今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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新しいなかまづくりは夕暮れに

「ポケモンセンターに行く前に、リア! 君にコイツをプレゼント(・・・・・)だ」

 夕暮れ時、ククイはリアにモンスターボールを一つ手に持って向ける。

 

 

「……何? それ」

「ニャビーのモンスターボールだ。島巡りに向かう子供は、ポケモンを一匹貰えるんだぜ。本当は三匹の中から選ぶんだが、君ならニャビーを選ぶと思ってね!」

 ククイの視線の先には、リアを見詰めるニャビーの姿が映っていた。

 

 しかし、ニャビーはククイに見られている事に気がつくと直ぐに目をそらす。

 

 

 

 七年前。

 ニャビーを選んだトレーナーは初めての試練に挑んだ時に、試練を突破出来ずアローラから姿を消した。

 その時にニャビーは連れて行かれる事なく、街に捨てられていてククイの元に戻ってきたのである。

 

 それから幾度となくトレーナーの前に出してはみたが、トレーナーがニャビーを選んでもこのニャビーはトレーナーを受け入れなかった。

 

 仕方なく別のニャビーを渡し続けて七年間が経つ。

 これまで人に見向きもしなかったニャビーがリアの為に動いたのを見て、ククイは彼女とニャビーに何かを感じていた。

 

 

「一匹しか貰えないなら……そうだな、コイツが良い」

 そう言ってリアはニャビーを抱きかかえる。

 ニャビーは嫌がりはしなかったが、苦笑いで他所を向いていた。

 

「お似合いのコンビだな。ニャビーの熱い炎をふるいたてる(・・・・・・)良いパートナーになってやってくれ!」

「おぅ、任せろおっさん」

 おっさん呼びは諦めて、ククイはリアにニャビーのモンスターボールを手渡す。

 素直に喜ぶリアに吊られるように、彼女のポケモン達も喜びを露わにした。

 

 

 皆仲が良いんだな。ニャビーの事も任せられる。

 

 

 そう考えるククイの正面に、まだ少し顔の赤いシルヴィの姿が映った。

 

 

 

「良いなぁ……リアちゃん。ニャビー貰えて……羨ましい……」

「お前も島巡りしたら? おっさんがくれるぞ」

 おっさん。

 

 

「えっと……でも、私、その……クリスさんの観察処分……なんですよね?」

「いや行動を制限するつもりはないよ。僕も結局の所お手上げ状態だから、君が旅をするならそれに合わせて調査を進めれば良いだけだし。……勿論、協力して貰う時は協力してもらうけど」

 クリスがそう言うと、シルヴィは「それじゃあ!」と満面の笑みでククイとクリスを見比べる。

 

 

「島巡り、彼女も挑戦してもらって大丈夫ですよね?」

「勿論だとも。シルヴィもこのアローラを巡って、そしてカプにZリングを手渡された意味を考えて欲しい」

 カプ・プルルに貰った腕輪のような物。その意味も、島巡りをする中で分かるのだろうか?

 

 

「さて、君は誰を選ぶ?」

「私はこの子です!」

 そう言って、シルヴィはアシマリを抱き上げた。

 怯えて震えていたアシマリだが、彼女に抱き締められると笑顔で鳴き声を上げる。

 

 

「なんだか、ほっとけなくて」

「そいつは少し臆病だが、根が強い奴なんだ。どうかせいちょう(・・・・・)を見守って欲しい」

 ククイはそう言って、アシマリのモンスターボールをシルヴィに手渡した。

 

 

「これから宜しくね、アシマリ!」

「アゥッ!」

 アシマリも上機嫌で、彼女のポケモン達もまたアシマリを受け入れている。

 

 

「そしてこれが、島巡りの証だ。これがあるとポケモンセンターやホテルでサービスが貰えるから、大事にな!」

 さらにククイが渡したのは、リアの鞄にも付いている島巡りの証だった。

 

 

 各島々を巡り、キャプテンの試練を超え、しまキングの大試練を受ける事が島巡りの目的である。

 古来よりアローラに伝わる、子供が一人前に育つ為の儀式。島巡りを終えた者はカプに認められ、立派に育つと言われていた。

 

 

 

「ありがとうございます! よーし、頑張るぞー! これでリアちゃんとも旅出来るね!」

「いや、別にお前と一緒に行く気なんてねーよ」

「がーん!!」

 再び泣き喚くシルヴィ。リアはそれでも「私の目的は島巡りなんて物を壊す事だからな」と小さく呟く。

 

 

 

「この旅を通して、君達それぞれの答えを手に入れる事を楽しみにしてるよ。……さて、クリス君」

「……何ですか?」

 突然ククイに話を向けられたクリスは、何の用だろうかと推測し始めた。

 

 自分に用は無い筈だし、早くポケモンセンターに行った方が良い筈。そんな風に合理的に考えようとするのは、彼の悪い癖だろう。

 

 

 

「このモクロー、貰ってやってくれないか?」

 そして、ククイは自らの肩に飛んで来たモクローをクリスに向けながらそう言った。

 クリスはそれを見て目を丸くする。どういう理屈でそんな結論に至ったのか、彼には理解が出来なかったからだ。

 

 

「え、何故……?」

「二匹が居なくなってコイツも寂しいだろう───というのは建前で、モクローが君の事を気に入ってるみたいでな」

 ククイがそう言うと、モクローは敬礼のポーズを取ってクリスに視線を向ける。

 

 

「クォルゥ」

「……どうして僕なんかを?」

 自分はモクローの仲間を死に追い詰めた張本人だ。そんな自分を気にいる要素がどこにある。

 

「クリス君確か、このモクローとアシマリの場所を突き止めたんだろう? 初顔合わせでそこまで息を合わせるのなんて、そう簡単なことじゃない。きっとコイツは、君に何かを感じたんだ」

「で、でも研究用のポケモンですよね……?」

「勿論。研究用のポケモンだからこそだよ」

 その言葉からクリスはある程度仮説を立てる事が出来た。

 

 

 なるほど。

 

 

 

「つまり博士の狙いは、同じタイミングで旅をさせた三匹の成長度を見比べたい。……って所ですね?」

「……ふ、君は本当に凄いな」

 短く笑って、ククイはモンスターボールをクリスに向ける。

 モクローはクリスの推理を聞いて目を輝かせていた。実の所、その狙い(・・)よりモクローの気持ち(・・・)を優先したのだが。

 

 それでも、彼とモクローにも期待せざるをえない。

 

 

「宜しく、モクロー」

「クォルゥ〜」

 クリスとしても、戦力不足を補う面で嬉しい収穫であった。

 なにより彼自身がモクローの、のんびりとした性格を気に入っていたのもある。

 

 

 

「さて三人共、三匹共。アローラの夕陽の中で出会ったお互いを大切にな! この出会いが君達に取って良いものになる事を願ってるよ!」

 ニャビー、アシマリ、モクローはそれぞれのパートナーとなったトレーナーを見詰めて鳴き声を上げた。

 

 これから宜しく、選んでくれてありがとう。

 

 

 きっとこの世界のどこにでもある、そんな風景だ。

 

 

 

 だけども、その場にいる当事者にとってはとても大切で───

 

 

「キミに決めた!」

 ───きっと一生心に残る思い出になるに違いない。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「それじゃ、僕は荷物もあるし今日はホテルに戻るよ。明日迎えにくるから、待っててくれるかな?」

 ポケモンセンターにアシマリとニャビーを預け、クリスとククイはポケモンセンターから帰路に。

 

 

「うん! リアちゃんと待ってるね!」

「いや、私は起きたら直ぐ行くから」

 残る二人はポケモンセンターに泊まるのだが、今日こそリアを逃さまいとシルヴィは張り切っている。

 一方でリアは反抗気味だが、彼女達のポケモンはシルヴィのポケモンと仲良く談笑する程の仲になっていた。

 

 真スカル団のリアとしては、馴れ合いは不本意である。

 

 

 ただ───

「アイツらが楽しそうならそれはそれでありだな」

 ───こんな事も偶には良いかもしれない。そんな事を思うのだった。

 

 

「そーだクリス君、渡したい物があるからシルヴィの所に行く前に僕の家に寄ってくれないか?」

「渡したい物……? それなら、今からでも大丈夫ですけど」

「いや、悪い。こっちが色々と調整したくてね」

 そんな会話をしながらポケモンセンターを離れて行く二人を見送ってから、シルヴィ達は室内に戻る。

 

 

 そこで待っていたのは、検査の終わったアシマリとニャビーだった。

 ジョーイによれば、二匹共異常なし。一度心肺停止に陥ったアシマリも、的確な処置のおかげで後遺症は残っていない。

 

 

「アシマリ!」

 シルヴィはそんなアシマリを抱き締めて、何も異常がなかったのが余程嬉しかったのかくるくる回り出す。

 

 そんな彼女を見てリアはニャビーと一緒に苦笑いを浮かべるが、タイミングが合ったのがおかしくて彼女自身も声を上げて笑い出した。

 

 

「変な奴」

 ニャビーの頭を撫でると、ニャビーはそっぽを向いてしまうが嫌がりはしない。

 

 

 ──そのニャビーは元々七年前に主人に捨てられたポケモンなんだ──

 

 ふと、ククイの言葉を思い出す。

 

 

 

「七年前……」

 お兄ちゃんは確か───

 

 

 

「……ニャビー、お前さ。……私の事知───」

「ねーねーリアちゃん! 今日は皆で一緒に大きいベッドで寝よ! 皆で盛り上がろう!」

「ここ公共の施設だからな? 普通に迷惑だからな?」

 どっちが歳上でどっちがスカル団か分かったものではない。

 

「明日の事とかお話したいのにー!」

「言っとくけど私は起きたら行くからな」

「むー……。なんで一緒に来てくれないの?」

 頬を膨らませるシルヴィだが、それでリアの気持ちが変わる訳ではない。

 

 

「私は島巡りなんて認めない。……私からお兄ちゃんを奪った島巡りなんて、認めない。……ただ───」

 そもそも彼女の島巡りの目的はそれを否定する為だ。

 クチナシやククイの企みは分からないが、何があってもそれは変わらない。

 

 だから、普通に島巡りをするというシルヴィとは相容れない。

 

 

 ただ───

 

 

「───今日くらいはその……シルヴィと、一緒に寝ても良い……よ? って、うわぁ?!」

 リアがそう答えた瞬間、シルヴィの目が光って彼女を襲う。

 簡単に持ち上げられたリアはポケモンセンターの寝室まで連れて行かれ、ベッドに投げ飛ばされた。

 

 

「お、お、お、お、お前、さ?! 本当に人間か?! このヤレウータン! ナゲツケザル!」

「ウキー!」

「人語を忘れている!!」

 そして、リアの転がるベッドにダイブ。そして服を無理矢理剥ぎ、パジャマに着替えてさせ始める。

 

「やめろぉぉ!! 自分でやるからやめろぉぉ!!」

「ぐへへ、リアちゃん、良い体してますねぇ〜!!」

「嫌ぁぁ!! 変態!!」

 頬を叩く軽快な音が部屋に鳴り響いたのは言うまでもない。

 

 

 シルヴィのポケモン達は、アシマリ以外それをやれやれといった感じで見ていた。アシマリは恐怖で固まっているが。

 リアのポケモン達はニャビーも含めてそれを微笑ましそうに眺める。リアが「な、なんだよ」と表情を歪ませても、ポケモン達はただ笑顔を見せていた。

 

 

 

「うぬぬぬ……むにゃぁ……。……クチート、デデンネ……フライゴン、アシマリ……皆、私が……守る…………から……。リアちゃんも、他の皆も……」

「寝言まで変な奴……」

 気絶させたのは少し悪かったが、シルヴィも疲れていたのだろうと結論付けてリアも彼女の横に寝転ぶ。

 

 朝起きたら直ぐに出て行ってやるから、今だけだ。そうやって言い聞かせて。

 

 

 

「……だから、ごめんなさい」

 誰に謝っているのか。

 

 

 

「……もう、誰も、死なせない。私が、守るから……。……お願い」

「……シルヴィは誰も死なせてないって、あのおまわりが言ってたろ。……安心しろよ」

 寝ている……筈。

 

 だけど、あまりにも不安そうな表情で寝ているので、リアは無意識のうちにそんな事を呟く。

 

 

「……今日くらい、甘えてもいいかな」

 明日からは、島巡りを壊す為に動くんだ。

 

 

「アシマリ、ニャビー、デデンネ、ゾロア、来いよ。皆も、近くで寝よ」

 リアのその言葉に、その部屋にいたポケモン全員がベッドに近寄る。

 

 

「シャマァ」

「デネデネェ!」

「ウワゥッ」

「……ニャ」

 ……こうやって安心出来る皆で寝るのも、偶には悪くない。

 

 

 

「……お、おねーちゃん」

「……ふにゃー」

「……バカめ、寝てやがるぜ。しめしめ」

 そう言って、リアは少しシルヴィに近寄った。吐息が聞こえてくる距離で、人の温もりが伝わる距離で、もう一度少女は口を開く。

 

 

 寂しかった。

 

 

 島巡りなんて事に兄を奪われて。

 

 

 明日からはその復讐だから。

 

 

 だから、今日だけはあの時みたいに暖かい場所で。

 

 

 

「……おやすみ、おねーちゃん」

 いつか、兄と寝ていた時のようにそう呟いたリアはゆっくりと瞼を閉じる。

 

 

 

 その日の夢は、悪くなかったという事だけは覚えていた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「僕は寝る。起きるまで起こさないでくれ。それじゃ───」

 音を立ててクリスはベッドに倒れる。

 

 

 無理もないが、流石に姿勢も服装も悪く彼のポケモン達はあたふたあたふたと駆け回っていた。

 

 

 

「ゲン、ゲンゲー!」

「ロト!? ロトト、ロト」

「……ギギギ」

 どうやら、どうやって寝たままのクリスの服を着替えさせるか考えているようである。

 

 

 ゲンガーはニダンギルを指差してから、クリスの服に手刀を浴びせて作戦を伝えた。

 ロトムがそれに猛反対して、ニダンギルはそれを静かに見届けている。

 

 

「クルォゥ! ホルルォッ、ホルルォッ!」

 そしてヒートアップする言い争いに口を挟んだのは、新入りのモクローだった。

 

 モクローは翼を羽ばたかせ、クリスの片足を持ち上げる。

 こうしている間にゲンガーが服を脱がせて───と、順番に着替えさせる作戦だ。

 

 

「クォルゥ〜!」

「……ギギッ」

 それに賛同した三匹が行動に移る。

 

 モクローとニダンギルがクリスの身体を持ち上げ、ゲンガーが服を脱がして着せた。

 それの繰り返しだが、クリスは一向に起きる気配がない。相当疲れが溜まっていたのだろう。

 

 

 ロトムは着替えの入った洗濯機を回して、扇風機で乾燥させた。

 

 

 クリスの着替えにはかなりの時間がかかったが、日が昇る頃にはなんとか着替えに成功する。

 その頃には四匹とも体力を使い果たしていて、クリスの様にその場に倒れこんでいた。

 

 

 

 

「……なんで皆そんな疲れ果てたように寝てるんだ? ……あぁ、成る程ね」

 一度目覚めたクリスは辺りを見て状況を整理する。どうやらかなり頑張ってくれたらしい。

 

 

「……もう少し、寝ようか皆。……おやすみ」

 起きたら、また頑張ろか。

 

 

 

 

 

 

 新しい仲間達と一緒に。




あれ?もしかして、滅茶苦茶ほのぼのしてるんじゃない?()
この作品はほのぼの小説です!!

さて、少し短かったですが三節はこれにて完結となります。次のお話からはなんと皆大好きなアレも登場しますよ!お見逃しなく。


さてさて、久し振りにイラストを書いてきたので紹介させて頂きます。

【挿絵表示】

モクローパーカーシルヴィです。なんか凄く大人っぽくなるね。てかモクロー感があまりない気がする……。しょぼん。


次回もお会い出来ると嬉しいです。
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