今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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VSデカグース②

 地面が砕ける。

 

 巨体から繰り出される技は、通常のデカグースからは考えられないような威力でシルヴィ達を襲った。

 青ざめて後ずさるが、ここで逃げたって前には進めない。祭壇に飾られるZクリスタルを手に入れるのが目的なのだから。

 

 

「もう一度……。耐えてクチート、おねがい! てっぺき!」

 前に出たクチートは大顎をデカグースに突き出して、身体を硬質化する技───てっぺきを繰り出す。

 対するデカグースはその剛腕を持ってクチートをきりさこうと腕を振り下ろした。

 

 きりさく攻撃。

 はがねタイプのクチートには効果はいまひとつである。

 さらにてっぺきで防御を上げているにも関わらず、クチートは地面を滑る程の衝撃に表情を歪めた。

 

 しかし、なんとか持ち堪える。

 そこに僅かな隙が生まれた。

 

 

「アシマリ、みずてっぽう! デデンネ、でんきショック!」

 そこに水流を直撃させ、なおも不動のデカグースに電撃を叩きつける。

 

 範囲と威力を増した電撃だが、それでもデカグースはビクともしなかった。

 

 

「嘘ぉ?!」

「ぬしゃあっ!!」

 ついにはクチートを突き飛ばして、デカグースは高々と雄叫びを上げる。

 

 こんなポケモンにどう勝てば良いのか。全く想像も出来ない。自分達は勝てないと、その場に崩れ落ちた。

 

 

「私じゃ……何も出来ない」

 結局、いつもそう。

 

 目の前でポケモン達が苦しんでいても、ポケモンバトルで大切な友達が勝とうと頑張っていても、試練を受けようとしても、自分一人の力じゃ何も出来なかった。

 

 

「私は───」

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「───ヌシポケモン?」

「はい。ここ、茂みの洞窟には───いえ、アローラの至る所には不思議な光で身を包み強大な力を持ったポケモンが希に現れるのです」

 洞窟の外にて、イリマは淡々と所謂シルヴィの試練の相手について語る。

 

 

 その昔よりアローラ各地に伝わる、かがやきさま(・・・・・・)の力。その片鱗を受けZパワーによりその力を高めたポケモン。

 その力は、普通のポケモンが自己を強化する技を数回使ってやっと同等とされていた。

 

 

 

「そんなポケモンにシルヴィが勝てるのかぁ……?」

「今のままの彼女だけでは無理でしょう」

 半目で疑うように言うリアに、イリマはキッパリとそう言い切る。

 

 これにはクリスも怪訝そうな表情になるが、イリマは不敵に笑いながらこう続けた。

 

 

「ヌシポケモンの能力値の上昇ですが、全てにおいて強くなる訳ではありません。その能力値もポケモン其々で違います。……ここ、茂みの洞窟のヌシポケモン───デカグースは、オーラを纏い普通のデカグースよりも防御が上がっています。まず、普通の攻撃では倒せないでしょう」

 淡々の述べたイリマはその後「普通の攻撃では」ともう一度付け加える。

 

 リアは怪訝そうな表情で首を横に傾けたが、クリスは「そういう事か」と目を細めた。

 

 

「ドユコト?」

「この試練の目的、ゴール地点は?」

「奥にある祭壇に飾ってあるZクヌギダマを取ってくる事だろ?」

「いやZクリスタルだよ。なんでクヌギダマになったんだい」

「別に私は興味ないし」

 リアの返答にクリスは「あー……」と苦笑いし、一旦咳払いしてから話を進める。

 

「君は興味ないかもしれないけれど、今回取ってくるのが目的のZクリスタルは、全力の技を出す為に必要不可欠なアイテムだ」

「あの、私のニャビーのかえんほうしゃに負けた技か」

 それを聞いてイリマが苦笑いするが、クリスはそれも無視して話を続けた。

 

 

「何も、持ってくるまでその力を使ってはいけないなんてルールはない。そして全力の技ならばヌシポケモンにも攻撃が通る……そういう事ですよね?」

「エレガントな答えです。……長大な敵にどう立ち向かうか。この試練のキモはそこですから」

 しかし、それには襲い来るヌシポケモン達をいなしてZクリスタルを手に入れなければならない。

 

 

 どちらにせよ、今のシルヴィには荷が重い話だろう。

 

 

「───それでも、君は進まなきゃいけない。僕達が、君が止めようとしている奴らはそのポケモンよりも強くて……恐ろしい相手なのだから」

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「私は───」

 諦めかけたその時、彼女の目の前に三匹のポケモンが立ち塞がった。

 

 

 クチートも、デデンネも、アシマリも、まだ諦めてはいない。

 

 

「皆?!」

 デカグースがその剛腕を振るう。クチートが前に出てそれを受け止めると、残りの二匹がそれを支えた。

 

「……皆が諦めてないのに、私が諦めるなんて。トレーナー失格だよね。いや、今からでも!」

 立ち上がる。

 

 デカグースの攻撃は三匹でなら止める事が出来ていた。

 

 

 全く攻撃は歯が立たなかったが、相手の攻撃まで強い訳ではない。デカグースを抑える事は出来る。

 

 

「私は───」

 三匹とデカグースを見ながら考えた。今出来る事を───

 

 

「───私は一人じゃない!」

 ───皆と出来る事を。

 

 

「グシャァァッ」

 攻撃が通らない事にイラついたのか、デカグースは一旦距離を取って洞窟に響くような大きな鳴き声を上げる。

 それに釣られてか、ヤングースが二匹集まってきた。とてもじゃないが相手はしていられない。

 

 

「デカグースには効かなくても……っ。アシマリ、はたく! クチート、アイアンヘッド!」

 二匹は左右に別れて、デカグースの背後に現れたヤングースに攻撃───それを撃退する。

 

 背後を取られ、祭壇を気にしたのか振り向こうとしたデカグースに電撃が放たれた。デデンネの電気ショックだが、しかしデカグースには効かない。

 

 

 気にせず、デカグースは祭壇に近いクチートを攻撃しようとする。クチートは身構えるが、デカグースをさらに連続で電撃が襲った。

 

 

「デデンネ、本気見せちゃって! こっちに気を向けるよ!! いっぱいでんきショック!!」

「デネデネェ!」

 何処からか取り出したサングラスを頭に乗せて、デデンネは心なしか威力の上がった電撃をデカグースに放ち続ける。

 

 流石に無視をし続けるのも難しくなったのか、デカグースは怒りの表情で振り向いてデデンネを睨み付けた。

 一瞬怯んで動きが固まるが、それでもデデンネは効かない攻撃を続ける。

 

 

 向かってくるデカグースの迫力に怖気付きそうになるが、それで良い。今はそれしかない。

 

 

 

「で、デデネ……」

「大丈夫。私が守るから……っ!」

「グシャァァッ!」

 迫り来る剛腕からデデンネを庇うように、シルヴィは身体を丸めて地面を転がった。

 しかし、完全に攻撃を交わしきる事が出来ず、剛腕に掠められた彼女の身体は勢い良く飛んで洞窟の壁に激突する。

 

 

「───かはっ」

 背中を強く打ち、肺の空気を血と一緒に吐き出して。それでもシルヴィは心配するデデンネを下ろしながら「大丈夫」と笑顔を作った。

 

 

「むしろ、好都合……っ!」

 今デカグースは壁際にいるシルヴィ達とも祭壇の近くにいるアシマリ達とも離れた場所にいる。

 これだけの距離があれば、充分に時間は足りた。

 

 

「クチート、お願い!!」

 彼女の掛け声と同時に、クチートは祭壇に置かれていたノーマルZのクリスタルを大顎に挟む。

 そのままそれを、距離が離れているシルヴィまで正確に投げ飛ばした。

 

 

「流石、ナイスコントロール!」

 Zクリスタルを受け取って、左手のリングの窪みに嵌める。

 正直その時まで、自分がカプ・ブルルに貰ったこれにちゃんとクリスタルがハマるか半信半疑だった。

 

 

 アローラ地方に伝わる全力の攻撃。Z技。

 

 

 その攻撃なら、あのデカグースにもダメージを与えられる筈。

 布石を整えたシルヴィは一旦瞳を閉じて、イメージする。大丈夫、出来るよ。

 

 誰に言い聞かせるでもなく、自分に言い聞かせて。

 

 

 

「ぬしゃあっ!!」

 デカグースは誰に攻撃しようとする訳でもなく、警戒の雄叫びをあげた。

 甘んじてその技を受けようという意思の表れか。その身体は自然と力を溜めるアシマリの方に向けられる。

 

 

「行くよアシマリ!」

 両手を顔の前でクロスしながら、シルヴィは閉じていた瞳を開けた。

 

 そして広げた手を前に突き出し、両手が斜めに繋がるように右手を下に左手を上に広げる。

 拳を握りしめ、肘から先を自らの身体に寄せたその姿は、まるで()の文字を描く様な格好だった。

 

 

 同時にシルヴィの身体を光が包み込み、その光がアシマリに向かって行く。

 

 

 自分達の力がみなぎるのが手に取るように分かった。

 これがZパワー。ゼンリョクの力。

 

 

「私達の今あるゼンリョクで、あなたに勝つ!」

 強大な敵をしっかりと見て声を上げる。

 

 デカグースはその言葉を背中に感じながら、光を纏うアシマリを睨み付けた。

 

 

 

「これが私の───私達の!!」

「アゥァッ!」

 光が放たれる。

 

「ゼンリョクだぁぁ!!」

「アゥァァァッ!!」

 同時に、アシマリは地面を蹴った。

 

 

「ウルトラダッシュアタック!!」

 光に包まれたアシマリが、砂埃を上げてデカグースに向かって行く。

 

 避ける事もままならず、デカグースはせめて衝撃を抑えようとその場に踏ん張った。

 

 

 直撃。

 地面を大きく滑り、持ち堪えたかのように見えたがアシマリの攻撃は終わっていない。

 未だに勢いは衰えずに、デカグースはゆっくりとその脚で地面を削っていく。

 

 

「まだ! 終わってない。勝つんだ、私達は!!」

 シルヴィの言葉に押されるように、アシマリの力が増していった。彼女を包み込む光が増えていく。

 

 

「───いっけぇぇえええ!!」

「───アゥァァアアアッ!!」

 途端、デカグースは遂に耐えきれずバランスを崩した。

 

 そして勢いを増すアシマリの突進に、その巨体が宙を舞う。

 地面に叩きつけられたデカグースはそのまま目を回して起き上がる事はなかった。

 

 

 戦闘不能だ。

 

 

 

「……勝った?」

 半ば信じられないといった表情で、シルヴィとアシマリはお互いに目を合わせる。

 

 クチートとデデンネがデカグースに近寄ってその頬を突くのを見て冷や汗が吹き出たが、起き上がったデカグースが二匹を襲う事はなかった。

 

 

 

 それどころか、デカグースは二匹を称えるようにその頭を小突く。

 

 

 ここの主として、彼女達を試していたのか。少なくとも、シルヴィの目にはそう映った。

 

 

「グシャ」

 ゆっくりとシルヴィに歩み寄って、デカグースは彼女のリングに嵌められているZクリスタルを爪で器用に抜き取る。

 目を丸くするシルヴィだが、直ぐにデカグースはそれを彼女に向けて突き出した。

 

「あ、ちゃんとくれるって事……かな? 試練も突破してないのに、勝手に使ってごめんなさい……。えーと、ありがとう!」

 それを受け取って、シルヴィはその大きな身体に抱擁する。

 

 身体のサイズに負けない毛量で、その身体の触り心地はこれまでにない体験だった。

 

 

「うわっはぁ、もっふもふ。もふぅ!」

 とてもさっきまで争っていた相手とは思えない怠惰に、デカグースも困惑して頭を掻く。

 しかし満更でもないようで、頬を釣り上げるデカグースと未だにその身体に抱き付いているシルヴィを突然電撃が襲った。

 

「もぴゃぁぁっ?!」

 変な悲鳴を上げて倒れるシルヴィ。電撃は効いていないが目を丸くするデカグースの目の前で、デデンネが唾を吐く。

 

 嫉妬していたらしい。

 

 

「し、試練の途中だもんね……」

「デネデネ」

 半目でシルヴィを睨んでから、デデンネは洞窟の出口に向かって歩いていった。

 

 このZクリスタルを持って洞窟の出口に辿り着くまでが試練である。

 

 

「行こっか。クチート、アシマリ。デデンネに置いてかれちゃう。ありがとう、デカグース!」

 シルヴィはデカグースに手を振って別れの挨拶をしてから、洞窟の出口に向かった。

 

 

 

「出てきたね。あの顔なら、試練クリアかな」

 洞窟から出てきて、何故かトレーナーのシルヴィがボロボロなのを見て溜息を吐くクリス。

 しかし彼女の満足気な表情を見て呆れを通り越して安堵した彼は、歩いてくる彼女に「おかえり」と手を振る。

 

 それを横目で確認したリアは、何も言わずに町の方に歩いていった。

 

 

「どこに行くんですか? 祝って上げないのですか?」

「私は友達ごっこなんてするつもりはない。今回は試練って奴が何なのか確認したかっただけだ」

 振り向かずにそう言うリアは、片手を上げてこう続ける。

 

「どうあれ私はこの島巡りをぶっ壊すだけ。……シルヴィには、おめでとうって言っといて」

 そうとだけ言って、彼女は走ってその場を去っていった。

 

 それを確認してもシルヴィにはもう走る体力は残っていない。

 

 

「り、リアちゃん?! どこ行くの?!」

「おめでとうと、言っていましたよ」

「素直じゃない子だ……」

 呆れるクリスの横で、シルヴィは寂しそうに口を尖らせる。

 

 でも、きっと直ぐに会える筈だ。島巡りを続けていたら。

 

 

「それでは、試練突破おめでとうございますシルヴィ。島巡りでは、島にいるキャプテンが与える試練を全て突破する事で島キングとの大試練に挑戦する権利が与えられます」

 四つの島の大試練を全て制覇する事が島巡りの目的である。

 

「この島のキャプテンはボク、イリマだけ。この島の島キング、ハラさんに挑む事が出来ますよ。勿論、今日はもう遅いので帰って寝る事をお勧めしますが」

 まだ太陽は頭上に登っているが、もう時期沈んで空の色を変える時間だ。

 

 

 今日はゆっくり休んで、明日挑むもよし。もう少し己を鍛えるのもよし。

 イリマはそう言って二人を街のポケモンセンターまで送る。

 

 

 

「あれ、なんだろう? どこかで見た気が……」

 ───空を見上げると、穴が空いているような不思議な光景が広がっていた。




主人公発Z技。うまく描写出来たでしょうか。
クチートのなげつけるが伏線だったりするんですけど、気付いていた人はいるのだろうか。


さてさて、次回よりまた新しい節に入っていきます。一体一章はいつ終わるのか。


読了ありがとうございました!
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