「国際警察のハンサムだ。さっきの話だが、本部で詳しく調べたいからデータをくれないか?」
カンタイシティ──空間研究所──で、ハンサムと名乗る男が手帳を見せながらそう言う。
空間研究所にはつい数分前にハンサムと名乗る男がクリスという少年と訪れ、データを見ていったのだが気が変わったのだろうか?
研究員は一瞬で服装を変えて戻ってきたハンサムを、忙しくて大変な人なんだなと思いながらもデータを一枚のディスクにコピーした。
「これで良いですかね?」
「上出来上出来。そんじゃ、ありがとさん」
男はそう言うと、足早に空間研究所を後にする。
「ちょろ過ぎるねぇ……逆に張り合いがねーよ」
口角を釣り上げる男は、顔に張り付いているハンサムの顔にへんしんしたメタモンを引き剥がしながら呟いた。
手に入れたディスクとサングラスにへんしんしたメタモンをポケットに入れる。
男が向かうのは船着所だ。
明け方になると出向する船の行き先はメレメレ島。少し予定と違うが、良い物を手に入れたと男は得した気分で口笛を吹く。
星々に照らされた夜道には、彼以外の人影は見当たらなかった。
仕掛けるならこの場所だろう。
迎え撃つならこの場所だろう。
男は背後からモンスターボールが投げられると同時に、自分もボールを二つ投球する。
同時に飛び出す二匹のポケモン。ドーブルの目の前に現れたのは、二本の剣のような姿をしたポケモン──ニダンギル──だった。
「ニダンギル、きりさく!」
「夜道を影から襲うなんざ悪党の専売特許だってのによ……っ! ドーブル、キングシールド!!」
姿の見えないニダンギルのトレーナーに悪態を吐きながら、男はドーブルに技を指示する。
次の瞬間、エネルギーによるシールドが発生。それとニダンギルの攻撃が重なり、小さな砂埃が舞った。
そしてキングシールドの追加効果が同時に発動する。
直接攻撃でこのシールドに触れたポケモンの攻撃力を下げる能力だ。
元々はニダンギルの進化系──ギルガルド──専用の技だが、ニダンギルもこの技の影響を受けてしまう。
「これでニダンギルの脅威は半減。……諦めて降参するなら今の内だぜ、とりあえず姿くらい現せよ悪党!」
「誰か悪党だ。悪党はそっちだろう
物陰から現れたのは、ベージュ色のコートを着た金髪の少年だった。
「なぜ俺がR団だと分かった?」
「カマをかけただけさ。……まぁ、想像通りだったけどね」
「はーん……」
先程ハンサムと一緒に空間研究所に入っていた奴か。ガキだが油断ならないだろう。
男は少年を見定めるように一歩下がり、少年のポケモンを観察した。
ニダンギル。ゴースト、はがねの二つのタイプを合わせ持つポケモンで攻防共に優秀なポケモンである。
その反面特殊攻撃に弱く、またスピードも非常に遅い。警戒するべき攻撃力はキングシールドで封じた。
───そうなると警戒するべきは二匹目のポケモンか。
少年が腰に手を回した瞬間を男は見逃さない。モンスターボールを投げられる前に、ドーブルが少年に尻尾の先を向ける。
「させるな! ハサミギロチン!!」
「ニダンギル!」
ハサミギロチンを繰り出すドーブルの前に立ちふさがるニダンギル。
命中精度が悪いハサミギロチンだが、目の前に現れたニダンギルにはしっかりとヒットした。
いちげきひっさつ。
しかし、ノーマルタイプの技──ハサミギロチン──はゴーストタイプを持つニダンギルに効果がない。
衝撃で砂埃が舞う中で、少年はコートの裏に隠し持っていた太い骨を取り出す。
「ボールじゃない?!」
「……くらえ!」
そして少年はその太い骨を男に投げ付けた。
「あっぶね?! 人間が直接人間に攻撃してくるなよ!!」
ギリギリそれを交わした男だったが、心底驚いた表情で少年に悪態を吐く。
ポケモンの技にホネブーメランという物があるが、太い骨はそれと同じ要領で少年の手元に戻って来た。
「国際警察。コードネーム──クリス──だ。僕達は何をしてでもお前達R団を捕まえる」
「どこまで筒抜けなのかねぇ。……深ーい事情がありそうだけどよー、こっちもまだやらなきゃ行けない事が沢山あるんだよ。捕まる訳にはいか───」
男は腰からモンスターボールを取り出しながら声を上げる。
「───な?!」
しかし、それと同時に男を
10まんボルト。高い威力を誇るでんきタイプの技だが、ニダンギルが放った訳ではない。
しかし少年がモンスターボールを投げた素振りはなかった。
予め忍ばせておいたのか?
いや、なら背後からの攻撃はおかしい。
このバトルの間に背後に回り込まれる要素なんて───
「───さっきのブーメランか?!」
「ご名答だけどもう遅い。動きを止めろ
「ちぃっ、させるかよ! ドーブル、こころのめ!!」
振り向きながら命令を出す男に従って、ドーブルはこころのめを使い次の技に備える。
背後で強い閃光を放ち相手の命中力を下げる技──フラッシュ──を放ったポケモンをドーブルは捕えた。
「フラッシュで命中力を下げようが無意味だぜ! 蹴散らせドーブル、ハサミギロチン!!」
強い光で視界が閉ざされる中、ドーブルのハサミギロチンが炸裂して砂埃をあげる。
必中の一撃必殺。
しかし、砂埃の中でフラッシュを放ったそのポケモンは平然と地面を
「ピカチュウじゃ……ない?」
「トドメだ
驚いた男の背後で少年が指示を出す。
プラズマで出来た身体を持つポケモン──ロトム──は、少年の指示に従って男に電撃を放った。
そのポケモンのタイプはでんき───そして、ゴーストタイプ。ノーマルタイプの技は文字通り効果がない。
「がぁぁっ?!」
ロトムの放った電撃が直撃し、男はその場に倒れ込む。
勝負あり。少年は背後から男の手を掴み上げて、ポケットの中のディスクを取り出した。
「なんだよ、ピカチュウって言ったじゃねぇか……えぇ? それともピカチュウってニックネームのロトムなのか?」
「ただのフェイクだよ。僕がピカチュウと呼べば、君はなんの疑いもなく確認もしてないポケモンにハサミギロチンを放つと思ったからね」
自ら両手を挙げる男を見下ろしながら少年はロトムを呼び戻す。
フラッシュで姿を隠したロトムをピカチュウであると誤認させ、ロトムには効果がないハサミギロチンを誘発させた。
そして出来た大きな隙に10まんボルトを叩き込む。
少年はその為にフラッシュを覚えるゴーストタイプ以外のポケモンの名を叫んだのだ。
ピカチュウにしたのは他でもない。様々な地方でも姿を見せ、人気も知名度も高いポケモンだからである。
「夜道に背後から人を襲って? さらに騙し討ちとは。中々悪党の素質があるぜ……? どうだ、R団に入らねーか?」
「なんとでも言え。僕はR団を捕まえる為なら何でもやるだけだ。……さて、また電撃を貰いたくなかったら大人しく答えろ。お前達の目的はなんだ?! このアローラで何を企んでいる!!」
少年は男の正面に立ち、その胸倉を掴みながら声を上げた。
余程R団に恨みでもあるのか、それかただ真面目過ぎてR団が許せないのか。
どっちでもいい。こうやって熱くなる奴は、直ぐに足元を取れる。
「ハッ! まだバトルが終わってないと思ってるかよ!! やれ、カクレオン!!」
突然、声を上げる男の眼前──少年の背後──で、一匹のポケモンが姿を現した。
いろへんげポケモンのカクレオンは、その姿を背景と同化させて視界から姿を消す事が出来る。
初めに男はモンスターボールを二つ同時に投げていた。しかし、その場に現れてニダンギルを迎撃したのは一匹。
このカクレオンはその時からこの反撃の為に姿を隠していたのだろう。
少年の背後を取ったカクレオンはしかし───技を出す前に膝から崩れ落ちて地面に倒れた。
「───なぁ?! どういう事だ?」
「そこに倒れているゲンガーのほろびのうたさ。ボールを二つ投げたのに一匹の姿が見えなかったから、指示をしておいた。……もっともお前に聞こえないように声を小にして歌わせたけどね」
ほろびのうたは聴いたポケモンの体力をしばらくしてから全て奪う技である。
しかしその効果範囲は音を聞いたポケモン全てだ。聞こえなければ意味がなく、また技を放ったポケモン自身にも影響する。
「このサングラスがメタモンだという事も分かってる。ボールはもう使わせない。……さぁ、答えろ。お前達の目的はなんだ。空間研究所からなぜネクロズマのデータを持ち出した!」
少年は男のポケットからもう一つ、サングラスを取り出してニダンギルの所に放り投げてから声を上げた。
空間研究所に入る前から気が付かれていたのだろう。メタモンでの変装も、空間研究所からデータを頂いたのもお見通しという訳か。
想像以上に歯ごたえのある相手に男は苦笑した。
「……何がおかしい」
「いやぁ、惜しい。本当に惜しい。後一歩のところで勝てたのになぁ。降参だ。参りました───なんて言うと思ったかよバカが!! メタモン、ロトムに変身だ!!」
目を細める少年の前で、男は立ち上がりながらニダンギルの前に投げ捨てられたサングラス向けて声を上げる。
「させるなニダンギル!! せいなるつるぎ! ロトム、シャドーボール」
一瞬の隙も許さず、少年は二匹のポケモンに指示を出した。
メタモンに効果が抜群なかくとうタイプの技──せいなるつるぎ──の後に指示したシャドーボールは、もしロトムに変身されてしまっても有利なタイプの技である。
やはりこの少年は想像以上だ。男はしかし、不敵な笑みで倒れたカクレオンをボールに戻す。
次の瞬間地面に落ちていたサングラスは二つの技を受け粉々に砕け散った。
「───何?!」
驚く少年の手の中で一枚のディスクがその姿を変える。
へんしんポケモンのメタモン。特技は───へんしん。
「ポケットの中でディスクにへんしんしていたのか?!」
少年の言う通り、メタモンはサングラスにへんしんした後ポケットの中でディスクに再び姿を変えていた。
少年が男のポケットに手を入れた時、中でメタモンが本物のディスクを取られないように細工したのである。
その攻防を最後に二人の行動は一瞬であった。
「メタモン、さっき見せてもらったのをお返しだぜ! フラッシュ!」
「ニダンギル、つばめがえし!」
ロトムに変身したメタモンがフラッシュを放つ。
目を絡ませている間にドーブルがテレポートでも放ったのか、閃光の後その場に男達の姿は確認出来なかった。
「……逃したか」
少年は目を細めながら周りを見渡す。
そして何も隠れていない事を確認してから、ロトムとニダンギルをボールに戻し倒れているゲンガーを抱き上げた。
「すみませんハンサムさん、取り逃がしました」
背後から走って来たハンサムに向け、少年は落ち込んだ様子で言葉を落とす。
本来ならあの怪しい男を捕まえて、全て吐かせる予定だった。エレベーターの中でその役目を引き受けた自分が情けない。
「いや、充分だ。きっと私でも同じ結果だったろう。あの男は相当なやり手だ」
「ブライさんならもっと上手くやっていた……」
「クリス、自分の力を人と比べる時は全体を見て判断しろ。こちらは人手も足りない状態だ。君は君のすべき事を成せばいい」
失敗を落ち込む部下の肩を叩きながら、ハンサムはここ最近のR団の活動を思考する。
カントーの大震災。アローラのRR団。ホウエン等他の地方でも、R団と思わしき集団が活動している話がここ最近急に上がってきた。
確実に何かが起こっている。しかし何かが掴めない。
「あの男がR団なのは言動から言って間違いないだろう……。だが、ブライの報告ではホウエンでもR団の本格的な活動が始まっている、今回彼の手を借りるのは難しい」
「……分かってます。僕だって国際警察の一員ですから」
顔を上げて、スイッチを切り替えた少年は海の向こうに視界を移した。
四つの島からなるアローラ地方。一人では荷が重いが、やるしかない。
───R団を捕まえる為に。
「これからの事は明日決めよう。今は自分のポケモンを休ませてやるといい」
「分かりました。では、また明日」
少年はハンサムに敬礼をすると、目を回しているままのゲンガーの頭を撫でながらポケモンセンターに向かう。
しかし歩いている内にゲンガーが目覚めると、少年は腰に閉まってある太い骨を強く握りしめた。
───R団は必ず捕まえる。
「……待っいてくれガラガラ。君の仇は絶対に取るから」
歯をくいしばる少年を、とても小さなゲンガーは心配そうに見上げていた。
七日連続更新、五日目。ここで一章一節は終わり、次回から二節が始まります。
やっとそれらしいポケモンバトル()が書けました。いやなんでもありですね。
今回、亜梨亜さん作のポケモン作品『虹色の炎』より主人公の一人ブライ君をゲストとして名前を出させて頂いております。同じ国際警察の所属なので、同僚として書かせて頂きました。まずは感謝を。
『虹色の炎』は今回私が書いた物とは比べ物にならない濃厚なバトルシーン、そしてホンエン地方で暗躍するR団から目を離せない素敵な作品となっております。是非是非ご一読下さい!
それでは、次回もお会いできると嬉しいです。