今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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VSデカグース①

「アシマリ、はたく!」

 襲ってきたヤングースを見て、シルヴィはアシマリに指示を出す。

 ヤングースのスピードが早く、みずてっぽうでは間に合わないと判断したからだ。

 

 

 たいあたりを仕掛けてきたヤングースを、アシマリはカウンターのようにはたくで応戦する。

 自分の攻撃の勢いもあってそのまま地面を転がったヤングースは、逃げるように出てきた横穴に走っていった。

 

「ビックリしたー。急に出て来るポケモンにどう対処するかって試練なのかな……?」

 冷や汗を拭いながら、シルヴィは前方を確認する。洞窟にはポケモンが隠れられそうな場所が沢山あって、いつ何処から現れるか分からない。

 

 

 

 この世界はポケモンの世界だ。

 

 世界の至る所にはポケモンが居て、人は時に協力し、時に争って生きている。

 草むらを歩いていている途中で突然襲いかかって来るポケモンだっているのだ。

 

 

 

「だったら任せて……。反射神経は良いから。行こう、アシマリ!」

 舌で唇を舐めながら、シルヴィは早足であるきだす。

 

 同時に目の前の横穴から小さな影が飛び出した。その影が攻撃に移る前に、シルヴィは指を指して指示を出す。

 

 

「みずてっぽう!」

 ちょうど指差した方角向けて、アシマリがみずてっぽうを放った。

 発射直後はそこには何も居なかったが、飛び出してきて移動していたヤングースに丁度着弾する。

 

「アゥァ?!」

 これにはみずてっぽうを放ったアシマリ自身が驚いた。直撃したヤングースは、やはり逃げるように横穴に逃げていく。

 

 

「ふふーん、プチ特訓の成果だね」

 シルヴィとアシマリは今朝方、誰よりも早く起きてから少しだけ簡単な特訓───というより作戦会議をしていた。

 

 その内容は簡単。

 みずてっぽうの射角をシルヴィの指先に合わせるというものである。

 

 

 アシマリが敵の位置を掴めていなかったり、作戦を立てて攻撃する時に役に立つからとアシマリに教えていた小技だ。

 この作戦はシルヴィの姿をアシマリが確認する為に、彼女自身が前に立っている事が条件である。シルヴィは早足で進んで、先にポケモンを誘き寄せる必要があった。

 

 

「アシマリ、みずてっぽう!」

 しかしそうすれば、より素早くアシマリが対応出来て負担を減らす事が出来る。

 勿論ポケモンより前に出ているシルヴィは危険であるが、彼女はアシマリを信頼していた。

 

 

「行けるよ、アシマリ! 大丈夫!」

「アゥッ!」

 そしてアシマリも、そんな彼女を信頼している。出会って数日でここまでの信頼が築けるのは、彼女のポケモンの気持ちを考える想いの強さ故だった。

 

 

 

 

「ボクがこの試練でチャレンジャーに考えて欲しい事はただ一つ。この世界でポケモンと共に生きるとはどのような事なのかという事」

「襲ってくる野生のポケモンにどう対処するか……という事ですか?」

 洞窟の外でシルヴィを待っているイリマがふと呟いて、そんな彼にクリスはそう質問する。

 

「それもあります。そして、旅をする中でポケモンバトルはきっとも切れない。……そしてそのポケモンバトルで大切なのはなんでしょうか? リアちゃん」

「私かよ。……えーと、絆?」

「君は本当にスカル団なのか……」

 半目で彼女を見るクリスに、リアは「うるせー。当たり前の事だろ」と反論した。

 

 

 そんな彼らを見て笑いながら、イリマは「正解ですが、もっと初歩的な事ですよ」と不敵に笑う。

 

 

「答えはタイプ相性です。みずはほのおに強いです。ほのおはくさに強いです。くさはみずに強いです。タイプです、相性です。……トレーナーはこのタイプ相性をちゃんと考えてポケモンバトルを組み立てなければならない。勿論、それが絶対という訳ではないですけども」

 リアを横目で見てそう言って、彼はこう続けた。

 

「しかし、やはり基本はタイプ相性。ただ、この世界にはノーマルタイプと呼ばれるタイプ相性に殆ど関わらないポケモンがいるのをご存知ですか?」

「弱点のタイプが一つしかなくて、効果なしも一つ、効果いまひとつも一つ、ばつぐんはなし。ノーマルタイプのポケモン以上に戦う時にどの技を使えば良いかが難しいポケモンは居ない」

「その通りです」

 クリスの答えにイリマは満足そうに頷く。

 

 

 この洞窟に主に生息するポケモンはノーマルタイプのポケモン達だ。

 そんなノーマルタイプのポケモン達とどう戦うか。そしてそれ以上に───

 

 

「この洞窟にはぬしと呼ばれるポケモンが住んでいます。普通の野生のポケモンよりも遥かに強大な敵にどう立ち向かうか」

 ───それを試されるのだ。

 

 

 

 

 

「アシマリ、みずて───ごめん! はたく!!」

 疲労が出て来たのか、洞窟の出口付近でシルヴィは息を切らしながら指示を出す。

 反応が遅れた指示に、さらに反応が遅れてアシマリが動き出した。

 

「うぁ?!」

 しかし、アシマリの反撃が間に合わずにシルヴィはヤングースのたいあたりで吹き飛ばされて地面を転がる。

 腹部を抑えながら立ち上がった彼女が見たのは、ヤングースに攻撃されているアシマリだった。

 

 

「しま───っ、あ、アシマリ!」

 地面を蹴って、アシマリの小さな身体を奪うように抱いて連れ去る。

 そんな彼女をヤングースは執拗に追いかけた。

 

 

「はぁっ……はぁ、や、やばっ」

 逃げるように奥に進むと、行き止まり───というよりは慎重に渡らなければ危険な橋に辿り着く。

 追いついて来たヤングースはどのタイミングで彼女達を襲おうかと姿勢を低く出方を伺っていた。

 

 

 そのまま橋を渡ろうとすれば、背後からヤングースに襲われて谷の下に落ちてしまうだろう。

 

 

「アシマリ、いける?」

 抱き抱えたまま問い掛けると、アシマリは強く頷いて地面に降りた。

 

 これまでの攻撃は奇襲へのカウンターであり、今はそれが通じない。

 正面からの真剣なポケモンバトル。アシマリはシルヴィの前に出て、指示を待つ。

 

 

「まずは相手を動かす。アシマリ、みずてっぽう!」

 指示の直後、アシマリはヤングースに向けて水流を放った。

 

 しかし出方を伺っていたヤングースはすぐにそれを交わして、回り込みながらアシマリに向かっていく。

 

 

「来る?! いや、まだ……」

 ポケモンバトルはトレーナーの指示が大切だ。

 

 その指示一つで、戦っているポケモンは勝ちもするし負けもする。

 怪我だってするし、させる。

 

 

「引きつけて───」

 タイミングを見計らって───

 

 

 

「───アシマリ、はたく!」

 振り上げられた手のひらがたいあたりを仕掛けてきたヤングースに直撃した。

 

「みずてっぽう!」

 そのまま地面を転がったヤングースが起き上がると同時に、水流がその身体を襲う。

 ヤングースは眼を回してそのまま地面に倒れ込んだ。どうやら戦闘不能らしい。

 

 

「ふぅ……。ありがとう、アシマリ」

「アゥッ! ……ウァ?」

 シルヴィのお礼に答えるアシマリだが、当の彼女は橋ではなく倒れたヤングースの元に向かっていく。

 そんな彼女を見てアシマリは首を横に傾けた。

 

 

「ごめんねー。住処を荒らして。ちょっと通るだけだから、許して欲しいなって」

 そう言って、彼女は倒れているヤングースの脇にきのみを置く。

 

 ショッピングモールで見たヤングースの姿が重なって、シルヴィは少しだけその場で視線を落とした。

 

 

「……強くならなくちゃいけないよね」

 立ち上がって、橋を渡る。

 

 

 洞窟の出口に辿り着くと、日の光が差し込んで彼女は少し眼を細めた。

 

 

「アレが祭壇かな?」

 出口には広々とした空間が広がっていて、その中央には何やら小さな石が飾ってある祭壇が建っている。

 周りを岩や木に囲まれてはいるが、日の光を遮る物はない不思議な空間だった。

 

 

「あそこにあるのがZクリスタル……?」

「アゥッ!」

 近付こうと足を前に出そうとすると、アシマリがそんな彼女の前に飛び出す。

 何かを威嚇するような鳴き声。同時に当たりの岩陰や木の上から、五匹のヤングースが現れて彼女達を囲んだ。

 

 

「嘘ぉ?!」

 後ずさりするも、後ろにもヤングース。右も左も正面もヤングース。

 

 冷や汗を流しながら、シルヴィはしかし冷静に腰のモンスターボールに手を伸ばす。

 

 

「なんとかするしかない……っ。デデンネ、クチートお願い!」

 ボールから出てきたデデンネとクチート、そしてアシマリで三角形を作るシルヴィ。

 全員で周りを見て背中を預かるのだが、三匹に指示を出すのはシルヴィ一人だった。

 

 

「デデンネ、ほっぺすりすり! クチートはかみつく!」

 デデンネが怯ませた相手に、クチートが噛み付く。

 それでヤングースは一匹逃げていくが、どれだけ視野を広くしても同時に指示を出せるのは二匹が限界だ。

 

 

「あ、アシマリはたく! デデンネ援護……って、うわこっちもぉ?! もう怒ったぞぉ……クチート、当てなくても良いから暴れちゃって!! じゃれつく攻撃!!」

 シルヴィの指示でクチートはその場を目一杯駆けながら暴れだす。

 これにはヤングース達も怯んで、一歩下がった。それを見てシルヴィは舌を巻く。

 

 

「アシマリ、周りにみずてっぽう!! デデンネ───でんきショック!!」

 次にアシマリはヤングース達の周りをみずてっぽうで濡らし───デデンネはそこに電撃を放った。

 

 電撃は水を伝って、周りを囲むヤングース全てを感電させる。

 倒れるヤングース達。三匹のポケモン達は、お互いにお互いを讃えて笑顔でじゃれついた。

 

 

「ふぅ……これで───」

 そんな三匹を微笑ましく見ていると、背後で信じられないような地鳴りがする。

 

 まるで、巨大な何かが祭壇の前に降りて来たかのような、そんな地鳴り。

 恐る恐る振り向いたシルヴィの視界に入ったのは、信じられない光景だった。

 

 

「デカ……グース?」

 ヤングースの進化系。デカグース。

 イリマとリアの戦いで、イリマが繰り出しZ技を放ったのと同種のポケモン───の、筈である。

 

 ただ、シルヴィはそれが信じられなかった。

 

 

「デカグースって進化するっけ……」

 青ざめながらそう言うシルヴィを、目の前に現れたデカグースが見下ろす(・・・・)

 彼女が青ざめるのも無理はない。そのデカグースは彼女の身長よりも身体が大きかったのだから。

 

 

「グォゥ……」

「あ、あはは……は、ハロー?」

「グァァァァァッ!!」

「わぁぁぁぁ!! 出たぁぁぁぁ!!!」

 本当の試練が幕を開ける。




ほぼ一ヶ月ぶりとなってしまいました。申し訳ありません。
ついに始まった最初の試練。初めてぬしポケモンを見た時はびっくりしましたね。

ちょっと低い評価を頂いたので、挽回できるように頑張りたいです。

ところで前日のアニメ版ポケモンは個人的に泣けました。未来コネクションがベベノムをテーマに歌われていたんだなと感慨深くてね……。本当に。
サンムーンの映画は結局なさそうですが、私はアローラ押しで頑張りたいと思います。


それでは、次回も楽しんで頂けると幸いです。感想評価お待ちしております。読了ありがとうございました!
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