電流が走る。
エレキフィールドに流れる電気自体は強い訳ではないが、どうも気が休まらない。
この技の最中はポケモンバトル中にポケモンが眠らなくなるというのも納得だ。
「カプ・コケコがその……エレキフィールドっていう技を使ったの?」
「いや、これだけに関しては違うかな。……これはカプ・コケコの特性だよ」
「特性……?」
「ロトム」
眼前のカプ・コケコから目は離さずに、クリスはロトムに情報を出すように指示をする。
「カプ・コケコ。とちがみポケモン。でんき、フェアリータイプ。守り神と呼ばれるが気分を害する人間やポケモンには襲い掛かる、荒ぶる神でもある。特性はエレキメーカーロト」
両腕に大きな盾のような物が付いている、黄色と黒の体色のポケモン。
ロトム図鑑のモニターにカプ・コケコが映って、ロトムはこう音声を漏らした。
「エレキメーカー?」
「カプ・コケコの特性であるエレキメーカーは、技を使わずに周りにエレキフィールドを展開出来る特性ロト」
「……それに気分を害する人間やポケモンに襲い掛かるって……わ、私達何かしちゃったのかな?!」
あたふたしながら目を丸くして慌てるシルヴィ。そんな彼女の前にフライゴンが立ってカプ・コケコに目線を合わせるが、カプ・コケコはフライゴンの事は見ずにただ一点を見つめている。
「……僕に用事なのかな? いや、でも───」
その視線の先に居たのは、クリスだった。
「コケーッ!!」
そうして電撃が放たれる。
電撃はクリスにギリギリ当たらずに地面を抉った。
尚もクリスを見続けるカプ・コケコはしかし、何かを待つようにじっとしている。
「クリス君……っ!」
「だ、大丈夫だ。……殺意はない。だけど、エレキフィールドが張られているという事はバトルをする気があるという事。───だったら」
そう言って、クリスはモンスターボールを取り出して投げた。
「ニダンギル!」
「……ギギッ」
ボールから出てきたニダンギルが刃を鳴らしてカプ・コケコの眼前で構える。
「荒ぶる神。……メレメレ島の人々はカプ・コケコに神聖なるポケモンバトルを見せてその怒りを鎮めたとかなんとか。要するにポケモンバトルがしたいんだろう。理由は分からないけどね」
その相手がどうして自分なのかも、と付け加えてクリスは目を細めて構えた。
「あの日、僕にあの光景を見せたのは君なのか? 聞いても答えないだろうけど───ニダンギル、つばめがえし!」
「ギギッ!」
二手に別れたニダンギルは、カプ・コケコを挟み込むようにその刃を捻る。
神速の刃。いくら神と称えられるポケモンでも交わす事は出来ない。
「カプァ……ッ」
しかしカプ・コケコは両腕を細めてその腕で身体を包み込んだ。
その姿はまるで仮面のようでもあり、神秘的でかつどこか恐ろしい物にも見える。
そしてニダンギルの刃がカプ・コケコを切り裂くが、腕を開いたカプ・コケコがダメージを負っている様子はなかった。
「効いてない?」
「カプ・コケコはでんきタイプロト。ひこうタイプのつばめがえしは効果が薄いロト」
あれだけタイプ相性にうるさかったクリスが何故?
シルヴィはそう疑問に思いながら、バトルを見守る。
「……よし。もう一度だ、ニダンギル! つばめがえし!」
しかし、クリスは再びつばめがえしを指示した。
襲い掛かる刃にカプ・コケコは同じ反応をする。
「どうして……」
そう思った次の瞬間、その答えが目の前に出される事になった。
「今だ、ラスターカノン!!」
カプ・コケコがガード形態を解除した直後、ニダンギルはカプ・コケコの背後に回ってラスターカノンを放つ。
視界の外からの攻撃に、カプ・コケコは反応する事も出来ずに直撃した。
「クリス君凄い!!」
「あの守りの形態、顔まで隠すから周りが見えなくなる筈だ。だから最初は必ず攻撃を当てられるつばめがえしで様子見をして、確定どころで相性の良い技をぶつける。……バトルの基本だよ」
そう解説するクリスの肩の上で、ゲンガーが自分の事のように誇らしげに胸を張っている。
「君の成果じゃないけどね……」
「ゲゲ?」
「……さて───ん?」
ラスターカノンははがねタイプの技の中でも高威力に分類される技だ。
タイプ一致、効果抜群の技を受けたのだからそれなりのダメージを負っている筈である。
「───コケェ!!」
しかし、技の衝撃で起きた砂埃が晴れた先でカプ・コケコは悠々とその場に浮遊していた。
「流石、神様って所かな……。目的は何なんだ」
目を細めるクリスだが、カプ・コケコからは目を離さない。
島の人達に崇められる存在だから、悪い事にはならないとは思うのだが。
「コケァァァ……ッ!!」
そして電撃が放たれる。目標はニダンギルではなく───
「直接?!」
───クリスだった。
「クリス君……っ!!」
シルヴィの悲鳴も虚しく、電撃はクリスに直撃して彼と彼の背中に乗っていたゲンガーは地面を転がる。
「どうして……っ」
そんな二人を助けようと足を踏み出すシルヴィだが、彼女の肩を掴んでそれを止めたのはフライゴンだった。
「……フライゴン?」
「……フラィ」
同じポケモン同士、何かが分かっているのか。
そういえばと、シルヴィはフライゴンと出会った時の事を思い出す。
あの時、カプ・コケコとは違うがフライゴンは別の島のカプ───カプ・ブルルと意思疎通をしていたようにも見えた。
「……っ。なんのつもり───ゲンガー!」
クリスが表情を歪めながら起き上がると、小さなゲンガーに詰め寄るカプ・コケコの姿が視界に映る。
今にもゲンガーに襲いかかろうとするカプ・コケコを見て、いつかの出来事がクリスの頭の中で木霊した。
──やめて!! ガラガラを虐めないで!! ──
R団による密猟。
当時まだ小さな子供だったクリスにはただ叫ぶ事しか出来なくて、大切な友達が目の前で命を落とす。
───もう、そんな事は経験したくない。
他の誰にも、自分だって。
「ゲンガー!!」
地面を蹴って、ゲンガーの小さな身体を守るように覆い被さった。
「ゲ?!」
「僕はもう……大切な友達を失いたくないんだ!!」
カプ・コケコを電撃が包み込む。そうしてゲンガーを守るクリスに、島の守り神は突撃した。
「ビビッ、相棒ー!」
「クリス君……っ!!」
「……っ」
爆風。
山吹色の花弁が散る。
電撃の余韻で身体中から電流を漏らすカプ・コケコは、ゆっくりと浮いて───満足気な表情をしていた。
「……クリス君?」
砂埃が消えて、クリスの姿が視界に入る。
心配していたシルヴィだが、彼女の視界に入ったのは目を丸くして固まってはいるが、怪我一つしていないクリスの姿だった。
「……寸止め?」
唖然とした表情のクリスは、カプ・コケコを見上げながらそんな言葉を漏らす。
カプ・コケコの攻撃はクリスには届いていなかった。
それどころかいつのまにかエレキフィールドも解除されていて、カプ・コケコからの戦意も感じられない。
「……な、なんのつもりだ」
「コケェ」
困惑するクリスに、カプ・コケコが手を伸ばす。
目を細めながらその手に答えるようにクリスも手を伸ばすと、彼の掌に何か石のような物と黄色く光る物が乗せられた。
「これは───」
そして言い掛けた途端。花園一帯が光りクリス達は眩しさに目を瞑る。
そうして開いた瞳にはカプ・コケコの姿は映っておらず、ただただ静かで和ましい花園の光景だけが広がっていた。
「───これは、なんだ? 一つはでんきZか」
しかしその手には、しっかりとカプ・コケコから受け取った石とZクリスタルが握られている。
「クリス君! 大丈夫?!」
「え、あー、うん。平気だよ。大丈夫か? ゲンガー」
「ゲゲー」
駆け寄ってきたシルヴィに、クリスは怪訝な表情ながらも手を振って無事をアピールした。
一体なんだったのか。詳しそうな人に聞いた方が良いかもしれない。
「せっかくの観光だったのに、なんだかごめんね」
「そ、そんな事気にしないで! それより怪我としてない?! 大丈夫?!」
「あはは、心配性だな。大丈夫だよ。……ニダンギルごめん、戻ってくれ。ありがとう」
「ギギッ」
クリスは心配するシルヴィを宥めながら、ニダンギルをボールに戻して立ち上がる。
「服が汚れてしまったから、船が出る前に変えたいかな。あと、リリィタウンにも寄りたいけど……良い?」
「え? う、うん!」
少し混乱しているシルヴィを先導して、クリスは花園を後にして三番道路を降って一番道路まで歩いた。
そのまま少し歩き、二人はリリィタウンに辿り着く。
「ハウオリシティから二番道路を真っ直ぐに行ったのにリリィタウンに着いちゃった……?」
「そんなに大きな島じゃないからね。ゆっくりと島の周りを回って来た……というのが正しいかな」
そう言いながらクリスは町の中心に位置する大きな家に辿り着き、その扉をノックした。
「むむ、これはシルヴィ君とクリス殿。何用ですかな?」
出て来たのは、島キングのハラ。シルヴィは「島キングさんの家?」と首を横に傾ける。
その言葉で自分に用があるのはシルヴィではなくクリスなんだと察したハラは、その細い瞳をゆっくりとクリスに向けた。
「実は、今さっきカプ・コケコに出逢いまして」
「なんと! それは誠ですか!」
「……は、はい。それで、バトルになって……そのバトルが突然終わったかと思えばこれを───」
言いながら、クリスはカプ・コケコから受け取った石とZクリスタルをハラに見せる。
なんなのかよく分からないが、この地方の伝統やカプに詳しい島キングならコレがなんなのか分かるかもしれない。そんなクリスの算段だった。
「───これは、輝く石!」
そして、クリスの手の上にある物を見てハラは興奮気味でそう声を上げる。
「……輝く石?」
「輝く石は、謂わばZリングの原石みたいな物ですな。我々島キングはカプより頂いた輝く石を加工してZリングにするのです。……それにしても、直でカプ・コケコに輝く石を貰うとは。カプ・ブルルにZリングを貰ったシルヴィ君といい、二人は不思議ですな」
感慨深いといった表情でそう話すハラ。
そしてハラは「少し良いですかな?」とクリスに了承を得てから輝く石を手にとってその細目を少し開いて石を見回した。
「これなら数日あればZリングに加工する事が出来ますぞ。いかがなさいますかな?」
「え、でも僕は島巡りをしてる訳じゃないですよ……?」
「ハッハッハッ、なにも島巡りをしなければ必ずZ技が使えないという訳でもありません。何より君はカプに直接認められた存在。自ずとこのアローラの大地も君に力を貸すでしょうな」
クリスの肩を叩きながらハラはそう言って「どうですかな?」と問い掛ける。
「やったねクリス君! これでクリス君もZ技が───」
「お言葉は有難いんですが、僕は今晩アーカラ島への船に乗る予定なんです。Zリングが要らないという訳ではないんですけど、今は事件解決を優先したい。……それがこの輝く石をくれたカプ・コケコの気持ちに応える事だと、僕は思っています」
しかし、クリスはハラの目を見てハッキリとそう言った。
その言葉を聞いたハラは、満足気な表情で「そうですかな」と言葉を漏らす。
「ならば、完成したZリングはこのハラが責任を持って保管させて頂きますぞ。もしこの力が必要な時が来たら、いつでもワシの所に来なさい」
「はい。ありがとうございます」
そう言って、クリスはハラに頭を下げて彼の元を後にした。
「カプに認められし少年少女。それよりも、カプが何かを我々に伝えようとしている……。これはワシらも気を引き締めなければならないかもしれませんな」
カプ・コケコが実際何を思ってクリスに輝く石を渡したのかは分からないが、それなりの理由があるならそれなりの答えを返さなければならない。
だから今は、一刻も早く事件解決に向けて動き出そう。
「R団の好きにはさせない……」
そう思いながら街に向かって歩くクリスを、カプ・コケコは森の奥でただジッと見詰めていた。
名探偵ピカチュウは最高だね(関係ない)。
お待たせしてすみませんでした。一章は残り一話です。