残りのアトラクションは三つ。
そして全てのアトラクションを一番早くクリアした者には、Zクリスタルが授与される。
「早く次に行こう!」
「まぁまぁ、少し落ち着いて下さい。このアトラクション、大切なのはポケモンとの助け合いです」
急ごうとするシルヴィに、イリマは「おいしいみずでも飲んで」と爽やかな笑顔で彼女を宥めた。
「さて、次ですね。多分面白いものが見れますよ」
そう言って、イリマは橋渡りのステージを見るように二人に促した。
次の挑戦者はイワンコを連れた少年。
シルヴィとクリスは何処かで見たことがあるような、と首を横に傾ける。
彼はポケモンスクールの生徒で、リアがイリマと戦う前にバトルをした少年だった。イリマとリアのバトルの時に、審判をしていたのも彼なので見覚えがあったのだろう。
少年はイワンコが橋の上に乗ると、その後ろにピッタリと付いて深く息を吸った。
そして一度目を閉じて、強く開く。
「行くぞイワンコ!」
「アゥッ!」
少年は叫びながら両手を顔の前でクロスして、その手を広げて前に突き出した。
そのまま流れるように両手を斜めに繋がるように、右手を下に左手を上に広げる。
拳を握りしめ、肘から先を自らの体に寄せた腕はZの文字を描いた。
「Z技?!」
驚いたシルヴィがそう言うと同時に、少年とイワンコを光が包み込む。
「ウルトラダッシュアタック!」
少年はそう言いながら、イワンコの身体に背後から抱きついた。
そして、イワンコはゼンリョクの攻撃。ウルトラダッシュアタックを繰り出す。
直進するイワンコは少年を引きずりながら五十メートルの橋渡りを一瞬で終えてしまった。
「クリアです!」
「やったぜイワンコ!」
歓声が湧き上がって、少年とイワンコは抱き合って喜びを分かち合う。
そんな光景を見ながらクリスは「そんなのありか」と苦笑いをこぼした。
「このアスレチック大会のルールにポケモンの技を使ってはいけないなんて書いてありませんから」
清々しい表情でそう言うイリマ。
クリスは納得したように「なるほど……」と漏らす。
「凄い……。でも、Z技はそんなに連続では使えないから使う場所を考えないと」
「そうですね。勿論、普通の技も使って良いので、ありとあらゆる戦法を試して下さい。それでは、ボクも大会に参加するので」
爽やかな笑顔でそう言って、イリマは別のアスレチックに向かっていった。
彼が参加しているなら一位争いは厳しいものになるだろう。
シルヴィとクリスはお互い視線を合わせて頷いてから、次のアトラクションへと向かった。
☆ ☆ ☆
切り立つ壁。
次のアトラクションへ向かい、所々に凹凸のある壁が視界に入る。壁はかなり高い。
「壁登りかな」
クリスの言う通り、このアトラクションは壁登りだ。
「アトラクションCにようこそ。ルールを確認しますか?」
係員の女性にそう聞かれ、クリスとシルヴィは二人で首を縦に振る。
「ルールは簡単。ポケモンと一緒にあの二十メートルの壁を登る事が出来ればクリアです!」
係員が手を向ける先にある壁は、高さ二十メートルにも及ぶ壁だ。
その壁を登る為の凹凸も小さかったり少なかったりと、かなり安定性に欠ける。
そのうえ二十メートルも登らなければならない為、体力や精神力も試されるアスレチックだ。
「……高いね」
「あ、危なくないんですか?」
「大丈夫です。足場はモンメンのわたで出来たクッションで、さらに周りにはエスパータイプのポケモンが居て、落ちた人やポケモンを無事に着地させます!」
大会の性質上アトラクションの難易度はいずれも高く設定されているが、勿論小さな子供からお年寄りまでが楽しめるように安全には一番に力を入れている。
崖の方を見てみれば、五メートル程登ったところで落ちてしまった小さな少女とポケモンがバリヤードというポケモンに慰められて笑っていた。
「マネ、マネネ!」
「アレは……?」
それを見てマネネが指を指す。首を傾けるシルヴィの前にロトムが寄ってきて、モニターを光らせた。
「バリヤード。バリアーポケモン。エスパー、フェアリータイプ。マネネの進化系。素晴らしいパントマイムの腕前を持つ。見とれている間に、いつの間にか本当に壁ができている。感心してあげないとおうふくビンタで襲ってくる」
「あのポケモンがマネネの進化系なんだぁ、凄いね!」
ロトム図鑑の説明に興奮してマネネを抱き上げるシルヴィ。
ポケモンの進化に立ち会った事はないが、進化そのものは知っているので今からそれが楽しみになる。
「さて、どのポケモンと挑戦しますか。あ、勿論浮いたり飛んだりするポケモンはダメですからね!」
「僕はモクローかな。もう一度頼むよ」
「クルルォゥ」
そもそもクリスのポケモンは、浮いているポケモンが多いので選択肢は少ない。
敬礼するモクローと相槌を打って、クリスとモクローはもう一人の係員に連れられ崖に向かった。
「よーし、フライ───」
「フラ」
フライゴンを誘おうとしたシルヴィだが、フライゴンは流石に無理だと首を横に振る。
「あははー、デスヨネー。えーと、じゃあ……マネネ?」
「マネネ」
マネネを誘うシルヴィだが、マネネも何故か首を横に振った。
胸を張って腰に手を置くマネネは「自分はトリだ」とでも言うようである。
「よーし、それじゃ! アシマリ!」
「アゥァ?」
少し考えてから、シルヴィはモンスターボールからアシマリを出して「この子と出ます!」と崖に向かった。
それを見ながらロトムはどうしてか感じる既視感にモニターにクエスチョンマークを浮かべる。
それもその筈で、シルヴィ達とアシマリ達の出会いで一番印象深いのはあの崖での出来事だからだ。
あの時崖から落ちたアシマリを助けに飛び降りたシルヴィが、今度はアシマリと壁を登ろうとしているのは少し感慨深い。
「クリス君? 何してるの?」
壁の前まで歩いたシルヴィの前で、上を見ながら頭を捻るクリスの姿が目に映る。
「登りやすそうな所を探してるんだよ。この壁横に広いけど、壁の凹凸は場所によって違うからね」
「んーと、えーと?」
クリスの言葉にクエスチョンマークを浮かべるシルヴィ。クリスは「登っていくルートを模索してるって事」と付け足して、シルヴィは「なるほど!」と手のひらを叩いた。
「よーし、よく分かんないから私は行けそうな所に行こう!」
頭が真っ白なのか、アシマリを連れて正面の壁の凹凸に手を掛けるシルヴィ。彼女らしいので、クリスは呆れるよりも先に「流石だなぁ」と笑う。
「さて、ハーフパンツとはいえ女の子の後をついていくのは流石にね。行こうかモクロー」
シルヴィが来るまでにある程度の目星を付けていたクリスは、少しシルヴィから離れた所の凹凸に手を掛けて壁を登り始めた。
これでも国際警察の一員なので、壁登りに苦戦する事はない。モクローを肩に乗せながら難なくスムーズに進んでいく。
クリスの見立て通り、登りやすいルートだが流石に難易度が高い分普通に登っては手が凹凸に届かない場所にあった。
そこでクリスは、肩に乗っていいたモクローを肘まで移動させる。
「モクロー、つつく」
そして、クリスの指示でモクローはつつくで嘴を壁に突き刺した。
モクローはそのまま力強い脚でクリスの腕を固定して、クリスはモクローを支えに壁を登っていく。
「……ふぅ。流石に二十メートルは堪えるな。先輩なら軽く跳んでくんだろうけど」
そうして壁を登りきったクリスは、モクローを労いながら登って来た壁を見下ろした。
シルヴィの運動神経の高さは知っているのであまり心配はしていないが、中々苦戦しているようである。
「先に下に降りようかな」
時間もかかりそうなので、クリスは壁の裏側に設置された階段から壁を降りた。
クリスが降りてまた壁の正面に戻ってきた時には、シルヴィも半分ほど進んでいるが道が悪かったのか苦戦しているようである。
「どんな感じ?」
「アシマリを選んだのが失敗だったロト」
「ん?」
ロトムがそう言って、クリスは目を細めて壁に視線を向けた。
「ア、アゥァァ……」
「あ、アシマリ……大丈夫?」
半分ほど壁を登りきった所で凹凸が少なくなってきて、シルヴィはどう登ったものかと固まってしまう。
というのも、頼みのアシマリはおんぶされたまま震えてどうも何も出来ない様子だ。
元々臆病な性格なのと、彼女と出会った日の事を思い出してしまっているのだろう。
「だ、大丈夫だよアシマリ! もし落ちても下はフカフカだし、エスパータイプの皆が助けてくれるって……」
「アゥゥ……」
ついに泣き出してしまったアシマリを見て、シルヴィは「ど、どうしよう……」と表情を曇らせた。
「アレはもうダメロト」
「マネ……」
「フラ……」
諦めモードの三匹を横目で見ながら、しかしクリスは「いや……」と顎に手を向ける。
彼女はその程度で折れたりはしない。
「……。よし、分かった。私がなんとかする! 大丈夫!」
そう言ってシルヴィは、手を伸ばしても届きそうにない凹凸に一生懸命手を伸ばした。
「うぬぬぬ……っ」
足場も悪く背中に体重約七キロのポケモンを背負いながら、シルヴィは歯を食いしばって手を伸ばす。
やはり手は届かなくて。さらに足をもつれさせて彼女は悲鳴を上げながら重力に吸い込まれ───
「……っ、わ……のぉ!」
───しかし、彼女はすんでのところで右手で凹凸を掴んで落ちるのを回避した。
左手には衝撃で落ちそうになって目を閉じて震えているアシマリが抱えられている。
「大丈夫だよアシマリ。もう、絶対に離さない。一緒に無事に登り切る!」
落ちたって平気な事は、周りのチャレンジャーが次々に失敗しているので分かりきっている事だ。
だけどシルヴィは、アシマリに「絶対に離さない」と。ここから落ちる事はないと言い聞かせる。
そうしてまた少しずつ壁を登るシルヴィに、アシマリが何も感じない訳がなかった。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
手を伸ばすシルヴィの背中で、アシマリは下を向いて顔を青ざめさせる。
高さ十メートル。だけど、あの時の崖と比べればはるかに低い。
「アゥゥ……ッ」
意を決したような表情で、アシマリは真下にみずてっぽうを放った。
その反動でシルヴィの手が届きそうで届かなかった凹凸に届く。
「アシマリ?」
「アゥ……ッ!」
まだ身体が震えているのは、背中越しでもよく分かった。それでも必死な声が背中から聴こえて、シルヴィは強く頷く。
「大丈夫。行こう!」
「アゥッ!」
壁を登りきる頃には震えは止まっていた。
「危なっかしいけど、シルヴィらしいね」
残りアトラクション。二つ。
この歌詞好きです。