今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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現実は少年においうちをかける

「あいつ、どこ行った?!」

 走る事十数分。立ち止まっていたククイに追い付いたリアが、声を荒げながら問い掛ける。

 

 

 ククイは瞳を閉じて首を横に振った。どうやら見失ったらしい。

 ウォーグルも既にククイの横で俯いていて、しかしククイはそんなウォーグルを責める事なく頭を撫でた。

 

「お前は悪くないさ。良くやってくれた。……悪いが、付近を飛び回って探してきてくれないか?」

「ウォゥ!」

 ククイの頼みで、ウォーグルは再び翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。

 

 

 そんなウォーグルを見送ってから、リアは小さく「ごめんなさい」と呟いた。

 

 

「……わ、私のせいでアシマリが」

「君は、ポケモンの事をとても大切にしてるんだね」

「あ、当たり前だろ! ポケモンは家族なんだから!」

 そう言うリアの声は真剣そのもので、ククイは彼女を見ながら口角を小さく上げる。

 

 

「な、何がおかしいんだよ!」

「いや、可愛いポケモンどろぼう(・・・・)だと思って。ちなみに、リア……もう貰うポケモンは決めたのか?」

「今そんな事言ってる場合じゃないだろ!」

「そうだな。その件はさきおくり(・・・・・)だ。今はアシマリを探そう」

 しかし、アシマリの手掛かりはない。どうすれば良いのだろうか? リアは頭を抱え込んで悩んだ。

 

 答えは出てこない。

 

 

「ねぇ博士、アシマリってニャビーとモクローとずっと一緒に居たんですよね?」

 シルヴィはそんな事を唐突に聞く。

 

 ククイは首を傾げながらも「あぁ、そうだが?」と短く答えた。

 

 

「だったら、鼻の効くポケモンにニャビーの匂いを嗅がせたら匂いを追えないかな?」

「ん、それは良い考えだな!」

 少女の提案にククイは賛同して付いてきていたニャビーを抱き上げる。

 ニャビーは不機嫌そうだが、抵抗する事はなかった。

 

 

「リア、デルビルはどうだい?」

「行けるか?」

 リアの問いにデルビルは短く、活気よく鳴いて首を縦に振る。

 その横ではデデンネが「任せろ」と言わんばかりに指を立てていた。

 

 

「……ニャ」

 二匹に詰め寄られ、ニャビーは眉間に皺を寄せる。

 しかしそれもすぐに終わって、デルビルは太陽の方角を向いて吠えた。

 一方でデデンネはその真逆をドヤ顔で指差す。

 

 

 走り出したデルビルに迷う事なく付いて行く三人。クチートは笑いながら彼の横を通り抜け、フライゴンは肩を叩いてから固まったままのデデンネを摘み上げて走った。

 

 

「あっちは海だがな……」

 ククイはそう小さく呟くが、視界に彼のウォーグルが映り疑いは晴れる。

 ウォーグルは三人の上空を数回旋回してから、デルビルが走る方へと翼を羽ばたかせた。

 

 

 

「ウォーグルも見つけていたか、近いぞ!」

「おっさん、あれ!」

 リアが海岸の崖を指差しながら声を上げる。

 

 ククイは「おっさん?!」と表情を引攣らせるが、少女の指差す方角を見て表情を真剣な物に切り替えた。

 

 

「あんな所に巣が……」

 切り立った崖の側面に、ククイは鳥ポケモンの巣を見付ける。

 木の枝等で作られたその巣には、遠目でも分かる青い小さなポケモンの姿が見えた。

 

 

「アシマリ、あそこに居るよ?!」

 シルヴィもそれに気が付いて声を上げる。

 

 

 見付けたのは良いが、とても楽観できる状況ではなかった。

 

 

 崖の下は海だが、目測でも高さは五十メートル以上。

 いくらみずタイプのポケモンといえ、下が海だろうがその高さから落ちれば無事では済まないだろう。

 

 

 近くにドデカバシの姿が見えない事だけが救いか。

 

 

 

「ど、ど、ど、どうしよう?!」

「ウォーグルになんとか掴んで連れて来て貰うか……。とりあえず、崖の上に行こう」

 ククイの提案で、三人は崖の上に。

 

 

 そこで待っていたのは、海の方を見ながら腕を組んで立っているクリスだった。

 

 

「クリスさん?」

「……あ、シルヴィ達か」

 残念そうな表情で振り向くクリス。

 その脇ではモクローがクリスと同じポーズで立っている。

 

 

「クリス君、まさか先に来ているとはね」

「風下に限定して鳥ポケモンが巣を作りそうな場所を探したんです。すみません、モクローにも手伝ってもらいました」

 そう言うクリスの横で、モクローはを片翼を上げて「ホルォゥ!」と元気に挨拶をした。

 

 

「風下……?」

「うん。ドデカバシは何の迷いもなくアシマリをさらっていったから、初めから狙いをつけていたんじゃないかと思ってね。つまり、アシマリの臭いが向かう方向、風下」

 そう言ってからクリスはモクローの翼を指差す。

 

 その翼に生えた軽い羽毛は、僅かだが海に向かって吹く風になびいていた。

 

 

「ふぇ〜……」

「よく分かってないな……?」

 だが、シルヴィは理解出来ずに頭を横に傾ける。そんなシルヴィを半目で見てから、リアはクリスに「アシマリは?」と問い掛けた。

 

 

「この下に居る。ただ、ちょっと厄介な状態だ」

「厄介……?」

「アシマリがとても怯えてて、近付けない」

 そう言われてから、リアとシルヴィは気を付けながら崖の下を覗く。

 視界に映るのは、今すぐにでも落ちそうな程震えるアシマリの姿だった。

 

 

「あれ、近付いたらビックリして落ちそうだな……」

「モクローが近付いただけでも足を滑らせそうになってたから、あまり刺激しない方が良い。救助隊を呼んだから、今は様子を見守ろう」

 クリスはそう言うと、リアをじっと見詰める。

 

 

「……な、なんだよ。アシマリは見付けたから私を逮捕ってか」

「よく考えたら君の年齢じゃ逮捕はされないよ。ただ、どうして盗んだのかを聞きたくて」

「そりゃ───」

「三人共! あれ!」

 リアの言葉を大声で遮るシルヴィ。

 

 その視線の先には、アシマリを攫ったドデカバシの姿があった。

 ドデカバシは真っ直ぐにアシマリの元に飛んでいく。

 

 

 

「……っ、戻ってきたのか」

 このままではアシマリの命が危うい。

 そんな事はこの場に居る全員が分かる事で、全員が同じ気持ちを持っていた。

 

 

 ───アシマリを助ける。

 

 

「ウォーグル、頼む! クリス君、モクローへの指示を!」

「分かりました。モクロー、もう少しだけ力を貸してくれ」

 ククイとクリスの指示で、ウォーグルとモクローが空を飛んだ。

 

 それに気が付かないドデカバシではなく、直ぐにスピードを落として臨戦態勢に入る。

 

 

「シルヴィ、フライゴン達とこれ持て」

 そう言ってリアがシルヴィに渡したのは、太いロープだった。

 彼女はそれを自分の腰に巻き付けて、逆側の端をシルヴィに手渡す。

 

「わ、私が行こうか?」

「お前どう見ても運動神経無いだろ。私が行く。……それに、アシマリが捕まったのは私のせいだし」

 そう言うとリアは崖の下の足場を確認しながら、ゆっくりと崖に身体を下ろした。

 そんなリアを、ニャビーが足場を探しながらゆっくりと追い掛ける。

 

 

「……なんだ、付いてきてくれるのか?」

「……ニャゥ」

 そんなニャビーを見て、ククイは少し疑問を感じていた。「あのニャビーが他人に着いて行くなんて」と。

 

 

「ガバァァッシ!」

 自らの縄張りへの侵入者を見つけ、ドデカバシは攻撃の準備に入る。

 クチバシ先にエネルギーを集中し、大きな岩を形成してそれを放つ──ロックブラスト──だ。

 

「まずい、避けろウォーグル!」

「モクロー!」

 左右に分かれる二匹の鳥ポケモン。しかし、連続して放たれるロックブラストは四発目でモクローを捉える。

 

 

「モクロー!」

「……って、まずいな」

 さらに、ロックブラストは崖の側面にも当たり崖を揺らしていた。

 揺れる足場にアシマリは大泣きになり、リアもバランスを崩しそうになって前に進めない。

 

 

「リアちゃん!」

「このくらい大丈夫だから、ちゃんとロープ持ってろよ!」

 しかし、そんな事を言うリアの背後で今度はドデカバシがタネマシンガンを放つ。

 大量のタネがリアを襲う一瞬前、タネマシンガンは彼女の真上で放たれた炎によって掻き消された。

 

 

「ニャビー……お前、かえんほうしゃ使えたのか」

「……ニャ」

 そんな事はどうでも良いから早く行け。まるでそう言っているかのようなニャビーに答えるように、リアは不安定な足場を降りる。

 

 アシマリの居る巣まで五メートル程だが、その五メートルがとても長く感じた。

 

 

「ウォーグル、出来るだけドデカバシの気を引くんだ!」

 今はドデカバシの気をそらして、リアがアシマリを助けるのを待つしかない。

 

 崖の上ではリアのポケモン達も、流れ弾をかえんほうしゃで防いでいる。

 しかしどうしても全てを防ぎきる事が出来なくて、崖が崩れてアシマリが落ちるのも時間の問題だった。

 

 

「ドデカバシの動きを止めなければ。……ウォーグル、ブレイブバードだ!」

 ククイの指示でウォーグルは翼を広げ、旋回しながらドデカバシに突進する。

 

「ガバァァッシ!」

 しかしドデカバシはすかさずロックブラストを放ち、向かってくるウォーグルを弾き飛ばした。

 

 

「ウォーグル!」

「かなりレベルの高い個体なのか……? これ以上は───ロトム、10まんボルト! ニダンギル、ラスターカノン!」

 これ以上はアシマリが危険の為、攻撃させたくない。

 

 クリスは一気に勝負を決める為に、自分のポケモン二匹に指示を出す。

 

 

「ちょ───クリス君待て!」

 ククイはそれを制止しようとするが、既に遅かった。

 二匹のポケモンはドデカバシ向けて高威力の遠距離技を放つ。

 

 技はドデカバシに直撃するが、距離もあり倒し切る事は出来なかった。

 

 

 

「───ガバァァッシ!!」

 そうなればドデカバシが次に狙うのは───勿論崖の上にいるロトム達。

 

 特性──スキルリンク──で最大限の力を発揮するロックブラストが崖の上に向けて放たれる。

 これまでは流れ弾だったが、直接飛んで来るロックブラストを不利なタイプのかえんほうしゃで弾くのには無理があった。

 

 

「しま───」

「……くっ?!」

「うわぁ?!」

 崖の上にロックブラストが直撃する。

 

 三人やポケモン達には当たりはしなかったが、崖は大きく揺れて崩れ、リアを縛っていたロープは半分千切れ掛けていた。

 

 

 

「うわ、やば、死んだかも……」

 それを見たリアは表情を引攣らせる。

 

 しかし、アシマリまでもう少しで手が届くんだ。なんとか上に投げて、アシマリだけでも。

 

 

「おいアシマリ、いきなり連れ出して悪かったよ。ごめん。ほら、手を握って、助けてやるから」

「ニャゥァ」

 アシマリの側にニャビーが立ち、リアの元へと誘導させる。

 

「シャマァァ……」

 震えながらも手を前に出すアシマリ。しかし、物事はそう上手く行く物じゃなかった。

 

 

 

「ガバァァッ!!」

「またロックブラストが来るぞ!!」

 ドデカバシが再びロックブラストを放つ準備をする。

 周りを飛ぶモクローやウォーグルには興味も示さずに、ただ崖の上のロトム達を狙って攻撃を放った。

 

 

「うわ───ロープ!」

 そして崖に直撃したロックブラストは、リアを縛っていたロープを中間で切断する。シルヴィが掴んでいたロープが急に軽くなった。

 リアは岩場に足を置いていてそのまま落下する事はなかったが、このままでは身動きを取る事が出来ない。

 

 そんな状態で、崩れた崖が頭上に降ってくる。

 

 

「うわぁ?!」

「───ニャゥァ!」

 間一髪。それをたいあたりで砕いたのはニャビーだった。

 

 しかし、ニャビーは衝撃に逆らえずに弾き飛ばされ、重力に吸い込まれ崖から落ちて行く。

 

 

 その手を掴んで、足場から身を乗り出したのはぼぼ反射的だった。

 

 

 後悔する暇もなく、リアはニャビーを抱き締めて衝撃に備える。

 大丈夫だ。私が助けてやる。小さくそう呟いて、彼女は勢い良く水面に叩き付けられた。

 

 

「リア……っ!」

「リアちゃん!! あ、アシマリ、ダメだよ!!」

 被害は終わらない。

 

 崩れて行く崖に巻き込まれて、身動きの取れないアシマリが崖から滑り落ちる。

 間に合わない。そう確信したシルヴィは、水面に飛び込む為に息を止めて姿勢を整え───飛び降りた。

 

 

「お、おいシルヴィ?!」

 直ぐに水飛沫が上がる。

 

 

 二人と二匹は?

 

 

 ククイが確認しようとするが、ドデカバシが再び攻撃を仕掛けてそれを許さなかった。

 

 

 

 

「くそ……っ。だが、こちらも遠慮する必要がなくなったんだ。一気に行かせてもらう。……いけ、ウォーグル!」

 ククイの指示でウォーグルが動く。

 

 これまでは崖になるべく流れ弾が飛ばないように飛んでいたが、もうその枷はなくなった。

 この状態なら互角に戦う事も出来るだろう。それに既に倒す必要もない為、シルヴィ達の救助を邪魔されないように追い返すだけで構わない。

 

 

 ───後は、シルヴィ達をどう助けるかだが。

 

 

「クリス君、ここは僕に任せて君は下に降りてシルヴィ達───クリス君?」

「……ぼ、僕が……僕のせいで……二人が…………アシマリ達が…………そんな」

 クリスは自身のした事の責任に押し潰され、動けなくなっていた。

 

 崖に意識を向けさせてはいけない。

 そんな事は考えなくても分かった筈。

 

 何をしているんだと問い掛ける。何が起きてしまったのかと考える。

 

 

 答えは絶望的だった。

 

 

 

「クリス君!」

「───っ、ぁ、はい、ククイ博士……」

「下に落ちた二人と二匹を助けてくれ! ドデカバシの相手は僕がするから! ……早く!!」

 声を上げるククイに気圧されるように、クリスは後退して崖の下側を目指す。

 

 飛び降りれば数秒でたどり着いてしまうが、普通の道を使えば早くても三分は掛かってしまう道だ。

 フライゴンとデデンネ、クチートを連れてクリスは崖の下に急ぐ。

 

 

 

 そもそもあの高さから落ちれば、無事ではいられない筈だ。

 

 

 

 今から助ける事が出来るのか……?

 

 

 

 僕はあの二人と二匹を殺したのか……?

 

 

 そんな想いが頭を巡る。

 

 

 

「僕は───」

 ───何をしたんだ?




ククイ節を書くのが楽しいです。というか、ククイ博士が好きなのよね。
アニメでは一人称『俺』ですが、ゲームの方を優先して『僕』にしてあります。

さて、クリスが大切な時だけ無能になる悲しいキャラになりつつあります。なんとか挽回して頂きたいね。


また明日も更新しますよ。ポケモンバトルって闇が深いね!
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