よろしくお願いします!
では!どうぞ!
なんとか重たい体を起こしてリビングに向かう。リビングに入り、昼食の準備をし終え、いざ食べようかという時、唐突に、その時がきた。
「おにぃーちゃん」
目の前の少女がとても素敵な笑顔で少年に呼びかけてきた。
現在時刻は12時40分。
俺、桐ヶ谷和人は嫌な予感を抱いた。それは自分に後ろめたさがあるからに違いないなと思いながら、
「な、なんだよ、スグ?」
食事の手を止めて妹、桐ヶ谷直葉に聞き返す。すると直葉は素敵な笑顔を崩すことなく、隣の椅子からあるものを手にとって…嫌な予感だけは当たるんだよなぁ俺…
「あのね。今朝、ネットでこんな記事を見つけんたんだよね〜」
いいながら見せてきたのは『MMOトゥモロー』のニュースがコピーされたA4サイズのプリント用紙。上部に『ガンゲイル・オンライン最強者決定戦。第三回バレット・オブ・バレッツ本戦出場者30人が決定』と書かれている。その下には出場するプレイヤー名が書かれており、ある二つの名前の下には赤いペンで線が引かれていた。
『Aブロック1位-kihiro(2)』
『Fブロック1位-kirito(初)』
とその部分を指差して、
「この名前、すっごく見覚えあるんだけどな〜?」
直葉は問いかけてくる。見せているのは笑顔だが何処か怖い。いやかなり怖い。こういう時の女子の笑顔は半端なく怖い…
「い、いやー、似たような名前があるもんだなぁ。あっははは……」
と一応誤魔化そうと試みる…ってここまで来たら隠すのは無理だが…
「似てるんじゃなくて、同一人物だよね?」
結局先程の誤魔化しは通用しないことが判明した。予想はしてたが…
「ま、まぁ……そうだな」
と答えた。と言うよりそう答えるしかない…ちらりとスグに視線を向けると、彼女は未だに笑顔だ。しかし内心は怒り心頭といったところだろう。なにせ彼女にはアバターをコンバートした事は黙っていたのだから。どう説明しようか迷うぞこれ…
「また怖い顔してる…」
そう言って直葉は溜息を吐いた。まて今のため息はなんだ…
「ホントはね。お兄ちゃんと継裕さんがALOからアバターをGGOにコンバートしたの知ってたんだ。」
「え?」
まじかよ…
「だって、お兄ちゃんと継裕さんの名前がフレンドリストから消えてたんだもん。気付かない訳ないじゃない。」
確かに、スグが気づかないわけない、か。
「昨日の夜に2人がリストから消えてるのに気付いて、すぐログアウトしてお兄ちゃんの部屋に突撃しようとしたの。でも、お兄ちゃんや継裕さんが、なんの理由もなくALOから居なくなるなんて思えなくて、何か事情があるんだと思って藍子さんと、木綿季さんに聞いたの。」
和人はアバターをコンバートする事を、恋人である藍子と、アイテムやユルドを預かってもらっているエギルには言ってあった。もっとも、コンバートの理由は『菊岡誠二郎からの依頼で、ザ・シード連結社の調査の為GGOに行くことになった』と説明し、『死銃』の事は伏せてあるのだが…これはまずい傾向だな…
「藍子さんは、(いつも通り大暴れしたら戻ってくるよ)って言ってたし、さっきも帰る前にお兄ちゃんを信じようって言ってくれたけど……私、心配だよ……きっと、藍子さんも内心では不安がってると思う。」
そう言ってスグは不安そうな表情で俺を見ていた。どう説明しようかなと思っていた時、
「行かないよね?また何処か遠くに行っちゃうことなんてないよね?嫌だよ。私、そんなの絶対に嫌だからね?」
直葉は言葉をそう続けた。兄がまた、SAOに囚われた時のように手の届かない所へ行ってしまうかもしれないという恐怖からの言葉。それを考えれば当然かもしれない。だが、俺は兄として妹に心配させるわけにはいかない…
「行かないよ。俺はちゃんと帰ってくる。ALOにも、この家にも。」
そう言った。
「ほんとう?」
「ああ、約束する。決着をつけて必ず帰ってくるよ。」
「……うん。」
なんとか落ち着かせ、一息吐き、食事を再開しようと箸を手に取ったその時、
「そういえば、藍子さんから聞いたんだけど……今回の『お仕事』って、すっごいバイト代が出るんだってね?」
「うっ……」
にこやかに笑いながら尋ねてくるスグに、俺は言葉を詰まらせた。確かに今回の依頼で30万円という、一介の学生が簡単に稼ぐことは出来ない額の報酬が出る。まぁ心配かけさせてしまったし、慰留費は必要かもな…
「お、おう。なんでも奢ってやるから楽しみにシテロヨ。」
最後はなんとなく片言になりながらもそう言った。これしかないな。うん。
「やった!あのねぇ、前から欲しかったナノカーボン竹刀があってねー!」
目を輝かせていう妹に、俺は苦笑いで頷き、内心で盛大に溜息を吐いたのだった。はぁ…
Bob本戦のルールとしては、30人が入り乱れてのバトルロワイヤル。同じフィールドに30人がランダム配置される。最初の立ち位置は最低でも他のプレイヤーとは1km離れており、すぐ撃ち合い合戦になることはない。全体としての地形は様々で、ある特定の武器やステータス有利とは限らない地形らしい。広さは10km四方に囲まれてるとのこと。
どちらにせよ、俺にとっては近づかないと攻撃すらできないのだからあまり関係ないな…そう言えば、参加者には"サテライト・スキャン"というアイテムが無料配布させられるんだったな。それは15分事に来るため、同じ場所に隠れるのは精々15分が限界とのこと。さらに表示された者をタップすれば名前までついてくるらしい。
そして、
戦いの火蓋は切って落とされた。
どうやらあいつは俺と真反対の方にいるのか。なら片っ端から近い奴を片付けて行くしかないか…
Bob本戦が開始されて、すでに30分近く経過していた。この時点で、私はすでに2人のプレイヤーを倒している。だが、全体でどれだけのプレイヤーが残っているかは、15分ごとのサテライト・スキャンでしか確認できない。と、その時だった。二度目のサテライト・スキャンが行われ、端末に幾つもの光点が表示される。その中で21個の光点が光っている。単純計算で9人のプレイヤーが脱落していようだ。端末に表示されている自身の周囲1km圏内の光点は4つ。その一つずつをタッチしていく。北東600メートルに『ダイン』、そのやや東に『ペイルライダー』がいる。さらに、800メートル南に静止しているのが『獅子王リッチー』である。ダインを示す光点は西に向かって移動しており、ペイルライダーがそれを追従しているという感じだと思われる。
それを確認した直後、衛星が去ったようで、端末に表示された光点が点滅し情報がリセットされる。端末をポーチにしまい、北東のほうを見る。
2人は現在、ステージを二分する大河へと向かい移動しているのを先程のスキャンで確認してる。おそらく、ダインは森の中でリスキーな戦闘をするくらいなら、見通しのいい橋で迎え撃つつもりなのだろう。その橋は、2人よりもシノンの方が距離的に近かった。周囲の気配に気を配りながら、素早く移動を開始する。全速で駆け、大きな橋のかかった大河、その200メートル離れた位置で停止し、私はヘカートを設置して息を潜めた。やがて、細道と鉄橋の境に生える太い古木の陰からダインが飛び出してきた。橋を一気に駆け抜けて、身を潜める岸辺まで渡り終えると、地面に伏し伏射の体勢を取る。
「確かにこの状況なら、一方的に撃ちまくる事が出来るわね。でも、脇が甘い。」
「どんな時も後ろに注意、でしょ?」
そう呟き、ダインに照準を合わせた。
思考を巡らせ、トリガーに指を添えた、その時だった。彼女の首筋に冷たい戦慄が奔った。本能が訴えている。自分の後ろに誰かがいると…
(しまった!狙撃のチャンスに夢中になって警戒が甘くなってた!)
そう思考が巡ると同時に、彼女は勢いよく身を翻し、左手でサイドアームの『MP7』を抜いた。その間にも思考は巡る。
(でも、さっきのスキャンでは後方には『獅子王リッチー』しか表示されなかった。一体どうなって……)
MP7を真後ろに突き出すと同時に、黒い銃口が向けられた。やはり気のせいではなかった。これほど近距離にまで接近していた事に気付かなかった事を悔みながらも、シノンは相討ち覚悟で引き金を引こうとする。
が、その前に銃口を向けている襲撃者から低い囁きが聞こえてきた。
「まて。」
途端にシノンは目を見開き、視線を銃口から襲撃者の顔へと向ける。映った顔は見知った顔だった。
「キリト……?」
ありえない…さっきのには写ってなかったのに…!?
「待ってくれ。提案がある。」
「何をっ……」
何甘い事言ってんのよ…この男は…
「この状況で提案も何もないわ!どちらかが死ぬ、それだけよ!」
「撃つ気なら、いつでも撃てた!」
捲し立てるシノンに、俺はあくまで冷静に、それでいて切迫した声で返した。
彼が見せている表情も真剣そのもので、私は押し黙るしかなくなってしまった。
「今派手に撃ち合って、向こうに気付かれたくない。」
「どういう事……?」
「あの橋で起こる戦闘を最後まで観たい。それまで手を出さないでほしいんだ。」
何言ってるの…
「観て……それからどうするの?改めて撃ちあうとか、間抜けな事を言わないでしょうね?」
「状況にもよるが、俺はここから離れる。君を攻撃はしないよ。」
「私が背後からアンタを撃つかもしれないわよ?」
「それならそれでしょうがないさ。諒解してくれ、始まるみたいだ。」
言うや否や、キリトは双眼鏡を取り出して橋の方へと視線をむけた。
どんだけ私を信頼してるんだか…
「……仕切り直せば、今度はちゃんと戦ってくれるのね?」
「約束する。」
こうなったら、仕切り直すしかないようね…
「……アンタがここまでして観たがってる戦闘、このままじゃ起きないんじゃない?ダインだって、いつまでもああしてるとは限らないわ。あいつが移動しようとしたら、私が撃つからね。」
「その時は、そうしてくれていいさ……いや……」
直後、反対側の岸から一人のプレイヤーが姿を見せる。MP7を左腰のホルスターに納め、ヘカートのスコープを覗きこんだ。痩せた長身に、奇妙な青白い迷彩スーツを身につけたプレイヤー。シールド付きのヘルメットを被っている為、顔は見えないものの、武装は右手にぶら下げている『アーマライト・AR17』である事が確認できた。彼がペイルライダーで間違いないのだろう。その立ち姿には力みが感じられず、ダインが構えている銃口も恐れることなく橋へと近づいている。
「……あいつ、強いわ……」
思わず呟く。初見ではあるものの、纏っている雰囲気から、その実力はある程度推し量れる。弾道予測線という未来予知的なアシストがあるものの、フルオートマシンガンを構えた敵に近づくのはおいそれと出来るものではない。けれどペイルライダーは何を気にするでもなく、まっすぐに歩き進んでいる。その姿に、この状況を狙っていた筈のダインですら戸惑いを滲ませた。が、それでもBobに出場する程の実力者だけあって踏ん切りも早かった。一秒も経たないうちに、ダインは『SG550アサルトライフル』のトリガーを引いたのだ。軽快な音を響かせながら、発射された十数発の弾丸は勢いよくペイルライダーへと襲いかかる。それを、ペイルライダーは思いもよらない方法で躱してみせた。橋を支える幾つものワイヤーロープの一本に飛びつき、左手だけで登りはじめたのである。慌てて銃口で追おうとするダインだが、伏射姿勢の所為で上方が狙いづらくなっていた。その為、二度目の射撃は照準が定まらず、その隙を突きペイルライダーはワイヤーの反動を利用して長跳躍を行ったのだ。伏射姿勢のダインのすぐ近くに着地した。その光景を見て、私は驚きを隠せずにいた。
「STR型なのに装備の重量を抑えて、三次元での機動力を底上げしてる……おまけに軽業のスキルがかなり高いわね。」
ペイルライダーの着地と同時に、ダインは膝立ちになり、三度トリガーを引いた。だが、それも読まれていたようで、呆気なく躱されてしまう。
「んなろっ……」
悪態をつきながら、ダインは空になったマガジンを交換しようとした。しかし、その前にペイルライダーの右手に握られたアーマライトが大きく火を噴いた。至近距離からのショットガンによる銃撃。これはもはや回避不可能だ。吐き出された弾丸を受けて、ダインはHPを減らしながら大きく後ろに仰け反った。けれど、マガジン再装填の手は止めていなかったようで、再度構えようとした瞬間、再び轟音が響いた。
ショットガンという武器は与えるダメージが大きいのもあるが、真に恐ろしいのは仰け反り効果が高く、相手に何もさせることなく連続で撃ちこむ事が出来ることである。
二度目の被弾で更にHP減らすダイン。ペイルライダーは更に距離を詰め、無慈悲にも三度目のトリガーを引いた。轟音と共に放たれた弾丸は、残り僅かなダインのHPを完全に吹き飛ばす。
大の字になってダインは地面に倒れ込み、その上に『Derd』と表示されたウインドウが出現した。彼はバトルロワイヤルから脱落したということだ。
「……あの青いの、かなりやるな。……奴は現れないか……あの青いのは狙われてないのか……?」
「なに? どういうこと?」
聞き取ってはいけないような、そんな言葉が聞こえた。
「いや、なんでもない……」
意味不明…
「……あいつ、撃つわよ?」
シノンは一息置いてそういうと、返答を待たずにヘカートのトリガーに指を添えた。ダインを倒したペイルライダーはすでに移動を開始している。こちらに気付いていない今は最大の狙撃チャンスなのだ。
「……ああ、構わない……」
キリトの掠れた声が聞こえてくる。シノンは照準をペイルライダーに合わせ、引き金を引こうと指に力を込めたその時。
彼の右肩に着弾エフェクトが閃き、同時に痩せた体躯が弾かれたように左へと倒れたのだ。
「「あっ……」」
思いもよらない光景に、2人は同時に声を上げたのだった。
「ふぃ〜結構倒したなぁ〜。」
彼が通った跡は、敗退者が数多く転がっていた。
今回は長めにできました!と言っても前回までのは本来だったら同じタイミングで出す予定だったものなので…
そろそろ来るね!奴が!w
(*´∇`)ノ ではでは~