今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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少女はその竜となかよくする

「フライゴン……」

 個室で横になっているフライゴンに近付きながら、シルヴィは小さく言葉を落とす。

 

 

「……フラィ!」

 当のフライゴンは、声が聞こえるや起き上がって少女を睨み付けた。

 腕を構え攻撃の構えを取るフライゴンを見て、デデンネが飛び出そうとするがシルヴィはそれを制止する。

 

 

「大丈夫だよデデンネ。それに、デデンネはじめんタイプには(・・)勝てないでしょ?」

「デネェ……」

 少女の言葉を聞いて数歩下がるデデンネ。

 そんなデデンネに小さく「ありがとう」と伝えてから、シルヴィはフライゴンに向き直った。

 

 

「フライゴン、大丈夫? 無理矢理どこかに連れてかれそうになったって聞いたよ? 大丈夫、私はそんな事しないから。ね?」

 そう言いながらフライゴンに近寄る少女だが、フライゴンは爪からエネルギーを放出し、ドラゴンクローをシルヴィに向ける。

 

「危ない……っ! シルヴィちゃん下がって、キュワワー! ドレインキッスでフライゴンの体力を吸うのよ!」

「待ってください!!」

 シルヴィは声を上げてジョーイの指示を止めた。

 いつ繰り出されるか分からないドラゴンクローを前に、少女は唾を飲みながら両手を広げる。

 

 

「怖かったんだよね……。無理矢理連れて行かれるのなんて嫌だったんだよね。……あなたの住処は砂漠なんだもんね。……私は無理矢理連れてなんて行かないよ。大丈夫だよ……?」

 シルヴィはフライゴンに語りかけながら一歩ずつ、少しずつ近付いた。

 尚も威嚇を続けるフライゴンが遂に腕を振り上げる。少女は同時に地面を蹴って、フライゴンの元に飛び込んだ。

 

 

「シルヴィちゃん!」

 同時に放たれるドラゴンクロー。しかしその技は少女に当たる事はなく空気を切り裂くだけに終わる。

 フライゴンの懐に潜り込んだ少女は、その身体にしがみ付いてその動きを止めた。

 

 

「大丈夫。大丈夫だよフライゴン。怪我もちゃんと休めば治るんだよ。もう、大丈夫なんだよ……っ!」

「……っフラァ……ッ! ……フラィ!!」

 フライゴンはそんな少女の身体を掴み、壁に投げ付ける。

 機材にぶつかった少女はそれでも立ち上がって、ゆっくりフライゴンに近付いた。

 

 

「し、シルヴィちゃん! そこまでしなくて良いの! もう───」

「大丈夫!!」

 その言葉はジョーイに放ったものか、それともフライゴンに放ったものか。

 シルヴィはフライゴンの瞳を真っ直ぐに見て、フラフラする身体をゆっくりと前に進める。

 

 

 

「大丈夫だよ、フライゴン」

 そうして少女はもう一度、ゆっくりとフライゴンを抱擁した。

 驚いたような表情を見せるフライゴンは、少女の顔を見るや顔を赤らめる。

 

 何か恥ずかしい思いでも感じたのか。

 シルヴィを見下ろすフライゴンは恥ずかしそうに彼女から眼を逸らした。

 

 

「落ち着かせた……?」

「……大丈夫そうです。ちょっと怖がってただけなんだよね、怪我はもう殆ど治って───っと」

 振り向く少女は投げられた時の痛みが効いたのか、バランスを崩しそうになるがフライゴンがそれを支える。

 

「フラィ……」

「あ、あはは……大丈夫大丈夫。フライゴンのせいじゃないよ」

 申し訳なさそうな表情をするフライゴンに、少女は全身を動かして自分は大丈夫だとアピールした。

 その動きが奇妙でおかしかったのか、フライゴンは少し笑顔を見せる。

 

 

「えっへへ……」

 そんな少女に駆け寄るクチートとデデンネを抱いて、シルヴィはフライゴンやジョーイに笑顔を見せた。

 周りを安心させる事が得意なのだろうか。ポケモンへの接し方が上手いのか。

 

 若干ヒヤヒヤさせられた場面もあったが、カプに認められた者に任せてみて良かった。

 本当にポケモンが好きでなければ、こうはならなかっただろう。

 

 少女の腕に嵌められたZリングを眺めながら、ジョーイはそう思った。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 そのポケモンは空に憧れていた。

 

 

 視界を閉ざす砂嵐のない場所で、そのポケモンは空を眺める。

 赤い月はしかし赤いままで。憧れていたあの月を見るには、まだ自分は弱いのだと再確認した。

 

 

 砂漠の空から降って来た謎のポケモン。

 

 そのポケモンと戦ったのは、自分の力を高める為である。

 飛行機を助ける為ではなかったし、そもそも飛行機に人間が乗っているとは思わなかった。

 

 

 結果は惨敗。

 

 これまで、ただ戦い続けていた。力を付けるために。───あの銀色の月を見るために。

 

 

 周りは全て敵だった。

 

 

 目に付く物全てに戦いを挑み、気が付けば一匹になっていた。

 

 

 

 少女はそんな自らに寄り添ってくれた。

 

 誰かに話しかけられる事すら久し振りだったのだ。

 

 

 少女を助けたのは半ば反射的な事だった。

 

 

 ただ、暖かな感触が───

 

 

「何を見てるの?」

 ───心地よかったのだろう。

 

 

 

 空を見上げるフライゴンに話しかけた少女に、フライゴンは無言で向き直ってから空を指差した。

 

 

「……空を?」

 少女はその先に視線を移す。

 相変わらず綺麗な夜空だなと、輝く星々で知っている星座がないか探しながらシルヴィはそう思った。

 

 

「うーん、やっぱり私の知っている夜空じゃないなぁ。でも、綺麗だね」

 ただ、人によって、ポケモンによって、空の見え方は様々である。

 少女にとっては知らない夜空であり、フライゴンにとってはそれは偽物の赤い夜空だった。

 

 

「あなたは砂漠に帰りたいの?」

 少女の問いに、フライゴンは少しだけ考えて首を横に振る。

 砂漠に未練がある訳ではなかった。むしろ、砂嵐のない場所なら空を飛ばなくても夜空が見える。

 

「あなたの翼が治るのに、結構な時間が掛かるんだって。その治療の為に、えーてる財団って場所に連れて行かれる予定だったんだけど……それが嫌だったんだよね?」

 今度は首を縦に振るフライゴン。連れて行かれるのが何処だとかそういう問題ではなく、知らない人間達に無理矢理拘束されそうになったのを苦痛に感じただけだった。

 

 ただ、少女は違う。

 無理矢理自らを拘束しようとはせず、歩み寄ってくれた。

 

 

 この少女なら信じられる。

 

 

 野生のポケモン故の、人間不信。当たり前の感情。それが、フライゴンがエーテル財団の職員を拒んだ理由だった。

 

 

 

「で、でもね。私もそんなにお金がある訳じゃないから……元々の行き先のメレメレ島に行かなきゃなんだよね。……えーと、だから、その…………翼の傷が治るまで、一緒に付いて来てくれるかな?」

 だから、その問いへの答えは決まっている。

 

 少女が目を瞑って手を差し出してくるが、それが面白かったのかフライゴンはまた小さく笑った。

 

 

 そして、その手を握る。

 

 

「……ありがとう、フライゴン。自己紹介するね。私はシルヴィア。ちょっと事情でシルヴィって名乗ってるけど」

 後ろで手を組んで名乗る少女の背後から、二匹のポケモンが姿を表す。

 クチートは少女と同じ格好で、デデンネは眼鏡を態々掛けてからそれを外しながら挨拶をした。

 

 

「宜しく、フライゴン」

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 アーカラ島──カンタイシティ──空間研究所。

 

 

 空間に関しての専門的な研究を行う為に設置されたこの研究所では、先日発生したウルトラホールのデータ検証で研究員が忙しなく働いている。

 

 

「ここが空間研究所ねぇ。ここまで来る事すら出来なかった俺からすると、地元なのに新鮮な物だな。……さて、どう入るかねぇ」

 その空間研究所の外に、ドーブルを連れサングラスを掛けた男が一人腕を頭の後ろで組みながら立っていた。

 

 そんな男が横目で見る空間研究所に、少年と大人の男が入って行く。

 男はそれを目で追いながら、丁度良い奴らが来たと口角を釣り上げた。

 

 

「メタモン、さっきの見てたな?」

 そう言いながら男が外したサングラスが、その姿を変えていく。

 

 

 へんしんしたメタモンを顔に貼り付けながら、男は空間研究所の近くの物陰に身を潜めた。

 

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「ハンサムさんですか。今、空間研究所は大忙しでありましてね……」

「少しだけ話を聞きたい」

 ベージュ色のコートを着た黒髪の男が、国際警察の証である手帳を突き出しながらそう言葉を落とす。

 驚いた表情で後退る研究院だが、ハンサムと名乗った男は「いやなに、研究所が悪さをしたと疑っている訳ではない」と付け足した。

 

 

「捜査協力を頼みたいんだ。……先日アローラ地方上空に発生した、ウルトラホールから出現したポケモンのデータを見せてもらいたい」

「わ、分かりました。……そちらのお子さんは?」

 研究員はハンサムの言葉を聞いてエレベーターに彼を案内するが、付いて着た少年を見て彼にそう問いかける。

 国際警察にしては若い。ハンサムと同じようなコートを着た、金髪で中性的な童顔の子供だ。

 

「彼はコードネーム──クリス──優秀な部下だ。安心してくれ」

「どうも」

 少年は研究員に小さくお辞儀をする。肩に乗っていた非常に小さなサイズのゲンガーが落ちそうになるが、気にしない少年が頭を上げると同時にゲンガーはなんとか肩の上に戻り、冷や汗を拭った。

 

 

「分かりました。それでは、ご案内致します」

 研究員と二人を乗せたエレベーターが閉まり、三階に登る。

 そしてエレベーターから降りた研究員が一人の女性に話しかけ事情を説明した。

 

 

「事情は理解したわ。私はバーネット、欲しい情報はこのモニターに写っている事かしら?」

 バーネットと名乗った女性は研究所で一番大きなモニターに手を向けてそう語る。

 

 モニターには様々なパラメーター、中心に一匹のポケモンとデータが表示されていた。

 

 

 

「これは……」

「先日、ウルトラホールから現れたのはネクロズマ。数ヶ月前このアローラ地方に現れたポケモンと同種族よ」

 バーネットがそう言うと、ネクロズマと呼ばれた黒い水晶のようなポケモンがモニターにズームで表示される。

 様々なネクロズマのデータが映り、画面端には数ヶ月前現れたネクロズマのデータと今回現れたネクロズマのデータの比例が表示された。

 

 

 データはほぼ一致。

 

 

 現場でネクロズマと遭遇したという、不時着した飛行機の副機長の証言もネクロズマの特徴と一致し、今回ウルトラホールから現れたのはネクロズマでほぼ確定。これが空間研究所が出した結論である。

 そしてネクロズマは現場に偶然居合わせたメレメレ島のキャプテン、イリマの活躍により撃退。背後に現れたウルトラホールへと姿を消した。

 

 

「これが現在私達で分かっている事よ。他に何か協力出来るかしら?」

「いや、結構だ。クリス、君は?」

「一つだけ」

 クリスと呼ばれた少年はハンサムの前に出て、バーネットに身体を向ける。

 データを見て少年は一つだけ気になる事があった。

 

 

「ウルトラホールは自然現象なんですか? それとも、人為的な物?」

「と、いうと?」

 少年の言葉にバーネットは意味を聞き返す。

 ウルトラホール自体、その存在を理解出来ている訳ではない。

 

 その殆どが自然現象ではあるが、人為的にウルトラホールを開く事も可能だ。

 エーテル財団での出来事を思い出しながらバーネットは少年の言葉を待つ。

 

 

「もし人為的なものであるならば、僕達の調べている事案に関わっている可能性が高いからです。……ウルトラビーストを悪事に使おうとしている組織の」

「……成る程。でも、残念ながらウルトラホールが人為的か、非人為的かを調べる方法はないわ。そもそもウルトラホール自体が不安定な存在だから、発生する度に計測されるデータに微妙な差があるのよ」

 バーネットの話を聞いて「そうですか、分かりました。ご協力感謝します」と答えた少年は再びハンサムの後ろに着いた。

 何か考え込む素振りを見せる少年を横目に、次はハンサムがバーネットに話し掛ける。

 

 

「協力に感謝する。ウルトラビーストの件でも世話になったし、今度お茶でも奢らせてもらおう」

「ふふ、嬉しいお誘いだけど。私は旦那が居るから他の研究員を連れていってあげて欲しいわ」

「おっと……こりゃ失礼。それでは、また」

 両手を上げて失礼を誤魔化したハンサムは、クリスを連れてエレベーターに向かった。

 案内するという研究員を断って、二人で一階に降りた二人はエレベーター内で小さく会話してから空間研究所を後にする。

 

 

 

「もし、(ロケット)団が裏で動いているなら奴等はウルトラホールの生成に成功しているという事になるのか……」

「そこはまだ分からないですね。ネクロズマを捕獲しなかった理由も分かりませんし、そもそもR団の動きがハッキリとしていません。飛行機を襲わせたのか、他の理由か」

 一ヶ月前、カントー地方──トキワシティ──を未曾有の大震災が襲った。

 

 しかしどう調べても、自然災害であるという確証が得られない。

 そして、R団のボス──サカキ──が得意とされていたのはじめんタイプのポケモンによる攻撃である。

 あの大震災はR団による物だ。それは少年もハンサムも同意見であった。

 

 

 

 だが、その数日前。

 

 アローラ地方のテレビにて、エーテル財団の記者会見の放送に突如謎の組織が乱入する。

 彼等は自らをRR(レインボーロケット)団と名乗り、エーテル財団を占拠した。

 

 そしてその放送に映り込んだ一人の男の姿。

 

 ハンサムは己の目が腐っていない限りは、間違いないと語る。

 その後ろ姿は───確かにあのR団のボスの物だった。

 

 

 

 R団はアローラに潜伏していたのか?

 

 

 ならばエーテル財団乗っ取りの事件の後、なぜカントー地方に戻ったのか。

 

 トキワジムの監視カメラに映っていた少女は何故アローラに飛んだのか。

 

 

 未だに分からない事だらけだが、それを調べるのが彼等──国際警察──の仕事だ。

 

 

 R団はかならず捕まえる。

 

 

「では、手筈通りに頼むぞ」

「了解です」

 二人は付近のT字路で曲がりながら、そう小さく呟いた。




七日連続更新四日目です。

本当はほのぼのが書きたいんだけどね!まだ序盤だからバトルをやるよ。ちゃんとした()バトルを書くのは初めてなので緊張しております。
それでは、次回もお会いできると嬉しいです。
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