今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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あまいかおりのする場所で

「……クリス君?」

 突然思い出したように墓標にお祈りするクリスを見て、シルヴィは頭を横に傾ける。

 その場所は老人のヤングースの墓ではない。

 

 

「君は僕が思ってたよりよっぽど強いね」

「んえ?」

 クリスの返答に、シルヴィは目を丸くして口を開けたまま固まってしまった。

 

 言っている事が急過ぎて、何が言いたいのか分からない。

 

 

「君には隠してたんだけど……。あのマッシブーンの事件、ポケモンが一匹だけ犠牲になっていたんだ」

「ぇ……」

 そして話される真実に、シルヴィは再び違う意味で固まってしまう。

 

「……それって、マッシブーンが?」

「それは違う。犠牲になったのはイワンコで、外傷はほとんどなかった。おじいさんのヤングースと同じく、まるで命を吸われたかのように衰弱死した状態で見つかったよ」

 墓標を見ながらそう言うクリスの隣で、シルヴィは目を瞑りながら墓の前で手を合わせた。

 

 

「……そっか」

「うん。……君が傷付くと思って、黙っていた。すまない」

「ううん。クリス君は……優しいね」

 笑ってそう言うシルヴィだが、やはりその瞳には少しだけ涙が漏れる。

 

「……そうでもないよ。でも、君の意志は分かったからしっかりと話そうと思う。ヤングースと、このイワンコ……僕の想像だけどウルトラホールの人工発生の為の犠牲になっている」

「そんな……。だって、理由は分からないけど……そんな事の為にポケモンの命を───」

「R団っていうのはそういう存在だよ。……君も知ってるだろう?」

 クリスのそんな言葉に、シルヴィは何かを思い返すように俯いて瞳を閉じた。

 

 

 彼の言う通りだ。

 

 

 

「少しだけ……昔話をしようか」

 立ち上がって墓標に背中を向けてから、クリスはどこか遠い所を見上げながらそんな言葉を漏らす。

 

 身構えるシルヴィだが、振り返ったクリスの表情を見て自分もしっかりと立ち上がって彼の眼を真っ直ぐに見た。

 

 

 

「僕はジョウト地方出身なんだけどね、陸続きのカントーには親戚絡みとかで良く遊びに行ってたんだ。友達のガラガラと一緒にね」

 そう言いながら、クリスはコートの裏に忍ばせてあるふといほねを突き出す。

 それは元々ガラガラというポケモンが肌身離さずに持ち歩いている物だ。

 

 

「さっき言ったポケモンタワーっていう場所があった町。シオンタウンには僕のおばあちゃんが住んでて、カントーに行く時はいつもシオンタウンだったかな。このガラガラと出会ったのも、シオンタウンだしね」

 ふといほねを指してこのガラガラという言葉に、シルヴィは唇を少し噛む。

 

 

 そのガラガラがどうなったのか、シルヴィには心当たりがあったからだ。

 

 

 

「君は知ってるのか分からないけれど、ガラガラの頭の骨って物凄く高く売れるんだ。当時まだ活動が活発だったR団は───」

「ガラガラを殺して……その骨を売っていた」

 シルヴィの言葉に、クリスは少しだけ驚くが首を縦に振ってそれを肯定する。

 

 

 

 その昔、カントーのとある少年がR団を壊滅させる前。

 

 カントー地方を中心に悪事を働いていた犯罪組織───R団。

 ポケモンを道具のように使う彼等は、ポケモンの命を奪う事すら平気で行う集団だった。

 

 ガラガラというポケモンが乱獲され、その命を奪われていた事はカントー地方では有名な話である。

 

 

「……その、クリス君の友達も?」

「……うん」

 小さく頷いて、クリスはふといほねを強く握った。

 

「僕の友達のガラガラはR団に殺された。R団はその後壊滅したけれど、だから国際警察になったって訳じゃなくて。……僕は僕と同じ気持ちになるような人を一人でも少なくしたいと思ったからこの仕事をしている」

 そう言ってからクリスは霊園から出て行って、シルヴィはそんな彼を追い掛ける。

 

「……そして僕の前にまたR団が現れた。勿論、これは仕事だけど。思念が入ってないと言えば嘘になるかな」

 霊園を出てからそう言って、クリスはシルヴィに「失望したかい? こんな奴が国際警察をやってるんだから」とは儚げな表情で言葉を漏らした。

 

 

「失望なんてしない!」

「……っ?! シルヴィ?!」

 シルヴィは声を上げながらクリスの後ろから抱き付いて、クリスはそれに驚いて固まってしまう。

 ロトムもフライゴンも、ボールから出ているポケモン達は全員目を丸くしていた。

 

「私は友達が居なくなっちゃう気持ちは分からないけど……そうなるかもしれないってなった時、頭の中が真っ白になって。今でも、もしそうなったらなんて思ったら心がはち切れそうだよ……。クリス君の気持ちは……間違ってなんかないよ」

「シルヴィ……」

 ゆっくりと俯いて、少しだけ目を瞑ってからクリスは「ありがとう」と小さく言葉を漏らす。

 

 

「うん」

 聞こえないように言ったつもりだったのだが、振り向いてみればシルヴィは少しだけ泣きそうな顔で笑っていた。

 クリスは顔を赤くしながら焦って振り向いて、頭を抑えながら二番道路をさらに奥に進んで行く。

 

 

「街に戻らないの?」

 そんなクリスを追い掛けながら、シルヴィは首を横に傾けてそう言った。

 街とは反対側の道で、この奥にはシルヴィがイリマの試練を受けた茂みの洞窟がある。

 

 

「言っただろう? 観光スポットを見に行くって。良いから着いてきて」

 得意げにそう言うクリスは、二番道路の茂みの洞窟への入り口を通り抜けてさらに奥まで歩いていった。

 

 

 二番道路を抜けた先。

 三番道路は山道で、鳥ポケモンが多く生息している。

 

 空を飛んでいる鳥ポケモン達を眺めながら、シルヴィはクリスに着いてさらにその奥まで足を進めた。

 

 

 

「……洞窟?」

 たどり着いたのは三番道路の奥にある小さな洞窟の入り口。

 そんな洞窟に迷わずに入っていくクリスにシルヴィは心配そうな表情をする。

 

「この先にあるんだけど……。あ、そうだ。なんなら目を瞑って行こうか。きっとビックリするよ」

「さ、流石に目を瞑って洞窟を歩くのは危ないよ!」

「シルヴィなら行けると思ったんだけど」

「私をなんだと思ってるの?!」

 目を丸くするシルヴィを見て、クリスは珍しく「はは」と短く笑った。

 そんなクリスに頬を膨らませるシルヴィだが、クリスが笑っているのを見て自然と彼女も笑みが溢れる。

 

 

「……なら、フライゴンにおんぶして貰おう」

「そ、そこまでして目を瞑っていかないといけないの……?」

「後悔はさせないよ」

 得意げな表情でそう言うクリス。シルヴィは口を尖らせてから、フライゴンに「良い……?」と問い掛けた。

 

「フラィ」

 フライゴンはその首を縦に振って、彼女に背中を向ける。

 シルヴィはそんなフライゴンの背中に登って、肩をしっかりと掴んで目を閉じた。

 

 

「そし、それじゃ行こうか」

 そのまま洞窟に入り、少しだけ歩く。

 

 

 シルヴィは目を瞑ったまま、クリスがフライゴンに「シルヴィを降ろしてあげて」と言ったのを聞いてゆっくりとフライゴンの背中から降りた。

 

 

 

「……風が吹いてる」

 目を瞑ったまま、シルヴィは小さくそう呟く。

 洞窟の中に入った筈なのに、その場所は風が吹いていた。

 

「目を開けても良いよ」

 首を横に傾けているシルヴィに、クリスは優しくそう語り掛ける。

 

 

 ゆっくりと目を開けたシルヴィの視界に入ってくるのは、光だった。

 

 燦々と照りつける太陽の光。

 洞窟に入った筈なのに。不思議に思いながら、眩しさに慣れた瞳をしっかりと開く。

 

 

 

「───わぁ……っ! 綺麗……」

 視界に映る満面の山吹色。

 風になびくその山吹色は、一瞬吹いた強い風で宙に舞って景色を飾った。

 

「メレメレの花園。メレメレ島の観光名所の一つだよ」

 花。

 

 

 花園に咲く山吹色の花弁が視界を覆う。

 

 

「凄い! 凄いよクリス君! 凄い綺麗。ポケモン達も沢山いる!」

 そんな光景に、女の子らしく目を輝かせてはしゃぐシルヴィ。

 ロトム図鑑に「教えてあげて」と声を掛けて、クリスは満足そうに花園に視線を移した。

 

 

「アブリー。ツリアブポケモン。むし、フェアリータイプ。花のミツや花粉が餌。オーラを感じる力を持ち、咲きそうな花を見分けている」

 シルヴィの顔よりも小さいポケモンが、花に集まっている。

 ロトムがそのポケモン───アブリーの解説をすると、数匹のアブリーがシルヴィの元に集まってきた。

 

「ふぇ……? 何々?」

「アブリーは花のオーラに集まってくる習性があるロト。シルヴィが花のオーラに近いオーラを放っているのかもしれないロト」

「オーラ……? よく分からないけど、可愛いポケモン達に囲まれて気が緩むなぁ……。ねぇ、ロトム。あのポケモンは?」

 表情を緩めながら、シルヴィは花園の中で踊っている黄色い鳥ポケモンを指差して問い掛ける。

 

 その鳥ポケモンといいアブリーといい、全体的に山吹色の花と似た色彩をしていて明るい景色は自然と心を和ませた。

 

 

 

 

「……ビビッ。オドリドリ、パチパチスタイル。ダンスポケモン。でんき、ひこうタイプ。やまぶきのミツを吸ったオドリドリ。明るく陽気なダンスで敵の身も心も弾けさせる」

「スタイル?」

「オドリドリというポケモンは吸った花の蜜でその姿を変えるポケモンロト。他にはふらふらスタイル、めらめらスタイル、まいまいスタイルという姿があるロト」

 ロトム図鑑のモニターに映る四種類のオドリドリ。

 その全てが体毛の色も雰囲気も違い、シルヴィは花園の中で踊っているオドリドリを見ながらモニターの他のオドリドリと見比べる。

 

 

「不思議なポケモンだねぇ……踊りが素敵」

「アローラの雰囲気にピッタリだね。どうだい? 喜んでくれたかな」

「うん! 勿論! こんな素敵な所に連れてきてくれてありがとう、クリス君!」

「どういたしまして」

 素直な返事が照れ臭くて、視線を逸らしながらクリスは周りを見渡した。

 

 

 自然のままの世界。ポケモン達の楽園。

 

 こんな場所があるアローラ地方で、R団に好き勝手はさせない。

 クリスは再び決意を目に拳を強く握る。

 

 

「さて、後はゆっくり街で買い物とかを済ませて乗船場に行こ───」

 そうしてクリスが今後の予定を提案した直後、視界に稲妻が走った。

 

 山吹色の景色がより一層世界に広がる。

 

 

「な、なんだ……?」

「何これ……?」

 花園だけではなく、空も、地面も、洞窟の入り口も。

 薄い絵の具で塗ったかのように、視界は黄色で埋まってしまった。

 

 

「電撃……何かの攻撃?」

 クリスの頭の中に浮かぶのは、マッシブーンを追って辿り着いた場所にいたR団の一人。

 

「……いや、違うな。コレは……エレキフィールド?」

 直ぐにクリスはこの状態の答えを導き出す。

 

 

 電気の攻撃ではなく、電気のフィールド。

 

 

 

「エレキフィールド……?」

「辺りを電流で覆って、でんきタイプの技の威力を上げる技だよ。オドリドリが使ったのか……?」

「オドリドリはエレキフィールドを覚えないロト」

 クリスの予想は外れるが、ならばこのエレキフィールドは誰が使ったのか。

 

 周りを見渡してもそれらしき影はない。

 それよりも、アブリーやオドリドリ達がこの状態に全く動揺していないのも不自然だ。

 

 

「一体───」

 目を細めて考えるクリス正面が突然光る。

 

 

「コケーッ!」

 そして眩しさに目を閉じた二人の前に現れた影は、両手を広げて山道に響くような鳴き声をあげた。

 

 

 それは、アローラ地方四つの島を守る守り神として讃えられる四匹のポケモンの内のいっぴき。

 

 

 

「───カプ・コケコ」

 メレメレ島の守り神である。




アローラ(挨拶)
剣盾にどっぷり浸かっている作者ですが、アローラに帰るとやっぱりここが大好きだってなります。この作品はちゃんと完結させるぜ……。
だけど他にもポケモンを書きたい欲望が止まらないですね()

さて、そして一章ラストを飾るのはやはりカプ・コケコです。お楽しみ下さい。

読了ありがとうございました。
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