今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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きあいだめのアスレチック大会

 街を歩くとやはり災害の跡が目立つ。

 しかし、ポケモン達と協力して建物の修理をする人々の姿は活気に満ち溢れていた。

 

「大試練への意気込みはありますか?」

「気合い!」

 イリマの質問にそう答えるシルヴィを見て、クリスは頭を抱える。もう少しだけ頭で考えて欲しい、と苦笑いをした。

 

 

 街を歩く三人のトレーナーと、ボールから出ているのはクリスのゲンガーとロトム図鑑。イリマのイーブイ。シルヴィのマネネ、そしてフライゴン。

 アローラでは少し珍しい顔ぶれに、道行く人の視線は自然と三人に集まっていく。

 

 

「気合い充分、ですね。勿論気合いだけではバトルに勝つ事は出来ませんが、気合いはとても大切です」

 まるで学校の講師のようにそう語るイリマは、「しかし」と続けて片目で一匹のポケモンを見た。

 

「街の厄介者だったあのマネネが、今はシルヴィ君のパートナーですか。キャプテンとしては感慨深いものですね」

「マネネは確かにやんちゃな所もありますけど、本当は優しいんです。よく私のデデンネと喧嘩するんですけどね……」

 あはは、苦笑いしながらそう言うシルヴィ。

 

 初めてあった時の事もあってか、彼女のデデンネのマネネは結構な頻度で衝突する。ここを改善するのも彼女の目下の課題だ。

 

 

「同じ仲間のポケモン同士なのですから、直ぐに仲良くなりますよ」

 イリマのそんな言葉にシルヴィは「そう……ですかねぇ?」と普段の二匹の姿を思い返しながら首を横に傾ける。

 

 目を合わせれば味を占めたようにデデンネに悪戯をするマネネ、そして簡単に引っかかって激怒するデデンネ。

 仲良くなる未来が見えなくて、シルヴィは小さく溜め息を吐いた。

 

 

 

「着きました。ポケモンスクールにようこそ。今日は復興を応援する為に、アスレチック大会を開いているのですよ。大試練前のきあいだめには丁度良いかもしれませんね」

 二人の前に立って学校に両手を向けるイリマ。

 

 ポケモンスクールのグラウンドは沢山の人々とポケモン達で賑わっていて、何やらお祭り騒ぎの様子である。

 

 

「アスレチック大会……?」

 再び首を横に傾けるシルヴィ。その横でグラウンドを観察していたクリスは、納得したように「なるほど」と声を漏らした。

 

 

 グラウンドには様々なアスレチックが用意してあり、ポケモントレーナーも多く集まっている。

 大会といってもバトルをする訳ではなく、何かを競い合う訳ではない。

 

 ポケモンと身体を動かして活力を高め、賑やかに行こうというイベントだ。穏やかなアローラ地方らしいイベントでもある。

 

 

「楽しそう!!」

 イリマから簡単な説明を聞くと、シルヴィは目を輝かせて前のめりにクリスに詰め寄った。

 

「そ、そうか。息抜きには良いかもね。君は身体を動かす方が得意そ───」

「クリス君も出よ!!」

「───ぇ、ちょ、待」

 クリスが言い切る前に彼の手を掴んで走るシルヴィ。直ぐに戻ってきて、イリマに「受付どこですか?!」と答えを聞くと彼女はクリスを引っ張ったまま走り去ってしまう。

 

 目を回すクリスを眺めながら、イリマは「元気で何よりですね」と微笑ましく笑った。

 

 

 戻ってきたクリスが青ざめていたのは言うまでもない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 マイク音が響く。

 ポケモンスクールのグラウンド。その真ん中で、一人の女性がマイク片手に人々の注目を集めていた。

 

 

「ようこそ、アスレチック大会へ〜。司会進行はこの私、アローラの新生アイドルカガミちゃんが務めちゃうよ〜!」

 何処かで見たことのあるアイドルがそう言うと、大会参加者達は大いに盛り上がって声を上げる。

 

 そんな彼女を見てクリスは顎に手を当てた。ショッピングモールの事件で、ステージで開いたウルトラホール───

 

 

「カガミちゃんだー! 見て見てクリス君、カガミちゃん!」

「ぇ、ぁ、うん。ぇ、ファンなの?」

 少し考えていたところでシルヴィに話しかけられて、クリスはそんな疑問を投げかける。彼女はアローラに来てそこまで日数も経っていない筈だが。

 

「昨日ラジオ聞いててファンになった!」

 ガッツポーズを取りながらそう言うシルヴィ。女の子らしいなぁ、と素直な感想が漏れた。

 

 

 カガミというアイドルの脇には姿の違うライチュウ二匹が並んでいて、彼女のサポートをしている。

 アローラ地方特有のリージョンフォームが存在するライチュウだが、アローラの姿のライチュウと通常のライチュウが並んでいるのが印象的だった。

 

 

「大会の〜、目的は簡単! 街の復興を盛り上げるための、ポケモン達とのアスレチック大会だよ〜! それぞれ四つのステージ全てを初めにクリアした人にはなんと! このエスパーZのクリスタルが授与されまーす!」

 カガミのその言葉に、会場はどよめきと拍手に盛り上がる。

 

 Zクリスタルは貴重な物だと思っていたシルヴィ達は、そんな事で手に入れられて良いのだろうか? と首を横に傾けた。

 

 

「このアスレチック大会は並の覚悟では全ステージクリアは不可能ですよ」

 二人に向けて不敵な笑みでそう漏らすイリマ。

 

 彼はこのアスレチック大会の主催と協力してアスレチックの監修にも関わっている。

 シルヴィ達の思っている通り、Zクリスタルは貴重な物だ。そんな物を景品に出来るほど、このアスレチック大会は険しい物なのだ。

 

 

「ルールは簡単。本日二十二時までに一番初めに四つ全てのアスレチックをクリアした人が優勝だよ〜ん! 各アスレチック毎に係りの人が居るから〜、その人に従ってね! あと、小さなお子様は二十時までにお家に帰るよ〜に!! それでは、大会スタートだよ〜!!」

 カガミの合図で大会参加者達は喝采と喧騒を漏らす。アスレチック大会スタートだ。

 

 

「エスパーZだってー!」

「マネネはエスパータイプの攻撃技を覚えてないけど、ものまねであらかじめエスパータイプの技を使えるようにしておけば大試練でエスパーZが使える。これは是非ゲットしておきたいね」

 それにリフレクターやひかりのかべはエスパータイプの技である。イリマの言うとおりなら、このようなサポート技もZ技として出す事が出来る筈だ。

 

 何はともあれ、エスパーZは彼女にとって必要なものになるだろう。

 

 

「悪は急げ、だっけ? 早くクリアしなきゃ!」

「善は急げだよ……それに使い方も間違って───聞いてないな。ちょっと、待ってくれシルヴィ。僕も参加するのかこれ?!」

 焦った様子でシルヴィを追い掛けるクリスの姿を、ステージの上からカガミは細目で見ていた。

 そうして表情を歪めて苦笑いを漏らし、彼女はこう漏らす。

 

 

「な、なんであの国際警察がここに居るの〜っ。も〜」

 完全に脱力しきって椅子に座ったカガミは「ま、いっか〜。バレてなさそうだし」と用意されていた飲み物を飲み干した。

 

 

「……お手並み拝見、かな〜」

 視線を向けた先では、シルヴィとクリスが一つ目のアスレチックに挑戦しようとしている。

 R団のボスの娘と、R団を追い掛ける国際警察の男。中々面白い組み合わせだ。

 

 

 

「アスレチックBにようこそ。参加でよろしいですか?」

「はい! クリス君も!」

 係員の男性に元気に返事をしたシルヴィは、男性から水が沢山入った紙コップを手渡される。

 

「僕もやるのか……」

「頑張るロト、相棒」

 ケケッと笑う自分のポケモン二匹をジト目で見ながら、クリスも係員の男性から紙コップを受け取った。

 一見普通の水だが、なんの理由があるのか。

 

 

「飲んで良いんですか?」

「カントーのハナダシティ郊外を流れる川のおいしいみずだよ。飲む前に、このアトラクションのルールを説明しようか」

 そう言って、男性はアトラクションに両手を向ける。

 

 その先にあるのは長さ五十メートルにも及ぶ細長いプールと、その真ん中に貼られた一本の橋だった。綱渡り───というか橋渡りという事だろうが、距離が長く難易度はかなり高いだろう。

 

 平均台というと分かりやすいかもしれない。

 

 

「ルールは簡単。その手に持ったコップの水を溢さずに、五十メートルの橋渡りをポケモン一匹と一緒に成功させればクリアだよ! コップの水を半分以上こぼしてしまうか、プールに落ちてしまったらチャレンジは失敗だ。あ、ポケモンは飛んだり浮いたりしたらダメだからね」

 フライゴンやロトム図鑑を見ながらそう言う係員。

 

 フライゴンは怪我で飛べないのだが、そもそもシルヴィのポケモンでもない。

 

 

「あ、えーと。フライゴンは私のポケモンじゃなくて……」

「手持ちのポケモンじゃなくて大丈夫。人とポケモンの関係はトレーナーとその持ち主、だけではないからね」

 係員の人がそう言ってアスレチックに目を向けると、年幅もいかない少年がヤングースと一緒にアスレチックに参加している姿が見えた。

 

 

 流石にポケモントレーナーではないだろう。少年の両親と思われる二人がヤングースと少年の名前を呼んで応援している事から察するに、そういうこと(家族)なのだ。

 

 

 ポケモントレーナーだけがポケモンと接している訳ではない。この世界の不思議な生き物。ポケモンは、人々と共にこの世界で生きている、人間と同じ生き物なのだから。

 

 

「なるほど……。フライゴン、一緒にやらない?」

「フラ……?」

「え、シルヴィ、綱渡りだよ? 橋渡りか? いやどうでも良いけど、綱渡りが何か知ってる?」

 挑戦中の少年がヤングースとプールに落ちるのを見ながらクリスは引き攣った表情でそう言葉を漏らす。

 プールに落ちた少年はヤングースと笑いあっていて、成る程ポケモンと楽しむ為のアスレチックだと言う事は分かったのだが。

 

 

「フラァ……」

「大丈夫、あなたは強いから!」

「いやそういう問題じゃないと思うよ」

 流石に大型のポケモンであるフライゴンと橋渡りをしようというのは、無謀だとしか思えなかった。

 フライゴンも意味を理解しているので冷や汗と苦笑いを漏らしている。当人のシルヴィは息を漏らして「大丈夫」の一点張りだが。

 

 

「それじゃ、フライゴンにもどうぞ」

 係員の男性は紙コップをフライゴンに渡して、二人をアトラクションの前に誘った。

 もうこうなっては止める手段はないが、クリスは頭を抱えて溜息を吐く。

 

 細い橋は体重の重いポケモンが乗ったら揺れが大きくなるし、ポケモンのバランスも考えて小型のポケモンと参加した方が成功率は高くなる筈だ。

 シルヴィが何を考えているのか分からない。

 

 

「よーし、それじゃあ行こう!」

 そう言いながらフライゴンの背中を押すシルヴィ。フライゴンは苦笑いしながら細い橋の上に脚を乗せる。

 

 橋は大きく歪むが、とても頑丈な素材で出来ているのか折れるような気配はなかった。

 フライゴンが少し進むと、シルヴィがゆっくりと着いていく。両手を広げて歩く彼女のバランス感覚は良好だ。

 

 しかし、フライゴンが一歩歩く度に橋は大きく揺れてシルヴィは両手をパタパタと揺らしながら「うぉぉぉ?!」と悲鳴をあげる。

 

 

「ほら見たことか……」

「でも結構順調ロト」

 ジト目でそんな光景を見ていたクリスだが、ロトムの言う通りフライゴンとシルヴィは既に橋の半分まで到着していた。

 勿論、橋の中心という事もあって今が一番橋が揺れる場所である。

 

 しかしシルヴィは持ち前の運動神経とバランス感覚で、フライゴンが歩いて揺れる橋から落ちずにコップの水も溢さない。

 

 

 観客からは歓声が湧き、余裕があるのかシルヴィはピースサインで答えていた。

 

 

 

「あの子は本当に人間なのか……」

「ビビッ、ボクの図鑑に登録するロト?」

「冗談だよ……。冗談じゃないけど」

 唖然とするクリスだが、そんな彼の気持ちに関係なくシルヴィは順調に橋を進んで行く。

 

 もう少しでゴールのいう所で、しかし───フライゴンが橋を渡りきった瞬間だった。

 フライゴンの重量から解放された橋は突然大きく反り返って揺れる。シルヴィは「うわぁ?!」と悲鳴をあげながらその足を滑らせた。

 

 

 クリス含め、観客全員が目を閉じる。

 ダメだったか。そう思って瞳を開いた視線の先にあったのは、想像だにしていない光景だった。

 

 

「……フラァ」

「……っ、フライゴン!」

 落ちそうになったシルヴィの手を、冷や汗をかきながらフライゴンが掴んでいる。

 なんとかプールに落ちる前に助かっているし、コップもちゃんと手に持っているので係員的にはセーフだったらしい。あれでちゃんとコップの水を溢さなかったシルヴィも凄いが。

 

 フライゴンに持ち上げられたシルヴィに係員が駆け寄ってその手を挙げた。

 そして係員の「クリアです!」の一言に観客は大いに賑わって拍手を上げる。

 

 

「良いのか、アレ」

「ポケモンと遊ぶ事が目的のアスレチックですから。むしろ、アレで正解です」

 突然後ろから現れたイリマのそんな言葉に、クリスは「なるほど」と納得した。

 

 ただ挑戦者の運動神経を試すためのアスレチックではない。挑戦者の、人とポケモンの絆を試す試練のようなものなのだろう。

 

 

「キミは挑戦しないのですか?」

「……僕は腐っても国際警察ですよ」

 ジト目でそういうクリスはしかし、モンスターボールを一つ取り出しながら不敵に笑った。

 

 

「この程度、朝飯前だ」

 ボールから出てきたモクローを肩に乗せて、クリスは係員の男性に参加の意思を伝える。

 

「あー……負けず嫌いなんですかね」

「相棒は結構負けず嫌いロト」

「そこ聞こえてるからね」

 少し顔を赤くしながらも、クリスはモクローと一緒に紙コップを持ちながら橋の上を歩いた。

 体力には自信がないが五十メートルの綱渡りなんて、国際警察ならもっと過酷な状況も想定しなければならない。

 

 体重の軽いモクローと共に悠々と危なげなく歩く姿は中々さまになっている。

 

 

「彼も中々やりますねぇ」

「当然ロト。相棒は運動神経以外は成績優秀だったロト!」

 

「そこ聞こえてるからね!!」

 

「そして地獄耳ロト」

「凄いですねぇ……」

 平然と橋渡りをクリアするクリスに歓声が湧いて、観客達は大いに盛り上がった。

 

 

 このアスレチック、常人にはクリアすら難しい。それは、次に挑戦した成人男性が簡単に失敗した事からも伺える。

 

 

 

「中々やるじゃ〜ん」

 目を細めて横目でそんな光景を見ていたカガミは、不敵に笑いながら立ち上がった。

 

 

 

「クリス君もクリアだね! 余裕!」

「キミは危なかったけどね」

「私はフライゴンを信じてたから!」

「えぇ……」

「フラ……」

 残りアトラクション。三つ。




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最近ちょっと伸びてきてうれしいです。感想評価お待ちしております。
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