今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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【一章二節】その日──運命は始まりの島に集う
始まりはたいあたりから


 メレメレ島──ハウオリシティ──船着場。

 

 現在アーカラ島とウラウラ島の二つの島から出航した船が定着しており、乗客達が次々に降りて行く様子が見て取れる。

 

 

「はい退いて退いてぇ! 通りますよぉ! イケメンが通りますよぉ!!」

 忙しなく動く人々の間を、騒がしい一人の男が通り抜けた。

 その男に肩をぶつけられたリアは舌打ちをしながら男の顔を確認する。

 

 黒い髪にサングラスをした男の顔ははっきりと分からないが、どこかで見覚えのあるような顔だった。

 

 

「……っ。お───」

「失礼! イケメンが通るぜぃ!!」

 サングラスの男は手を上げながら人混みの中を走って行く。

 男はどうしてどいつもこいつもこの島に同じタイミングで決めるんだ、とボヤきながらも乗客の中で一番に乗船所から走り去っていった。

 

 

 

「───気のせいか」

「大丈夫? リアちゃん。怪我してない?」

「……別に。ぶつかっただけだし」

 その一部始終を見ていたシルヴィがリアに駆け寄って、声を掛ける。

 

「乱暴な人も居たものだなぁ」

「ていうか気安く呼ばないで。……仲間でもなんでもないのに」

 船で知り合った少女を気遣い頬を膨らませるシルヴィだが、リアは不機嫌そうにそう答えた。

 

 

 名前を教えたのだって、しつこいシルヴィに耐えかねた結果である。

 リアとしては早く一人になって、島巡りの試練をこなして行きたい所なのだ。

 

 

「え、友達になれたと思ってたのに……」

「そりゃあんたの思い上がりだ」

 腕を組んでシルヴィに強く言い放つリアはしかし、人混みの中で足を躓いたのか盛大に転んでしまう。

 リアは直ぐに立ち上がるが、ワナワナと震えて涙目でシルヴィを睨み付けた。

 

 

「……み、見たな」

「……い、痛くない? 大丈夫?」

「……ぅ、うるさい! バーカ! バーカ!! お前なんか知るか!! バーカ!!」

 添え声を上げながら、リアは乗船所から走って行く。それを追いかけるデルビルを見ながら、シルヴィはただ唖然としていた。

 

 ……面白い娘だぁ。

 

 

「さて着いたぞゲンガー、寝てる場合じゃない。まずはククイ博士って人に会いに───ん? あの子は……」

 一方でアーカラ島からの船に乗っていた国際警察の少年──クリス──は、黒い帽子を被った少女を見付けて歩みを止める。

 

 

 カントー地方──トキワシティ──の大震災で一番不可解な出来事はトキワジムの回復システムが起動していたという事だ。

 ポケモンセンターはジムのシステムが起動する直前まで機能していて、態々トキワジムのシステムを使う理由はなかった筈である。

 

 理由を考えるなら二つ。

 

 一つは、ポケモンセンターを利用出来ない事情があった。

 もう一つは、ポケモンセンターが直ぐに利用出来なくなると知っていた。

 

 

 そしてそのジムの回復システムを作動させたと思わしき人物が、付近の監視カメラに映っていた。

 何故か捜査に邪魔が入り行方が分からなかったが、アローラに飛んだ事までは国際警察も掴んでいる。

 

 

「……フライゴンか」

 クリスはフライゴンを連れた少女を船の上から観察した。

 

 

 服装は当たり前だが違う。ただ、帽子だけが一致していた。

 赤い髪に、身長もそのくらいだろう。そして決定的なのは───

 

「……デデンネにクチート」

 ───二匹のポケモンだ。

 

 

 監視カメラに映っていたのは少女だけではない。肩に乗る小さなポケモンの影と、抱き上げられたクチートの姿である。

 

 

 デデンネなら肩に乗る事も出来るだろう。フライゴンは論外として。しかし、じめんタイプか。

 

 

「……寄り道であの子の事について調べるか。可能性をコツコツと消していくのが答えへの近道だ。行くよ、ゲンガー」

 目覚めのマラサダを食べるゲンガーを呼びながら、クリスは乗船所の事務室に向かった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「うわぁ……大きいねぇ」

 周りの建物の中でも頭一つ抜けた建築物を見上げながら、シルヴィは声を上げる。

 

 

 メレメレ島を誇るこのショッピングモールは、アローラでも最大の規模を誇る大型ショッピングモールだ。

 このショッピングモールは防火装置や水災への対応を全て自動で行う。最新鋭の技術が取り入れられていた。

 

 少女は三匹のポケモン達と並んで、まずはブティックに入って行く。

 

 飛行機の不時着の時に着ていた服は見るに堪えない程では無いがボロボロになってしまった。

 それにイメチェンもしておいた方がいいかな? そう思いながらも、ブティックに入るや否やシルヴィは少女特有の──服を見る今時の若者──状態になり考えていた事は吹き飛ぶ。

 

 

「あー、これ可愛い。これ似合うかな? これリアちゃんに似合うんじゃない? また会えるかな? あ、これも可愛い!」

「お客様、お気に召した物がありましたか?」

「あ、はい! これとこれと、あとそれからこれと!」

 興奮気味なシルヴィはしかし、服に付いていた値段を見て驚愕した。

 

 

「ぁ、ぇ、万、十……? 桁が一個おかしいような……? え?」

 想像と桁が違う服の値段を見て後ずさるシルヴィ。

 デデンネは両手を上げて「やれやれ」と少女を眺め、クチートは頭を抱えて、フライゴンは唖然とする。

 

 

 感情豊かに気を沈めるシルヴィは他の店で服を選んで買い、その場で着替えを済ませた。

 

 

 黒いキャスケット帽はそのまま。白いワンピースに、アシマリというポケモンをイメージした青いパーカーを着たシルヴィは、その場で一周回って三匹に「どうかな?」と聞く。

 クチートは喜んで声を上げて、デデンネは無言で親指を立て、フライゴンは首を横に傾ける。

 そんなフライゴンに向けて頬を膨らませるシルヴィだが、直ぐに機嫌を直して買い物袋を手に持った。

 

 

「なんかねぇ、アシマリとモクローとニャビーっていうポケモンをイメージしたパーカーが可愛かったから三着分組み合わせ買っちゃった! おかげでお小遣いがピンチです」

 少女の最後の言葉を聞いて、途中まで盛り上がっていたクチートとデデンネは一瞬で静かになる。

 そして、超低出力のでんきショック。静電気。少女は「ごめんなさいぃぃいいい!」と声を上げ、店員に怒られた。

 

 

 

「……節約します」

「デネ、デネデネ!」

 ショッピングモールのお手洗い近くにある椅子で座りながら反省するシルヴィを、デデンネが説教をしている。

 側から見たら凄い光景だが、シルヴィに反論の余地はなくデデンネはしかしお金が少ないのにマラサダを要求していた。

 

 

「でも、まだ結構あるし今日は外食にしよ? 住む場所も探さなきゃ行けないし、今日は忙しいもん」

 エネルギーを付けておかないとね。そう付け加えたシルヴィは、ショッピングモールの二回にあるバイキングに向かう。

 食べ放題でいっぱい食べて、今日は頑張るんだ。そう思いながらお店に入ると、中から観光客と思われる男が一人飛び出してくる。

 

 

「わぁ?!」

 今日は危ない人が多いなぁ。そう思いながら振り向くと、ぶつかりそうになった男は青ざめた表情で口を開いた。

 

「こ、この店に入るのかい? 辞めておいた方が良い。この店は危険だよ!」

 言い終わると、男は走って逃げていく。

 

 

 なんなんだろう?

 

 そう言われると気になる物なのだ。

 

 

 シルヴィは首を横に傾けながらも、店の中に入って行く。

 

 

 

「ようこそ、バトルバイキングへ。こちら一時間食べ放題で千二百円となっております」

「え、想像より安い。ポケモン達の分も良いですか?」

 シルヴィがそう聞くと「勿論」と答える受付の女性。

 さっきの男の人はなんだったのだろうか?

 

 周りを見ても色々な人が普通に食事をしていて、危険なようには見えなかった。

 

 

 

「うわぁ、いっぱいあるよ!」

 台に置かれた料理は様々な種類があり、お値段も安い。こんなにお得なバイキングなら毎日だって足を運んでも良いだろう。

 そんな事を考えながら料理を皿に乗せていくと、目の前でパスタがあと一食分になってしまった。

 

 そこで───老人と手が重なる。

 

 

「あ、すみません! どうぞどうぞ」

 眼鏡をかけた老人にパスタを譲ろうと下がるシルヴィだが、老人がパスタを取る事はなかった。

 しかし老人はパスタを譲る気配も見せず、片手に握られたモンスターボールを地面に落とす。

 

 

「───ぇ」

 なぜ?

 

 ボールから出てきた鋭い牙を持つうろつきポケモン──ヤングース──は既に臨戦態勢だ。

 

 

「え、えと、えーと……?」

「ふふ、さて君はどのポケモンで相手をしてくれるのかな?」

 当然のようにポケモンバトルを仕掛けて来た老人に、シルヴィは後ずさって「……わ、私?」と自分を指差す。

 

 

「ほっほっ、君以外に誰がいるのかね。ここはバトルバイキング。料理の取り合いになればポケモンバトルで決めるのが決まりだよ」

 バトルバイキングとはその名の通り、老人の説明した通りの施設だ。

 

 店内は強力なポケモンの技にも耐えられるように改装され、ポケモンバトルを見ながら食事も出来る。

 まさに一石二鳥の施設ではあるが、ポケモンバトルが得意でない者からすればただの恐ろしい施設だ。

 

 先程の男はそういう事だったのだろう。そして、自らもその例に外れていない事を思い出し、シルヴィは後退りした。

 

 

「どうしたのかな? こないならこちらから行かせてもらうよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。私バトルは───」

「フラィ」

 後退る少女の前に立つフライゴン。その目はやる気に満ちていて、ヤングースもその目に答える。

 

 

「ほっほっ、しかしお互いはやる気に満ちておるな」

「え、ちょ、フライゴン?!」

「ヤングース! たいあたりじゃ!」

 突然始まったポケモンバトル。先手を取ったのはヤングースだった。

 鋭い爪で地面を蹴りながら、ヤングースはフライゴン向けて疾走する。

 

 

 身体を目一杯相手にぶつける攻撃──たいあたり──はノーマルタイプの基本中の基本の技だ。

 フライゴンは両手からドラゴンタイプのエネルギーを放出。ドラゴンクローを持ってヤングースを迎え撃つ。

 

 

 二つの技がぶつかり合い、老人は次の技を思考した。

 

 

 ポケモンバトルはポケモンの技量だけで決まる勝負ではない。

 

 トレーナーは自らのポケモンのコンディションや相手のポケモンの能力、相手のトレーナーの戦法。その全てを考察しながら指示をだす必要がある。

 トレーナーとポケモンが一体となり戦う事こそがスポーツとしてのポケモンバトルであり、それこそがポケモンバトルの醍醐味であった。

 

 

 

「よし、一旦様子を見るぞ。かげぶんし───」

 ───しかし全てのポケモンバトルがその限りではない。

 

 

「───何ぃ?!」

 倒れるヤングース。フライゴンは無傷でヤングースを見下ろしていた。

 

 

 

「い、一撃で……」

 そんな少女の小さな声はバトルバイキングに来ていた客の声援で掻き消される。

 老人はバトルバイキングの常連の中でも腕の立つポケモントレーナーだった。

 

 しかし、その老人がたった一撃の技で敗北したという事実に歓声が湧き上がる。

 

 驚いていた老人だったが、直ぐに表情を整えてシルヴィに手を伸ばした。

 

 

 

「お見事だ。技を指示したタイミングも分からなかったよ。このパスタは君が食べると良い」

「え、えぇ……」

 戸惑う少女を横目にフライゴンは得意げな表情を見せる。

 

 その後も何度か食事を取り合いになるが(態とシルヴィが手を出す料理の所に向かって来た気もしたが)フライゴンは全て一撃で相手のポケモンを仕留めてしまった。

 湧き上がる歓声にうろたえながらも、シルヴィはフライゴンのおかげで好きな料理を好きなだけ食べる。

 

 複雑な気分ではあったが、フライゴンは必要以上に相手を痛めつける事もなく得意げにシルヴィを見て胸を張っていた。

 倒れた相手のポケモンもフライゴンを認め、握手を交わすポケモンまで現れる。

 

 

 

「フライゴン、凄く強いんだね」

 ポケモンバトルはポケモンを痛め付ける物だと思っていたから嫌いだった。

 でも、もしかしたらこれが本当のポケモンバトルなのかもしれない。

 

「ご馳走様でした!」

「ありがとうございました、またお越し下さいませ!」

 お腹いっぱい食べたシルヴィ達は、バトルバイキングを後にする。

 他の客は、良い物を見れたと拍手喝采をあげていた。

 

 

「フライゴン、ポケモンバトルは好き?」

「フラィ」

「私はちょっと……苦手なんだ」

 店を出たシルヴィは、俯きながらそう呟く。

 

 それを聞いたフライゴンも別に首を縦に振った訳ではないが、そっとシルヴィの言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「私はポケモンが痛め付けられる姿をずっと見てきたの。見て見ぬ振りをしていた。……だから私が何を言っても、ただの身勝手なんだろうけどね」

 俯く少女を心配するクチートとデデンネ。彼女と昔からの付き合いである二人は、その言葉の意味を深く受け止める。

 

 

 

「……私は、ポケモンに傷付いて欲しくない。誰のポケモンも、野生のポケモンも───勿論あなたにも」

 その言葉を聞いてシルヴィから目を背けるフライゴン。

 

 

 自分はこれまで強くなる為だけに、沢山他のポケモンを傷付けてきた。

 

 それはきっとこの優しい少女には受け入れられないだろう。

 

 

 だが、少女の優しさを否定する事はフライゴンには出来ない。

 

 

 少女のその優しさに自分は救われたのだから。

 

 

 

 だから、今度はこの力を守る為に使ってみよう。

 

 

 それが自分を高める事に繋がるかもしれない。

 

 

 

「フライゴン……?」

「フラィ」

 行き場を失っていた力の矛先を見つけたフライゴンは少女の頭を一度叩きながら、一言鳴いた。

 

 

「ふふ、ありがとう」




如何でしたか? お正月七日連続更新イベントはこれで終わりです。次回からは不定期での更新になります。

そしてなんと、ブライの名前を貸して下さった『虹色の炎』のありあさんよりファンアートを頂きました。紹介させて頂きます。

【挿絵表示】


素敵なタイトルロゴとフライゴンのイラストを頂いてしまいました。チラリと描いてある月がとても素敵です。ありがとうございました。


それでは次回の更新がいつになるか分かりませんが、次回もお会い出来ると嬉しいです。
感想評価などお待ちしております。
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