交番の裏側。
ヌシールを探していたシルヴィが、野生のポケモン──マネネ──に連れてこられたのはそんな場所だった。
「マネネ!」
笑顔で振り向いて、マネネは交番に置いてあるパトカーの下側を指差す。
パトカーの底面かパトカーの下の地面にヌシールがあるという事だろうか。
シルヴィは屈んでパトカーと地面の間を確認するが、それらしい物は見えない。
これはまた見つかり難い場所に隠してあるに違いないと、彼女はデデンネに「探してみて」とお願いした。
「デネネ」
自分の胸を叩いて、デデンネは「任せろ」と言わんばかりにパトカーの下に潜り込んで行く。
一応急に動き出したら危ないからと、運転席を見るが人は乗っていないので大丈夫そうだ。
少し待つと、パトカーの下から「デネェ……?」と不満気な鳴き声が聞こえてくる。
「デデンネ、一度戻って来てー」
見付からないのなら探し方を変えようかと思い、シルヴィは一度デデンネを呼び戻そうと声を上げた。
「デネデネ───デネ……?」
ただ、デデンネは顔を出すもののパトカーの下から出てこない。
と、いうよりは身体が挟まって出てこれないといった感じである。
「何やってるのデデンネ……? マラサダの食べ過ぎで太ったんじゃない?」
「デネェェェエエエ?! デネデネデネェ!!」
シルヴィの言葉に顔を真っ赤にして首を横に振るデデンネ。
確かにアローラに来てからデデンネのマラサダ摂取量は多かったが、そこまで太った覚えはなかった。
それに、出る前は簡単に入る事ができたのである。逆が出来ないなんて事があるだろうか。
デデンネは別の場所からならと、動き回って出られる隙間を探すが一向にパトカーの下から出る事が出来ない。
まるでパトカーと地面の隙間に見えない壁が突然出来て、その隙間が狭くなってしまったのではなんて思えた。
「ど、どうなってるの……?」
「マネネ……ッ、マネ、マネネッ」
ふと自分達をこの場所に連れてきたポケモンを見ると、地面を転がりながらお腹の辺りを抑えている。
笑っているのだろうか。少なぬともシルヴィには、そう見えた。
「マネマネ───マネ……?」
さらに突然立ち上がったかと思うと、マネネは何やら見えない壁に挟まっているような演技をしだす。
まるでそれは、パトカーから出られなくなったデデンネのものまねをしているようだった。
「……デネェ」
そんなマネネを見て、デデンネは額に青筋を浮かべて頬の電気袋から電気を漏らす。
それに気が付いたシルヴィが「ダメ……っ!」と声を上げた時には───すでに遅かった。
「───デネェェッ!」
でんきタイプの基礎的な技、でんきショックがデデンネから放たれる。
あまり威力の高い技ではないためパトカーが大きく傷付く事はなかったが、盗難防止装置が作動して大きな音が鳴り始めた。
一方で電撃はマネネにギリギリ届かずに消えてしまう。
まるで見えない何かに阻まれたかのようにも見えたが、それよりも今は───
「───コラァ!! 何者だぁ!!」
───お巡りさんに事情を説明しなければ。
ここは交番の裏側で、パトカーはその交番で使っているものだ。
怒られるのは当たり前だが、一歩間違えば逮捕である。
「ち、違うんです……っ! あのマネネが───って、居ない!」
事情を説明しようとシルヴィは事の発端であるマネネを指差そうとしたが、そこには既にマネネの姿はなかった。
「あ、あれぇ……」
「交番の中で詳しい話を聞こうか?」
「そ、そんなぁ?! 違うんです、デデンネが閉じ込められちゃって───」
「デデンネならそこに居るじゃないか」
「……え?」
警官の言葉を聞いて振り向くと、倒れるようにパトカーの下から身体を出していたデデンネが何が何だかわからないと頭を横に振っている。
何が何だか分からないのはシルヴィもだった。
「どういう事ぉ……」
「彼女は悪くありません。これはボクの責任です」
警官とシルヴィの間に入りながら、イリマが唐突にそう口にする。
彼を見て警官は驚いた顔をするが、シルヴィの鞄に付いている島巡りの証を見て納得したような表情で一歩引いた。
「さっき、パトカーの下にデデンネが閉じ込められて居たのです。マネネのリフレクターでね」
「またマネネですか……」
イリマの話を聞くと、警官は納得したような顔で頭を抱える。
そしてシルヴィに「疑ってごめんよ」と頭を下げた。
「どういう事ですか?」
こんらんして口を開けたまま固まっているシルヴィの後ろから、クリスがイリマと警官にそう尋ねる。
──ふふ、マネネに見つかってしまいましたか──
彼はどうもマネネを見つけた時のイリマの言葉が気になっていた。
「この街では少し有名なんですよ。イタズラ好きのマネネ。……ボクもキャプテンなので、対処はしようとしているのですが中々捕まえられなくて」
「ポケモンと暮らす……ならではの問題か」
目を細めるクリス。本来なら警察がさっさと解決しなければならないような問題だが、どうもこの街は野生のポケモンが多い。
色々問題はあっても、その問題とも生きていくのがアローラなのだろう。
しかし、困ったポケモンも居るものだ。
「良いじゃん、悪を感じる。……ん? アイツ、あんな所に」
そんなマネネを気に入ったような事を言うリアは、視界にもう一度映ったマネネを指差す。
マネネは家と家の間に立っていて、彼女達に見えるように何かを持った手を挙げていた。
「……アレ、ヌシールじゃね?」
リアの言葉にシルヴィはその先を凝視する。
確かに彼女の言うとおり、マネネが片手に持って持ち上げて居るのはシルヴィの探しているヌシールだった。
「……デネネ」
「分かったよデデンネ。リベンジマッチだね。悪い子は捕まえて───お仕置きしなくちゃ」
普段からは想像出来ない悪い顔を見せるシルヴィを見て、クリスとリアは青ざめる。
R団で育った悪い所が少し出ているのかもしれない。このままだと、マネネの命にも危険が───
「───無限こしょこしょの刑だぁぁ!! 皆であのマネネを捕まえるぞぉぉ!!」
───及ぶ事はなさそうだった。
「……驚かさないでくれよ」
走り去るシルヴィを見てため息を吐くクリス。
「む、無限こしょこしょ……」
「ふふ、彼女は元気ですね」
その横でなぜか青ざめるリアと、微笑むイリマ。
シルヴィが最後に手に入れるヌシールは、さてどうなるか。
「そこにいてよ……っ!」
マネネはそんな彼女達を見ても動かずに、ただそのままのポーズで微動だにしない。
そのまま速度を落とさずに、シルヴィとデデンネはマネネを捕まえるために直進───
「ぐへぇ?!」
「デネェ?!」
───マネネの目の前で、見えない何かに直撃してバランスを崩しその場に倒れる。
「マネッ、マッネネネ」
それを見て再びマネネはお腹を抱えて笑いだした。
「ど、どういう事ぉ……」
頭を抑えながら起き上がるシルヴィは、目の前を確認する。
何かガラスにでもぶつかったのだろうか。それにしては、硬い何かにぶつかった感触はなかった。
なんというか、見えない布団にたいあたりした気分である。
「ここ、何かあるの……?」
自分達とマネネを隔てる空間。一見何もないし、実際に何もない。
何もないといえば語弊があるが、そこにあるのはただの空気だった。
「コレは……リフレクターか」
追い付いてきたクリスはシルヴィの後ろでそう呟く。
「リフレクター?」
「ボクが説明するロト。リフレクター。不思議な壁で相手からの物理攻撃を弱める」
ロトムの説明は、シルヴィにはちんぷんかんぷんだった。
「不思議な壁……?」
「そこにあるのは空気の壁だ。エスパータイプ特有の力で空気を押し固めて、壁のような物を作って身を守る技だよ」
クリスの説明を聞いて、シルヴィはマネネと彼を見比べて頭を捻る。
目には見えないのに壁があるという状況が、彼女にはあまり理解出来ていないらしい。
当のマネネは壁にたいあたりして倒れるデデンネのマネをして、デデンネの怒りを更に買っていた。
「そうだなぁ……透明な生クリームを空気中に浮かせていると思えば良い。完全な壁にはならないけど……弱い攻撃なら届かないし、強い攻撃も生クリームを通してからだと威力が弱まってしまうような気がするだろう?」
「つまり、デデンネが出てこれなかったのは車と車の間に生クリームがたっぷり入ってたからって事?」
「そういう事」
「成る程、分かりやすい!」
「むしろ理解出来ないロト」
半目になるロトムを他所に、シルヴィは立ち上がってマネネを見据える。
「そこにあるのが空気なら、物理的な攻撃以外で突破出来る筈。デデンネ、でんきショック!」
「───デネデネェ、デネェ!」
デデンネから放たれた電撃は、空気の壁であるリフレクターに干渉されずに突き進んだ。
───しかし、マネネにその電撃は届かない。
直撃の寸前、電撃は何か別の物に当たったかのように威力を弱めて消えてしまう。
「なんでぇ?!」
パトカーの時も、同じような光景を目にした気がした。
まるでリフレクター以外にも何か壁があるようでもある。
「ひかりのかべまで使うんだね」
「ひかりのかべ……?」
「ボクが説明するロト。りかりのかべ。不思議な壁で相手からの特殊攻撃を弱める」
ロトムの説明に、シルヴィは目を丸くして首を横に傾けた。
「また不思議な壁……?」
「ただし、今度は空気じゃなくてポケモンの使うエネルギーで出来た壁だけどね。そうだなぁ……生クリームが詰まってるんじゃなくて、見えないくらい小さな金平糖がその空間に沢山散らばってると言えば分かりやすいかな? ポケモンが放った特殊技は、沢山の金平糖に当たって威力が弱まってしまう。その代わり物理攻撃には意味がないけどね」
「分かりやすい!!」
「理解不能理解不能」
目を輝かせるシルヴィの後ろで、ロトムは頭上とモニターにクエスチョンマークを浮かべる。
「そんな技を使われてたら手出し出来ないよ……」
残念そうにそう言うシルヴィを見ながら、マネネはそんな彼女の真似をしていた。
青筋を浮かべるデデンネだが、その攻撃がマネネに届く事はないだろう。
「困ったポケモンもいたものだ」
「全くロト」
「君は言えないだろ」
ロトムを捕まえた時の事を思い出して、クリスは苦笑した。
困ったポケモンだって、根は良い奴だっている。
クリスはそれを知っているが───彼女はどうなのだろうか? そんな事を考えた。
「ヌシールは他にもありますし、別に態々マネネの持っているヌシールを手に入れなくても良いのですよ」
と、イリマはシルヴィに助言をする。
イリマ自身このマネネには手を焼いたりもするが、特に大きな被害を出す事もなくただイタズラを繰り返しているだけなので大きく動く事も出来ないでいた。
これでこそアローラ特有のポケモンと生きる事だとも思い、特にマネネをどうしようだとかは考えていなかったが───
「───どうしますか?」
───ただ、目の前の彼女が……。なんて事を考える。
「あのこ、笑ってるんですよね」
「……え?」
ただ、返ってきたのはそんな返事だった。
「てか、笑ってるというか……笑われてるんじゃん」
「うーん、そうなんだけど。笑ってるんだよね」
リアの指摘にも、シルヴィは何か不思議に思っているかのように首を横に傾ける。
逆に不思議に思う他の三人の前で、シルヴィは突然手を叩いてこう口を開いた。
「遊びたいんだね、キミは」
不敵に笑うシルヴィを見て、マネネも首を横に傾ける。
「イタズラをして、誰かに構ってもらって……遊びたいんだよね。だったら、私が付き合ってあげる!」
それが、彼女の答えだった。
唖然とするリアとクリスの隣で、イリマは不敵に笑う。
当のシルヴィは指をグネグネと動かしながらマネネにゆっくりと寄っていった。
「なら、私が遊んであげる。そして───」
彼女の表情か気迫か、マネネは冷や汗を流して後ずさる。
それでも彼女は歩みを止めない。
「───無限こしょこしょの刑だよ!!」
マネネは全力で逃げ出した。
ついに三十話を突破してしまいました。お気に入り登録や評価感想等、皆様応援ありがとうございます。
感謝を込めましてイラストを描いてきました。
【挿絵表示】
夏はポケモンという事で、メインキャラ二人の水着姿を。野郎どもは知らん!()
いやー、夏はポケモンですよね。みんなの物語本当に面白かったです。ポケモンは最高だぜ……。出来れば、サンムーンの映画がみたいけど。
それでは、次回からも楽しんで頂けると幸いです。読了ありがとうございました。