「凄い……」
初めて見たゼンリョクのポケモンバトルは、少女の瞳には輝いて見えた。
光に包まれて地面を駆けるデカグース、迎え撃つ紅蓮の炎。
二匹が崩れ落ちて、勝負は引き分けになったと審判が両手を挙げる。
しかし、それを制するキャプテンイリマ。
彼の視線の先で、炎を放っていたポケモンが脚を震えさせながら立ち上がろうとしていた。
これまで、ポケモンが傷付く姿を見るのが嫌だったのに。
無理して苦しそうなポケモンを見る事に耐えられなかったのに。
どうしてか、そのポケモンに対して「頑張れ」と心の中で叫ぶ。
「ニャァァッ!!」
そしてそのポケモンは立ち上がった。
不思議と涙が出てきて、隣にいる少年にハンカチを渡される。
「凄いね、リアちゃん」
「君もアレやるんだけどね」
「ぇ」
そして現実を叩きつけられた。
☆ ☆ ☆
「おめでとう。試練を突破した君にはコレを渡そう」
戦いに勝ちニャビーと戯れるリアに、イリマは白い石を向けながらそう言う。
「要らん」
しかし彼女の答えはコレで、イリマは転びかけた。
「いやいやいやいや、えぇ?!」
コレには流石のイリマも驚きの表情である。
彼女は何をしに来たのか。
「ソレZクリスタルだろ? 私は島巡りなんてぶっ壊す為に旅をしてるんだ。そんなもん要らん!」
「でも、なんらかの試練突破の証がないと……大試練に挑めませんというか」
「なん……だと……。な、何やってんだリアぁ! うわぁぁ!」
目を見開くリア。何かと葛藤しているのか、彼女は頭を掻き毟ってから片手を伸ばした。
そんな姿が何処かのならず者の元ボスに似ていて、変な影響を受けているなと苦笑する。
「はい、これを試練突破の証として受け取って下さい。ノーマルタイプのZクリスタルです。い、一応Z技を放つ為のエレガントなポーズを───」
「ほいセンキュー。ポーズなんか知らん。アンタその歳で恥ずかしくないの?」
「……オーウ」
これまで島巡りの挑戦者に試練を与え、Zクリスタルを手に入れた者達にポーズを教えて来たが。
まさかZクリスタルの受け取りを拒否され、さらにポーズを教わる事すら拒否される事になるとは。
まだまだ自分は若いと思っていたが、人生色々な事があると、イリマは頭を抱えてそう思った。
「リアちゃぁぁぁん!!」
「ギャァァ?!」
そして突然の奇襲にイリマはさらに困惑する。
Zクリスタルを手に入れたリアに跳び付いたのは、つい先程クリスとポケモンバトルをしてから彼にここまで連れて来られたシルヴィだった。
この場でゼンリョクの戦いを見て感動したシルヴィは、居ても立っても居られなくてリアに突進したらしい。普段からこんな感じだが。
「な、なんだよお前?! 見てたのかよ!!」
「うん!! 見てた!! 凄かった!! 格好良かった!!」
「語彙力ないなお前……」
もう少し言いようはなかったのだろうか。
「……君は?」
そんなシルヴィを見ては、イリマは彼女にそう質問する。
鞄に付いている島巡りの証。察するに、彼女も島巡りの挑戦者なのだろうが。
「あ、私リアちゃんのおねーちゃんです!」
「ぇ」
「ちげーよ」
「ぇ」
困惑するイリマ。そんな彼の顔を覗き込んで、シルヴィは何か思い出したように手を叩いた。
「もしかして、一緒の飛行機に乗ってて砂漠で助けてくれた人?! ほら、ドーブルであの黒いポケモンにハサミギロチンしてたよね?!」
シルヴィが思い出したのは、ハイナ砂漠で少しの間共に行動した青年の姿。
何か少しだけ違う気がするが、あの時の彼の顔と目の前の彼の顔は一致している。
「……ハイナ砂漠? いや、申し訳ありません。ボクにそんな記憶は」
「あ、あれぇ……? 双子?」
「ボクに双子は居ませんけど……?」
お互いに首を横に傾ける二人。そんな彼女達の背後で、大体の事を察したクリスは話を前に進める為に二人の前に立った。
「それはともかく、まず君は試練突破おめでとう。イリマさんはじめまして。彼女はもう一人の島巡りの挑戦者でシルヴィと言います。僕は……えーと、付き添いのクリスです」
リアに祝いの言葉を伝えてから、シルヴィをイリマに紹介するクリス。
「ふふ、今回の島巡りの挑戦者は元気があって良いですね。ボクはイリマ。メレメレ島のキャプテンを務めています」
クリスの紹介を受けて、イリマはシルヴィに手を伸ばす。彼女も少し緊張しながら彼の手を取った。
「しかし申し訳ありません。君の試練は明日に持ち越してもよろしいでしょうか? ボクもポケモン達も疲労が溜まっておりまして」
「そ、それは勿論……なんですけど。わ、私もイリマさんとバトルするんですか……?」
震えながらそう質問するシルヴィに、イリマは不敵な笑みで「しますか?」と答える。
千切れそうな勢いで首を横に振るシルヴィを見ては、イリマは短く笑った。
「彼女は特別戦いたそうだったので、バトルという試練を与えたに過ぎません。君には本来のイリマの試練を受けてもらいますよ」
「よ、良かったぁ……」
正直、あんなバトルを見せられては勝てる気がしない。フライゴンの力を借りても良いのか分からないし。
息を吐くシルヴィにしかし、イリマは不敵な笑みを見せる。
「試練は甘くありませんよ。……それでは明日、お昼ご飯を食べて力を付けてから、ここに来てください」
「は、はい!」
気が付けばギャラリーの減っているポケモンスクールで、元気な返事をするシルヴィ。
その横をそっと、バレないように逃げようとするリアを
「うえぇぇ?! 離せぇぇ!!」
「今日のお話とか聞かせてぇぇ!!」
バカをしている主人を見詰めるニャビーとフライゴン。
「それでは明日、よろしくお願いします」
そんな二人を楽しそうな表情で見るイリマに、クリスが代わりに挨拶をする。
明日はシルヴィの初試練か。
旅を始めて早々、面白いものが見れそうだ。
逃げようと暴れ回るリアと、四つも歳下の女の子を襲う
それでもクリスは明日を楽しみに、バカ二人をポケモンセンターまで連れて行く。
海に沈む太陽が、まずは一人目の試練突破を祝っているようだった。
☆ ☆ ☆
「見に行かねーぞ」
「えぇぇ、なんで?! 手伝ってよぉ……」
「いや手伝ったらダメだろ?!」
ポケモンセンターにて。
今日バトルで疲れたポケモン達を休ませながら、シルヴィ達は宿泊の準備をする。
そんな中で、シルヴィはリアに明日の試練に着いて来て欲しいと頼み込んでいた。
島巡りを否定する為に旅をしている筈だが、そこは真面目なのかとクリスは苦笑する。
「君は島巡りを否定したいんだよね?」
「……ん? そ、そうだけど」
「それじゃ、着いて来た方がいいと思うよ。島巡りの全てを知らないのにそれを否定するのは難しいと思うからね」
クリスのそんな説得に、リアは「それもそうか」と頷いた。
目を輝かせるシルヴィに向けて、クリスはバレないように親指を立てる。
「しょ、しょうがねーな。……着いて行くだけだぞ」
「やったぁ!」
同時にリアに抱き着くシルヴィだが、直ぐに押し飛ばされた。
「で、勝算あんの? アイツ結構強かったけど」
懲りずに抱きつこうとするシルヴィを足で遠ざけながら、リアは彼女ではなくクリスにそう聞く。
シルヴィに聞いても「気合いでなんとかする」とか言われそうだからだ。
「そもそも島巡りの試練って、ジムバトルみたいは物じゃないんだよ。まぁ、僕も詳しくは知らないけれど。ポケモンバトルだけが試練じゃない」
「アイツと戦うわけじゃないのか」
「そういう事だ。だから、勝算とかは考えなくて大丈夫。勿論、どんな試練でも困難な事は困難だろうけどね」
「気合いでなんとかする!」
想像と一字一句同じ台詞に頭を抱えながら、リアは少しだけ明日が楽しみになる。
島巡りを否定するという目的を忘れて、ただ目の前の
「そういえば、フライゴンはどうする気だ? お前のポケモンじゃないんだろ?」
結んだ髪を解きながら、リアはシルヴィにそう聞く。
ジムバトルは当たり前だが、島巡りも己のポケモンと共に挑戦するものだ。
彼女のポケモンではないフライゴンが一緒に挑戦して良いのかは分からない。
「もうゲットしたら?」
勿論フライゴンが居れば相応な戦力になる為、リアとしてはフライゴンも手持ちに加えた方が良いと考える。その為の発言だった。
「フライゴンは怪我が治るまで私が面倒を見るって決めてるだけだから……。私達を守ってくれたフライゴンに、これ以上迷惑掛けるのもちょっと……」
彼女のそんな言葉を聞いて、フライゴンは視線を逸らす。
そんなフライゴンを見てはクリスは考え込むが、珍しく良い答えは出て来なかった。
これは彼女とフライゴンの問題だし、変に口を出すのもお節介だろう。
「でもお前のポケモン、戦えるの? あ、いや、バトルじゃないんだっけ?」
どんな試練が待っているのか分からないが、ポケモンの実力は問われる筈だ。
リアの知る限りシルヴィのポケモン達は、あまり戦えるポケモン達には見えない。
「デデンネは凄く強いよ!」
ただ、シルヴィは自信満々にそう言う。
彼女のデデンネを思い出しては、リアもクリスは顔を見合わせた。そうだったか、と。
「そんな事より、今日はリアちゃんの試練突破を祝おう!」
ポケモンセンターで食べられる食事やデザートを見比べながら、勝手に晩餐を企てるシルヴィ。
リアは遠慮するのだが、そもそもそのお金は誰が出すのだという会話になった所でクリスが財布を開ける。
断るにも断れず、その日は結局リアの試練突破を祝う晩餐会となったようだ。
明日は初めての試練だと。
自分のポケモン達と月を見ながら決意を胸に明日を見る。
今日見たバトルの感動を胸に、彼女もまたその一歩を踏み出そうとしていた。
これにて四節終了です。次から五節に突入して、シルヴィの試練が始まります。どんな内容になるかはお楽しみに。
前回高評価沢山頂きまして、とても嬉しかったです。ありがとうございました。
それでは、また次回もお会い出来ると嬉しいです。