「……そろそろ初めての試練でもやってる頃だろうなぁ」
ウラウラ島のとある交番にて。
野良のニャース達に餌を出しながら、島キング──クチナシ──は口角を釣り上げる。
そろそろ昼飯の時間だな、と。買い貯めしてあるカップラーメンのどれを食べようかと模索しながら。
「リア、果たしてお前にあるか?」
適当なカップラーメンを選んで、メレメレ島の方角を見上げるクチナシ。
空は快晴で、きっと彼女の味方だ。脳裏に映る激しい炎。
「───覚悟って奴が」
☆ ☆ ☆
「審判は俺が。……ルールはシングル戦二対二。交代は島巡りの挑戦者のみ認められる! 尚この試合を、島巡りイリマの試練とします!」
ついさっきイワンコを繰り出して、リアのゾロアークと戦った少年がバトルフィールドの真ん中に立って声を上げる。
島巡りの試練の内容は、各島々のキャプテンが各々自由に決めるものだ。
本来イリマは別の方法で試練を与えるのだが、彼女の意気込みを気に入ってポケモンバトルという形になったものである。
ただ、今さっき彼女のボールから出て来たニャビーだけがイリマの気掛かりだった。
「それでは、バトル始め!!」
審判の合図と共にリアとイリマがボールを投げる。
登場したのはゾロアークとドーブル。
タイプ相性に有利不利はないが、ゾロアークは先程の試合でかくとうタイプの技──けたぐり──を見せていた。ノーマルタイプのポケモンにも効果は抜群だ。
しかしドーブルはスケッチという特別な技で様々な技を覚える事が出来る。お互いにお互いの弱手をどう突くかが重要になるだろう。
「ドーブル、けたぐりです!」
先に動いたのはイリマのドーブルだった。
先程の戦いをスケッチしたのだろう。
そしてかくとうタイプの技はいわタイプのポケモンやノーマルタイプのポケモンの他にあくタイプのポケモンにも効果は抜群だ。
「近付けさせるな! かえんほうしゃ!」
リアの指示でかえんほうしゃを放つゾロアーク。ドーブルは瞬時の判断でそれを避ける。
「良い判断です。けたぐりは体重の重いポケモン程ダメージが上がる技。ドーブルとゾロアークが打ち合えば、先に倒れるのはゾロアークでしょうからね」
「知った様な物言いしやがって……」
「ポケモンバトルで大切なのはやはり、難しい事を抜きにしてもタイプ相性です」
リアの目を真っ直ぐ見ながら、イリマは彼女にそう語りかけた。
「ポケモンとの絆、ポケモン自身の技術、トレーナーの指示。どれもとても大切ですが、まず基礎となるのはポケモンのタイプの相性。……ノーマルタイプは弱点を突く事は出来ませんが、逆に弱点は一つしか無く、さらにゴーストタイプを受け付けません。このノーマルタイプをどう攻略するか、君の力を存分に発揮してください。───ドーブル、みずてっぽう!」
イリマの指示で、ドーブルは尾先をゾロアークに向けてそこから水流を発射する。
ゾロアークは指示されるまでもなく、屈んで攻撃を避けた。
「まだまだ、ひのこ!」
続く攻撃をゾロアークはサイドステップで避ける。
不敵に笑うイリマを見て、リアは頰に汗を流した。
「このは!」
「かえんほうしゃ!」
更に続く攻撃、くさタイプの技──このは──はほのおタイプの技で焼き尽くす。
「……しゃらくせーよ、技全部見せて私を試そうってか」
「ふふ、正解です。ボクは今基本となる三つのタイプを君に見せました。島巡りに出たのならアシマリ、ニャビー、モクローの三匹の中から一匹ポケモンを貰う筈。……君はニャビーでしたね」
不敵に笑うイリマは「そしてドーブルはどのポケモンにも弱点を突く事が出来ます」と付け加えた。
そうなると、バトルをするならタイプ相性を深く考えなければならない。
弱点を突かれるニャビーを出すのは難しいだろう。
なら、君はどうしますか?
イリマは真っ直ぐに彼女を見て、その瞳で問い掛けた。
「……うるせぇよ」
「……ほぅ」
イリマを睨むリアに、彼は気を悪くせずにその続きを待つ。
では見せて下さい、聞かせてください、君の答えを。
「水は炎に強いです。炎は草に強いです。草は水に強いです。タイプです、相性です。んなこたぁ、基礎中の基礎。聞き飽きた! でも戦ってるのは私じゃない目の前の相棒達だ。コイツらがやる気なら、それを支えるのが私のやり方だ! 突っ込め!」
リアの指示で、ゾロアークはドーブルと間合いを詰めた。
しかしイリマの言う通り、もしけたぐりを打ち合ったのなら先に倒れるのはゾロアークだろう。
それだけは、何をしても覆らない筈だ。
───もし、けたぐりを打ち合ったのなら。
「そうですね、良い心構えです。それでも、気持ちだけではその基礎はひっくり返りませんよ! ドーブル、けたぐり!」
間合いに入って来たゾロアークに、ドーブルがけたぐりを放つ。
ドーブルの脚は綺麗にゾロアークの脚を捉え───たかのように
同時に、ゾロアークの姿が歪む。
その光景にドーブルもイリマを目を見開いた。
眼前に広がるのは、ゾロアークではなくドーブルの脚が捉えた黒い小さなポケモンである。
わるぎつねポケモン───ゾロア。
「───イリュージョン?!」
とくせいイリュージョンを持つポケモンはゾロアークだけではない。
その進化前、ゾロアも同じとくせいを持つポケモンだった。
「───カウンター!!」
けたぐりで受けた衝撃を乗せて、ゾロアはドーブルにカウンターを仕掛ける。
受けた物理ダメージをおよそ倍にして返す技が、ドーブルの身体を吹き飛ばした。
「ドーブル?!」
「よっしゃぁ!」
ガッツポーズで喜ぶリア。しかし、直ぐに彼女の表情は青ざめる。
「……ブグゥ」
立ち上がるドーブル。あの攻撃で倒せなかった事には、流石に驚いた。
「……なるほど、ゾロアークに化けるとは予想外でした。しかし、少しだけ足りませんでしたね。ドーブル、みずてっぽう!」
高速の水流をそう簡単に避けられる訳がない。
前の攻撃でみずてっぽうを簡単にしゃがんで交わしたのは、そもそも体格の小さなゾロアに当たっていなかったのだろう。
面白い事をする娘だと、イリマは舌を巻いた。
避けきれずにみずてっぽうが直撃し、地面を転がったゾロアはそのまま目を回してしまう。
「ゾロア戦闘不能!」
ひんしになったゾロアをボールに戻して、リアは「良くやった」と労いの言葉を掛けた。
そして別のボールに手を掛ける。
「さて、二対二のバトルですから。君のポケモンはあと一匹。どんなポケモンを見せてくれますか?」
「お望みどおり見せてやるよ!」
放たれるモンスターボール。現れたのはひねこポケモン───ニャビーだった。
みずてっぽうを持っているドーブルにニャビーを出すのは悪手だろう。
ただ、ゾロアークもデルビルもドーブルに弱点を突かれていて、その点では変わりはないかもしれない。
しかし、ニャビーにはイリマの使うノーマルタイプへ弱点を突く技がなかった。
何を考えているのか。イリマは考える。
ニャビーではなく、ニャビーに化けたゾロアークだという可能性が一番に浮かんだ。
それが彼女の戦いなのかもしれない。なるほど、とイリマは不敵に笑う。
「もう騙されませんよ! ドーブル、間合いを詰めてください!」
「近寄らせるな、かえんほうしゃ!」
「みずてっぽう!」
試合開始と同じような光景から、イリマはみずてっぽうを加えて状況を一変させた。
みずてっぽうによりかえんほうしゃが相殺され、ドーブルはそのまま距離を詰める。
「化けの皮を剥がします。ドーブル、けたぐり!」
そしてニャビー向けて、ドーブルはけたぐりを放った。小さな身体が地面を転がるが、幻影が溶ける様子はない。
「そのままニャビーなのですか?! しかし、ならば水で攻めるだけ。ドーブル、みずてっぽうです!」
「かえんほうしゃ!」
水と炎がぶつかれば、水が勝つのが自然の摂理である。
かえんほうしゃは掻き消され、みずてっぽうがニャビーを襲った。
「……っ、ニャァッ!」
脚を崩しそうになるが、立ち上がるニャビー。
それを見てイリマは表情を歪ませる。
「なんの策も無しに、ニャビーを出したのですか? ボクのドーブルがみずてっぽうを覚えている事を知りながら」
「んな御託は聞き飽きたって言ってるだろ。……戦うのはコイツだ。コイツが戦いたそうだったから、私はコイツを戦わせる。そして、勝たせる! ニャビー、かえんほうしゃ!!」
ポケモンバトルは気迫でどうにかなるものではない。
それもバカの一つ覚えのように同じ技を繰り出しているだけでは、トレーナーとしても未熟。
まだ彼女に試練を突破させる訳にはいかない、と。イリマは心を鬼にしてドーブルに指示を出した。
「……みずてっぽう!」
放たれる水流。しかし炎と重なり合った水は炎に包み込まれて、蒸発していく。
「バカな?!」
「行けぇ!!」
「───な、ドーブル?!」
「ドーブル戦闘不能!」
みずてっぽうを貫いたかえんほうしゃの直撃を受けたドーブルは、カウンターのダメージもあり倒れた。
イリマはドーブルをボールに戻すと、労いの言葉を掛けてからリアとニャビーを真っ直ぐに見る。
「よっしゃぁ! やるじゃんニャビー。流石ぁ!」
「ニャゥァ!」
ニャビーの背中から炎が漏れていた。まるで、抑えきれないエネルギーを放出するように。
「……なるほど、無策だった訳ではないみたいですね」
これは反省しなければならない。そう思いながら、イリマはボールから二匹目を繰り出す。
鋭い牙を持つヤングースの進化系。
ヤングースより大柄な茶色い身体に、頭の逆立って前に突き出た毛が特徴的なポケモン。
「出番です、デカグース!」
はりこみポケモン───デカグースだ。
「いかりのまえば!!」
鋭い牙をニャビーに向けるデカグース。
ニャビーは避けきれずに噛みつかれるが、何とか身体を捻ってデカグースから逃れる。
「だ、大丈夫か?! ニャビー!」
「……ニャ!」
元気な返事と、さっきよりも背中から炎を漏らす姿を見てリアは満足気に笑った。
「とくせい、もうか。体力が低くなる程、炎技の威力があがるとくせいですね。ドーブルのみずてっぽうを打ち破るとは、おみごとです」
「ハッ、言っただろ。勝たせるって!」
得意気に語るリアを前に、イリマはポケットから時計の様な物と白い石を取り出す。
「今のニャビーは体力も限界、きっと最大威力のかえんほうしゃが放てる筈です。そんな君達のゼンリョクに、ボクもゼンリョクで挑む事にするとします!」
腕にリングを付け、そのリングに石を填めるイリマ。
それを見て、リアは口角を釣り上げた。
「Z技か」
「その通りです」
言いながら、イリマは顔の前で両手をクロスする。
そして一度広げた手を前に突き出してから、両手が斜めに繋がる様に右手を下に左手を上に広げた。
拳を握りしめ、肘から先を自らの身体に引き寄せる。まるで『Z』の文字を描く様な格好で、イリマは口を開いた。
「見せてください、君達のゼンリョクを! ボクもゼンリョクで答えましょう!!」
「Z技なんて、私達のゼンリョクで吹き飛ばす!!」
お互いに口角を釣り上げる。
イリマの身体から光が放たれて、その光がデカグースを包み込んだ。
対するニャビーも、とくせい──もうか──により高められた今にも漏れ出しそうな炎の力を口に溜め込む。
「これがボク達の───」
「これが私達の───」
二人は同時に声を上げた。二匹もまた、同時に動き出す。
「「───ゼンリョクだぁ……ッ!!!」」
空気が震える様な叫び声。
「ウルトラダッシュアタック!!」
「かえんほうしゃ!!」
お互いのゼンリョクがぶつかり合うその光景は、見る者全てを魅了した。
「……凄い」
光に包まれたデカグースの突進を、かえんほうしゃとは思えない程の火力を持った炎が襲う。
炎が吐き出されなくなれば、デカグースの攻撃がニャビーを襲う筈だ。
デカグースが先に倒れるか、ニャビーの炎が消えるか。それが勝負の決め手だろう。
「行けぇぇえええ!!」
決着は、唐突に着いた。
ニャビーの炎が弱まって、デカグースがニャビーを突き飛ばす。
誰もがニャビーの敗けを認めた───その時。
「グゥ───」
ニャビーを突き飛ばした時点で、体力の限界が来ていたデカグースが地面に横たわった。
「……っ、ニャ」
対するニャビーも、地面を転がって横たわる。
両者引き分け。審判が両手を広げようとしたが、イリマがそれを制した。
──くそ、何がタイプ相性だ。そんなのニャビーを選んだ時点で間違ってるんじゃねーかよ!──
──初めてましてニャビー。今日から俺とお前は相棒だぜ──
「───っ、ニャァ……ッ!」
負ける訳にはいかない。
もう、負けない。大切な、大好きな相棒に報いるために。
「ニャビー……」
「ニャァァッ!!」
立ち上がり、ニャビーは雄叫びを上げる。
勝敗は、その時点で決した。
「で、デカグース戦闘不能! よって、勝者は島巡りの挑戦者!!」
気が付けばスクールを覆い尽くしていた観客から、大量の拍手喝采が上がる。
満足そうな表情で空を見上げるイリマは、ふと小さく呟いた。
「彼にこの光景を見せたかった……」
いつか見た、大切な友人の姿が少女と重なって。
それでも違う道を歩く彼女の今後が、とても楽しみだと微笑む。
ニャビーを抱き抱えてはしゃぐ少女の顔は、いつか見た誰かの顔にとても似ていた。
ちょっとバトルが短かったかな?なんて。
それでも初めての試練バトル。とても楽しく書かせて頂きました。
シルヴィの時は、ゲームの試練っぽくやりたいなって。
さてさて、なんと少し前にランキングに載るような事がありまして。とてもお気に入りが増えて嬉しく思っております。
読む人が多くなると、評価も厳しくなって平均評価も下がってしまったのですが、見限られないように頑張りたいですね。
それでは、また次回もお会い出来ると嬉しいです。読了ありがとうございました。