今宵──砂漠の精霊は銀色の月を見ゆ   作:皇我リキ

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仕掛けられるはベノムトラップ

 メレメレ島──ハウリオシティ──乗船所の事務室。

 

「トレーナーカードが登録されていない……」

 国際警察の権限を使い、ウラウラ島から来た船に乗っていた少女の情報を調べるクリス。

 しかし結果は不自然で、どうも掴めない内容だった。

 

 

「個人情報が偽造されている。……名前はシルヴィ、15歳。手持ちのポケモンはクチート、デデンネ。フライゴンは野生のポケモンか」

 さらにそのフライゴンがまた不自然で、飛行機の不時着の時に現れたネクロズマと戦って傷付いたポケモンだとされている。

 ポケモンセンターで保護されていたフライゴンは、エーテル財団への引き渡しを拒んだ。しかし、少女には気を許し付いて来ている。

 

 少女が(ロケット)団の関係者であるのなら、そんな人物に野生のポケモンが気を許すだろうか?

 

 

「そしてカプ・ブルルに認められ、Zリングを手渡された……か」

 カプはアローラの守り神であり、現地の人曰く自らが認めたトレーナーにZリングを手渡す事があるという話だ。

 それこそ、少女が悪党ではないという根拠になりかねない。

 

 しかしシルヴィという名の少女の個人情報は何者かによって偽造されている。

 トレーナーカードは登録すらされてすらいなかった。

 

 

 トレーナーカードはポケモントレーナーならば誰しもが登録するものである。

 

 ポケモントレーナーはトレーナーカードに記載されたIDを使い、ポケモンセンター等でのポケモンの預かりや、ポケモンジムへの挑戦、ポケモンリーグへの登録を行うのだ。

 他にもポケモントレーナーに必要な事はこのトレーナーカードがあれば大抵の事が出来る。逆に、トレーナーカードがなければ出来ない事も出てくる訳だ。

 

 

「……シルヴィという名前のポケモントレーナーで彼女と顔が一致するトレーナーはいない。……となると、偽名か」

 クリスは事務室のパソコンを借りて、ポケモントレーナーの情報が集まるデータベースにアクセスする。

 そもそもポケモンを持っていても、トレーナーとしてポケモンバトルを行わないならトレーナーカードは必要がない。

 

 これだけ調べて出てこないという事は答えは二つだ。

 

 

 一つ、そもそもポケモントレーナーではない。

 

 もう一つ、個人情報を偽造し偽名を使っている。

 

 そして前者の場合も、R団等の悪党はトレーナーとして登録していない場合の方が多い。

 

 

 どちらにせよ黒である可能性が高い。

 これが、クリスが小一時間で辿り着いた答えであった。

 

 

 

 そうと決まれば次に彼が行うのは行動である。

 

 

 

 

 メレメレ島──ハウリオシティ──ショッピングモール。

 

 少女を尾行するクリスが見たのは、服を大量に購入するシルヴィの姿だった。

 次にシルヴィが向かうのはバトルバイキング。フライゴンで全てのバトルに勝利した少女は好きな料理を好きなだけ口にする。

 

 

「……フライゴンはとても強く見えるけど、指示を出していた様子がないな」

 元々フライゴンは野生のポケモンで、少女はフライゴンを捕まえた訳ではない。

 だからそれは当たり前といえば当たり前で、むしろ彼女がポケモントレーナーではないという可能性が高くなるだけの調査結果だ。

 

 しかしどうも何かが引っかかる。

 

 

 

 次に少女が向かったのはショッピングモールに設置されたステージだった。

 

 どうやら今日はアローラで今人気のアイドルがイベントで来ているようで、沢山の人が列になってアイドルの歌を聴いている。

 

 

 

「見て見てデデンネ、ライチュウが二匹居るよ! 女の子かもねー」

「デネェ!!」

 観客に混じりながら、自らの手持ちに声をかけるシルヴィ。

 デデンネは目をハートにして、ステージに立つライチュウの内の一匹に視線を送った。

 

 

「……あれ? でもあのライチュウ、なんだか姿がおかしい気がする」

 首を横に傾けるシルヴィの視線の先には、二匹のライチュウが居る。

 

 

 ライチュウ。

 ピカチュウの進化系。進化前であるピカチュウと変わらずでんきタイプのねずみポケモンだ。

 オレンジ色の体色に尖った耳と、鋭い雷マークのような尻尾が特徴的である。

 

 しかし、ステージに立つ二匹のライチュウの内一匹はそのような姿をしていなかった。

 耳は丸く尻尾はサーフボードのように丸い形をしていて、さらにその尻尾に乗りながらそのライチュウは───浮かんでいる。

 

 

「デネェ〜?!」

「あ、あれ何?! 本当にライチュウなの?!」

「あら、もしかして観光客さんかしら? リュージョンフォームを見るのは始めて?」

「りゅーじょんふぉーむ?」

 驚くシルヴィに話しかけたのはこの島に住む老婆だった。

 シルヴィは首を横に傾けて、その老婆の言葉を待つ。

 

 

「リュージョンフォームはねぇ、アローラの独特な自然に対応するために姿を変えたポケモンの事を言うんだよ。ポケモンのタイプも変わる事があるのさ。あのライチュウ、アローラの姿はでんき───そしてエスパータイプを持ってるんだよ」

「そ、そんな事があるんですか?」

 ポケモンの事に関して、シルヴィは一定以上の知識を持っているつもりでいた。

 しかしそんな常識を覆すポケモン達の生態を聞き、彼女は他にも姿の違うポケモンが居るのかな? と、内心まだ見ぬポケモンに想いを馳せる。

 

 

「せっかくアローラに来たんだ。他のリュージョンフォームのポケモンも探してみるといいよ」

「はい、教えて下さってありがとうございます!」

 深々と頭を下げるそんなシルヴィを見ながら、やはりクリスは首を横に傾けた。

 どうも悪い人間には見えない。アイドルのステージを三匹のポケモンと仲良く眺める姿は、一般的な少女そのものである。

 

 

「……何を隠している。R団とは関係ないのか?」

 だからこそ、やはり腑に落ちなかった。

 

 

「はぁ〜ぃ! 今日はカガミのライブに来てくれてありがとうね! 最後はライチュウ達のスパークで会場を盛り上げちゃうよぉ〜! 二匹共、お願い!」

 ステージで金髪のアイドルの少女が合図を送ると同時に、二匹のライチュウが頰の電気袋から電撃を放つ。

 

 電撃は空中でぶつかり合い、火花を散らして会場を盛り上げた。

 

 

 ───しかし、突然明るかった視界が閉ざされる。

 

 

「───停電?!」

 何の事はない。ライブステージのライチュウ達の電撃が強過ぎただけだ。

 

「ちょ! カガミちゃんやり過ぎ!!」

「うわぁ!! なんてこったぁ〜っ!!」

 しかしクリスの頭に過ぎるのは一ヶ月前のトキワシティで起きた停電である。

 同時期に起きたホウエン地方でのR団での活動でも、キンセツシティを停電が起こったとハンサムに聞いた。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいぃ! お願いレアコイル、フラッシュ!」

 嫌な予感がする。

 

 

 だが今回は目の前で起きた事故だ。

 

 

 いや、ならトキワの時も事故だったのではないか?

 

 

 

 思考が回る。

 

 

 アイドルのポケモン──レアコイル──が放つフラッシュでその周りだけには明かりが照らされた。

 クリスはショッピングモールの客達が騒つく中で、最悪の状態を想定しながらモンスターボールを握る。

 

 

 何も起きてくれるなよ。

 そう思いながら数秒。ショッピングモールに明かりが戻り、停電からモールは復旧。

 

『大変ご心配お掛け致しました。停電は一時的な物です、心配いりません。また、停電中に非常用シャッターが作動しモールより出入りが不可能になりましたが此方も直ぐ様復旧致しますのでご安心下さい。復旧までご迷惑をお掛けいたします。繰り返します。大変ご心配お掛け致しました。停電は一時的な物です───』

 設置されたスピーカーからアナウンスが流れた。

 

 

 安堵する客達。何も起こらなかったのか?

 

 全てを機械的に自動で行う最新の技術が仇となり、ショッピングモールは一時閉鎖空間となる。

 しかし従業員の動きも早かったからか、その場でパニックが起こる事はなかった。

 

 

「……あまり神経質になるのは良くないね」

 ただの事故。いかんせん停電に敏感になっていたクリスは胸をなでおろす。

 

 ───次の瞬間だった。

 

 

 

『復旧までご迷惑を───うごっ?! な、なんだ君───や、辞め───うるせぇ、黙ってなぁ!!』

 突如スピーカーからこれまで話していた人物とは違う声が漏れる。

 マイクが転がったと思われる雑音が流れ、暴力的な言葉と音をスピーカーはただ機械的に発した。

 

『や、辞め───助け───ひぃ?!』

 スピーカーから流れる音声にモールの客達は全員その表情を曇らせる。

 絶え間ない悲鳴。男の物と思われる声がスピーカーを伝って高笑いしているのが伝わってきた。

 

 

 

「……っ、糞が!! とにかくこのままじゃ不味い、ロトム! スピーカーを止めろ。それと先回りしてこの汚い声の主を足止めするんだ!」

 ボールを投げながらクリスはプラズマポケモン──ロトム──にそう命令する。

 ボールから放たれたロトムは直ぐ様付近のスピーカーに潜り込んだ。

 

 

 ロトムは身体がプラズマで出来ており、電子機器を操作出来る。

 そして電線の中を自由に動き回る事が可能だ。

 

 

 一瞬でスピーカーの音量を下げたロトムは次に近くの掲示板に移動。

 放送室の場所を表示し、それを見たクリスは地図を頭の中に入れる。

 

 

「ハンサムさんには無理をするなって言われたけども……っ!」

 間に合え。

 

 

 いや、間に合わせる。

 

 

 

 ただそれだけの事を考えながら、少年は一瞬でも気を抜いた自らを呪いながら走った。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 同時刻。バトルバイキング。

 

 

「停電かと思ったらよく分からない放送……。……ったくなんなんだ」

 数分前、バトルバイキングで勝負を挑んで来たトレーナーに自らのポケモン──ゾロアーク──で勝利を収めたリアはスピーカーの放送を聞いて首を横に傾ける。

 せっかくバトルで勝ったというのに、その余韻を邪魔されてしまった。真スカル団としてこの場に名を轟かせる計画が丸潰れである。

 

 

「まぁ、良いか。良く聞け! 私は真スカル団のリアだ、島巡りなんて下らない物をぶっ壊す為にこの島に来てやった!」

「停電が怖くて気が狂っちゃったのかい? 可哀想に」

「違うわ!!」

 バトル相手だった老人に怒鳴りつけるリア。

 しかし老人は耳が遠かったのか、彼女に耳を向けて「ちくわ?」と聞き返した。

 

「ち が う わ !」

「メタモン?」

「一文字も合ってない……っ!」

「危ないからじっとしてろよ?」

「もう何が言いたいか分からないんだけど?!」

 そんな会話をしていると、慌てた様子の従業員達が客の誘導を始める。

 歯向かおうとするが普通に丸め込まれたリアは従業員に連れられて、近くのステージがある広場に向かわされた。

 

 しかし、彼女と会話をしていた老人だけが別の方角へ向かうの見て「ボケてるなあのおっさん」と舌を鳴らす。

 

 

「……ったく、なんだって───」

「あ、リアちゃん!」

「ゲ、またお前かよ」

 そんな時に今朝出会った能天気な少女にまた出くわす物だから、今日はとことんついていない。

 リアは溜息を吐きながら、シルヴィに捕まらないようにトイレへと逃げた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「国際警察だ!! 今すぐに動きを止めて両手を挙げろ!!」

 ドアを叩き開けて、モンスターボールの着いた太い骨を片手に声を上げる。

 しかしクリスが見たのは、放送室で横に倒れている紫色の髪の男性一人だけだった。

 

 

「……なんだ? R団は───」

 着ているのは従業員の制服だ。なら、この放送室を襲った犯人は何処にいる……?

 

 いや───

 

 

 

「───お前か。ロトム、10万ボルト!」

「ロト!」

 モニターから現れたロトムが体内から電撃を放つ。

 

 その電撃の矛先は───

 

 

「良く騙されなかったなぁ!!」

 ───倒れていた男だった。

 

 突然起き上がる紫色の髪の男。彼が起き上がると同時に、その髪と同じ色の不定形なポケモンが地面から盛り上がる。

 

 

 

「ベトベトン、まもるだぁ!!」

 へどろポケモン──ベトベトン──は身体がその名の通りヘドロで構成されているポケモンだ。

 その為身体は不定形で、部屋の片隅に隠れていたのだろう。

 

 ロトムの10万ボルトをまもるで防いだベトベトンは、男とクリスの間に立ち塞がって独特な匂いを部屋中に撒き散らした。

 

 

 

「ここで放送していた従業員をどうした……。お前は何者だ? 直ぐに答えろ」

「その前に質問だぜぇ。なぜ俺が従業員ではないと分かったぁ?」

「……簡単だ。ここで事が起きた数秒後に僕はロトムを向かわせて犯人の足止め(・・・)を命令した。しかし部屋に着いてもロトムは倒れている訳でもなく、モニターの中に留まっている。その答えは一つ、足止めの必要がなかったという事」

 ロトムとの信頼関係の上に成り立つ答えを、クリスは口にする。

 それを聞いた男は特に驚く様子もなく、ただその場で高笑いした。

 

「クックッ、ハッハッハッ!! 俺が従業員じゃないと分かった事だけは褒めてやるよぉ。しかしなぁ、ダメだぁ、ダメ、全然ダメだぜぇ? お前は何も分かっちゃいねぇ。俺達R団の崇高な目的を……お前達は何も分かっちゃいねぇ」

 男は目を見開き口を開く。

 

 

 分かっていない?

 

 

 何を?

 

 

 いや、分からないなら聞き出すだけだ。

 

 

 

「その汚い口を開くなら僕の質問に答える事だけにしろ! ニダンギル!! ラスターカノン!!」

 クリスは太い骨を男に投げ付け、それを避けた男の背後に現れたニダンギルに技の指示を出す。

 現れたニダンギルは剣先にエネルギーを集中し、ベトベトンにそれを放った。

 

 

 効果は抜群。

 ベトベトンはヘドロの身体を三割ほど吹き飛ばされる。

 

 

「ライルから聞いちゃいたがそこそこやりやがるなぁ。いやぁ……良いねぇ、溶かし甲斐があるぜぇ!」

 奇襲によりダメージを負ったベトベトン。まだ倒れた訳ではないが、男が不利な状況は変わっていない。

 しかし男は余裕の笑みを浮かべて立っていた。何がおかしい。

 

 

「だがぁ……今回の俺の目的はお前を溶かす事じゃねぇ。大丈夫だぁ、従業員は溶かしてねぇよ。そうだ、良い頃合いだ、居場所を教えてやろうかぁ?」

「何……?」

 この男の目的はなんだ。

 

 

 なぜ向かって来ない。従業員は殺されていない?

 

 

 ──良い頃合いだ?──

 

 

 

「───足止め?! 僕をここにおびき出した?!」

「スゲェなぁ、そこに気がつくなんてよぉ! そうそう、足止め(・・・)だぁ!! 足止めされてたのはお前って訳よぉ。しかし気が付くのが早くてすげぇ。これは本当に溶かし甲斐があるぜぇ。だがよぉ、もうおせぇんだよなぁ!!」

 クリスがその答えに辿り着いたと同時に、男は笑いながら声を上げる。

 既に遅かった。それはクリスがこの場所に来た時点で、いや───あのライブステージから離れた時点で。

 

 

「貴様……っ!!」

「放送室にいた従業員はこの階にある事務室をスモッグでいっぱいにして、他の従業員と一緒に閉じ込めてあるぜぇ。今すぐに行けば助かるかもなぁ!」

「ロトム!! ニダンギル!!」

 目を見開き笑う男の目の前でモニターが移り変わる。モニターに映った事務室は確かにスモッグに覆われ、倒れている従業員の姿があった。

 

「ギャッハッハッハッ!! 間に合うと良いなぁ!! だがもうおせぇ。開かれるぜぇ、ウルトラホールがなぁ!!!」

 去り際にニダンギルが放ったつばめがえしをベトベトンにまもるで受けさせ、男は声を上げて笑う。

 

 

 唇を噛み切りながらクリスは走った。

 

 

 もう誰も失わない為に。

 

 

 

 目の前で大切な人やポケモンを失わない為に。

 

 

 誰にもこんな思いをして欲しくないから。

 

 

 

 あんな事は許されない。

 

 

 

 あんな事をした奴らを許さない。

 

 

 

「R団……っ!!」

 停電から僅か十分。

 

 

 

 

「さぁ、始めるよぉ〜。……おいで、可愛いウルトラビースト達」

 大勢の客が避難しているライブステージの中心に───

 

 

「なんだあれ?」

「なんだろうねぇ、アレは」

「なんじゃなんじゃ?」

「カガミちゃん、また何かしたの?!」

「えぇ、私じゃないよぉ?!」

 

 

「あの穴、どこかで……」

「フラィ……」

 ───ウルトラホールが開く。




良い感じの技名が無かった!(無理があるね)


なんとこの話を投稿する前日に放送されたアニメ、ポケットモンスターサン&ムーンがロトムメインのお話でロトム図鑑の中身が電線の中を走るという。
なんてタイムリーなお話でした。私ロトム大好きなので嬉しかったですね。

そして勿論、このお話はアローラの物語です。後は分かりますよね()。


あとイラストの紹介。

【挿絵表示】


パツキンの普通の男の子がウチのクリス君。隣に居るのはありあさんの『虹色の炎』よりお名前をお借りしたブライ君です。
最近ポケモンが描けないことに気が付いて四苦八苦しております。


さて、急展開ですが次回もお会い出来ると嬉しいです。
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