「いやぁ……やられた。完璧にしてやられた。まさかここまでやるなんてな」
真っ二つに折れた一枚のディスクを両手で弄びながら、一人の男が声を上げる。
周りを草木に囲まれたテントで男を囲む三匹のポケモンは、必死に男に頭を下げていた。
「別にお前達を責めるつもりはねーよ。お前達は俺の命令を確実にこなした。三匹共だ。ミスをしたのは俺よ、俺」
しかしなぁ……。と、溜息を漏らしながら男はディスクを設置されたゴミ箱に投げ捨てる。
「あそこで必中の技、つばめがえしを選択してディスクを叩き割るなんて普通やるか? やらねーよな?」
一番落ち込んでいるカクレオンの頭を撫でながら、男は三匹に同意を求めた。
しかしポケモン達は顔を上げない。男を相当慕っているのか、カクレオンに関しては泣き出す始末である。
「あ、こら、泣くなって! そもそもあの仕事は俺の独断で急場だったんだ。別に失敗しようが俺にお咎めはねーよ。な? だから泣くな」
男はカクレオンを抱きながら、メタモンとドーブルの頭を叩いた。
なんとか気を取り直した三匹にご飯を出して、次の行動に移る支度を整える。
「問題は次よ。こっからは真面目な仕事だ。……さて、準備と行くかドーブル」
カクレオンをボールに戻し、サングラスにへんしんしたメタモンを頭に乗せた。
引き連れるドーブルと向かう先は船乗り場。行き先はメレメレ島。
「さて、島巡りの始まりだ」
☆ ☆ ☆
ウラウラ島──ポータウン──には、それはもういかがわしい屋敷が存在している。
数ヶ月前までこの町はスカル団という組織が占拠しており、そのスカル団が解散した後も一般人は住んでいない。
雨が降るそんな町で、赤いメッシュの入った黒い髪を後ろで結んだ少女が一人立っていた。
「……なぜだ、グズマさん。なぜスカル団を解散する!」
その少女は屋敷の前に立つ、丸いサングラスを頭に乗せた白髪の男向けて声を上げる。
その周りには旧スカル団メンバーが倒れており、少女の前には黒い体色に赤色が混ざった四足歩行のポケモン──デルビル──が姿勢を低く構えていた。
「気付いちまったんだよ。ぶっ壊してもぶっ壊してもたどり着けなかった答えって奴に。島巡りを毛嫌いするのはもう辞めだ」
「ふざけるな! 私のお兄ちゃんは島巡りで自信をなくして、何処かにいっちゃったんだ。貴方も島巡りを恨んでたじゃないか! それをなぜ今さら!」
グズマと呼ばれた男はポケモンも繰り出さずに少女の瞳をしっかりと見返す。
体格差もあるからか少女は少しうろたえるが、それでも負けじと声を上げる姿は真剣そのものだった。
「なら、試して見ろよ。こい、リア! お前のゼンリョクを俺にぶつけてみろ!」
尚もポケモンを出さずに顔を上げるグズマ。リアと呼ばれた少女は男を指差しながら睨み付ける。
「……私はあなたを尊敬していたんだ。ここだけが私の居場所だった。この場所を奪うのなら、誰だって許さない! デルビル、かえんほうしゃ!!」
リアの命令を聞き、デルビルは口から炎を吐き出した。
それは真っ直ぐにグズマへと向かい、雨の中でも高威力を維持する豪炎が大地を焼く。
「グズマさーん!!」
旧スカル団したっぱ達の悲鳴が屋敷に轟いた。
しかし、グズマは動かない。不敵に笑う彼の表情はしかし、申し訳なさ気である。
「ぶっ壊してもぶっ壊してもよ、分からねー物があったんだ。だが俺がお前らに教えてやれるのは───」
彼の正面に現れる一匹のポケモン。男は身を炎に焼かれながら構え、声を上げた。
「───ぶっ壊す事だけだからよぉ!!」
目を見開き、グズマは少女を睨み付ける。
二人のトレーナーは炎を雨が消化したのを合図に、お互いの力をぶつけ合った。
☆ ☆ ☆
「……で、スカル団を破門されたと」
「破門なんてされてない。そもそもスカル団はもう───いや、私がスカル団だ。私一人だけでも……スカル団だ」
ポータウンに続く道に設置された交番で、体操座りで拗ねる少女に気怠そうな表情の中年が話しかける。
中年の男性はそんな少女の前にモンスターボールを三つ起き、ついでに顔も見ずに頭を撫でた。
「一人っきりじゃ
「……う、うるさい」
目を逸らしながらも、少女は三つのモンスターボールを開く。
ダークポケモン───デルビル。
わるぎつねポケモン───ゾロア。
ばけぎつねポケモン───ゾロアーク。
少女の手持ちである三匹のポケモンは、ボールから出るや少女の元に集まってそれぞれでじゃれ合った。
「まぁ……しかし、なんだ。その歳でグズマに喧嘩売った度胸だけは、認めてやるよ」
「……島キングだからってあんたも上から目線かよ、クチナシ。別に私は保護してくれなんて頼んでない!」
再度頭をポンポンと叩くクチナシと呼ばれた男の手を弾きながら、リアは立ち上がって声を上げる。
クチナシはそんな好戦的な少女を微笑ましくも思いながら、これからどうさせた物かと面倒臭そうに頭を掻いた。
「……別におじさんも保護するつまりなんてないからな? ポケモンも元気にしてやったんだ、これ持って出ていきな」
そう言いながら、クチナシは少女にウェストバッグを一つ渡す。
そのバッグには四つのカプを讃えるお守り──島巡りの証──が付けられていた。
「これは───わ、私は島巡りなんてしない!! 私からお兄ちゃんを奪った島巡りなんて、絶対にしない!!」
「そう言うなって。グズマが何を言ったか知らねーし、お前のにーちゃんが姿を眩ませた理由も知らねーけどよ。……やってみなきゃ分からず仕舞いだろ? グズマやおじさんに突っかかってきた根性、そこで見せてみたらどうだ? 丁度島巡りに出れる歳だしな」
少女を見ずにそう言うクチナシは、口角を釣り上げながらさらにこう続ける。
「そしてまたおじさんやグズマの所までこい。その時はこいつを渡してやるから、これでグズマにリベンジすりゃ良い」
そう言いながらクチナシは、暗い紫色の菱形のクリスタルをリアに見せた。
「……私はZ技なんて!」
少女はそのクリスタルを見て目を見開くも、その手を払い除ける。
強くなりたい。
力が欲しい。
だからスカル団に入った。グズマさんのようになりたい。兄を奪った島巡りなんか、Z技なんかに頼らなくたって、強くなりたい。
それなのに……。
「じゃあ、どうする?」
「……っ。……分かったよ。でもこれはケジメだ。島巡りなんてなんの意味もないって私が証明する! キャプテンも島キングも、スカル団を解散したグズマさんも全員私が倒す!」
そう啖呵を切った少女は、トレーナーを心配そうに見詰める三匹と共に交番の外に出る。
しかし、ふと鞄の中を確認した少女は驚きのあまり足を滑らせてその場に転んだ。
三匹が心配する中、ワナワナと震えながら立ち上がるリアは走ってクチナシの所に戻ってくる。
「こんな大金貰えない!!」
「いや、お前金もないのにどう島巡りするってんだ。気にするな、おじさんの金じゃない。アローラの役場の金だ」
「尚貰えないわ!! 犯罪者かあんたは!!」
「スカル団所属が何言ってんだ……」
逆に口を開けて驚くクチナシの前で、少女はワナワナと身体を震わせた。
どうも感情が不安定らしい。これはこれ以上関わると面倒臭そうである。
「こ、転んだの見た……?」
「見てないからとっとと行け」
「嘘だ! 絶対見た! 内心笑ってるんだろ!」
「面倒臭いなお前……」
震える少女にデコピンを打つクチナシ。少女はギャーギャー喚きながら、交番の出口で何かに足を躓き転けた。
あそこに何か躓く物……あったか?
「……っ。……ぅ、うぅ、み、見てろ! 絶対お前をぶっ壊しにくるからな! 真スカル団の名に掛けて!!」
最早羞恥で涙目の少女は、クチナシを指差しながら小悪党のような言葉を吐き走っていく。
スカル団らしさを感じながら、送り出したは良いが今後が心配なクチナシであった。
「……ちゃんとここまで来いよ、リア。……で、これで良いのかい? グズマちゃん」
「……恩に着ます。島キング」
リアを見送ったクチナシの後ろで、グズマは頭を下げる。
鞄に入っていた金は、グズマが真面目に働いて手に入れた金だった。
彼は自らが誤った道に進めてしまったスカル団全員の人生に責任を感じているのだろう。
そんな中でもリアは最年少。今年十一になり、島巡りも許される歳となった。
せめて彼女だけは、自分が見つけられなかった物を見つけて欲しい。
そんな身勝手な考えを受け入れてくれたクチナシに、グズマは頭を下げ続ける。
「……どうも丸くなっちまって。おじさんは寂しいよ」
「……ば、馬鹿野郎! これはケジメだ! ケジメ!! 俺様がならず者なのは変わらねぇ。破壊という言葉が人の形をしているのがこの俺様だぜ!!」
「はいはーい。お師匠様に丸められちゃった可愛いグズマくーん。ポータウンで可愛い皆が待ってるぞー」
「テメェぶっ壊すぞぉぉおおお!!!」
しまった、火をつけてしまった。雨なのに。
色々と面倒な事に巻き込まれてしまったが、まぁ……面白い物も見れるだろう。
クチナシは将来の彼等彼女らを想像して、微かに口角を釣り上げた。
☆ ☆ ☆
アーカラ島──カンタイシティ──乗船所。
「おはよう、アローラに来て早々初日にご苦労だったな。……まずはメレメレ島で調査を頼む。あそこはアローラでも観光の名所であり人口も多いからな」
「分かりました。逃した男も必ず捕まえます」
コートを整えながら、金髪の少年──クリス──がハンサムにそう告げる。
R団の動きは現状全く掴めていない。まずは情報を集める事が先決だ。
こと捜査に関してクリスはバトル以上のセンスを発揮する。色々と謎の多い今回の事件に置いて、この人選は正しかったと言えよう。
「そう気負わなくて良い。何度も言うが、無茶はするな。私はウルトラビーストの件で培った人脈を使い捜査を進めるが、何かあれば直ぐに電話を寄越せ。……何せ今回は相手が相手な上に割ける人員も少ない」
「……分かっています。それでも、R団は必ず捕まえる」
クリスは敬礼し、心配するハンサムを尻目に船に乗り込んだ。
「……もう誰も、失いたくないからな」
向かう先は───メレメレ島。
☆ ☆ ☆
ウラウラ島──マリエシティ──乗船所。
「美味しいねぇ、デデンネ」
「デネェ〜」
アローラ名物マラサダを食べながら、少女がポケモン達と船の中で談笑する。
搭乗した飛行機をウルトラビーストに襲われ、その過程で傷付いたフライゴンを保護したシルヴィは本来の行き先であるメレメレ島に向かう船に乗っていた。
「フライゴンも食べる?
「ふ、フラィ……」
彼女は笑顔でマラサダをフライゴンに向ける。
しかしフライゴンは人間の作った物を食べた事がなく、それが何なのか分からずに首を横に振った。
「食べないの? クチートは
「チィ」
一方でクチートはマラサダを受け取ると笑顔でそれを口に運ぶ。
背後から盗みを狙うデデンネを頭の顎で噛み付きながら、しっかりとマラサダを完食した。
「デネェぇぇえええっ!!」
「それはデデンネが悪いよー。ほら、まだまだあるから取り合わないの!」
「……ちょっと、そのデデンネとかフライゴンとか、あんたのポケモン?」
そんなシルヴィに乗客の一人が話し掛ける。
赤いメッシュの入った黒い髪を後ろで結んだ、シルヴィよりも幼い少女──リア──は腕を組んで彼女を睨み付けていた。
「あ、はい。デデンネはそうですけど……」
「……騒がしいし、フライゴンに関してはデカい。マラサダも食べさせないならボールに戻したら?」
リアはシルヴィをジト目で見ながら彼女に説教を入れる。
船はポケモンの出し入れ自由であるが、あまり場所を取るポケモンはボールに入れておくのがモラルというものだ。
出来る限りの暗黙の了解。
しかし、シルヴィにはそれが出来ない理由があり、船長にも事情を説明している。
「あ、ごめんなさい。でも、フライゴンは私のポケモンじゃなくて預かっているだけだからモンスターボールに入れられないの。……デデンネは完全にデデンネが悪いから、謝るね」
シルヴィはそう言いながらデデンネの頭を下げさせた。
そんなシルヴィの態度を見て、リアは「まぁ、そういう事なら……」と他所を見る。
ホッとして溜息を吐くシルヴィは、思い出したようにデデンネの分のマラサダを取り出した。
「あ、あの、お詫びに入りますか……?
「要らないし。
「え、マサラダじゃないの?! カントーのマサラタウン発祥なのかなとか色々考えてたのに!」
「なんだその安直なネーミングセンスは! そんなもんがアローラの名物だったら嫌だわ!!」
「お客さーん、静かにねー」
「「……。……す、すみません」」
船長に注意され固まる二人を見て、デデンネとゾロアが小さく笑う。
シルヴィは一緒に微笑んで、リアは目を逸らして窓の外を見た。
二人を乗せた船は乗船所から出航し、海の上を走る。
行き先は始まりの島───メレメレ島。
二人を乗せた船は数時間後、メレメレ島── ハウオリシティ──に到着した。
七日連続更新、六日目。
新キャラ──リア──が登場し、これでこの作品のメインキャラクターは出揃った感じです。
マラサダをマサラダだと思っていた人は私だけではない筈。
それでは次回もお会い出来ると嬉しいです。