今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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【一章六節】日没───島の神は遠吠えをあげる
カプのとおぼえ


 夕暮れ、二人のポケモントレーナーがバトルフィールドの上に立っていた。

 

 

 ここリリィタウンにはカプに捧げるバトルの為のバトルフィールドが設置されている。

 島巡りの挑戦者と島キングの戦い。今そのバトルフィールドに立っている二人も例外ではなかった。

 

 

「あんたをぶっ倒して、ぶっ壊して、島巡りがなんの意味もないって証明する」

 赤メッシュの入った黒髪をポニーテールに纏めた少女───リアは、その髪を揺らしながらモンスターボールを投げる。

 バトルフィールドに登場したポケモン───デルビルは、彼女と目を合わせてから遠吠えを上げた。

 

 

「そのやる気結構。島キングとして、全力で受け答えますぞ」

 対する白髪の小太りした初老の男こそメレメレ島の島キング───ハラである。

 

 ラフな格好に黄色い法被を着た彼は、空手のポーズを取りながらモンスターボールを一つ投げた。

 

 

 バトルフィールドに降り立つ巨体。

 自身の顔よりも大きな平手が特徴的なつっぱりポケモン───ハリテヤマ。

 

 

 デルビルとの体格差はさる事ながら、あくタイプを持つデルビルはかくとうタイプを持つハリテヤマと相性最悪である。

 それでもリアは自分の勝利を疑っていなかった。

 

 

 

「確かに相性が良い訳じゃないけど、ほのおが効かない訳じゃない。私達にはとっておきがあるからな」

 そのとっておき(・・・・・)をいつ使うか。自己分析ではそこに勝敗のカギが眠っている。

 

 

「先行は譲りましょうかな」

「それじゃ遠慮なく。……デルビル! かえんほうしゃ!!」

 紅蓮の炎が、ハリテヤマを包み込んだ。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 半目で空を見上げながら、一人の青年が溜め息を吐く。

 これから何が起こるか、自分がすべき事とやらなければいけない事を比べて視線を逸らした。

 

 

「ライルくーん、お仕事分かってる〜?」

「そこら辺は問題ねーっすよ。姉さんから貰ったポケモンも居るし」

 人差し指の上でモンスターボールを回しながらそう言う黒髪の青年は、振り向かずに立ち上がって歩き出す。その先にあるのはリリィタウンの奥───マハロ山道だ。

 

 

「でも、本当に良かったんすか? このポケモン貰っちゃって」

「ライルくんなら大切にしてくれると思うし、私は手持ちが複雑だからさ〜。うん、大切にしてね!」

「へいへい」

「それじゃ、私の仕事は終わったし。別のお仕事に向かうから後は宜しくね───二人共」

 片手を上げる青年の後ろで一人の少女がそう言う。

 

 その言葉を皮切りに、一人その場に座っていた男も不敵に笑いながら立ち上がった。

 

 

「ちゃーんとカプ様を引き付けておいてくれよぉ? ライル」

「へいへい。そっちはそっちでやりすぎんなよー」

「なーに。ちょっと……溶かすだけだ」

 不敵に笑う男は、フラつきながらライルと呼ばれた青年とは別の方角へ歩き出す。

 

 それを見て青年はまた溜め息を吐いた。

 

 

「何してんだろうなぁ、俺」

 

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「これ程とは……」

 片膝を着くハリテヤマを前に、ハラは感心の溜め息を吐く。

 

 

 対するデルビルは息を荒げてはいるが、その闘志は未だに衰える事なく炎を燃やしていた。

 

 

 

「ハッ、そんなもんか」

 リアは冷や汗を流しながらそう言う。

 軽口を叩いてはいるが、内心は気が気ではなかった。

 

 数刻前。とっておき(・・・・・)の一撃を放った彼女達だが、ハリテヤマは片膝を着くに留まり倒しきる事は出来なかったのである。

 その技は炎タイプの技の中でも最高陣の威力を誇る技だが、一撃の度に自身の力が弱まっていく弱点のある技だった。

 

 正真正銘とっておきの一撃。この攻撃で倒せなければ、彼女に勝機はない。

 

 

「次の攻撃は外せないし、当てても倒せるか分からない……」

 デルビルが限界なのは彼女が一番分かっている。それでも負ける訳にはいかないし、認める訳にもいかなかった。

 

 

「私からお兄ちゃんを奪った島巡りを認める訳にはいかないんだ」

 その気持ちも、デルビルが一番知っている。

 

 デルビルは遠吠えを上げて口から炎を漏らした。

 

 

「気合もよし。ポケモンとの連携もよし。正直何も言うところがありませんな。……しかし、一歩届かなかった」

「強がり言ってんじゃねーよ。ハリテヤマだって虫の息だ。次の攻撃で決める!」

「───だからこそ、わしもゼンリョクで相手をするべきでしょう。受け止めてみなさい!」

 ハラが突き上げた拳が光る。Z技の構えだと直ぐに分かった。

 

 

「やっべ───」

 身構える。瞬時に頭に過るのは、攻撃を避けるか迎え撃つかだ。

 

 攻撃を避けようにも、Z技がそんなに甘い攻撃でない事は知っている。

 迎え撃つにしても、その一撃で倒さなければ倒されるのはこちらだった。

 

 

 万事休すか?

 

 

 そう思ったその時───

 

 

 

「───コケァァァァァッ!!!」

 マハロ山道の奥から甲高い咆哮が鳴り響く。

 

 

 バトルをしていた二人と二匹だけでなく、観客やリリィタウンの村人達もその鳴き声に釘付けになった。

 特に島キング(ハラ)は目を見開いて、マハロ山道の奥を見る。

 

 

「まさか……カプ?」

 バトルから意識を逸らし、信じられないというような声をもらすハラ。

 マハロ山道の奥地には、このメレメレ島の守り神と呼ばれているポケモンの為の遺跡が点在していた。

 

 

 戦の遺跡。

 それがこのメレメレ島の守り神───カプ・コケコの為の遺跡である。

 

 

「よそ見してんじゃねぇ! デルビル、オーバ───」

「ハリテヤマ、ストーンエッジ!」

「な?!」

 攻撃しようと身構えたデルビルを、下から岩盤が突き上げた。

 

 そのまま地面に転がるデルビル。まだやれると立ち上がるが、足をくじいて倒れてしまう。

 

 

「デルビル!」

「ウガゥ……ッ」

 ただ、それでもデルビルは立ち上がった。負ける訳にはいかないと、ハリテヤマを睨み付ける。

 

 

「申し訳ない。この試合、預けさせてもらう事は出来ませんかな」

 ただ、ハリテヤマをボールに戻したハラは彼女達の前に歩いてきてそう言った。

 

 

「は? に、逃げんのかお前!」

「実質的には逃げると同じでしょうな。しかし、島キングとしてアレを見過ごす訳にもいかない」

 そう言いながらハラが指差したのは、戦の遺跡───ではなく、ハウオリシティ全体から上がる黒煙。

 

 街が燃えている。

 

 

 

「な、なんだアレ?!」

「何が起きたかは分かりませんが、カプが反応する程の何かが起きている。……バトルから逃げる卑怯者と罵って貰って結構。しかし、島キングとして───」

「バカかお前。島キングとか大試練とかどうでもいいだろ。街の人達が危険な目にあってんなら助けるのが当たり前だ!」

 リアは真剣な表情でそう言うと、デルビルをモンスターボールに戻した。

 

 

「私も行く」

「なんと。……頼もしい限りですな。この騒動が落ち着いたら、改めて大試練と参りましょうか」

「ハッ、決着は後回しにしてやるよ」

 そうは言いつつも、リアは冷や汗を拭う。

 

 もしかしたらあのままバトルを続けていたら、自分は負けていたかもしれない。

 そんな不安が頭を過ぎった。

 

 

 ただ、彼女は両頬を叩いて直ぐに頭を切り替える。

 

 

「私達スカル団が壊す筈の街に手を付けやがってるのは何者だ!」

 ハウオリシティから上がる黒煙はどう見ても異常な光景だった。

 

 

「その格好、やはり……」

「どうしたおっちゃん。早く行かないと」

「むむ、少しまたれよ。わしはカプの遺跡の方も気になっておりましてな」

 ハウオリシティを見ながらも、横目でリリィタウンの奥に視線を送るハラ。

 街の人々の安否も大切だが、島キングとしてあの異様な鳴き声を無視する事も難しい。

 

 そんな葛藤に頭を悩ましていると、村の入り口の方から一人の青年が現れる。

 

 

「ハラさん!」

「む、イリマ君。……何が起きているか知っている様子ですな」

「げ、エレガント野郎」

 ハラの元に焦った様子で現れたのは、この島のキャプテンを務める青年───イリマだった。

 

 彼は息を整えながら、居合わせたリアを見て「せっかち過ぎないですか……?」と呆れた声を出す。

 

 

「うるさいやい」

「その調子だとバトルは終わっていないかお預けって所でしょうね。しかし、今は緊急事態なので我慢して貰えると助かります」

「わ、わかってるよそのくらい……」

 口を尖らせて目をそらすリアを見て笑顔を見せるイリマだが、彼は直ぐに真剣な表情を見せハラに向き直った。

 

 

「ハウオリシティにウルトラビーストが現れました。あの時メレメレ島に現れたのと同じ種類です」

「マッシブーン……ですな。しかし、どうして……」

「分かりません……」

 イリマがここに来たのは、突如ハウオリシティに現れたウルトラビーストへの対応を求める為である。

 

 しかし彼自身も、そしてハラも気になったのはつい先程マハロ山道の奥から聞こえた鳴き声だった。

 

 

「今、街は警官隊の人達に任せていますが……。正直、ボクの手にはおえないと判断しました」

 イリマとしても唇を噛む気持ちだが、それは冷静な判断である。

 

 今の街の光景を見れば、誰もが思う事だ。

 

 

 

 ───あの化け物には勝てない。

 

 

「島キングの力をお借りしたい」

「……分かりました。ではイリマ君。君には戦の遺跡に行って貰いましょうかな」

 ハラは冷や汗を流しながらも、真剣な表情でそう言う。

 

「わしがあのウルトラビーストと戦った時、カプの力がなければ勝つのは難しかったかもしれない。君に、わしの命運を託しましょう」

「ハラさん……。分かりました。このイリマ、ゼンリョクでカプをあなたの元に」

 そう言うと、イリマはリリィタウンの奥に走っていった。

 

 リアは首を横に傾けるが、今は疑問に思っている暇はない。

 

 

「神頼みなんて情けねぇぞおっさん。なんかヤバいのが現れたなら、そいつをぶっ壊しておしまいだ」

「ふふ、君はやはり彼の下にいたのですな。悪い所も受け継いでいるが───良い所も受け継いでいる」

「何言ってんの……」

 ハラは弟子(・・)のことを思い出しながら不敵に笑う。

 

 彼女といると元気が出た。何故だろうか。

 

 

「それでは、参りましょうかな。島キング、ハラが相手しますぞ!」

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 現象に対して原因は二種類に分ける事が出来る。

 人工的か、そうでないか。ただその二つだ。

 

 

 どちらにせよ、今は目の前の現状をなんとかするしかないとクリスは唇を噛む。

 

 

 

 それはシルヴィ達が試練を終えて、ハウオリシティに戻ってきた時の事。

 

 突如爆煙が上がり、現場に駆けつけた彼等の視界に移ったのは粉々に粉砕された大量の車だった。

 

 

 

「な、何が起きているんですか……」

 目を見開くイリマは周りを見渡す。大勢の怪我人と倒れているポケモン達。まるで悪夢のような光景に、膝を落としそうになった。

 

「R団か……? いや、今こんな事をするメリットが奴等にあるとは考えられない」

 人もポケモンも物も、無差別に傷付ける行為は確かに彼等のやり口にも似ている。

 しかしクリスにはこの惨状がR団の手による物だとは思えなかった。

 

 

 

 理由としては二つ。

 

 一つは───もしR団の目的がハウオリシティを襲う事なら、ショッピングモールでウルトラホールを開いた時モールを閉鎖せずにウツロイドを街に放てば良かっただけという事。

 

 もう一つは───目に見えて広大な範囲が被害を受けているのに対して、実行犯が視界に映らないという事。実行犯がR団だとしたら、今頃街はR団員だらけになっている筈。

 

 

 

「自然災害だとすると、ポケモンか……?」

「み、見てクリス君! あれ!」

 唐突に民家を指差すシルヴィに釣られて視線を動かすクリス。

 その先では、一軒家をまるごと基礎部分から引き抜き持ち上げる何か(・・)が、高々と持ち上げた民家を地面に叩きつけていた。

 

 

「な、なにあれ?!」

「UB02───EXPANSION(イクスパンション)?!」

 全体的に赤い体色に、人一人分の大きさの剛腕。四本の足に羽と、針状の特徴的な口を持つその存在。

 

 

 ウルトラビースト───マッシブーン。

 

 

 見た事も聞いた事もない異様な姿のそのポケモンを見て、シルヴィはショッピングモールでの出来事を思い出す。

 

 

「ウルトラビースト……?」

 目が合ったような気がした。

 

 どこか楽しげな、陽気な───

 

 

「危ない!!」

 マッシブーンはその剛腕を振りながら彼女達に近付いてくる。イリマが叫ぶが早いか、その剛腕を受け止めたのはフライゴンのドラゴンクローだった。

 

 

「フライゴン?!」

「フラィ……ッ!!」

 歯ぎしりをしながらも、なんとかマッシブーンを弾くフライゴン。

 

 等のマッシブーンは余裕綽々と、その剛腕の筋肉を見せ付けるように力拳を作る。

 

 

「み、見えなかった……」

「ありがとうフライゴン。ごめんね」

 腰を抜かしそうになるクリスの隣でフライゴンにお礼を言ってから謝るシルヴィ。

 

 自分はフライゴンのトレーナーではない。

 だけど、傷が治るまでは世話をするんだと決めていたのに───手伝って貰ったり、助けて貰ったりばかりだ。

 

 

「この島のキャプテンとして見逃す訳にはいけません……。デカグース、ひっさつまえば!」

 二人の前に立ってボールを投げるイリマは、ボールから出てきたデカグースにそのまま指示を出す。

 

 高速でマッシブーンの懐に飛び込んだデカグースはしかし、その剛腕の一振りで民家に激突させられた。

 

 

「な……っ?! デカグース!」

「嘘……」

 悲鳴と黒煙が上がる街の中心で、マッシブーンは叫びながらその剛腕を周りに見せ付ける。

 

 周りの人もポケモンも逃げ出すばかりだ。

 

 

「強力な奴だとは聞いていたけど、ここまでとは……。ロトム、アイツの情報を」

「へい相棒。了解ロト。───マッシブーン。ぼうちょうポケモン。むし、かくとうタイプ。それ以上のデータなし」

 見た目通りのタイプに苦笑いするクリスだが、イリマのポケモンはノーマルタイプが殆どという事を思い出す。

 

 いくらキャプテンといえど、強力なウルトラビースト相手にタイプ相性を覆すのは難しい。

 

 

 一方で自分のポケモン達の事を考えて、クリスは今やるべき事を頭の中で纏めた。

 

 

 

「イリマさん、島キングを呼んできて貰えませんか? ここは僕がなんとかします」

「え、君が……?」

「腐っても国際警察ですから」

 不敵な笑みを見せるクリスに、イリマは驚いた顔を見せるが直ぐに表情を引き締める。

 デカグースをボールに戻し、彼はリリィタウンへ続く道に走った。

 

 

「わ、私はどうしたら良い?」

「手伝って欲しいって気持ちはあるけれど、君の手持ちは今試練の後で疲れてるだろう?」

 マッシブーンの動向から目を離さずに、クリスはシルヴィにそう言う。

 

 実際デデンネ辺りの力が欲しかった所だが、そこで彼女達に無理をさせたくはなかった。

 

 

「君はフライゴンの支えになって欲しい。正直言って僕だけじゃ頼りないから彼の力は借りたいのだけど、一応野生のポケモンだからね」

 マッシブーンに向けて闘志を燃やし、その巨体を睨み付けるフライゴンを見ながらクリスはそう言う。

 

 さっきのマッシブーンの攻撃を受け止めた姿を見るに、このフライゴンはやはり相当な力の持ち主だ。

 今はどうしても人手───いや、ポケモン手が欲しい。

 

 

「分かった。フライゴン、私がいるから大丈夫だよ!」

「フラィ……」

 その声が聞こえているのか聞こえていないのか、傷付いた翼を揺らしながらフライゴンはドラゴンクローを展開する。

 

 

「いけ、ニダンギル!」

 クリスもニダンギルをボールから出して、少しずつ間合いを詰めた。

 

 

 

「───強大な相手にどう立ち向かうか、か」




新節突入。またほのぼのから遠ざかって行くぅ!!

やっと色々な人が動き出します。勿論ゲームオリジナルのキャラも大活躍!ハラにイリマにあの人まで。是非ご期待ください。
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