今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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【一章五節】その日──少女は初めての試練を受ける
ポケモン達のてだすけで


 太陽と月が同時に見えた。

 

 

 まだ日差しが登ってまもなく、ほんのり青くなった空。

 水平線を赤く照らす太陽の上で、銀色に輝く月がまるで太陽に寄っていくように堕ちていく。

 

 

 段々と薄くなる月が、夜の終わりを告げるようで。

 輝く太陽は、朝の始まりを空に刻み込んでいた。

 

 

「よーし、今日はがんばリアちゃんだね……っ!」

 ニャビーをイメージした黒色のパーカーを着て、赤い髪を後ろで一つに結んだ少女──シルヴィ──が太陽と月に向かって声を上げる。

 鳥ポケモンが目を覚まして、羽ばたいていく音が妙に耳に残った。

 

「行こっか」

 完全に月が見えなくなるのを待ってから、少女は太陽に背を向ける。

 

 

 初めての冒険。初めての試練が、彼女を待っていた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「で、勝算は?」

 普段は髪を後ろで結んでいる小柄な少女は、珍しくそのまま髪を下ろした状態でそんな言葉を落とす。

 

 

 どうやらシルヴィとお揃いなのが気恥ずかしいらしい。

 赤いメッシュの混じった黒髪を弄りながら、少女──リア──はシルヴィにそう問いかけた。

 

 

「気合い?」

「幸先不安過ぎる」

 首を横に傾けて、人差し指を唇に向けながらそう答える少女はしかし表情に曇りはない。

 

「だって、リアちゃんみたいにポケモンバトルする訳じゃないんだよね。だったら、全力で頑張るだけだよ!」

「こんなんで大丈夫かコイツ」

「不安でオドオドしてるよりは良いんじゃないかな」

 肩に小さなゲンガーを乗せた金髪の少年──クリス──は、なんとも言えなそうな表情でそう答える。

 

 今日はシルヴィがイリマの試練を受ける日だ。

 彼女達と行動を共にする気はないリアだったが、島巡りを否定する為には島巡りを知らなければならないというクリスの口車に乗せられて、この場に居る。

 

 

「手持ちはクチートにデデンネにアシマリ……。不安しかねぇ」

「え? 皆良い子だよ」

「んなことは知ってるよ! 試練ってのが何するのか分からないけど、腕力が居るとかだったらどうするんだって話」

「気合い?」

「ダメだこりゃ」

 気合いも必要だが、それだけではなんともならない事も多いのだ。

 

 昨日のポケモンバトルで、ニャビーのかえんほうしゃがデカグースのZ技に打ち勝ったのだって気合いだけじゃない。

 とくせい──もうか──を最大限生かし、それにニャビーの気持ちが加えられた結果である。

 

 

「フライゴン、捕まえれば良いのに……」

 ポケモンセンターを出ても、彼女に懐いているのかフライゴンはシルヴィにピッタリくっついていた。

 このフライゴンさえ居れば、戦力としては差し迫った問題はなくなるだろう。

 

 そうしないのは、彼女の優しさか。

 

 

 

 ───それとも怖いのだろうか。

 

 そんな事を考えた。

 

 

 

「スクールへの道はボクが案内するロト!」

 三人の前方に向かって振り返り、画面に地図を写しながらロトムはそう言う。

 リアは未だに慣れないが、シルヴィは「凄ーい! 流石ロトム図鑑!」とはしゃいでいた。

 

 

「どうなってんだ……アレ」

「所謂、かがくのちからってすげーって奴だよ」

 そんな会話をしている間に、三人はポケモンスクールの入り口にたどり着く。

 

 

 そんなスクールの校門を背に、一人の青年が瞳を閉じて立っていた。

 桃色の髪を海風が靡かせる。彼こそメレメレ島キャプテンの一人───イリマだ。

 

 

「お、おはようございます……っ」

 ここに来て緊張しだしたのか、シルヴィは歯切れ悪くイリマに挨拶をする。

 その声を聞いてイリマも瞳を開け「おはようございます、チャレンジャー」と返事をした。

 

 

「さ、早速ですが試練を受けさせて下さい!」

「ダメです」

 声を張り上げるシルヴィにしかし、イリマは笑顔でそう答える。

 

 リアはその場で転けて、シルヴィは目を丸くして固まった。

 

 

「あ、あるぇ〜」

「ふふ、イリマの試練を受ける前に……試練を受ける為の試練を受けてもらいますよ」

 して、シルヴィに視線を合わせてそう言うイリマ。

 その意図が読めず、シルヴィは未だに固まっている。

 

 

「私にイワンコ使いをけしかけて来た感じの事でもするのか?」

 ただ、リアは思い当たる節があるようでそんな言葉を落とした。

 どういう事だと、シルヴィやクリスが聞く前にイリマはこう返事をする。

 

「そういう事ですね。試練を受ける前に、試練を受けるに値するか試させて貰います」

「ば、バトルですか……?」

 青ざめて足を引くシルヴィに向けて、イリマは首を横に振った。

 安心して息を吐く彼女はしかし「バトルになるかもしれませんが」という言葉で再び表情を痙攣らせる。

 

 

「試練はとても簡単です。街中に貼ってあるこのヌシール(・・・・)を五枚集めて来て下さい」

 黄色が主体の六角形の大きなシールをシルヴィに見せながら、イリマは笑顔でそう言った。

 

 

 リアは転んで、クリスも目を丸くして、シルヴィは口も開けて固まってしまう。

 

 

 

 なんだそれ。満場一致の心情だった。

 

 

 

「そ、そんな事で良いんですか? あ、制限時間があるとか?」

「ありませんよ。日を跨いじゃっても大丈夫です。ただし、君達二人の手助けは禁止です」

 街にどれだけのシールが貼ってあるか分からないが、その内五枚を集めるだけで試練を受ける事が出来る。

 とても簡単じゃないかと、三人は首を横に傾けた。そんな彼女達を見てイリマは不敵に笑う。

 

 

「さて、それではヌシール探し始めましょうか。ボクも付いていきますし、なんならお二人も付いて来て構いません。ただし、助言は禁止です。……これは彼女の試練ですから」

 ここで気になるのは、フライゴンの扱いであった。所謂野生のポケモンのフライゴンはシルヴィを助けて良いのか───そんな疑問が頭を過る。

 

 

「一つだけアドバイスを。アローラはポケモンと暮らす地方です。他人のポケモンはともかく、野生のポケモンに力を借りるのも、このアローラでは当たり前の事なんです───勿論、そのフライゴンだって例外ではありません」

「それじゃ……フライゴンの力を借りても?」

「構いませんよ。そして、今のボクの言葉を忘れずに」

「分かりました! 頑張ります!」

 元気に返事をしてから、振り向いて街を見渡すシルヴィ。

 

 

「それでは、イリマの試練への試練───スタートです!」

 照り付ける太陽の下、シールを探す試練が始まった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「ない」

 一時間後、シルヴィはポケモンセンターの前で崩れ落ちる。

 

 

 メレメレ島のハウリオシティはアローラの観光客も良く訪れる、この地方の都会であり比較的広い。

 しかし一時間も探し歩いてヌシールのヌの字も見当たらないとなると、流石のシルヴィも気が滅入ってきた。

 

 

「ヌシール、街にどのくらい隠してあるんですか?」

「百枚くらいかな」

 即答するイリマ。均等に貼られているとすると、今まで歩いて来た場所だけでも五枚は存在する計算である。

 そうなると、これは目に見えないような場所に隠してあるのだろうとクリスは瞳を細めた。

 

 ただ探し回るだけではこの試練を突破する事は出来ない。そこに気が付けるか、どうか。

 

 

 

「……こんなん何の意味があるんだよ。やっぱ島巡りなんて意味ないな」

 欠伸をしながら、リアは半目でそう呟く。

 

「ふふ、そうですか……?」

「……なんだよ」

 彼女になら分かる筈。手持ちのポケモン、そして先日手に入れたばかりであろうニャビーとあそこまでの友情を深めていた君になら。

 そう思いながら、イリマは不敵に笑う。そして目の前で試練を受けている彼女にも、それを分かって欲しかった。

 

 

 

「闇雲に探してもダメだ……。初めからそんな事が試練な訳がない。それじゃ、この試練は何が目的なんだろう……」

 クチートやデデンネ、アシマリやフライゴンにだって探して貰っている。

 

 ポケモンと協力して探しても見付からない。

 この試練の意味は? 考えろ、考えろ、考えろ。

 

 

「───って、うわぁ?!」

 座り込んで地面を見ていると、突然地面が盛り上がって一匹のポケモンが姿を現した。

 

 大きな顎を持ったむしタイプのポケモン───アゴジムシ。

 アローラ地方には多く住んでいるポケモンで、主に地面の中で暮らしている。

 

 

「……ジジッ?!」

 シルヴィが視界に入るや否や、アゴジムシは後退して地面の中に戻ってしまった。

 

 

「ビックリしたぁ……。色んな所にポケモンが居るんだね」

 そう思って周りを見てみると、アローラには想像以上にポケモンが暮らしていると認識させられる。

 こんな大きな街なのに、野生のポケモンが沢山いるのだ。まるで、自然と人々が共存しているかのように感じる。

 

 

 ──アローラはポケモンと暮らす地方です──

 

 ふと、イリマのそんな言葉を思い出した。

 

 

 

 だからフライゴンの力を借りたって良い───それだけじゃない。

 

「───この試練の意味、分かったかも」

 立ち上がって、周りを見渡す。

 

 

 その表情ははっきりとしていて、前を見ていた。

 

 

 

 

「……気付いたか」

「何にロト?」

「この試練の意味だよ」

 クリスもロトムがそんな会話をする隣で、リアは首を横に傾ける。

 

「試練の意味……」

 彼女にはそれが、まだ分からなかった。

 

 

 

「皆、探すの中止! 野生のポケモン達に、こんな感じのシールを見た事ないか聞いてみて!」

 そしてシルヴィの指示で、ポケモン達が次々に野生のポケモン達に話し掛ける。

 

 それを見てイリマは瞳を閉じて笑った。そして小さく「もう、合格ですね」と呟く。

 

 

 

「フラィ……」

「ヤ、ヤヤヤヤ……」

 フライゴンに話し掛けられて、震える野生のヤングース。

 そんな二匹の間にクチートが入り込んで、事情を説明するようにヤングースに話し掛けた。

 

 ヤングースには心当たりがあるそうで、付いて来てと背を向ける。

 フライゴンは慣れないコミニュケーションに頭を掻きながら、シルヴィに「ありがとう!」と背中を叩かれて共にヤングースを追い掛けた。

 

 

 

「……細い」

 ヤングースに連れて来られた場所は、人どころかヤングースも通れなそうな家と家の隙間である。

 イリマがあそこにどうやってシールを貼ったのかすら疑問になる程だ。

 

 

「うーん、届かない。デデンネ、行ける?」

 シルヴィのポケモンの中で一番小さなデデンネは、胸を叩いてからその隙間に入っていく。

 小さな身体を生かして簡単にシールを取ったデデンネは、直ぐに帰ってきてシルヴィにシールを渡した。

 

 

「ヌシール、ゲットだぜ! あと四つかぁ。ありがとう、ヤングース!」

「ヤンッ」

 走り去るヤングースを見送ってから、その場で再び聞き込みを開始する。

 

 次に見覚えがあると案内してくれたのは、野生のイワンコだった。

 付いて行くと、ポケモンセンターの屋根の下側にシールが貼ってあるのが見える。

 

 

「こんな所に……」

 何度も通った所で少しショックだったが、ポケモンによって見る所が違うんだとまた一つ勉強になった。

 ジャンプしても届かなかったので、フライゴンの肩に乗せて貰ってシールを取る。

 

 これで二つ目。

 

 

「ありがとうイワンコ!」

「ワンッ」

 イワンコを見送って、さらに聞き取り開始。

 

 

 その次に案内してくれたのは、さっき見付けたのと同じポケモン───アゴジムシだった。

 付いて行くと、アゴジムシは人の家の敷地に入ってしまう。野生のポケモンならともかく、自分が他人の家に入るのはまずいと思ってシルヴィは足を止めた。

 

 

「ど、どうしよう……」

「ちなみにここはボクの家なので、ご自由にお入りください」

 転けそうになってから、頭を掻きながらシルヴィは敷地に入って行く。

 アゴジムシがその鋭い顎を向けるのは、敷地内にあったプールの奥だった。

 

 

「水の中にあるって事……? うーん、見えないなぁ。アシマリお願い!」

「アゥッ!」

 プールの中を泳いで、アシマリがシールを一枚撮ってくる。これで三枚目だ。

 

 

「どんどん行こう!」

 次に案内してくれたのは、ドデカバシの進化前のポケモン───ケララッパ。

 長く鋭利な嘴で木に穴を掘るのが得意な鳥ポケモンは、大きな木の上にシールが貼ってあると教えてくれる。

 

 それこそビルのような巨木を見上げながら「どうやってあんな所にシールを……」と唖然するシルヴィ。

 フライゴンはまだ飛べないし、鳥ポケモンのケララッパにシールを剥がすのは難しい。

 

 ショッピングモールで天井近くのウルトラビースト相手にデデンネを投げ飛ばしたが、それよりも高い位置だ。

 アシマリがモクロー戦で見せてくれたバルーンでのジャンプも届かないだろう。

 

 

 だったらどうするか。

 

 

 

「フライゴン、キャッチお願いね」

 その言葉に震えて逃げ出そうとしたのはデデンネだった。

 

「デネーーーッ!!!」

「大丈夫! デデンネなら出来るよ!!」

 泣き叫ぶデデンネを、クチートが大きな顎で掴む。

 

 

「クチート、なげとばす! アシマリ、水鉄砲!!」

 そのままクチートはデデンネを勢いよく投げ飛ばし、アシマリがみずてっぽうでその身体をより高く持ち上げた。

 

 

 そしてシールのある場所まで飛び上がると、デデンネは青ざめながらもシールに手を伸ばしてそれを剥がす。

 

 

 同時に重力に吸い込まれ、泣き叫びながら落下するデデンネはアシマリの作ったバルーンで衝撃を和らげてからフライゴンにキャッチされた。

 

 

「やったぁ! ありがとう、皆!」

 目一杯腕を広げてポケモン達を抱きしめるシルヴィ。

 

 後一枚ヌシールを集めれば、試練に挑む事が出来る。

 この調子で最後の一枚も手に入れてしまおうと思った矢先、背後で聞き慣れないポケモンの鳴き声が聞こえた。

 

 

「マネネ!」

 どうしてか。

 

 何もない空間に手を広げて、空気に抱き着くような行動をとる一匹のポケモンが視界に映る。

 ピンク色に、紺色のソフトクリームのような頭上が特徴的な小柄なポケモンだ。

 

 見た事もないポケモンの不可解な行動に、シルヴィは頭を横に傾ける。

 

 

 

 

「なんだ、アイツ?」

「アレはマネネだね」

「ボクが説明するロト。───マネネ。マイムポケモン。エスパー、フェアリータイプ。モノマネが得意。相手が驚くと嬉しくなってついつい真似しているのを忘れてしまう」

 メレメレ島に生息するポケモンの中でも珍しい部類のポケモンだ。

 

 イリマはそんなマネネを見て「ふふ、マネネに見つかってしまいましたか」と楽しげに呟く。

 

 

 

「何してるんだろう?」

「マネマネネ」

 シルヴィが首を横に傾けると、マネネも同じように首を横に傾けた。

 逆に首を傾けると、マネネも首を逆に傾ける。

 

 どうやら面白いポケモンだと感じたシルヴィは、微かに笑って───しかし今はシールを集めている最中だと思い出した。

 

 

「あのポケモンに聞いてみよっか」

 クチートがマネネに事情を説明すると、マネネはこれまでのポケモンと同様に背を向けて案内してくれる。

 

 これで後一枚。そう喜ぶシルヴィには見えていないが、クリス達の視界に映るマネネは───

 

 

「───マネマネネ」

 ───口角を釣り上げて不敵に笑っていた。




ヌシールを色んな所に貼り付けるキャプテン達を想像すると笑えます。
さて始まりました五節です。シルヴィの初試練……一波乱あるかも?


そんな訳で、久し振りにイラストの紹介。

【挿絵表示】

曰く、がんばリアちゃんです。ただのがんばリーリエだね!

それでは、次回もお会い出来ると嬉しいです。
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