島巡り。
それはアローラ地方に伝わる、子供が一人前に成長する為の儀式だ。
十一歳以上の子供は誰でも参加でき、アローラの四つの島でキャプテン達の試練を達成する。
そうしてその先にある島キングや島クイーンの大試練を突破する事で、アローラではその子供が一人前になったと証明されるのだ。
勿論、全ての子供が島巡りに挑戦する訳でもなければ全ての挑戦者が島巡りの試練を突破出来る訳ではない。
その旅の果てにあるのは一人前になった子供の姿か、それとも───
「大試練っ! 始めぃ!!」
───それでも、子供達は前に進む。
バトルフィールドに登場したハリテヤマとマネネの体格差は雲泥の差だ。
しかしタイプ相性はその逆で、ハリテヤマのかくとうタイプにマネネのエスパーフェアリータイプは非常に有利である。
力の差をタイプ相性とポケモントレーナーの起点や作戦でどれだけ補えるか、このバトルはそこに懸かっていた。
「ほほぅ、街のイタズラ者だったマネネですか。これは興味深いですな」
「マネネ……なんで島キングさんにまで知られてるの?」
「マネネ」
誇らしげなマネネに、シルヴィは「褒めてないよ!」と必死な声を上げる。
そんな光景を見て、ハラは「カッハッハッ」と大きく笑った。
「あのマネネの手を握ったシルヴィ君の実力、とくとワシに見せてもらいましょうかの。ハリテヤマ、ストーンエッジ!」
ハラの指示でハリテヤマは地面をその手で穿つ。すると地面が突然盛り上がり、マネネに向けて岩盤が突き出した。
「やっぱりかくとう技以外で攻撃してくる……っ。マネネ、リフレクター!」
「マネネ!」
両手を前に突き出し、マネネは自分の正面に空気の壁を作り出す。
ストーンエッジは空気の壁に阻まれて、マネネをギリギリ捉える事はなかった。
「凄い威力……。とりあえずこっちも反撃……っ。マネネ、サイケこうせん!」
「マネネー!」
ストーンエッジを耐え切ってから、マネネは両手をハリテヤマに向ける。その手から放たれたのは虹色に見える光。
サイケこうせんは念力を直接相手にぶつける技で、時には相手をこんらん状態に陥れる事もある技だ。
大試練の前にマネネのものまねで野生のポケモンからコピーした技で、ねんりきより威力も高い。
「ハリテヤマ、はたきおとす!!」
「ハリーテ!!」
対してハリテヤマはハラの指示ではたきおとすを繰り出す。
はたきおとすは文字通り、相手を叩いて持ち物を落とさせる技だ。同時にあくタイプの技でもある。
そんな技をハリテヤマは相手ではなくサイケこうせんに向けて放った。
ハリテヤマの大きな平手が、サイケこうせんを押し潰してしまう。ハリテヤマはノーダメージだ。
「そんなのありぃ?!」
「マネネ?!」
驚く二人は、続く
バトルはシルヴィが一方的に押されているようにも見えた。
「あくタイプにエスパーは効かないからな。アイツ……もしかしてバカか」
そんなバトル光景を、フィールドの周りではなく近くの木陰で見守る小さな影。
赤メッシュの入った黒い髪をポニーテールに纏めた少女───リアは、ジト目で二人のバトルを観戦している。
「最近顔を見ないと思ったら、こんな所に。近くで見ていかなくて良いのかい?」
そんなリアに、背後からクリスが話しかけた。リアは驚いて「どっから出て来た?!」とその場で転んでしまう。
「顔を見かけたからね。応援してあげれば、シルヴィは喜ぶと思うけど」
「別に喜ばせたくないし……。ただ、ちょっと気になっただけだから」
「ライバルの調子が?」
意地悪な笑みでそう言うクリスに、リアは顔を赤くして「うるせー!」と反論した。その反論自体が肯定の意味になってしまうのだが。
「大丈夫、シルヴィは勝つよ」
「心配なんてしてねーよ! でも、本当に大丈夫なのか……? アイツの攻撃通ってないじゃん」
リアの言う通り、バトルはシルヴィが応戦一方である。
ストーンエッジはリフレクターで防げるが、サイケこうせんをはたきおとすで無効化されている以上、シルヴィには決め手がない。
「それにハラさんはまねっこの対策をしっかりしてるね。ストーンエッジとはたきおとすも、まねっこで使われようがハリテヤマには効果今ひとつだからね」
「そんでエスパーZも、はたきおとすで無効化されるかもしれないと」
「シルヴィがエスパーZを持ってるの知ってるんだね」
「は?! あ、ぇ、ぁ、と、持ってて当たり前だろ!!」
「当たり前なのか……」
二人のそんな会話を他所に、バトルは会話の通りハラが押してシルヴィが耐える展開が続いていた。
「さて、そろそろバトルを進めますかな。ハリテヤマ、ストーンエッジ!」
「その技だけは……っ。マネネ、リフレクター!」
「ハリテヤマ、前に!!」
ストーンエッジはリフレクターで跳ね返す。そんなマネネの元に、ハリテヤマが突進する。
「え、何?!」
「かわらわり!!」
マネネに肉薄したハリテヤマは、その平手を垂直に振り下ろした。
リフレクターはまだ続いている。物理攻撃なら耐えられる筈。
そう思っていたシルヴィの目に映ったのは、ハリテヤマの攻撃で地面に叩きつけられるマネネの姿だった。
同時に、何かが割れるような甲高い音が響く。一体なんの音なのか分からない。何が起きたのかも分からない。
「嘘……なんで」
「かわらわり。文字通り、リフレクターを割らせて貰いましたぞ」
空手家が見せる瓦割りは、気を一点に集中し芯を捉える事で硬い瓦を破る一種のパフォーマンスだ。
勿論瓦は割れやすいように出来ているのが殆どだが、それでも瓦の芯を捉えられなければ瓦を破る事は出来ない。
かわらわりはその瓦割りを応用したポケモンの技で、空気の壁やエネルギーの壁をも叩き割る事が出来る。
マネネのリフレクターの芯を捉え、リフレクターを叩き割って攻撃をマネネに届かせたのだ。
「あれ……ヤバくね?」
「マネネにはもう決定打もなければ防御面でもハリテヤマに勝てる手段がない……。マズイな」
クリスの言う通り、もはやマネネに残された術では攻撃も防御もままならない。
そしてハラは攻撃の手を緩める事なく、次の手を打つ。
「ハリテヤマ、ストーンエッジ!」
「マネネ、リフレク───」
そこまで言って、シルヴィは首を横に振った。リフレクターを使ったら、またさっきと同じ展開になる。
だったら───
「マネネ、右にジャンプして避けて!」
「マネ!」
───避けるしかない。
マネネはシルヴィの指示通りにストーンエッジを避けるが、動きが早い訳ではない為に回避はギリギリだ。次は避け切れるか分からない。
それに攻撃を受け続けているだけでは、いつかマネネが倒れるだけだろう。
「どうしたら……」
ストーンエッジやはたきおとすをまねっこでコピーしても、ハリテヤマには効果が薄い。
「……ぁ」
攻撃の手段を考えていると、ふとシルヴィは昨日の夜の事を思い出した。
──明日の朝までタイプ相性とバトルの基礎をたっぷりとその頭にねじ込んであげよう。まずかくとうタイプの弱点はエスパー、フェアリー、ひこうタイプだ。そして逆にかくとうタイプに効果が薄いのはいわ、あく、むしタイプでそれから──
クリスの有難いお勉強で教わった事は、いわタイプもあくタイプもハリテヤマには効果が薄いと言う事。
ポケモンのタイプには相性がある。
エスパーフェアリータイプのマネネにかくとうタイプの技は効果が薄いように、かくとうタイプのハリテヤマにはいわタイプやあくタイプの技は効果が薄い。
受け身の技しか持っていないマネネにとって、ストーンエッジやはたきおとすをコピーしたり、その技をゼット技に変えるZまねっこでもハリテヤマに大きなダメージは与えられないのだ。
しかしひとつだけ、ハリテヤマにそれなりのダメージを与えられる方法がある。
「……かわらわり」
シルヴィの脳裏に浮かんだのは、マッシブーンとハリテヤマの攻防の中でハリテヤマが放ったゼンリョクの攻撃だった。
かくとうタイプのZ技。全力無双激烈拳。
あの技なら───
「マネネ、サイケこうせん!」
「その攻撃は通用しませんぞ。ハリテヤマ、はたきおとす!」
強く前を見て、シルヴィはバトルに意識を持っていく。
この作戦は賭けだ。
成功するか分からない。だから、少しでもその確率を上げる為に集中する。
「アイツ、何かに気が付いた……?」
「……見せてくれシルヴィ。君の───君とポケモンの力」
観客達も、バトルの流れが少し変わったのを肌で感じていた。その流れは、一気に早くなっていく。
「ハリテヤマ、ストーンエッジ!」
「───ここだ。マネネ、リフレクター!!」
大きな声で、シルヴィはハッキリとマネネにそう指示した。
「避けないならまたかわらわりが来るぞ……?」
「……いや、かわらわりを誘ったのか」
これまでの攻防で、ストーンエッジはリフレクターで耐える事が出来ている。
しかしついさっきハリテヤマが見せたかわらわりは、リフレクターを叩き割ってマネネを攻撃する事の出来る技だ。
ストーンエッジを避けずにリフレクターで防御しようとすれば、その技が来る。
「ハリテヤマ、前に!」
「……来た───マネネ、耐えて!!」
直進するハリテヤマ。その平手が振り下ろされるが、マネネはしっかりと前を見て直撃に備えた。
この攻撃は貰ってもいい。信頼たる主人の指示ならば───
「ハーリーテーッ!」
「……っ、マネ……ッ!」
かわらわりは空気の壁を叩き割り、マネネにそのまま直撃する。
効果は薄いが、それでもダメージは小さくない。
しかしマネネはそれを耐え切って、地面を滑りながらも倒れる事なく前を向いていた。
「今だ!! 行くよマネネ!!」
同時に、シルヴィは両手を顔の前でクロスして、その手を広げて前に突き出す。
そして両手が斜めに繋がるように右手を下に左手を上に広げ、肘から先を自らの身体に寄せZの文字を描いた。
シルヴィの身体を光が包み込み、その光がマネネに向かって行く。
「ここでノーマルZ? 何やってんだアイツ」
「……そういえば、僕はシルヴィにタイプ相性を教えたんだけど。かくとうにいわやあくは効かないって事、ちゃんと覚えてたんだね」
だからこそ───
「これが私の───私達の!!」
「マネ!!」
光が放たれた。
「ゼンリョクだぁぁ!!」
「マネネェェェ!!」
同時に、マネネは拳を前に突き出した。
「───まねっこZ!!」
まねっこ。相手が使った技を自分の技として放つ技である。
ハリテヤマが最後に使った技は───かわらわりだ。
マネネはまねっこでかわらわりをZ技に変える。
「───全力無双激烈拳!!」
バトルフィールドを拳が貫いた。
この作品を書き始めたときはまさか次の世代にまで引っ張るとは思えませんでした。というか、この速度で更新したとして完結した時ポケモンの種類がどれだけ増えているのか()