今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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ハイナ砂漠に舞うはすなあらし

「バーネット博士! これを見てください。アローラ地方上空に出現したウルトラホールのデータなんですが……」

 アーカラ島──カンタイシティ──空間研究所にて、研究員の一人がバーネットと呼ばれた女性を手招きしながら声を上げる。

 

「現れたウルトラビーストの正体が分かったの?!」

 バーネットと呼ばれた白髪、褐色肌の女性は研究員に駆け寄ってモニターを覗き込んだ。

 その答えを研究員から聞くまでもなく、彼女はデータを照らし合わせて絶句する。

 

 

「……これ、引き出すデータを間違えたとかじゃなくて?」

「そうだったら良いと四度も確認しました……」

 研究員はモニターから目を逸らしながらそう答えた。

 

 考えうる限り最悪な事態の前で、バーネットは自らの手に掛かっている命の重さを握り締める。

 

 

「───なんで、また……ネクロズマが」

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 焦げ臭い匂い。身体の節々の痛みで、少女は目を覚ました。

 

 

「……っ。……こ、ここは?」

 辺りを見渡すと、その空間は真っ暗で呻き声だけが小さく響く。

 少女は身体の痛みに耐えながらも、周りを見渡して自分のポケモンを探した。

 

「クチート……デデンネ……っ!」

 目が慣れて来ると、悲惨な光景が視界に入る。

 傷だらけの乗客達。天井の無い飛行機。

 所々から火柱を上げる機体は見るも無残にバラバラになっていた。

 

 

「クチィッ」

「デ、デネェ……」

 そんな中でも、少女のポケモンは無事で鳴き声を上げる。

 少女は二匹を抱き抱えて、もう一度周りを見渡した。

 

 

「ど、どうしよう……」

 怪我人の数は計り知れない。ポケモンだって怪我をしている。

 少女は奇跡的に軽傷で済んだが、不時着は決して成功とは言えない結果に終わっていた。

 

 

「デネ───」

 立ち尽くしている少女の頭上で、突然何か金切り音のような鳴き声が響く。

 巨大な影は残っていた屋根を引き裂き、少女の頭上を通り過ぎた。

 

「……何?」

 感じた事もないような恐怖に身を震わせる少女は小さく声を漏らす。

 一月程前の事を思い出し肩を抱くが、しかし無意識に身体は動き出していた。

 

 

「クチート、デデンネ、皆を助けたいの。手伝って!」

 痛む身体に鞭を打って、状況を確認しようと周りを見渡す。

 少女の周りは見れば見るほど悲惨な状態で、既に手遅れに見える乗客も何人か居た。

 

 それでも、一人でも多くの人を───ポケモンを助けたい。

 手を握り何を優先すべきか考える。砂嵐が舞った。金切り音と、悲鳴が重なる。

 

 

 少女の目の前で、黒い影が飛行機の翼を叩き潰した。

 

 爆音が鳴り、機体が揺れる。まだ脅威は去っていない。人やポケモンを助ける前に、まず求められるのは彼等の生命を脅かす危険の排除だった。

 

 

 

「……アイツを何とかしないと───」

「辞めとけ辞めとけ、アイツには一般人が束で掛かっても敵いやしねーよ」

 身を乗り出す少女の手を、突然褐色の顔に桃色の髪をした男が掴む。

 少女を諭すようにそう言った男は、手持ちのモンスターボールからポケモンを一匹同時に繰り出した。

 

 

「敵わないって……。貴方はあそこに居る生き物が何か知っているの?」

 男の言葉が気になって、少女は振り向いて口を開く。

 振り向いた先に居たのは、尻尾の先から出る液体で壁などに色を塗るえかきポケモン──ドーブル──だ。

 

「アレはウルトラビーストっていう化物さ。人間の敵う相手じゃないし、このままじゃこの飛行機に乗ってる奴は全員死ぬ」

 淡々とそう語る男は、ウルトラビーストと呼んだ黒い影を見ながらそう言う。

 心なしか口角を釣り上げて笑っているようにも見えるその男は、続けてこう言葉を落とした。

 

 

「だがこのドーブルに覚えさせたテレポートを使えば、俺とそうだな……君くらいは助ける事が出来るかもしれない。どうだ?」

「な、何言って……。他の人を見殺しにする気?!」

「なら此処で自分の大切なポケモンすら守れずに死ぬか?」

 男は少女を睨みつけてそう言う。

 

 それを聞いた少女は自分の二匹のポケモンに視線を落として、拳を強く握りしめた。

 

 

 

 もう、自分のポケモンをあんな危険な目に合わせたくない。

 

 

 自分のポケモンが苦しむ姿なんて見たくない。

 

 

 ───でも、今自分だけが逃げたらあの時と同じだ。

 

 

 

「……私は戦う。戦います!!」

「残念だがお前の意見なんて聞いてる余裕無いんだよなぁ……。ドーブル、テレポートだ!」

「え、ちょっと?!」

 男は少女の意見を無視してドーブルに指示を出す。ドーブルが技を発動する為のエネルギーを貯め終わった次の瞬間───

 

 

 

「ガlqギdpmギohキlqchィjfuギwqkhdギyqnァjgbjpjァpngギmgdpj」

 

 

 

 ───これまでで最大の金切り音が砂漠中に鳴り響く。意識のある者は耳を塞ぎ、それはドーブルも例外ではなくテレポートは不発に終わってしまった。

 

 

 

「……っ。おいおいマジかよ?!」

 そして巨大な黒い影は機体に近付いてくる。明らかな攻撃意思。その攻撃が届けば、機内の乗客乗員に命はない。

 

 

 

 しかし、次の瞬間鳴り響いたのは機体が破壊された音でも、ガソリンに引火し機体が爆発した音でもなく───

 

 

 

「……歌?」

 

 

 

 ───まるで精霊の歌声のような()だった。

 

 

 

 黒い影と赤い残光が重なる。しかし、それは簡単に叩き伏せられて地面を転がった。

 

 

 

「な、なんだアレは?」

 機体の近くに転がる緑色のポケモン。一対の翼と四肢を持つその姿は、ドラゴンタイプ特有の特徴である。

 

 

「……フライゴン?」

 少女はその竜の名を知っていた。じめん、ドラゴンタイプ。

 

 頭部から背後に伸びた二本の角と菱形状の翼、瞳を覆う赤いレンズが特徴的なせいれいポケモン──フライゴン──だ。

 

 

 

 じめんタイプだからだろう。少女はそのポケモンの事をある程度知っていた。

 主に砂漠に生息するポケモンで、砂嵐の中で舞う羽音が精霊の歌のように聞こえるポケモンである。

 

 

 つまり、先程から聴こえていた歌───音は、あのフライゴンの羽音だったのだ。

 

 

「あのこが飛行機を守ってくれていたの……? ……っ」

 少女は何の迷いもなしに天井の無くなった飛行機から飛び降りる。

 華奢な見た目からは考えられない身体能力でフライゴンに駆け寄った少女は、直ぐに倒れている身体を調べ出した。

 

 

「こんなに傷だらけになるまで……。待ってて、今キズぐすりを───」

 倒れたフライゴンの看病をしようと頭を上げようとするが、フライゴンは苦しそうに鳴き声を上げながらその手を払いのける。

 

 

「───なんで」

「フルァ……ッ!!」

 そして突然起き上がったフライゴンは少女を突き飛ばした。

 次の瞬間少女が居た場所を黒い影が引き裂く。砂漠の砂の上を転がっていた少女は巻き込まれなかったが、フライゴンはさらに地面を跳ねながら砂の上を転がった。

 

 

「……っ、そんな! フライゴン!!」

 ───自分のせいで。

 そんな感情に押され、少女はフライゴンの元に駆ける。

 しかし、黒い影は容赦無く次の攻撃へと移行した。

 

「───しまっ?!」

「クチィッ!」

「デネェッ!」

 遅れてやって来た二匹が少女の前に立ち塞がるが、そんな物では黒い影を止める事など出来る訳がない。

 少女が三匹のポケモンごと潰されるほんの数瞬前に、男は自らのポケモンに指示を出す。

 

 

「ドーブル、キングシールド!!」

「……ブルッ!」

 少女達の目の前に立ちふさがったドーブルが尻尾と両手を黒い影に向けた。

 

 同時に発生するエネルギーが黒い影の攻撃を止める。

 本来は一部のポケモンのみが覚える事の出来る技だが、ドーブルは相手の技をコピーする技──スケッチ──を使う事でキングシールドの発動を可能にしたのだ。

 

 

 そしてこのキングシールドには、エネルギーに打撃技で触れたポケモンの攻撃力を下げる能力がある。

 

 しかし、その能力は発動せずに黒い影は一旦少女達から距離を取った。

 

 

 

「……アレは技ですらないって事か。いや、本当に化け物だな。……おいバカ! 死にてーのか!!」

「だ、だってフライゴンが……っ!」

「守りたいんだったら一緒に死んでどうする! 力も無いのに理想ばっかり吐いてんじゃねーよ!」

 少女の胸ぐらを掴む男にクチートとデデンネが威嚇するが、二匹をドーブルが阻む。

 

 

「……っ」

「全てを助けようなんて甘い考えだからお前はこんな所に居るんだろうが。少しは考えろ!」

「な……。あ、貴方は一体───」

 少女の言葉を遮ったのはやはり金切り音だった。黒い影が迫る。男は再びドーブルに指示を出す準備をした。

 

 

「デンジムシ、でんきショック!!」

 そこで第三者の声が夜の砂漠に響く。声の主は墜落した飛行機の副機長で、モンスターボールから放たれたデンジムシが予備電源に放ったのと同じ技を黒い影に放った。

 

 

「君達無事か?! すまない、私の不時着が失敗したせいで……」

 副機長は素早く二人に駆け寄って、謝罪をする。自分の不甲斐なさで舌を噛み切りたい気分であったが、今はそれよりも自体の深刻化を防ぐ事が第一だった。

 

 

「不時着なら成功してたぜ? まぁ、衝撃で大勢が気絶してたようだが。それでもあの状態なら完璧な不時着だった筈だ。……まぁ、問題はその後またアレに襲われたって事実だけどな」

「成る程……。……ん? 待ってくれ、そのドーブル。もしかして貴方はメレメレ島のキャプテン、イリマさんでは?」

 男は明らかに歳上の副機長に対して大きな態度で答える。しかし、副機長はそんな事を気に留める事もなく驚いた表情で男をイリマと呼んだ。

 

 

「……。……あー、は? あー、うん。そうだ。俺が───じゃねーな。僕がイリマだよ」

 男は困ったようにそう答えてから、副機長の言葉を肯定する。

 

 キャプテン? 少女は言葉の意味も分からずに、ただ不規則に動く黒い影を見詰めていた。

 

 

 

 あの生き物はなんなのだろう……?

 

 

 

 なぜ暴れているの……?

 

 

 

 怖がっている? 違う。

 

 

 苦しんでいる……?

 

 

 

「ほ、本当にイリマさんなのか! 助かったぁ……。あの黒い影、イリマさんお得意のノーマルタイプのZ技──ウルトラダッシュアタックで蹴散らしてやってくれないか?!」

「はぁ?! 俺がZ技だぁ?! ───じゃ、なかった。いや、ごめん……今Zリングを忘れて来ちゃっててさ?」

 男は副機長の言葉にそう答え、一歩ずつ後ずさりする。

 そんな三人の前で、黒い影は再び攻撃の構えを取った。

 

 

「ヤバい……イリマさん、なんとかならないか?!」

「いやいやあんなのとまともに戦ったらキャプテンだろうが歯も立たねーよ?!」

 まぁ、まともに戦うつもりなんてねーけどな。そう小さく呟いた男は、二人の前に立ってドーブルに指示を出す。

 

 

「ドーブル、こころのめ!」

 男の指示で目を閉じるドーブル。黒い影が攻撃の姿勢を取った次の瞬間、ドーブルは目を見開き黒い影を見据えた。

 

 

 こころのめ。

 相手の動きを第六感で感じ取り、次の攻撃を必ず当てる技である。

 

 強大な黒い影を相手にどんな技を当てても意味がないように思えるが、一つだけ───相手がポケモンであれば必ず倒す事の出来る技が存在した。

 だがその技は命中率が非常に悪く、普通に放っても当たる可能性は精々三割もない。

 

 しかしこの技──こころのめ───は、その技を必ず当てる事が出来る。

 

 

 

「Z技なんか知るかよってんだ。こっちにはそれ以上だってある。……くらえ、いちげきひっさつ技───」

 その一撃こそ必殺の攻撃。

 

 

「───ハサミギロチン!!」

 ドーブルの尻尾の先から巨大なハサミ状のエネルギーが刃を開き黒い影へと伸びた。

 

 エネルギーは黒い影を確実に捉え、周りの砂を巻き込みながら閉じる。

 

 

 

 いちげきひっさつ。

 

 

 

 ───その謳い文句を形にするような衝撃が、砂漠を包み込んだ。




二日目です。完結間近かと思われそうな緊張感ですがまだ二話目です。本当はほのぼのが書きたい!!←

またお会い出来ると嬉しいです。
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