今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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【一章八節】その日───少女は初めての大試練に挑む
大試練の緊張にかくばる


 ハウリオシティ───ポケモンセンター前バトルフィールド。

 

 両手の人差し指を頭に向けてから、左手を開いてゆっくりとその手を前に向ける。

 その身体を光が包み込んだかと思えば、その光は正面で同じ格好をしていたマネネを包み込んだ。

 

 

「───マキシマムサイブレイカー!!」

「───マネネェ!!」

 マネネを包み込んだ光が弾ける。

 

 同時にマネネの正面に飾られていた人形が宙に浮いて、そうかと思えば人形は突然上下に揺れだした。

 

 人形は四方八方に作られた空気の壁に何度も叩き付けられて、そして最後には空気の壁を叩き割る威力で吹き飛ばされる。

 

 

 マキシマムサイブレイカー。エスパータイプのZ技だ。

 

 

 

「おぉー! 凄いよマネネ!!」

「マネ、マネネ」

 シルヴィは技を放ったマネネを褒め称える。マネネは胸を張ってご満悦の様子だ。

 

 

「ねーねークリス君見てた?! 見てたよね?! 凄いよね!!」

 大興奮のシルヴィはすぐそばに居たクリスに詰め寄って目を輝かせる。

 しかしクリスの反応は「ん? あ、あぁ? えーと、うん。凄いね」と、シルヴィの思っていたよりも薄かった。

 

 

「……凄くない?」

「いや、凄いよ。見事に物にしたね」

 二人がイリマにアスレチック大会に誘われてから二日目の夜。

 

 見事に大会に優勝し、エスパーZのクリスタルを手に入れたシルヴィはエスパーZのポーズを習ってZ技の練習をしていた所である。

 

 

 町外れで見付けたコダックというポケモンと少しバトルして、コダックにねんりきを使わせた所でマネネはものまねで少しの間ねんりきを使えるようになった。

 その技を元にZ技を放ったのだが、威力はボロボロになった人形が物語っている。

 

 マイペースなポケモンである筈のコダックをバトルに引きずり込んだマネネの策略は、イリマが困り果てていた様子も納得出来る物だった。

 彼女の旅の先行きが不安でもある。

 

 

「クリス君、どうしたの……?」

「ん、あー、いや。少し考え事をね」

 クリスが考えていたのはアスレチック大会の後、イリマに聞いた言葉の数々だった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「R団の団員らしき人物の一人。ドーブルを使う男の正体をボクは知っています。彼はボクの幼馴染で、名前をライルと言います。でも───」

 アスレチック大会の表彰式の裏で、イリマは一人の男の事を語り始める。

 

 

「───でも、彼は死んでいる筈なんですよ」

 それは、クリスがアローラで始めて目撃し、ウツロイドの事件にも関わっていると思われる人物が───死んでいる人間だという話だった。

 

 

 

「それは……どういう事ですか?」

「あぁ、失礼しました。別に今の彼が幽霊……だなんて話ではないんです。ただ、彼は何年も前から行方不明なんですよ」

 少し困ったような表情でそう言い直したイリマの言葉に、クリスは表情を痙攣らせる。

 

「お、驚かせないでください。見ちゃいけない物を見たのかと思いましたよ……。しかし、行方不明?」

「はい。彼は僕の幼馴染で、同い年です。彼とボクは同じ年に島巡りに挑戦し、その途中で彼は行方をくらませました」

 神妙な面持ちでそう語るイリマ。クリスはペンを持ち上げて、彼の言葉をメモに取り始めた。

 

 

「初めての試練。ボクと彼がポケモンバトルをする事になりまして、そのバトルでボクは勝ち、彼は負けました。……その後、彼は相棒のポケモンを置いて飛び出して───それっきり、ボクにも家族にも連絡もなく。目撃情報もありませんでした。……ゴーストタイプのポケモンに拐われたとか、事件に巻き込まれたと当時は騒がれたものですが。結局彼は見付からず、行方不明者という扱いから死亡扱いとなった訳です」

 イリマ曰く、当時十一歳の少年が数年も連絡も目撃情報もない状態が続き捜索は打ち切られたらしい。

 

 ポケモンは確かに人々の生活に溶け込んだ生き物だが、危険なポケモンだって沢山いる。

 事件や事故に巻き込まれたのかもしれない。

 

 手掛かりがない以上、もう何年も前の事だ。死亡扱いになっていてもなんらおかしくはないだろう。

 

 

 

「そして、彼の相棒なんですがね。……あなたのモクローやシルヴィのアシマリと一緒にいた、ニャビーなんですよ」

「な……」

「さらに、そのニャビーの今の持ち主。……リアの兄こそが、ライルです」

「そうか……。なるほど」

 次々と語られる真実に、クリスはペンを止めて頭を抱えた。

 

 

「……ボクが知っているのはここまでです。ボク自身もライルの事は気になりますし、メレメレ島のキャプテンとしてR団を放置する訳にもいけませんから」

 そう言って、イリマはクリスに手を向ける。

 クリスは少しだけ考えてからその手を取った。

 

「少し貴方は胡散臭いですけど。……貴方が真にこの島のキャプテンである事はこの大会でも分かりました。……改めて、国際警察として事件調査の協力に感謝します」

 その後二人は、情報の交換を約束して別れる。

 

 ライルの事は調べれば過去のニュースに載っていた。

 リアはコレを知っているのか、シルヴィにコレを伝えるべきなのか。

 

 

 

 そんな事を悩んで早二日。

 

 クリスの気持ちを知ってか知らずか、シルヴィはハラの大試練に向けて特訓をしている所である。

 

 

 

「───それはともかく、Z技の使い所は決まったのかい?」

 この二日間でシルヴィはエスパーZを使ってマネネと修行をしていた。

 

 勿論一日に使えるZ技の回数は限られている。時間を掛けて何回か使った程度だが。

 

 

「ひかりのかべは流石に意味がないけれど、Zリフレクターも結構凄いんだよ! マネネの防御力が上がるの!」

「ちなみにひかりのかべは特殊防御力が上がるロト」

「ロトムが色々教えてくれたんだー」

 笑顔でそう言うシルヴィは、ロトム図鑑と手をてないでその場でクルクルと回った。知らないうちにかなり仲良くなっていたらしい。

 

 

「ねんりきを元にしたZ技も今見た限り素晴らしい威力ロト!」

「うーん。だからまだどこでどうZ技を使うか迷ってるんだよね。でも……今日の晩ご飯は何にしようかと悩んでるんじゃなくて、目の前に沢山ご飯があって何を食べたらいいか分からない感じ!」

「とても分かりやすい説明ありがとう。ついでにおかずを増やすと、ノーマルZだって選択としてはあるんだ。キミはその中で最善を尽くしてバトルに挑まないといけない」

 クリスが意地悪そうな表情でそう言うと、シルヴィは再び頭を抱えて唸りだしだ。

 

 

「……でも正直なところ、君は悩んでも仕方がないと思うよ」

「え、もしかして呆れられてる……? そ、そんなぁ! 明日が大試練の日なんだよ?! 見捨てないでぇ……っ」

 号泣するシルヴィにクリスは冷や汗を流しながら「いや、そうじゃなくてね」と言葉を続ける。

 

 

「あの障害物レースで、君はしっかりとZ技の選択が出来た。君の起点と、奇抜な発想と……ポケモンとの絆は誇れる物だと思う。それを全力でぶつければ良いんじゃないかな? 自分の感覚を信じて決めれば良いと思うよ」

「クリス君……」

 急に褒められて目を丸くするシルヴィ。クリスはそんな彼女に、意地悪そうな表情で「不安ならまた特別講師を引き受けようか?」と迫った。

 

「明日の朝までタイプ相性とバトルの基礎をたっぷりとその頭にねじ込んであげよう。まずかくとうタイプの弱点はエスパー、フェアリー、ひこうタイプだ。そして逆にかくとうタイプに効果が薄いのはいわ、あく、むしタイプでそれから───」

「寝ます!! おやすみなさい!! クリス君も早く寝てね!!」

 さっきまで悩んでいたのが嘘かのように声を上げて頭を下げるシルヴィは、そう言い切るとポケモンセンターの宿まで一瞬で走っていく。

 

 それを追い掛ける彼女のポケモン達を見送りながら、クリスは顎に手を当てて視線を横に逸らした。

 

 

「何を考えてるロト?」

「この数日間、結局R団の活動らしい行動は確認出来なかった。……メレメレ島で起きたウルトラビーストが絡んだ二つの事件。同一犯とみて間違いはないのに、その後の活動は見受けられない」

 それなりに身構えていたからか、クリスの表情には疲れが見える。

 ゲンガーはそんな彼を心配そうに見上げていた。

 

 

「ライルという男……。それにハラさんから聞いた話ではあのショッピングモールで放送室を襲ったベトベトン使いの男もマッシブーンの事件に絡んでいたって話だ。奴等の目的がウルトラビーストの捕獲だとして、その先が見えてこない。どうして奴等の動きが止まった……」

「そもそもウルトラホールをそうポンポンと発生させてるのもおかしいロト」

 ロトムのその言葉に、クリスは人差し指を持ち上げて「それなんだよ」と目を半開きにする。

 

 

「エーテル財団が極秘に開発していた装置だって、かなり無理矢理な技術とエネルギーと、さして一種のポケモンの生体エネルギーが必要だった───いや、そうか」

 言っている途中でクリスは目を見開いて持ち出していたノートパソコンを触りだした。ロトムはモニターにクエスチョンマークを浮かべながら、パソコンの画面を覗き込む。

 

 

「二つの事件の度に現場近くでポケモンが一匹だけ死体で見つかってる理由は……もしかしたら。これは、空間研究所に分析を入れてもらう価値があるな。……ロトム」

「ビビ……?」

「シルヴィの大試練が終わったら、向かうはアーカラ島だ。分からないことは一つずつ潰していく。それが警察のやり方だからね」

「ガッテン承知ロト、相棒。船の予約とか検索しておくロト!」

「頼むよ」

 話し終えたクリスはパソコンをしまって、自分達も寝る為にポケモンセンターに向かった。

 

 

「……僕は奴等を絶対に許さない。逃がさない。……絶対にだ」

 ふといほねを強く握る。街灯は小さくも道に影を作っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 リリィタウンはハウオリシティから少し山道に入った所に位置している。

 カプが祀られているという戦の遺跡があるマハロ山道へ続く道もあり、山の中の和な村という印象だ。

 

 

 その村の中心部には大きなバトルフィールドが用意されている。

 

 このバトルフィールドはカプにゼンリョクのバトルを見てもらう為に作られたバトルフィールドで、このメレメレ島の───島キングハラの大試練の場だ。

 事件前リアが受けて中断した大試練の場もここであり、島キングであるハラは「以前のバトルの中断、誠に失礼であった。お許しを」と短く唱えてからフィールドに立つ。

 

 続いてバトルフィールドに上がったシルヴィは、ギクシャクと緊張した面持ちでハラに頭を下げた。

 

 

「よ、よ、よよよ、よろしく、お、お願い、しま、します!!」

「ハッハッハッ、そんなに気張らなくて良いですぞ。しかし、まぁ、これだけの観客がいればそれも仕方がない事かもしれませんがな!」

 バトルフィールドの周りは多くの人々が観客として集まっている。島巡りの大試練ともなると、村ではもうお祭り騒ぎなのだ。

 

 

「一旦深呼吸をしましょう。そして、落ち着いて目を閉じ、カプに想いを馳せて願いましょうぞ」

「は、はい!」

 目を閉じて深呼吸をする。

 

 風が吹いた。周りの音が小さくなる。

 

 

「……始まるか」

「……せいっ! お待ちしておりました。島巡りに挑む者たちよ、改めて挨拶をしますかな。メレメレ島の島キング、ハラと申します。では、始めるとしますか。メレメレ島、最後の試練にして島キングとのポケモン勝負! その名も大試練! ではシルヴィ! カプ・ブルルにZリングを託された君と! 絆を深めたポケモン達のゼンリョク、見せていただこう! こちらもゼンリョク! オニのハラで行きますぞ! 大試練っ! 始めぃ!!」

 その合図で二人はモンスターボールを一つずつ投げ合った。

 

 

 

 シルヴィの大試練が始まる。

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