ソードアート・オンライン 覇王と絶剣   作:高島 秋

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遅くなってしまいましたっ!
書きだめするだけして投稿してませんでした…

では!どうぞ!


重き鉄槌

半信半疑だったが第82層へのアクティベートはしっかりと完了していた。今後もこのようにしていくつもりなのか否か。俺らとしては初見モンスターに殺されるリスクが無くなるためとても有難い話ではある。だが、向こうにとって果たしてメリットは有るのだろうか。あくまで、目的は俺達と闘うことだけなのか、いまいち敵の真意が見えない。それが攻略組の見解だった。ただ1人、ユウキを除いて…

攻略組の中でアルバらと面識があるのはユウキだけだ。勿論それを知っているのは極一部の人間だが…それが影響しているのか、ここ最近のユウキの精神状態は決して穏やかなものではない。常にランやアスナやシウネーが傍に付いていないと今すぐにでも飛び出してしまいそうだ。唯一、戦闘時は前から知っているユウキに戻る。いや、ただたんに戦闘中は気を紛らわすことが出来る、と言うだけかもしれない。それでも偶にオーバーキルをしていたりするのでそろそろ限界なのかもしれない。ランの話によるとユウキがここまで精神状態が不安定な時は今まで見たことないらしい。それほど、ユウキの中でのキヒロの存在が大きいのだろう。まぁそんな今の状態のユウキに近づく者はごく限られた人間だけだ。それほど追い詰められているように写っている。ある者は見ているだけでもこちらの精神が摩耗すると言っていたが無理もないだろう。偶にランですら、俺に泣きついてくることがあるくらいだ。そんなユウキに対しての特効薬はキヒロなんだろうが…兎も角、俺達は前のユウキに戻ってもらうために、キヒロが無事だと信じて、今日も剣を振るう。

 

そうして決行日。迷宮区に攻略組が向かおうとした時、そいつは現れた。

 

「攻略組の皆さん。お久しぶりです。ここからは私が案内致します。」

 

どうぞ。との声と同時にコリドーオープンした。どうやらアルバとやらはボス部屋前までマッピングを既に済ませているようだ。一体どれほどの実力者なのか…兎も角無駄な戦闘をする必要が無くなったのは有難い。ただ、こうまで敵に手助けされてはなんか癇に障る。

全員が転移し終わったら、ゲートと扉が閉ざされた。これも前回同様だ。扉が空いていたことからもう既に本来のボスは倒されたのだろう。なんともまぁご苦労様ですと言わざるを得ない。今回は70人ほどの精鋭だ。15人ほどは魔道士隊にした。回復と支援を優先にしてもらう為だ。

対して敵は、たったの1人だ。しかも前回同様ハッキリとした姿は分からず、目の付近に仮面を付けているのも変わらない。恐らくこいつも誰かの友人であったり、家族であったり、恋人であったりするのだろう。ただ背丈は3メートル程あると思われる。兎に角でかいというのが最初の印象だ。そして右手に携えているのは片手棍のようだ。こうして敵の情報を視認してから、攻略組一同揃って抜剣した。

 

「さぁ、第2の試練といきましょう!」

 

試練、だと…?

ただ考えている時間なんて無かった。きっとアルバの言葉が動き始めるタイミングなんだろう。言い終わった直後に突進してきたからだ。たしかに片手棍の主な攻撃は殴るとかそういった類のものしかない。それにしても単調では無いだろうか。恐らくテッチもそう判断したのだろう。迷わず防御姿勢を取った。自分が受け止めた後、周りの者に攻撃をしてもらう為だ。勿論それを理解して準備している者もいる。

ただ、それが果たされることは無かった。

 

「ぐはっ」

 

テッチが壁際まで吹き飛ばされたからだ。当然スイッチの用意をしていた者らは咄嗟のことに判断が追いつかず、追撃を受けた。その攻撃を見て思った。あれはもう、片手棍などではないと。そして蹂躙される悪夢が始まった。

まず攻撃の重さが異常だ。確かにリーチはあるが筋肉質という訳ではないと思われる。どう考えてもテッチらが吹き飛ばされるほどの攻撃は出来ないはずだ。あの吹き飛ばそうとする攻撃を耐えたのはエギルだけだった。ただ、攻撃が重いと言うだけあってスピードがバカ速いという訳でもないので、次第に躱しながら攻撃を入れられるようになってきた。5分ほどたっただろうか。敵がここで初めて言葉を口にした。ただその言葉は、一部の者達にとっては驚愕するものだった。

 

 

 

「エンハンス・アーマメント。」

 

 

 

機械じみた声だったが、はっきりとそういったのが聞こえた。敵が持つ片手棍の武装完全支配術は、元が何なのかよく分からなかった。先端部分が扇状に広がっただけだからだ。あれなら展開する前の方が強そうと思わざるを得ないほどだ。簡単に言うと落胆した。武装完全支配術は完全にチート技だと思っていたので、正直いってあれは敵ながらあっぱれと言うより敵ながら残念という感じだ。一体あれからどんな攻撃が放たれるのか疑問に思った。ただ俺の知っている武装完全支配術では無いことは確かだ。元がわからないからなんとも言えないが、あの状態を保つのはそれほどなかった気がする。俺のもアリスのもユージオのも一時的に爆発的な攻撃力を得られるだけで、決して持続的なものではなかった。

敵が振りかざした先端部分が扇状に広がった片手棍が当たる直前、先端部分が更に扇状に広がった。扇の上に扇を重ね、有効範囲を広げた形だ。当然、そのような攻撃を予想していたものなんておらず、多くの攻略組がダメージを受けた。今の攻撃で確信したが恐らく元は柏だ。柏は葉が特殊な生え方するらしいがその話で聞いた感じとよく似ている。だが攻撃方法が分かれば大した問題じゃない。

 

敵の攻撃を完全によけ、俺とユウキとランによる攻撃を入れようとしたその時、敵はもう1つの術式を解放した。

 

 

 

「リリース・リコレクション。」

 

 

 

記憶解放術。予想通り、柏の木が片手棍より生えた。それはみるみる成長し瞬く間に1本の大木へと化した。

 

「キリト君!」

 

アスナに呼ばれ、振り返ると異様な光景が広がっていた。アスナらは地面から生えた根のようなものに巻き付かれているのだ。それが何を意味しているかはすぐ分からなかったが、

 

「キリト!この根から私達は天命を吸われています!」

 

アリスがそう教えてくれたお陰で、思ったよりもまずい状況なのがわかった。そして何故か拘束されてなかった俺ら3人を見逃すはずはなく、地中から生えた根に追いかけ回される事となった。

 

「キリトさん!やはりあれを破壊するしかないようです!」

 

あれとは勿論片手棍だ。だがそれはかなり困難を極める。この根からの追い討ちを躱しながらあれを破壊しよう等無謀極まりない。手が無くなったと思ったその時、

 

「リリース・リコレクションっ!!!」

 

金木犀の花が片手棍の周りに舞い、切り裂いた。そして程なくして破壊され、根は消え去った。ていうか使えたのか。

 

「アリス!!ありがとう!!」

 

「礼は不要です。それよりまだ、闘いは終わっていません。」

 

そう、まだ本体を倒していないのだ。敵はまた新たな武器を手にしていた。今度は短剣。背丈も140センチほどに縮んでいた。確かにあのままでは扱いづらいではあろうが先程の高さで慣れていたからこれは厄介だ。

いきなり斬りかかってきたが、攻撃は先程とほぼ真逆。ただスピードがあるだけで重さはほぼない。やりづらいことに変わりはないがさっきよりダメージは入らないから比較的楽だ。ただ、

 

「速すぎだろぉぉおおお!!!!」

 

クラインがそう絶叫していた。無理もない。俺らより2回りほど小さくすばしっこさなんて加えられたらフラストレーションが溜まる一方だ。そんな時堪忍袋の緒が切れたのはリズだった。

 

「あぁーもう鬱陶しいわね!!」

 

そう言って片手棍を振りかざして無造作に振り下ろした。恐らく何も考えていなかっただろうが見事当たった。どんなパワーで撃ち込まれたかは想像したくない。敵の頭が地面にめり込んでいたからだ。これで倒れてくれたら楽だなぁ…勝負あったかと思ったがそれで止まるほど敵はやわではなかった。

 

「エンハンス・アーマメント。」

 

またしても無機質な声でそう言った。リズに向けられていた短剣から火ブレスが飛び出した。それをもろに受けたリズはMAXだったHPが4割近く減った。しかも火が消えた訳じゃないので継続ダメージ付きだ。もう一撃受けたらかなり危険だろう。アスナが咄嗟に火を消してくれたから大事には至らなかったが大切な仲間を目の前で失う所だった。これに怒ったクラインやリーファ、シリカが斬りかかっていったが、敵は更に重ねて術式を唱えた。

 

あの短剣の記憶解放術はなるほどと理解することが出来た。敵の異常なスピードはほぼ滑空していたから。そう、記憶解放術で現れたのは鳥。いや、正確には四霊の内の一つである鳳凰であると思われるため鳥と呼ぶには些か無理があるかもしれない。その鳳凰と敵は離れている為何人か本人に攻撃しにかかったがそれを許されるわけなく、突風によって吹き飛ばされた。どうやらまた本体には攻撃出来ないらしい。

翼からは鋭い羽が飛ばされ、近づいたら突風だったり火ブレスを放ってくる。この展開を打開してくれたのはまたしてもアリスだった。まず飛んでくる羽は武装完全支配術で凌いでくれ、タゲも取ってくれたた。

 

「アリス!そのまま耐えててくれ!」

 

「なるべく早く済ませてください!長くは持ちません!」

 

だろうな。火属性攻撃はアンダーワールドでも苦手にしてたから無理もないか。それに、あの鳳凰とやらは風魔法と炎魔法を重ね合わせてより一層強力にしている。かなり辛いはずだ。アリスが耐えてくれている間にアタッカー陣は鳳凰を取り囲み、一斉に攻撃した。

 

「うぉぉぉおおお!!!」

 

敵を目隠し状態にしたのも大きいだろうが、たった一度で成功したのは運がいい。まぁ1番は数多くの局面を切り抜けた仲間だからというのもあるのだろう。これでやっと本体かぁと思った矢先、また新たな武器を出した。今度は両手剣だ。

 

「まっ、なかなかやるじゃない。でもこれはどうかしら?」

 

アルバがそう言ったが、恐らくそんなには苦労しないだろう。それにどうやら今度は術式が無いただの両手剣ぽい。背丈は170ぐらいになった。ころころ変わるなぁ。相変わらず細身ではあるが腕は異様に太いような…

多くの攻略組はそう思ってた。だから周りから斬りこみにいったが…

数秒後には謎の攻撃によって弾かれた。今の攻撃で突撃した奴らのHPは残り3割ほどだ。1振りでその威力は洒落にならない。

 

「なんか可笑しいぞキリト。」

 

そう俺に問いかけてきたのはノーチラスだ。どうやら"何も無い空間で斬られた"とのこと。俺の角度では見えなかったが…なるほど。一応確認のためアリスにも尋ねたが、あの攻撃は間違いなくアリスが叔父としたるベルクーリの技だ。あの時はユージオが相手して勝ったらしいが。兎に角、闇雲に突っ込んでは確実にダメージを受ける。

 

「はぁぁああ!!」

 

ノーチラスが斬り掛かる。敵は剣を一振しノーチラスの剣の軌道を止める。背後からは俺が攻撃しに行く。タイミング的に交わし切れはしないはずだ。だがこれでは弱すぎる。あと数センチのところでまた新たな両手剣が生まれた。これによって俺の剣は止められる。すかさずもう一方の剣で斬り掛かってくるのでバックステップで交わす。

 

「そのぐらいじゃなきゃ張り合いないぜっ。」

 

さっきまでが強すぎたせいか今回のは弱く見える。まぁ攻撃力がアホみたいなのは認めるがそれ以外に特徴となるものが見当たらない。

暫く斬りあっていたがどうも強く感じない。それで油断はしていたが、急に速くなった敵に対処しきれず俺は腹に剣を刺された。腹から血が吹き出しまるで内臓が焼けるような痛みを感じた。刺されたまま壁まで吹き飛ばされ突き刺しになってしまった。

これで分かったのは、敵は斬撃を残せるし、自身のスピードもあげることが出来る。遅らせるのも早まらせるのも容易ということか。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

アリスがそう言って敵の周りを囲んだが傷一つ負わせることはできなかった。斬撃を自身の周囲に残し、アリスの攻撃を無効化したのだろう。まさに打つ手なしだ。訂正。時を操る能力はチートだ。

何とか剣を引き抜き落下をエギルに受け止めてもらい治療した。フル回復とはいかないが十分戦える範囲まで回復した。その足でアリスのところへ向かった。

 

「打開できそうか?」

 

「正直、打つ手はありません。」

 

そうだよな。やれる手はもう残っていない。と、その時驚愕の声が聞こえた。

 

「うわぁぁぁああ!?」

 

叫び声を上げた奴を見ると、手に武器を持っていなかった。自殺行為だろそんなのと思ったがよく見たら足元にインゴットやら素材が落ちている。まさかな、そんなの出来たらチートもいい所だ。ベータテスターなんて可愛いものじゃないか。

 

「あいつの武器に触れるな!剣を溶かされるぞ!」

 

そう叫んだ者もいた。何故俺らの武器が溶かされ無かったのかと思ったがそもそもこれはドロップ品だからだ。無論ノーチラスのもアリスのも。こうなるとドロップ品持ちしかアタッカーに回れなくなり、益々劣勢になった。

アリスの武装完全支配術。俺やユウキの伸びるソードスキル。ランやアスナの縫い目を突くような正確な突き。エギルやリズの斬撃の上からでもダメージを与えようとするパワー。どれをとっても奴を捉えることは出来ず最早万事休すと言ったところだ。

今は敵が一瞬でも隙を見せてくれることに期待して攻撃を続けてはいるものの、両手剣の二刀流を相手するのは決して楽ではない。まず範囲も広いしダメージもでかい。更に斬撃の膜を張られ隙もない。どうしろと。

その時、思わぬ状況に持ち込めた。ノーチラスが水魔法を使い、敵を捕縛したのだ。これを機に全員で様々なソードスキルを撃ち込んだ。

結果、倒すことに成功はした。ただ俺は疑問に思った。本当に攫われた攻略組だったりするなら、あくまでシステムの1部である以上、死ぬ時はあの特有のエフェクトが発生するはずだ。それはいつまで経っても出てこないし、代わりに土が出てくる。数秒もすれば消えるけど明らかに普通の死に方では無い。何かあるのかと思った。

 

「へぇ。やるじゃない。ではご機嫌よう皆さん。」

 

そう言ってアルバは転送魔法陣を展開し消え去った。

今回、敵が残した数々の未知なる攻撃。

そしてその強力さ。

あの世界の技。

どれも今の俺らには、重すぎた。

 

 

次回

 

【疾風】




次回何の武器が来るか当ててみてください!w

(*´∇`)ノシ ではでは~

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