今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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少女は過去をはきだす

「それじゃ、そろそろ出発しよう! って、えーと、どこに行けば良いんだっけ?」

 ロトム達としばらく談笑した後、シルヴィは遂に旅を始める決意を固めたのだが───

 

 

 島巡りってどうすればいいの?

 

 

 ───そんな疑問で、彼女は足を止める。

 

 

 

 さて、どう切り出した物か。

 そう考えていたクリスとしてはしかし、丁度良かった。

 

 

「シルヴィ、その前に良いかな?」

「えーと、何? クリス君」

「流石にボールに戻せるポケモンは戻した方が良いよ」

 そう言って、クリスはモクローとニダンギルをモンスターボールに戻す。

 ロトムは図鑑に入っている間ボールには戻せないし、ゲンガーはシルヴィのフライゴン同様捕まえた訳ではない。

 

「あ、そっか……。ごめんねアシマリ」

 シルヴィはそう言ってアシマリをボールに戻すが、フライゴンはだけでなくデデンネやクチートもボールに戻す事はなかった。

 

 

「……その二匹は?」

「え、えーと、それはぁ……」

「やっぱりこのボールはその二匹の物か」

 そう言いながら、クリスは鞄から二つのモンスターボールを取り出した。

 

 それを見て唖然とするシルヴィ。思い出すのはトキワの森で自らの父親と対峙していた時の事。

 

 

 

「そのボールは……」

「トキワの森でサカキともう一人が戦っていたと思われる場所に落ちていたんだ。君もあの場所に居たって事だよね?」

 クリスはそのボールをシルヴィに向ける。デデンネとクチートがそんな彼を睨み付けるが、二匹は向けられたボールに戻されてしまった。

 

 

「……うん。居たよ」

 シルヴィは静かに返事をする。

 

 やっぱりか。

 口には出さなかったが、クリスは手応えを感じていた。

 

 

 

 どのみち今から一緒に旅をする訳だが、聞ける事は直ぐにでも聞いておきたい。

 旅を始める前に、サカキの娘──シルヴィ──から聞きだせる事を全て聞き出す。

 

 

 

「ごめん、少しだけ調査に協力して欲しいんだ。昨日も言ったけど、君をどうこうするつもりはないよ」

「う、うん……」

 流石に気を落としてしまったのか、シルヴィの返事は重かった。

 

 

「……あの場所で戦っていたのは君なのか? もう一人居たんじゃないかな?」

 サカキと何者かのバトルの痕跡は調べた結果オーダイルとリングマ、なんらかのひこうタイプのポケモン。

 しかしシルヴィはそんなポケモンを連れている様子はない。

 

 そしてシルヴィのモンスターボールがそこに落ちていたという事実を合わせると、その場にいたシルヴィとサカキ───そしてもう一人の戦いをシルヴィが見ている可能性があるという結論に行き着く。

 

 

「……うん、居たよ。私のお兄ちゃんが」

「お兄さん……?」

 サカキの娘の兄という事は───サカキの息子。

 

 

「……ハンサムさんが言っていたのは彼の事だったのか」

 この件に関してはハンサムが心当たりがあると言って担当していたが、クリスにはその理由がようやく分かった。

 国際警察の中でも秘密事項とされているサカキの息子の存在(・・・・・・・・・)

 

 その事に関してはやはりハンサムに任せた方が良いだろう。一応、シルヴィの証言はハンサムに報告するとして。

 

 

 

「あの日、何があったのかは分かるかな?」

「……ごめんなさい。私はただ、お父さんに呼ばれただけなの」

 お父さん。

 そう言うシルヴィの言葉に、クリスは少し目を細めた。

 

 いくら彼女が善人だろうがR団ボスの娘である事には変わりはない。

 その事実を突きつけられ、手を強く握る。

 

 

「……呼ばれただけ?」

「……うん。私ね、あの日まではR団の拠点で暮らしてたの」

「な……」

 予想だにしていなかった回答に、クリスは目を見開いて固まった。

 彼女の事だからR団とは関係なく一人で平和に暮らしていたと勝手に思っていたのである。

 

 

 つまり、シルヴィはR団の幹部だったという事か……?

 

 

 この優しい女の子が……?

 

 

 

「……R団が悪い事してるってのは、知ってたよ。目の前で何匹もポケモンが酷い目に遭うのも見てきた。……でも私には何も出来なかった。ただの箱入り娘で、周りのR団の人達は私に優しくて、でも私には何も言わせてくれなかった」

「R団ボスの娘として、育てられた訳だ」

 よくこんな性格に育ったな……いや、だからこそ優しくなれたのかもしれない。

 寂しそうな表情で語るシルヴィを見て、クリスはそんな事を思った。

 

 

「クチートもデデンネも、私が欲しいって言ったら数日後には貰えたんだ。私の所に来た時は凄く怯えてて、でも理由は分からなかった。……今考えたらきっと、無理矢理連れて来られたんだよね」

 シルヴィは二つのボールを見ながらそう言う。

 

 これ以上は酷か。

 しかし、シルヴィは自ら口を開いた。クリスが止めようとするのも構わずに。

 

 

「その拠点があったのはクチバシティで。私は船でマサラタウンに連れて行かれた後、トキワの森に一人で行かされた。森の前まではR団の人が連れて行ってくれたんだけど」

「な……クチバシティ?!」

 少し冷静に考えれば、そんな拠点は直ぐに消えているだろう。

 しかし、そこに拠点があったという事実だけでも情報としては大きい物だった。

 

 

「トキワの森で待っていたお父さんは───サカキは、トキワシティをR団に襲わせて壊滅させるって言ったの」

「R団に襲わせて……?」

 あの日、大規模な災害はあれど町をR団が襲ったという事実は確認されていない。

 

 

 いや、あの停電は───

 

 それか、サカキの息子か───

 

 

 思考が交差する。その間にも、シルヴィは少しずつ口を開いていた。

 

 

 

「私はそんな事辞めてって言ったんだけど、やっぱり辞めてくれなくて……」

「……そしてバトルになって、ボールはその時に?」

「う、うん。それで、傷付いた二匹を戻そうとしたんだけど取られちゃって……」

「その時に助けに来てくれたのが、お兄さんと」

 クリスの言葉に、シルヴィは目を丸くして首を縦に振る。

 

 まるで心の中を読まれてるみたいだ、と。

 

 

 

「……ありがとう、もう良いよ」

「え、良いの? この後私、ジムの回復マシンを使って……その後停電が」

 停電の事を思い出すと、シルヴィは無意識に胸元を掴んだ。

 それでも、自分がした事は話さなければいけない。

 

 あの事件に関わった者として。

 

 そんな意地のような物が、シルヴィの胸を締め付ける。

 

 

「サカキの動向が少しでも分かっただけで充分だ。それに、昨日も言った通りあの停電は君のせいじゃない」

「そういえば……。えと、それはどうして?」

 昨日は聞けなかったが、シルヴィは確かに疑問に思っていた。

 

 あの停電は、電気を無理にジムに集めたから起きた事。シルヴィはそう思っていたからである。

 

 

「停電の理由は送電線や非常電源が地震の影響で被害を受けたからなんだよ。崩れた建物の影響でね。勿論、偶然にしては出来過ぎているから狙ってやったとは考えてるけど。……どちらにせよ君がジムで行った事は関係ない」

「そ、そっか……」

「むしろ、治療が間に合って良かったよ」

 彼女が話してくれた事はかなり有益な情報だ。クリスは手応えを感じて、しかし俯いてしまうシルヴィに感謝しながらその頭を撫でる。

 

 

「……話してくれてありがとう」

 R団はトキワシティを襲おうとしていた。

 しかしその痕跡は見つかっていない。

 

 

 その理由としてあげられるのは二つ。

 

 

 一つは、サカキの息子がR団の動きを止めたか。

 もう一つは、襲うというのは虚言か誇大だったという事。

 目的が停電による被害拡大だったのなら、送電線や非常電源を攻撃するだけでも襲うとは言える。

 

 

 そしてクチバシティに一時期でも拠点を構えていたという事実は大きかった。

 いや、シルヴィを子供の頃からそこで育てていたなら、何年も前から拠点があった事になる。それだけでも大きな情報だ。

 

 

 

「わ、私役に立てたかな……?」

「勿論。……あと、最後にひとつだけ聞いていいかな?」

「あ、えと……うん」

「……君はお父さんをどう思う?」

 少しだけゆっくりと、クリスはシルヴィにそう尋ねる。

 

 確かにシルヴィはR団の娘だが、彼等の思想とはかけ離れた優しい少女だ。

 しかし、確かに彼女はサカキの娘である。その事実だけは変わらず、その影響は計り知れない。

 

 

「……悪い人だとは、思う」

 ただ、シルヴィは小さくそう言った。

 

 曖昧な表現に彼女はこう続ける。

 

 

 

「でも、トキワの森でお話するまでは私にとても優しかったの。欲しいと思った物はなんでもくれた。……お父さんなんだって、思ってる」

「シルヴィ……」

 当たり前だ。どんな親であれ、どんな人間であれ、親として愛情を向けられればそう思う。

 それがどんな歪んだ愛だとしてもだ。

 

 

「だから、トキワの森でお父さんが酷い事をするって言った時はとても悲しかった。止めたいって思った。全力(・・)で。……それは、今も変わらないかな」

「……そうか。分かった。一緒に彼を止めよう。この旅はその力をつける物になると思うよ」

 改めて。そういうかのように、クリスはシルヴィに手を向ける。

 

「うん……っ!」

 彼女はその手を力強く握って、大きく返事をした。

 

 

 

 彼女達の旅の目的が決まる。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「えーとつまり。島に何人かいるキャプテン(・・・・・)という人の試練をこなして、島キング(・・・・)という人の大試練を受ければいいんだよね?」

 シルヴィは島巡りの目的を再確認する為にクリスにそう聞き返した。

 

 

「うん。まぁ、カントーのジム巡りみたいな物だと思えば良いよ。……ジム巡りは分かるよね?」

 思えば彼女はR団の娘として育てられてきた訳だから、カントーの常識もあまり通用しないかもしれない。

 そう思って聞き返したクリスだが、シルヴィは「うん。バッチを賭けてポケモンバトルするんだよね?」と返す。

 

 

「でも、試練……という事はポケモンバトルじゃないって事?」

「不満?」

「そんな! むしろ、バトルしなくていいなら私はその方が良いかなぁ」

 少し俯いて、シルヴィはフライゴンを横目で見ながらそう言った。

 当のフライゴンはその言葉に少し不満気であるが。

 

 

「バトルは嫌いかい?」

「だって、ポケモンを……相手を傷付ける為に戦わせるなんて。……モールで戦ってた時は、私必死だっただけだもん」

 R団として育てられたとは思えないような発言をするシルヴィ。

 

 いや、R団として育てられたからこそ、そう考えてしまうのだろう。クリスはそう考えた。

 

 

 

「確かに試練の中にはポケモンバトルを行わない物もある。でも、大試練は基本的に全部───ゼンリョクのポケモンバトルだよ」

「……ぅ、ば、バトルなんだ」

 クリスの言葉を聞いて表情を引攣らせるシルヴィ。

 そんな表情を見たクリスは、不敵に笑いながらこう続ける。

 

 

「シルヴィ、僕とポケモンバトルをしよう」

「ぇ……」

 笑顔でそう言うクリスを見て、シルヴィは固まってしまった。

 

 シルヴィにとって、良くも悪くもポケモンバトルは相手を傷付ける事だとして認識されている。

 だから、クリスにポケモンバトル(傷付けるために戦う事)をしようと言われて困惑してしまったのだ。

 

 

 あの優しいクリスさんが、なんでポケモンバトルを私と?

 

 

 そう、R団として育てられた彼女は知らないのである。ポケモンバトルが本来どういう物なのか。

 

 

 

「良いからさ。一回だけ、やってみよう?」

「え、えぇ……」

 それを教えてあげるんだ。

 

 クリスは昔を思い出しながら、シルヴィの手を引っ張ってポケモンセンターの外にあるバトルフィールドに向かう。

 

 

 

 ただ純粋に、自分の大切な友達(ポケモン)と一緒になって戦った。

 

 

 ───彼自身もあの頃の事を思い出す為に。




とても間を空けてしまった事に反省。

なんと、評価して下さった方が四人になりました!後一人で夢の色付きです。頑張ります。
さてさて、次回ははじめてのポケモンバトル公式戦ですよ!


また次回もお会い出来ると嬉しいです。
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