蔵庫が勝手に動き出したなんて事件があった。

 なんて関係ない事を思い出して、次の瞬間───クリスは足りなかったピースを見つけたような感覚に襲われる。

 

 

 

 勝手に動き出した冷蔵庫。何故か家電を破壊しながらポケモンを探すホルード。ポケモンセンターの外で不自然な点滅をしていた街灯と電光掲示板。ジョーイが言っていた、家電の調子がおかしいという言葉。

 

 

 

 その全てを繋ぎ合わせれば、犯人が───ホルードが探しているポケモンを一匹に絞る事が出来た。

 

 

 

「───ロトム、なのか?!」

 プラズマポケモン───ロトム。

 その異名の通り、身体がプラズマで構成されているポケモンである。

 

 プラズマで出来た身体は電化製品に入り込む事が可能で、ポケモン学会にて初めて発見されたロトムは家電に入り込んでイタズラをしていた所を捕獲されたというのは有名な話だ。

 個体数が少なく研究はあまり進んでいないが、その特性上悪用しようとすれば電子機器のハッキング等を簡単に行う事が出来る。

 

 

 それ故に悪党には良く狙われるポケモンで、個体数の少なさやその特性上からも犯人がここまで必死になる可能性は十分にあった。

 

 

 

 そしてロトムはでんきタイプ、さらにゴーストタイプを持つが、その殆どの攻撃がホルードには効果がない(・・・・・)

 犯人が態々ホルードを向かわせたのも合点がいき、これだけの長い時間ポケモンを捕まえられない原因としても申し分がない。

 

 

 

「ホルゥァ!!」

 探しているポケモンが見付からず、苛立ちを見せるホルード。

 

 一つだけ気になる事があるとすれば、なぜここまでされてもロトムが逃げないかである。

 身体がプラズマで出来たロトムは電気線さえあればどんな所でも移動出来るため、電気が通ったこのポケモンセンターから逃げる事はたやすい筈だ。

 

 

 

 ───なんにせよ、自分に出来る事を考える。

 

 

 

 目的のポケモンさえ分かれば、いくらか対処の仕方を考える事が出来た。

 問題はニダンギルの体力。次攻撃を受ければひんしは免れないだろう。

 

 しかしやるしかない。幸いにもホルードはニダンギルを倒しているつもりだ。

 

 

 

 ロトムを探すとなれば、次にホルードが向かうのは視界に映る家電のどれかだろう。

 ホルードの近くには洗濯機が置いてあり、ある程度冷蔵庫の残骸を調べ終わればそこに向かう筈だ。

 

 

 せいなるつるぎが直撃してもビクともしなかったあのホルードを倒すには少なくともあと二回は攻撃しなければならない。

 しかし接近戦はまた受け止められる可能性があり、遠距離技のラスターカノンは効果が薄い。

 

 

 つまり、ホルードを倒すには近付かずに(捕まらずに)攻撃を二回当てる必要がある。

 

 

 次に行く場所が分かっていれば、それは可能だ。

 

 

 

「ニダンギル、洗濯機の裏だ。頼む」

 クリスは座り込んだまま、ホルードに気が付かれないようにニダンギルに声を掛ける。

 腰に隠してあるある物(・・・)に手を向けて、ニダンギルが隠れるのを見届けた。

 

 

 

「ホルゥ……」

 ついに粉々になった冷蔵庫から見切りを付けて、想像通りに洗濯機に向かうホルード。

 トレーナーがこの場に居たらこんなに上手くは行かなかっただろう。ある意味、演習の経験は無駄にはなっていない。

 

 

 

「今だニダンギル、せいなるつるぎ!!」

 そしてここぞというタイミングでクリスは腰からふといほね(・・・・・)を取り出して投げる。

 勿論それは攻撃の為に投げた訳ではなく、しかしまるでブーメランのように弧を描いてホルードに向かった。

 

 一方で洗濯機の裏から突如現れたニダンギルはホルードにせいなるつるぎを放つ。

 一閃。確実にダメージは与えている筈だが、しかしホルードは倒れずにニダンギルを捕まえようと耳を伸ばした。

 

 

 ───だが、その耳は空気を切る。

 

 

 ホルードの目の前から突然ニダンギルが姿を消したのだ。

 幻を見せた訳でも、隠れた訳でもない。物理的に姿を消すニダンギル。

 

 

 

 

 ボールに入れてしまえば、ポケットに入ってしまうモンスター。ポケットモンスター、縮めてポケモン。

 

 

 クリスが投げ込んだふといほねの先にはモンスターボールが付けられていて、ニダンギルはそのボールに入る事により一度確かにその場から姿を消したのである。

 

 そして、弧を描いてブーメランのようにホルードの背後の床にぶつかったふといほね───その先端に着いたモンスターボールが開閉され、再びホルードの背後にニダンギルが現れた。

 

 

 

「ホルァ?!」

「遅い、ニダンギル! せいなるつるぎだ!!」

 一閃。

 

 

 三度目のせいなるつるぎがホルードを襲う。流石に三度も効果抜群の技を受けて倒れない訳がない。

 勝利を確信したクリスは立ち上がってホルードが倒れるのを待つ。

 

 

 

「───な?!」

 ───しかし、ホルードは倒れなかった。

 

 手にオボンの実を持ちながら、耳でニダンギルを捕まえるホルード。

 オボンの実はポケモンの体力を一瞬で回復させるきのみである。

 

 二撃目の時点で食べ始めていたのか、ホルードは未だに半分以上余力を持っていそうだった。

 

 

 

「ホォゥルァ!!」

 そしてホルードは掴んだニダンギルをクリス向けて投げつける。

 一対の剣が向かってくる光景は、それが自分のポケモンだろうが恐怖を覚えた。

 

 

「ちょ───」

 しかし、ニダンギルはギリギリクリスに当たらずに横の地面に転がる。

 それでニダンギルは目を回して倒れるが、なんとか命は拾ったようだ。

 

 

「……くっそ───ん?」

 こんな状況だというのに、クリスの視界に不自然な光景が映る。

 

 

 

「……はぁ?!」

 なんと、扇風機が独りでに動き始めて、クリスの目の前に立ったのだ。

 

 

 

 いや、これは───

 

 

 

「───ロトムなのか?!」

「ロト!!」

 機械的な音を発する扇風機。

 

 思えば電子レンジが当たらなかったのは偶然には思えないし、ホルードは電子レンジもニダンギルも確実にクリスを狙って投げていた筈である。

 それがクリスにかすりもしなかったのは本来ありえない事だ。相手は本気で自分を狙っていたのだから。

 

 

 

 つまり、この目の前の扇風機───ロトムが助けてくれていたという事だ。

 

 

 

「……分かったぞ、お前、センターにいる人達を守りたかったんだな? 僕を守ってくれたみたいに」

 ロトムがセンターから逃げなかったのは、中にいる人達を守る為なのではないかとクリスは考える。

 

 あの不自然な街灯の点滅は周りに異常事態を知らせる為、至る所に置いてあった扇風機はセンター内に充満していたパラセクトの技を弱める為。

 

 

 イタズラ好きで有名なロトムだが、イタズラが好きなだけで人間に敵対心がある訳ではない。

 むしろ人間が好きだから遊んで欲しくてイタズラをしているという説もある程だ。

 

 

 だから、このロトムはセンターから逃げられなかったのだろう。

 

 

 

 

「……困ってる人をほっとけない優しい奴なのかな?」

「ロト!」

 まるで返事をしてくれたようだ。

 

 

 ───なら。

 

 

「少しだけ君の力を借りたい。オボンの実を食べたとはいえ、かなり体力は削れた筈だ」

 あと一撃。効果が抜群の攻撃を当てられればホルードを倒す事が出来る筈。

 

 しかし問題はロトムの放つでんきタイプの技やゴーストタイプの技はホルードに効果がない事。

 

 

 しかしロトムには家電に入り込み、その家電の力を取り込む能力がある。

 

 

 扇風機に入り込めばひこうタイプの力を。

 

 電子レンジに入り込めばほのおタイプの力を。

 

 草刈機に入り込めばくさタイプの力を。

 

 冷蔵庫に入り込めばこおりタイプの力を。

 

 洗濯機に入り込めばみずタイプの力を。

 

 

 この中でホルードの弱点を付けるのは三つ。

 

 くさ、こおり、みずタイプである。

 しかし草刈機も冷蔵庫も目の前で破壊され、残る洗濯機もホルードの背後だ。

 

 

 

 ───どうする?

 

 

 

「ホルゥァ!」

 ホルードはロトムを見付けると臨戦態勢になって走ってくる。

 ポケモンを持っていないクリスなんて眼中になく、ロトム向けてマッドショットを放った。

 

 ロトムが狙われていては、洗濯機にロトムを導くのは難しい。

 しかしクリスには戦えるポケモンが居ない。

 

 

 ───どうする?

 

 

 

「ロト!」

 扇風機の羽を回して空気の固りを発生させ、マッドショットを相殺するロトム。

 次に10まんボルトを放つが、ホルードにはまるで効果がなかった。

 

 ロトムは自分の攻撃が通らない事を知らないのか?

 

 

 それだとタイプ相性が有利なフォルムも分からないのだろう。分かっていたら初めからそのフォルムで戦うか逃げていた筈だ。

 

 

 ホルードはクリスの事など気に留めずにロトムに近付いてアームハンマーを繰り出す。

 扇風機は粉々に砕けて、ロトムは中から出て来るしかなかった。

 

 それでもクリスの前から退かないのは、彼を守る為なのだろう。

 そういう性格らしい。よく見ればこれまで追いかけられ続けて身体はボロボロだった。

 

 

「ロトム……」

 そんな姿を見せられて黙ってみている程、クリスも根性無しではない。

 

 幸いにもホルードのトレーナーはここには居なくて、現場には勝機が残されている。

 後はロトムをどう洗濯機に入り込ませるか、だが。───答えは既に出ていた。

 

 

 

「いけ、ヒートロトム(・・・・・・)

 クリスがそう言った瞬間、ホルードの前を電子レンジが通過する。

 ただそれはロトムが入っている訳ではなく、小さなゲンガーが持ち上げているだけの───ただの電子レンジだ。

 

 

 しかしホルードには電子レンジが陰になってゲンガーが見えず、独りでに動く電子レンジにロトムが入っていると思い込む。

 これが近くにトレーナーがいたなら仕掛けにも直ぐに気が付かれていたし、すぐ近くに居るロトムに攻撃する指示を出されていたかもしれない。

 

 しかし件のトレーナーは今、信用出来る先輩と交戦中だ。

 

 

「ロトム、君がここの人達を守る為に逃げなかった事を前提で話すのを許して欲しい。あのホルードを倒すのに僕も協力する、力を貸してくれ」

「……ロト?」

 ロトムは突然話し掛けてきたクリスを眺める。

 まるで品定めをしていたかのようなロトムは、少し間を置いてから勢い良く縦に揺れた。

 

 

「いい返事が聴けて何よりだ」

 ホルードは、未だにゲンガーが持ち運んでいる電子レンジを追い掛けているのを確認。

 そうしてからクリスは携帯電話端末──ポケギア──を手に持って「ちょっとこの中に入ってくれないかな?」とロトムに提案する。

 

 

「意図を読むのが早いね。君を洗濯機のすぐ側に送り届けるから、合図と同時にハイドロポンプを頼むよ」

 素直にポケギアに入り込んだロトムを見ながら、演習じゃないけどもう少し体力と瞬発力は鍛えた方が良いかもしれない。そんな風に苦笑した。

 

 そしてクリスは間髪入れずに床を蹴る。目指すは洗濯機だが、その中央ではホルードが電子レンジを追い回している。

 

 

 ───それを突破するには?

 

 

「ホルゥァ!!」

 突然動き出したのを見て、ホルードはクリスに両耳を向けた。

 威圧感。しかしクリスはこの距離からなら自分でも届くと、ポケギアを洗濯機に向けて投げ付ける。

 

 

 

「いやぁ、近くで見ると顔だけは可愛いんだね。凄く怖いけど」

「ホルゥァ……?」

 不敵な笑みを浮かべるクリスと、突如動きが止まった電子レンジ。そしてその陰から顔を覗かせるゲンガーを見て、ホルードが気が付いた時には遅かった。

 

 

「君の敗因は、トレーナーが居なかった事だよ。───ロトム、ハイドロポンプ!!」

「ホルゥ───」

「───ットォ!!」

 振り向くと同時に、洗濯機から放たれた高圧水流がホルードを襲う。

 

 

 効果は抜群だ。

 

 

 三度のせいなるつるぎを受け、ハイドロポンプまで受けたホルードはいくら途中できのみを使い体力を回復していたとしても体力が底尽きる。

 クリスの真横に倒れこむホルード。それと同時にその現場に辿り着いたのはホルードのトレーナーではなく───クリスの先輩、ブライだった。

 

 彼は辺りの惨状を見て頭を抱えるが、無事な後輩を見るや頭を掻きながらクリスに近付く。

 

 

 

「……倒せたのか」

「演習を無駄にするな、でしたよね。大勝利ですよ、先輩」

「もう少し余裕を持って戦えるようになれ」

「これでも頑張ったんですよ……?」

 倒れ込んだまま片手を上げる期待の新人を見て、ブライはただ不敵に、短く笑った。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「……なんて日だ」

 本部に輸送される立て籠り事件の犯人を見送りながら、ブライは頭を抱える。

 

 

 非番の日の筈が新人の演習を任され、家電屋の騒動に巻き込まれ、ポケモンセンター立て籠り事件に巻き込まれて、彼にとっては散々な日だ。

 

 しかし、隣で疲れ果てて座り込んでいる新人の今後を期待すると、少しは今日の災難も薄れる。

 これが成長したら国際警察の負担も少しは減るのではないだろうか? そんな期待が出来る後輩だった。

 

 

「なぜロトムだと分かったんだ?」

「色んなヒントはあったんですけど、僕はゴーストタイプの事だけは他よりちょっと詳しくてですね。だから運良くピンときたといいますか」

 ニダンギルをクリスにプレゼントしてくれたとある人物を思い出しながら、クリスはブライにそう答える。

 

 ブライは小さく「そうか」と呟いてから、ポケモンセンターの中を覗き込んだ。

 

 

 センターは関係者以外立ち入り禁止になり閉鎖されているが、広場に設置されたテレビは利用者が居ないにも関わらずに番組を流している。

 

 

 

「悪党があそこまでする理由が確かにあるポケモンだ、ロトムは」

 ロトムはその特性上狙われる事が多い。

 

 このまま放置すれば、またロトムを狙った事件が発生する可能性もあり───さらに巷で噂の家電関連のトラブルもあのロトムが原因となれば、何か手を打つのも彼等の仕事だ。

 

 

「あのロトムどうしましょうね……?」

 クリスもそれは分かっていたので、先輩であるブライにそう尋ねる。

 

 

 二人はそんな事を話しながらセンターの中に入って、件のロトムの様子を見た。

 ロトムはテレビの中に入って、とある番組を視聴している。番組は『アローラ探偵ラキ』という探偵物のドラマで、今はエンディングが流れていた。

 

 

「なんだこれ」

「アローラ地方でやってるドラマの輸入版ですね。あっち特有の変なフレーズもあって結構人気なんですよ」

「……お前も見るのか?」

「ファンです」

 警察が探偵のファンになってどうする。そんな事を思いながらクリスを見ていると、テレビの中から満足気な表情のロトムが現れた。

 

 縦横斜めに飛び回って、随分とご満悦のようである。

 

 

 

「このロトム、ラキの大ファンだったんじゃないかしら?」

 二人の前に来てそう言うのは、このポケモンセンターのジョーイだった。

 

「は?」

「あー、なるほど」

 その話を聞いて意味が分からないと眉間に皺を寄せるブライと、納得の表情をするクリス。

 全く理由が分からずに、ブライは二人が話し始めるのを待つ。

 

 

「ラキの先週のお話が、勝手に動き出した冷蔵庫が人を襲ったっていう事件で今さっき放送されていたのがその解決編だったんだけど」

「僕はあれ最初、犯人はロトムを持ったトレーナーだと思ってたんですけどね」

「あ、私もー!」

「待て、意味が分からん」

 突然ロトムの話からドラマの話になり、付いていけなくなったブライは小さく溜息を吐いた。

 

 早く帰りたい。

 

 

「でも今日の放送で犯人はユンゲラー使いのトレーナーだった訳だけど。……この辺りで電化製品が動き出すトラブルがあったのは、先週のラキの放送直後からだったのよね」

「なるほど、ラキに影響されて家電でイタズラしていた訳ですか」

 クリスのそんな推理にロトムはご機嫌にも飛び回る。

 

 

 それを見たブライは不敵に笑い、クリスの肩を叩いた。

 

 

 面倒事は後輩に任せよう。

 

 

 

「……ブライさん?」

「お前、そのロトム捕まえろ」

「ぇ」

 クリスの手に乗せられる、一つのモンスターボール。

 

 

 ブライの言っている意味が分からないクリスではなかった。

 

 再び襲われる可能性もあるロトムの保護。それを買って出ろという事だろう。

 

 

 

「お前はポケモンバトルもまだまだで、正直ポケモンの保護は出来てもホルードを倒せるとは思っていなかった」

「酷くないですか……?」

 この先輩はかなりズバズバ言う人間だ。苦笑いしながら、しかしクリスは彼の言葉の続きを待つ。

 

 

「だがお前はニダンギルにゲンガー、そしてこのロトムと協力して俺の予定以上の結果を出した。……きっと良いパートナーになる」

 ブライはそう言ってから、テレビの方を見て「良く分からん趣味も合いそうだしな」と付け足した。

 

「ロト! ロト!」

 それを聞いたロトムは嬉しそうに飛び回る。まるで歓迎しているようだ。

 

 

「ロトム……。……僕で良いなら、君を保護させて欲しい───いや、これから君と一緒にラキのように事件を解決したい」

 そう言いながら、クリスはモンスターボールをロトムに突き出す。

 それに答えるように、ロトムはモンスターボールにたいあたりして自らその中へと入っていた。

 

 

「……ロトム、ゲットだぜ。……なんて」

 ───これが、彼とロトムの出会いである。

 

 

 こうしてポケモンセンター立て籠り事件は幕を閉じた。

 

 

 

 演習の結果で評価出来る点は少なかったが、推察力や実戦での行動力も大した物である。

 

 新人を車に乗せるブライは、いつか近い未来に彼と共闘する事もあるだろうと期待を持ち。

 先輩の車に乗るクリスは、一人で悪党を倒してしまった優秀な彼にいつか追い付きたいと憧憬した。

 

 

 

 二人が本部に着く前に、車酔いをした運転手が何度も車を止めたのはまた別のお話。




コラボ回ここに完結! コラボしてくださったありあさん、ありがとうございます。ありあさんの方の「虹色の炎」も是非是非。

クリスとロトムの出会いでした。ちょっとした伏線も貼ってたり。
リレー形式で書いてたんですけど、中々大変でしたね。難しかった。でも、楽しかった!またやりたいね。


さて、ここでお知らせです。
コラボしてくださったありあさんとポケモンサンムーンで書け(賭け)バトルをして負けたので、今日から三日間連続更新しまーーーす w w w

あーーーーーのやろぉぉおおお!!!

クリスはブライにはまだ勝てないね。とりあえず、コラボありがとうございました。


それでは、また明日()
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