今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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【一章四節】旅立ちの日──少女達はゼンリョクのバトルをする
おしゃべりロトム図鑑


「これは……ポケモン図鑑、ですか?」

 メレメレ島──ククイ研究所にて、ククイに手渡された物を見ながらクリスはそう呟いた。

 

 

 ポケモン図鑑。

 出会ったポケモンのデータを記録する電子手帳のような機械である。

 本来は持ち運びやすいように、四角くコンパクトな設計がされている物が多いが───

 

 

「あぁ、そうだぜ!」

「……これが?」

 ───今クリスが持っているそれは、かなり歪な形をしていた。

 

 なんというか、安物の小型ブラウン管のような。

 歪な星形。そして画面の上部に丸いくぼみが二つ。まるで目のように付いている。

 

 

 

 なんだこれは。

 

 

 

「……これもアローラの文化」

「いや、これを開発したのはカロスの人だよ」

 嘘だろ。

 

 

「クリス君、ロトムを持っていたよね?」

「え、あ、はい」

 ククイにそう言われて、クリスはボールからロトムを繰り出した。

 彼は普段、ゲンガー以外はボールの中なのでモクローもニダンギルも今はボールの中である。

 

 

「ロトっ」

 ボールから出たロトムは、クリスが手渡された図鑑をマジマジと見始めた。

 

 

「……気になるのか?」

「まぁ、見てなって」

 眉間に皺を寄せるクリスを、ククイが宥める。

 これから起こるであろう事を想像すると、自然と笑みが溢れた。

 

 

「ロトトッ」

 数秒図鑑を凝視してから、突然クリスが持っている図鑑に入り込むロトム。

 それだけならクリスも驚く事はなかっただろう。ロトムは身体がプラズマで出来ていて、家電等に潜り込む性質があるからだ。

 

 

 きっと直ぐにこの図鑑のモニターに出て来て───

 

 

 

「うわぁ?!」

 ───しかし、突然クリスの持っていたポケモン図鑑が宙に浮き出す。

 

 しかも先程まではなかった腕のようなパーツ(・・・・・・・・)が一瞬で装着されており、二つの丸いくぼみはまるで目のように青い円が映し出されていた。

 

 

「ピピビ、言語選択……終了」

「な、なんだ?!」

 そして当然、そのポケモン図鑑は人間の言葉を音声で話す。

 驚いたクリスは開いた口が開かなかった。

 

 

「ユーザー認証、相棒、クリス。ユーザー認証完了。……ロトム図鑑、起動プログラム中。……ロトム図鑑、起動」

「しゃ、しゃ、しゃ、しゃ……喋ったぁ?!」

 中にはロトムが入っているが、だからといってポケモン図鑑が喋るなんて。

 

 

 なんだこれは……。

 

 

「アローラ、ユーザークリス。いや、相棒。よロトしく」

「お前……まさか」

「その通り、ロトムだよ。これはロトム図鑑。ロトムが入り込む事で完成する全く新しいポケモン図鑑なんだ」

 クリスの前でロトム図鑑は浮遊しながらクルクルと回る。

 

 どうやらロトム図鑑の中は快適らしい。

 

 

 

「へい相棒、ボクの事を忘れたとは言わせないロト。これまで一緒に難事件を解決してきたロト!」

「い、いや……まさか、はは、こりゃ凄い」

「ゲゲー? ゲー?」

 クリスは驚いて座り込み、ゲンガーは気になるのかロトム図鑑に手を伸ばしていた。

 

 

「ポケモン図鑑としてだけではなく、良きパートナーとして所有者をサポートする。そんな思いの込められたポケモン図鑑なんだ」

「凄い発明ですね。……成る程、プラズマ体だからこそ機械に順応して人間の言語まで話す事が出来ると」

 幾分か落ち着いてロトムを観察するクリス。

 

 素晴らしい発明だと賞賛したいが、ロトムというポケモンは極端にではないが数が少ない。

 この研究を生かす事はかなり難しいだろうと、クリスはそこまで考える。

 

 

 なるほど、と。クリスはククイの狙いをある程度察した。

 

 

 

「……渡したい物っていうのは、やっぱりこのロトム図鑑なんですか?」

「その通りだ。ロトムは貴重なポケモンだからね、是非君に使って欲しい」

 ポケモン図鑑は出会ったポケモンのデータを集める他にも、そのポケモンのステータスを見る事も出来る機会である。

 これから得体の知れないR団の目的と立ち向かう中で、これほど頼りになるパートナーはありがたい。

 

 

「……しかし、僕の任務上ロトム図鑑本体の破損等を保証できないかもしれないです。……勿論、修理費は出させて貰いますけど」

「いやいや、そんなのは良いんだよ。好きに使ってくれれば、僕はそのデータで研究が出来る。修理費も僕が負担するよ。なんなら、ロトム図鑑にポケモンの技で攻撃して威力を調べるのも面白い」

 ククイがそう言うとロトム図鑑は「やめるロトぉぉ!」と大袈裟に騒いだ。

 

 

「君、結構テンション高い奴だったんだね」

「相棒が根暗過ぎるだけロト」

「……ふふっ」

 まさかこのロトムと話す事が出来るとは。人生分からないものである。

 

 

「ちなみに、ロトム図鑑に入っている間は技が出せないから注意だ。勿論ロトム図鑑にずっと入っていてくれなんて言わないから、本当に好きに使ってくれ」

「……ありがとうございます、ククイ博士。出来るだけ大切に使わせて頂きます」

 クリスはそう言ってククイに頭を下げた。

 ロトムとゲンガーもそれに吊られて頭を下げる。

 

 

 息の合ったそのパーティに、ククイは人知れず微笑んだ。

 

 

 

「それじゃ、早速だがゲンガーの事を図鑑で見てみたいな。こいつ小さ過ぎて何か変なんじゃないかって気になるんだよ」

「お任せロトぉ!」

 そう言ってロトム図鑑は背中──図鑑の背面──をゲンガーに向ける。

 そこにはカメラが設置されていて、ロトム図鑑はカメラを取ってデータを残す事も可能だ。

 

 

「……ゲ?! ゲー!」

 しかし、ゲンガーはロトム図鑑にカメラを向けられると影の中に逃げてしまう。

 

 

「……ゲンガー?」

 そんな不思議な光景に頭を横に傾けるも、クリスの隣ではロトム図鑑がゲンガーを解析していた。

 

 

「解析完了ロト! 図鑑を映すロト」

 そう言ってロトム図鑑は画面をクリスに向ける。

 

 

 

 しかし、表示されたのは───

 

 

「error……?」

 ───エラー。

 

 該当データ無し。ゲンガーは登録されていない事になっていた。

 

 

 

「……ポンコツ」

「ち、違うロトぉぉ!」

「お、おかしいな……。他のポケモンだとどうだ?」

 ククイの言う通りに、クリスはボールからモクローを蹴り出す。

 

 

 敬礼しながら現れたモクローに近付くロトム。モクローはそんなロトムを見て首を横に傾けた。

 

 

 

「クルォ〜?」

「解析完了ロト。モクロー。くさばねポケモン。くさ、ひこうタイプ。狭くて暗い場所が落ち着く。トレーナーの懐やバッグを巣の代わりにする事もある」

「あれ? 正常だな」

「ボクは至って高性能で正常ロト。ゲンガーの奴がおかしいロト」

 当のゲンガーはモクローと研究所内で遊び出している。

 

 

「ゲゲー?」

 昔から思っていたがあのゲンガー、やっぱり何か変なのかもしれない。クリスはその事を気にするつもりはないのだが。

 

 

 

「これは早くシルヴィに見せてあげないとね」

「エッヘン。シルヴィにもボクの新しい力を見せてやるロト。さぁ相棒、彼女の元へと急ぐロト!」

 これは予想外の収穫だ。

 

 

「ククイ博士、ありがとうございます」

「いやいや。まぁ、少しデータがおかしいかもしれないが、こっちでもアップデートを掛けていくし。何かあったら連絡をくれよ。これ、ボクのポケギアの番号だ」

 ロトム図鑑を手に入れたクリスはククイと連絡先を交換してから、当初の予定通りシルヴィの居るポケモンセンターに向かう。

 ロトム図鑑はその特性上モンスターボールに戻す事が出来ないので、ゲンガー同様モンスターボールの外だ。

 

 なんとも賑やかな。

 

 

 これからは彼女の島巡りに付き合いながらアローラ地方での調査を進める事になるだろう。

 しかし今の所殆ど手掛かりがない。

 

 

 

 分かっているのはR団と思われる二人の男の顔と、その手持ちポケモン数体。

 それとウルトラホールを開く事が出来る技術、ウルトラビーストを捕獲したという事だけだ。

 

 それだけでは全く情報が足りない。受け身になるというのはクリスとしては不本意だが、こればかりは仕方がないだろう。

 

 

 それに、完全に受け身という訳ではない。

 

 

「まずはシルヴィに色々聞くか……」

 彼女──シルヴィ──は自らをR団のボスの娘だと言っていた。

 

 そこから得られる情報は計り知れないだろう。

 これでR団に一歩近付けるかもしれない。

 

 

 

 ───大切な友達の仇に。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「アローラ、ボクはロトム図鑑。超高性能ポケモン図鑑ロト!」

「しゃ、しゃ、しゃ、しゃ……喋ったぁ?!」

 シルヴィの反応に、クリスは「同じ反応してる」と苦笑を浮かべる。

 

 

 ポケモンセンターに着くと、既に起きていたシルヴィがクリスを迎えてくれた。

 彼女が逃げる───なんて事は思っていなかったが、気負い過ぎていないかは心配だったのでロトム図鑑の挨拶は都合が良かったかもしれない。

 

 

 

「凄い凄いこれ! どうなってるのぉ?!」

「ロトムの身体に合うように設計されたポケモン図鑑で、図鑑としてロトムの力を最大限引き出してるんだって」

 クリスは「その代わり技を出して戦う事は出来ないけれど」と付け足した。

 

 

「それじゃ、このロトムはポケモン図鑑なの?」

「そういう事になるね」

「ロトムで、ポケモン図鑑で、ロトムで、ポケモン図鑑で……うぇ〜……?」

 頭をクルクル回すシルヴィはしまいには倒れてしまいそうになり、そんな彼女をクリスが支える。

 

 

「ロトム図鑑ロト」

「凄いなぁ……。むぅ、リアちゃんめ、待っててくれたらロトム図鑑見れたのに!」

「……彼女は?」

 昨日、シルヴィと同じくポケモンセンターに泊まっていた筈のリアの姿が見当たらない。

 クリスはてっきり、二人は一緒に旅をする物だと思っていたので少し意外だった。

 

 

「夜にリアちゃんを襲おうとした所までは覚えてるんだけど、気が付いたら朝になってて、リアちゃんもいなかったかな」

「何をしてるんだ君は」

 あまり深く関わらない方がいいかもしれない。

 

 

「それにしても凄いよねぇ、ロトム図鑑。他にどんな機能があるの?」

「写真を撮ったり、ネットに繋がるタブレットとしても使えるロト。取った写真をSNSに載せれば、いろんな人から感想が貰えるロト!」

 その他にも動画を録画する機能等、ロトム自身がシルヴィに機能を説明していく。

 

 

 それを聞くたびにシルヴィは眼を輝かせて、ロトムを賞賛していた。

 ロトムも機嫌が良いようで、自分の機能を余す事なくシルヴィに見せ付ける。

 

 そんな中で彼女のポケモン達とも仲良くなってきて、なかなか賑やかな旅になりそうだとクリスは再確認した。

 

 

 

「クリスさんクリスさん!」

「……さん付けはちょっと慣れないな。……何?」

「あ、さん付けダメ?」

 首を横に傾けるシルヴィに、クリスは「ダメじゃないけど」と口籠る。

 これから一緒に旅をしようというのだ、ずっとさん付けで呼ばれるのは少し寂しい。

 

 

「それじゃクリス君で!」

「……及第点かな。よし、それでいこう。……えーと、なんだっけ?」

 全然呼び捨てでも構わなかったのだが、さん付けよりは幾分かマシだ。そう思いながら、クリスは話の続きを聞く事にする。

 

 

「皆で写真撮らない? これから旅に出るぞーって写真! それで、皆に見てもらおうよ!」

「あんまり顔を晒すのはちょっとなぁ……」

 一応これでも彼は国際警察で、これからアローラを調査する予定なのだ。あまり顔が知れるのは問題ではないだろうか?

 

 

「……いや、まぁ、問題ないか」

 しかし、既にR団の男に顔を見られている事を思い出したクリスはその件について吹っ切れる。

 そもそもショッピングモールの時点で自分の存在がバレていたという事は、今更対策しても後の祭りという奴だ。

 

 

「やったぁ! ほらほら皆、並んで並んで!」

 そう言うシルヴィの声に集まるように、彼女のポケモン達だけでなくゲンガーやモクローもシルヴィに寄っていく。

 

 ポケモンセンターで保護されていたフライゴンを引き取っただとか、あのおくびょうなアシマリが彼女には懐いているのだとか、不思議な少女だ。

 そんな事を思いながら、クリスはボールからニダンギルを出して「一緒に写真を撮ろうか」とクリスらしくない事を言う。

 

 ニダンギルはそんなクリスの言葉に驚いたように左右に揺れるが、ゲンガーやモクローに呼ばれてシルヴィの元に向かっていった。

 

 

 

「……仲良くなるのが早いなぁ」

 クチートに噛まれて叫んでいるデデンネ、それを見守るフライゴンと怯えて震えているアシマリ。

 小さなゲンガーに敬礼してポーズをとっているモクローと、それを見守るニダンギル。

 

 真ん中にシルヴィが立って、クリスもその横に立つ。

 

 

「それじゃ撮るロ───って、これじゃボクだけ映らないロト!」

「タイマー機能とかあるだろう?」

「流石相棒ロト!」

「おっとコイツ本当はポンコツだな……?」

 ロトム図鑑から出てきたロトムは、クリスの横で短く笑って全員にポーズを促した。

 

 

 数秒後、シャッターが鳴る。

 

 

「どうロトどうロト、完璧に撮れてるロト!」

 直ぐに図鑑に戻ったロトムは、撮った写真を画面に表示してシルヴィ達に見せ付けた。

 

「タイマー機能だから撮ったの君じゃないけどね」

「ゲゲッ」

「ビビッ、そ、そんな事はないロト。ロトム図鑑はロトムで、ロトムはロトム図鑑なんだロトぉぉ!」

 なんとも騒しくなったものである。

 

 

「見せて見せて!」

「デネデネェ!」

「可愛く撮れてるロト、プリクラ機能もあるロト!」

 そんなロトムと笑顔で触れ合うシルヴィ達。

 

 モクローやゲンガーも混ざって、それはまるで大きな家族のようだった。

 国際警察として働いてきたからか、ロトムやゲンガーの笑顔を見るのはクリスも久し振りである。

 

 

 

「……賑やかな旅になりそうだ」

 そんな事を呟くクリスは、無意識の内に笑みをこぼしていた。




実は僕とてつもなくロトムが好きなんですよ。え?知ってた?
サンムーンでロトム図鑑なんて物が出て来た時はそれはもう興奮でした。アニメのロトム図鑑も好きですし、勿論この作品でも活躍させまいと思います!
あ、でもウォッシュロトムのドロポンだけは許さない。

さて、四節開幕です。何が起きていくのかお楽しみに。


次回もお会い出来ると幸いです。
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