今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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全力のはたくを想像して

 一行が訪れたのは街の中でも比較的大きな敷地を持つ屋敷だった。

 

 何か見た事があるとリアが思ったが、それもその筈。ここはアゴジムシがヌシールがあると案内してくれた───イリマの自宅である。

 

 

「……試練って、ここでするんですか?」

「いいえ。試練の前にする事があります」

 シルヴィの問い掛けにそう答えるイリマ。リアは「また試練かぁ?」と表情を引き攣らせた。

 

 

「いえいえ、まさか。……皆さんは腹が減っては戦は出来ぬという言葉を知っていますか?」

 そう言いながらイリマは部屋の扉を開ける。

 

 その奥には、豪勢な料理が長い机に並べられていた。

 思わず涎を垂らすシルヴィとリア。クリスは怪訝そうに「これは……僕達が食べていいのだろうか」と呟く。

 

 

「お連れの二人も味わって下さい。この後少し歩きますし」

 イリマは笑顔でそう答え、同時にシルヴィはポケモン達と料理に向かって行った。

 遠慮のないシルヴィを半目で見ながら、リアもなるべく遠慮していないような態度を取って料理を取っていく。

 

 自分はスカル団なのだから、こういう時は堂々としなければと彼女の良心とプライドが交差していた。

 

 

「試練はどこで?」

「二番道路の先にある茂みの洞窟という所です。案内もしますので、ご心配なく」

 茂みの洞窟は、ハウリオシティの北側から伸びる二番道路の北東にある小さな洞窟である。

 アローラ地方に来る前にあらかた地域の地図を頭に入れておいたクリスの記憶によれば、その場所は人の住む場所ではなくて野生のポケモン達の縄張りになっている筈だ。

 

 人為的な試練ではないという事だろうか。

 

 

「さー皆、いっぱい食べて力を付けるよー!」

 シルヴィは後の事は気にせず、目の前の食事にありつく事に必死である。

 

 勿論ポケモン用の料理も置いてあって、彼女のポケモン達も各自様々な反応をしながら食事にありついた。

 

 

「お前、思ったより食い方が下品だよな」

「酷い?! だって、ほら、お上品に食べるの疲れるんだもん!」

 そう言いながらシルヴィは一度だけ、完璧なテーブルマナーをリアに見せ付ける。

 リアは「なんだその食べ方」と首を横に傾けるが、イリマとクリスは感心したように息を吐いた。

 

 

「……育ち故、か」

 一人納得するクリスを見て、イリマは首をかしげる。

 しかし、あまり詮索するのも良くないだろうと彼はクリスにも食事をとるように促した。

 

 彼の肩の上に乗っていた小さなゲンガーが真っ先に食事に向かい、クリスは頭を掻きながら「ったく。すみません」と頭を下げる。

 

 

 

「シルヴィちゃん、少し良いですか?」

 イリマが尋ねると、シルヴィはソースの付いた顔を持ち上げて首を横に傾けた。

 そんな彼女の顔をタオルで拭いてから、イリマはシルヴィの左手を優しく持ち上げる。

 

 その手首には時計のようなリングが嵌められていた。

 

 

 

「ど、どうかしたんですか……?」

「いえ。君は……このZリングを何処で手に入れたんでしたっけ?」

 イリマの質問に、シルヴィは人差し指を唇に当てて瞳を閉じる。

 

 

 確か、あの時は───

 

 

「えーと、イリマさんがドーブルであの黒い影に攻撃した後……」

「え、ボクが……? なんの話ですか?」

「え? だから、飛行機の事故の時。私達を助けてくれたじゃないですか。んー、でも今思い出すと……なんかあの時のイリマさん目の前のイリマさんと違う気が。……イリマさんって、同じ名前の双子の兄弟とか居ます?」

 シルヴィの破茶滅茶な質問に、イリマは頭を抱えて首を持ち上げた。

 

 

 どれだけ記憶を探っても、彼にそんな記憶はない。

 

 それもその筈で、彼女がその時に見たのはイリマ本人ではないのである。

 それを想像出来ているのは、クリスだけだが。

 

 

「い、居ませんよ」

「あ、あれぇ……。えーと、その、砂漠で貰ったんです。カプ・プルルに」

 リングを見ながら、シルヴィはそう答えた。

 

 事情は良く分からなかったが、イリマにとってはその答えだけでも充分である。

 カプに認められ、Zリングを手渡された。その事実だけで。

 

 

「少しだけネタバレをしますと、この試練を終えると同時にキミはZクリスタルを手に入れます」

「Zクリスタル……?」

「はい。不思議な力を持つ石で、ポケモンの技にトレーナーの力を足してゼンリョクの攻撃にする事が出来るのです」

 イリマの質問でシルヴィが脳裏に浮かべるのは、リアと彼の勝負で最後にデカグースが放った技だ。

 

 

 光を纏ったデカグースがかえんほうしゃを受けながらも突き進む事が出来る程の突進。

 

 アレが、ゼンリョクの技。

 

 

「ゼンリョクの技とそれを引き出すクリスタルはポケモンのタイプの数だけ存在します。その他例外の物もありますが、基本はポケモンのタイプです。そして、今日の試練で手に入れられるのは───このノーマルZ」

 言いながら、イリマはシルヴィに菱形の石を見せる。

 

 丁度、リングにある窪みにハマりそうな大きさのその石は白く半透明になっていた。

 

 

「これが……あの技を」

「そしてこれが、ゼンリョクの技を出す為のエレガントなポーズです」

 言いながら、イリマは顔の前で両手をクロスする。

 

 一度広げた手をゆっくり前に突き出してから、彼は両手が斜めに繋がる様に右手を下に左手を上に広げた。

 拳を握りしめ、肘から先を自らの身体に引き寄せる。まるで『Z』の文字を描く様な格好だ。

 

 

「どうです?」

「ダサっ」

 口を挟んだのはリアで、それを聞いたイリマは崩れるように地面に倒れる。

 

「酷い……」

「そんな恥ずかしいポーズしてられるかよ。ま、やっぱり島巡りなんて大した事ないな。私とニャビーの全力のかえんほうしゃの方が強か───」

「格好いい!!!」

 イリマを見下ろしながら口を開くリアの言葉を遮ったのは、目を輝かせてイリマを見るシルヴィだった。

 

 そんな言葉に、リアは転けてイリマは笑顔で立ち上がる。

 

 

「このポーズがエレガントだと分かるのですね!」

「うん! エレザードと何が関係してるのかは分からないけど格好良い!!」

「エレガントで───いや、しかし……分かってくれれば良いのです」

 うんうんと首を縦に振るイリマの横で、崩れ落ちたリアは「正気か……?」とシルヴィを見上げた。

 当の本人は目を輝かせて、イリマを尊敬の眼差しで見つめている。

 

 

「ポーズの取り方は覚えましたか?」

「うん! えーと、こうしてこうして……こう!」

 イリマの正面を向いて、シルヴィは先程彼が見せた動きを完璧にコピーして再現してみせた。

 驚きの声を上げて、イリマは拍手を送る。

 

 

 

「お前は、どう思う?」

「人それぞれだと思うけど。……僕は恥ずかしいかな」

 苦笑いの二人の前で、シルヴィは笑顔で何度もポーズを決めていた。

 

 初めてなのに様になっていると、イリマは首を縦に振る。

 

 

「ノーマルタイプのゼンリョクの技───Z技はノーマルタイプの技を覚えているポケモンしか使えません。君のポケモンでノーマルタイプの技を覚えているのは……アシマリですかね?」

「えーと、はたくだったかな?」

「はい。そうですね。また忘れたらいつでも教えるので、聞いてくださいね。……さて、食事を終えたら早速試練に参りましょう!」

「はい! 頑張ろうね、アシマリ!」

 アシマリと目を合わせ、アシマリがあの時のデカグースと同じ技を繰り出す所を想像すると思わず笑みが零れた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 二番道路を北東に歩いた場所に、その洞窟は存在している。

 

 

 二番道路には色々な施設もあり途中寄り道する事も出来たが、今のシルヴィら試練の事しか頭にないらしく真っ直ぐに洞窟まで進んだ。

 洞窟の入り口付近に用意されたポケモンセンターで少しお茶休憩を取ると、イリマに続いて三人は洞窟の前に立つ。

 

 入り口の左側には黄色と赤の三角の飾りが付いた柱が、右側には桃色と青色の三角の飾りが付いた柱が。

 それぞれ別の形を成して、門のように建てられていた。

 

 この先に入れば、試練開始である。

 

 

「それでは、試練の前に一つだけ。試練中、モンスターボールでポケモンを捕まえる事は禁止です。今回は自分のポケモンの力でチャレンジしてもらいます───なので、フライゴン君はお留守番です」

 イリマの言葉に不満げな表情を見せるフライゴン。

 そんな彼を宥めて、シルヴィは「頑張ってくるね!」と赤いレンズの奥にある瞳を見つめた。

 

 

 あまりにも真っ直ぐな瞳に目を逸らして、フライゴンは彼女の肩を突いて行って来いとそっぽを向く。

 そんな彼の反応を見て頬を緩ませるクリスだが、彼女が試練に挑む状態が芳しくない事を思い出して緩んだ表情を引き締めた。

 

 

 博士に貰ったばかりのアシマリに、息はぴったりだが火力に難のあるデデンネ、クチートも戦い慣れしているようには見えない。

 内容によっては、とても困難な試練になるだろう。クリスは心配そうに、洞窟の奥に視線を向けた。

 

 

「試練の内容は簡単。奥にある祭壇から、クリスタルを拾って無事持ち帰ってくる事です。……しかし、洞窟内には手強いポケモン達が居て邪魔をしてくるかもしれません。君と、君のポケモンの力でこの試練を乗り越えてみて下さい」

「帰ってくるまでが、試練なんですか?」

「はい。ちゃんと、手に入れたクリスタルをボクに見せてくださいね」

 笑顔でそう答えるイリマの前で、シルヴィは両手でガッツポーズを取りながら振り向いて洞窟の奥を見る。

 

 

「行ってくるね!」

 そうして洞窟の奥に消える彼女を、残った三人とポケモン達はただ見守った。

 

 

 ここからは、彼女の試練である。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 茂みの洞窟はその名の通り、草木の茂った洞窟だ。

 

 

 天井に穴が空いている場所もあり、そこから伸びる陽の光で視界も悪くない。

 所々段差と横穴のが見え、深い谷が見えるが気を付ければ危険ではないだろう。

 

「落ちたら大怪我だね……。気を付けなきゃ」

 谷を渡る為の橋が細いのが少しきになるが。

 

 

「奥って、あっちかな?」

 入り口の反対側を遠目に見ると、天井ではない所から光が漏れているのが見えた。

 あの出口から出た所にZクリスタルが置いてある祭壇があるのだろう。そう予想を立てたシルヴィは、奥に向かって洞窟を歩き出した。

 

 

 

「周りにポケモンは居ないけど……」

 イリマは邪魔をしてくるポケモンが居るかもと言っていたが、周りにはそれらしいポケモンは見当たらない。

 気にせずにシルヴィが前に進むと、大きな横穴が視界に入る。

 

 

 ポケモンが入りそうな、大きな横穴が。

 

 

「───グァゥッ」

「───うわぁ?!」

 横穴を見ていると、突然何かが彼女を突き飛ばした。

 

 後ろに転がってそれを交わすと、シルヴィは腰のモンスターボールに手を伸ばす。

 

 

「アシマリ、お願い!」

 ボールから出て来たアシマリは突然目の前で牙を見せるそのポケモンに怯え、シルヴィの後ろに隠れてしまった。

 

「お、おくびょうだったね。大丈夫、私が付いてるよ!」

「アゥ……」

 シルヴィの応援に、アシマリは意を決して現れたポケモンの前に向かう。

 

 

 彼女達を襲ったのは、細長い身体と鋭い牙を持つポケモン───ヤングースだ。

 

 

「ヤングース……」

 ショッピングモールでの事を思い出して、彼女は少し表情を暗くする。

 

 しかし、直ぐに前を向いて、しっかりと目の前のヤングースに視線を合わせた。

 

 

 もう、あんな事はさせてはいけない。R団を止める。その為に試練を受けて力を付けるんだ。

 

 手を握って、彼女は真っ直ぐに前を見た。

 

 

 

「行くよ、アシマリ!」

「アゥッ!」

 前に進む為に。

 

 

 

 

 ───この試練を突破してみせる。




ちょっと更新が遅くなると思います。申し訳ありません。


さて、やっと一つ目の試練。なんとここで三十話超えですがどうなるんでしょうね。完結する頃にはサンムーンのリメイクが発売されているかもしれません!()
感想評価お待ちしております。
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