今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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せいちょうと次の島に

 日が落ちる。

 月が昇る。

 

 世界が反転するような感覚で、変わっていく空の色は何度見ても神秘的だった。

 

 

「さよならバイバイ」

 そんな空を背に、シルヴィは少し寂しそうに船の上からメレメレ島に手を振る。

 

 この島に来て数週間しか経っていないが、色々な事が彼女の周りで起きた。

 名残惜しくなるのには充分である。

 

 

「行こう、次の島に」

 メレメレ島での旅が幕を降ろした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 朝の便と違い夜の便は比較的空いている事が多い。

 アーカラ島への定期便は出航間近で、その準備に取り掛かる船員達が慌ただしそうに船の中を走り回っている。

 

 

「出発だねー」

「着いたらとりあえずポケモンセンターに泊まろうか。次の日からの事は朝に話すよ」

 街で買い物やホテルのチェックアウト等を済ましてきたシルヴィとクリスは、アーカラ島行きの定期便に乗り込んでいた。

 

 予想外の出来事もあったが、予定通り船に乗れたのでクリスとしては安心している。

 

 

「フラィ……」

「ねぇ、クリス君。フライゴン、ずっとリリィタウンの方を見てるけど……どうしたんだろう? この島に残りたいのかな?」

 そんな中で、シルヴィはふと船の端で陸に視線を向けるフライゴンを見ながらそう言った。

 

「どうしてそう思うんだい?」

「そもそもフライゴンは私のポケモンじゃないし……私の勝手で連れ回してるだけなのに、着いてきて貰って良いのかなって」

 表情を落としながらそう言うシルヴィを、彼女に見えないところでフライゴンは横目で見てから直ぐに視線を逸らす。

 それを見てクリスは短く笑ってから、彼女の肩を叩いてこう答えた。

 

「君が面倒を見るって言ったんだろう?」

 聞いた話では、ウラウラ島での飛行機の不時着事件で怪我を負ったフライゴンはポケモンセンターで人を引き付けずに弱っていたらしい。

 そんなフライゴンに対して、攻撃されても手を伸ばすのをやめない少女がいて。

 

 思えばそれが、このアローラ地方での物語の始まりだった事を思い出す。

 

 

「そう……だね!」

 前を見て、立ち上がったシルヴィはフライゴンに駆け寄って横から抱き着いた。

 

「フライゴン、翼が治るまでは私がちゃんと面倒見るからね!」

「……フ、フラ」

 視線を逸らすフライゴンは、なんだか照れ臭そうである。そんな事は知らずに、グイグイ行くシルヴィから逃げるフライゴン。

 

 

「あの翼、もう治ってる気がするけれど。……口出しは野暮かな」

「ビビッ、どうしてロト?」

「野暮なものは野暮なんだよ」

「相棒が珍しく感情的ロト」

「僕をなんだと思ってるんだ」

 そんな光景を横目で見ながら、クリスはそういえばと思考を巡らせた。

 

 飛行機の墜落事件。

 原因はウルトラホールから出現したウルトラビーストの襲撃だと聞いている。

 

 これはR団とは関係ないと思っていたが、今考えると考察の余地がある事件だ。

 

 

 

「ゲゲ……?」

「なんだ、心配そうな顔して。……大丈夫だよゲンガー。新しい仲間もいるし、確実に犯人の事は追い詰めてる。少し長丁場になるかもしれないけど……R団は絶対に捕まえる」

 言いながらクリスはモンスターボールからモクローとニダンギルを出して、ゲンガーに笑顔を向ける。

 

「クルォ〜」

「ギギッ」

「ボクも居るロトー!」

「そうだね」

 ポケモン達に笑顔を見せるクリスだが、一瞬だけ虚しそうな顔をした彼をゲンガーは心配そうに見詰めていた。

 

 

 

「お、モクローじゃないか! シルヴィにクリス、君達もアーカラ島に行くのか?」

 船が出発するというアナウンスが流れている中で、上半身半裸に白衣という格好の男が唐突に話し掛けてくる。

 

「ククイ博士だ!」

「あ、どうも。そうですね……アーカラ島に」

 話し掛けて来たのは、モクローをクリスに渡した人物でもあるアローラでも有名なポケモン博士───ククイだった。

 

 

「凄い荷物ですね」

「はは、ちょっと仕事でね」

 今朝方船に乗り損ねたククイは、夜の定期便まで時間を潰して今やっと船に乗れた訳である。今頃リアはアーカラ島だ。

 

 

「それより、島巡りはどうだい。ハラさんの大試練は突破したのか?」

「バッチリです!」

 ククイの質問にそう返したシルヴィは、自分のポケモン達を出してハラにもらったかくとうZのクリスタルを彼に見せる。

 

「おー、凄いじゃないかシルヴィ! 良いせいちょう(・・・・・)ぶりだな! アシマリも元気そうで何よりだ」

「マネネ!」

「ん、そのマネネは?」

 シルヴィのポケモン達を見渡して、ククイは見慣れないポケモンがいる事に気が付いた。

 彼女と会った時はデデンネにクチート、そしてフライゴンが一緒に居たのだが記憶が確かならマネネは居なかった筈である。

 

 

「街の悪戯っ子です!」

「マネネェ!」

「あはは、ごめんごめん。新しい友達のマネネです。ハラさんの大試練もマネネと一緒に突破しました!」

 シルヴィはマネネの身体を抱き上げて、ククイに大試練でのマネネの活躍を効かせた。

 

「───それで、やっぱり最後はマネネの得意技のリフレクターでマネネがしっかりと耐えてくれたんです!!」

 そして話の流れでイリマの試練の事や、アスレチック大会での事。

 他にもウルトラビーストと関わった二つの事件の事も話す。

 

 

「今日はクリス君がメレメレの花園に連れて行ってくれたんですけど、カプ・コケコっていうポケモンが突然現れて!」

「何?! カプ・コケコが。それは凄いな!」

「なぜか僕が戦う羽目になったんですけどね……」

 楽しい事も悲しい事も、このメレメレ島で沢山起きた。

 

 

「その話は後で詳しく───お、出発だな」

 話をしている中で、船が出発して揺れ始める。

 色々な事があったメレメレ島ともしばらくお別れだ。

 

 

 

 ──旅は良いぞ──

 そんな言葉を思い出して、シルヴィは一人で強く頷く。

 

 

「旅って、良いですね」

 唐突にそう漏らした彼女に、クリスとククイのは顔を見合わせて「そうだね」「そうだな」と言葉を合わせた。

 

 

 

「デデンネ、クチート」

「デネ!」

「クチ!」

 始まりと。

 

 

「フライゴン!」

「フラィ……」

 出会いと。

 

 

「アシマリ!」

「アゥァ!」

 冒険と。

 

 

「マネネ!」

「マネ!」

 試練と。

 

 

 

「……私、アローラに来てよかった。これからも、宜しくね!」

 沢山の経験を積んで、楽しかった事も悲しかった事も胸の中に溶けていく。

 だからこそ、自然とそんな言葉が漏れた。

 

 人々とポケモンと自然が共存するアローラ地方。

 

 

 残りの三つの島の冒険にも胸を踊らせ、少女は小さくなるメレメレ島に手を振る。

 

 

 

 すると突然、島の方で何かが光った。

 遅れて数秒して、空気が震える。

 

 

「───コケェェェエエエエ!!!」

 まるで何かを見送るような、そんな遠吠えにクリスは鳴き声のする島の方に視線を向けた。

 

 

 

「……今のは?」

「カプ・コケコの遠吠えだ……。シルヴィ達を見送ってくれてるのかもしれないな」

 ククイの言葉に、シルヴィは眼を輝かせる。

 そして船から身を乗り出して、彼女は大声でこう叫んだ。

 

 

「次の島、行ってきまーす!!」

 シルヴィ達の、次の冒険が───今始まる。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アーカラ島───空間研究所。

 

 

「もう、ククイ君ったら朝の便に乗り遅れるなんて!」

「まーまー、落ち着いて下さいバーネット博士。夜の再会の方が盛り上がるじゃないですか」

 資料を漁りながら少し不機嫌なバーネットを宥める銀髪の女性は、困ったような声を漏らしながらズレた眼鏡を持ち上げた。

 

 机の上にはここ一ヶ月ほどで起きたウルトラホール発生に伴う事件と、R団という組織の活動の資料が並んでいる。

 

 

「そ、そんな事言ってる場合じゃないわよ! ほら、アイーダも資料の整理を手伝ってちょうだい」

「あ、すいません私定時なので」

「泣きそう」

「冗談ですよ。あ、でも疲れたので少し休憩を取らせて下さい。勿論残業代は払って下さいね」

「ありがとう、アイーダ。頼りにしてるわ」

「先日突然メレメレ島に行く許可も貰ってますから。博士の助手として頑張りますよ」

 そう言って、アイーダと呼ばれたバーネットの助手は研究所の禁煙室に脚を運んだ。

 

 そこで、少しだけ周りを見渡してからポケギアを取り出す。

 

 

 

 

 

 

「空間研究所も動き出すなら……少し早めに動かないといけないですね。───次はこのアーカラ島で」

 

 To be continued……




第一章「完」


【挿絵表示】

お祝いのエスパーZシルヴィです。インテリジェンス度があまりにも足りない。


更新が遅れてしまい申し訳ありません。別作品の執筆に時間を使っている事と、今後の展開に悩んでいる事もあり更新を控えておりました。剣盾の発売もあり、この更新速度だと二章が終わる頃にはさらに次回作が出ているという可能性。
次回から二章なのですが、更新にはまだ時間がかかるかもしれません。この場をお借りして読者の方々にお詫びをさせてください。すみません。

もし待って頂けるなら、もう少しだけ待って頂けると幸いです。読了ありがとうございました。

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