ソードアート・オンライン 覇王と絶剣   作:高島 秋

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当初の予定ではこの章は10話で終わる予定だったんです…
予想より長くなってますがお付き合いよろしくお願いします!


では!どうぞ!




甕穹、那霊、黍亞。この3人の戦闘能力は抜きん出ている。そんなことはわかり切っている。だがそれでもここで背を向け逃げるわけにはいかない。もう後ろに残っているのはアスナ達後方部隊にアルゴのいる本隊のみ。にしてもキリト達が来るのはいつになるのだろうか。もう結界が解けてから1時間はたっているだろう。いや下手したら2時間ぐらい経っていてもおかしくは無い。それなのに何故、会うばかりか一目見ることすら出来ていないのか。

 

「さぁ、後は貴方達でなんとかなるかしら?」

 

「おうとも!」

 

俺は甕穹の攻略方法を1つだけだか見つけた。それは、"奴の目を見ない"こと。視線が合ってしまったら最後。たったこれだけだ。たったこれだけなのに、それを実行することが難しい。理由としては奴は音も立てずに移動するからだ。決してスピードが速い訳では無い。俺たちでも十分追えるし追いつく。それなのに攻撃が当たらない理由は目が合った瞬間に幻術をかけられ避けられているからだ。さて、どうするか。いやもうこれしかない。伝わるかは分かんねーがやってみる価値はある。

 

「エギル!"盾になってくれ"!」

 

「えっ!?……あぁ!わかった!!」

 

何考えているか知らないけど、私に勝てるとでも思ってるのかしら。このなんとも醜い男2人が私に。いいわ。もう、楽にしてあげる。

 

「うぉぉおおおお!!!!」

 

巨漢の男が私の前に立ちはだかり身の丈の2倍程ある両手斧を振り下ろす。轟音が鳴り響くがそれが届くことはない。私の幻術によって動きを止められていたからだ。そして刀を引き抜き今まさに胴を切り裂こうとした時、首筋にヒヤリと感じるものがあった。そっちに意識を持っていった時には既に世界が反転していた。何が起きた。体と離れた感覚がある。今私の頭は、宙に待っているのか。視線をさっきまでいた所に戻して見た。そして状況を理解した。私の首を斬り落としたのはあの侍だ。あいつが、私の首を斬ったのか。馬鹿な。どうやって。

 

「やっぱりな。お前さんが強い理由は単純にその能力だけだ。その能力に頼ってばっかの奴に、俺達の連携まで斬れるとおもうなよ。」

 

は?連携?そんなものは必要ない。私達は連携はしない。互いを利用し、最も効率よく敵を殺すような手段のみを選ぶ。その最効率を得てきた私達、私を倒した、と言うのか。分からない。なんで、私は負けたの…?

 

「ちっ。まぁ弱い割にはよくやったわね。でも所詮その程度。そんなんだから、"いつも重要なことには呼ばれないのよ"。」

 

なんだ?重要なことって。そもそもこいつらは一体、"何者なんだ"?アルバらとどういう繋がりがある。そしてあの文字は能力としての意味しかないのか?他にも理由はあるべきだろう。いや、今考えても仕方ない。俺達は、今、最前を尽くす。

 

「さっ、私達もやるわよ!」

 

「はいっ!」

 

「ほざけ!!」

 

シノンが放った矢は悉く吸収されていってしまう。そこでシノンは何か思案し始めた。その間はリーファに任せることになってしまうが、恐らく何も問題は無い。なんと言っても、地神テラリアとしての能力は破格だからだ。

 

「くっ!?」

 

何が起きている。あの女と刃交えただけで天命が減る。いやあいつ自身も減りはするがすぐに回復する。減るのは俺だけだ。しかも奴は天命の上限が、上がっているように見える。となると、俺の天命を"吸っている"?馬鹿な。強欲であるこの俺から吸うだと…!?そんな事があってたまるか!

 

「はぁぁぁああ!!」

 

「やぁぁぁああ!!」

 

再び刃を交える。吸えない。奴から天命は疎か魔力すら吸えない。逆に吸収され続けている。やつの方が俺より性能がいいって事か!?冗談じゃない。俺は甕穹とは違う。現実だろうが仮想だろうが自らを律し、鍛えてきた。奴みたく能力頼りじゃない。現実では3番目に強かったんだ!剣術においてのみだが、データ対戦ではあのソロモンにすら勝った!そんな俺が、能力ゴリ押しの奴なんかに。負けてたまるかァ!

 

「うぉぉぉおおおお!!!」

 

「くっ!」

 

重い。相変わらず吸い続けることが出来ているのは私の方。それなのに、那霊から感じるこの威圧感に、押し潰されそうになる。空気が重い。上手く呼吸が出来ない。地面に膝を付けられ、いよいよ押し潰されるという時に、助太刀が入った。エギルさんとクラインさんだ。2人の薙ぎ払いによって那霊の体勢を崩した。ここが恐らく、最初で最後の、好機!!

 

爆発音が鳴った時には那霊の胴体が半分程消えた。撃ち消したのは、シノンさんのあの銃。冥界の女神と呼ばれる銃器だ。だが腹部に空けられた大穴すら、すぐ塞がれ始める。今まで吸った天命と魔力を糧として新たに創り出しているんだろう。でも、それをじっと眺めているわけにはいかない。何度も同じ攻撃は通じない。勝負を仕掛けるのなら、今しかない。

 

「やぁぁぁああ!!」

 

那霊が振り下ろした剣を避け、地面にくい込んだ刀をエギルさんとクラインさんが全力で抑えている。だけどそれはもって数秒。その間に、私が倒せなければ、3人とも倒される。そして首に剣を当て斬り裂こうとした。かなり硬い。恐らく急所なんだろう。どうすれば…

 

2度目の轟音と共に、那霊の首が8割ほど消え去った。シノンさんの攻撃だ。あの攻撃を受けてもまだ首が繋がっていることに驚きだけど、今ならいける!

そして首を切り落とした。長かった戦いもこれでようやく終わる。そう思った。だけど、ものの数秒で那霊の首からまた新たに生えてしまった。信じられない。もう、人の範疇を超えている。これが、強欲としての力なのだろうか。一体どうすれば、倒せる。あの化け物を。

 

「ふっ、はははははは!!!!!あれで倒せたと思ったか!?これが俺の強さだ!お前達"出来損ない"とは訳が違う!産まれた時から格が違うんだよ!」

 

「その通りね那霊。だから、貴方もう、用済みよ。」

 

そう言って黍亞は完全復活した俺の首を切り取っていた。いくらなんでも速すぎる。見えなかった聞こえなかった感じなかった。黍亞の顔がこんなにも近いのは久しぶりだ。てか用済みって、?俺はまだ殺れる戦えるぞ。

 

「1人も減らせないなんて、需要ないでしょ。もう、"私が喰べてもいいわよね"?」

 

喰べると言ったのか。不味い。この状況は非常に不味い。戦うか?いや、現実ならまだしも、この世界で勝てるビジョンが思いつかねぇ。仮にもこいつは序列3位の女だ。剣士としての腕も一流。単に女だから筋肉が付きにくいだけで剣術だけは螺啤と同等レベルと聞いた。単に噂なだけなかも知れないが、俺はこいつの"本気を知らない"。対して俺は常に全力だった。それでも五分の相手と果たして、殺り合えるだろうか。

 

「なーんも返事がないからもう喰べるね?いただきまーす。」

 

頭部を復活させ、黍亞に視線を向ける。背中から生えた約50本程の触手が俺に迫ってくる。回避回避回避回避!!だがそれを続けることは叶わず、腹を抉られた。いや、喰われた。引き抜かれた触手から血が迸る。

 

「うーん、あんまり美味しくはないわね。でもまぁ、"その力は頂戴ね"?」

 

一体、何が起きていると言うのだろうか。さっきまで私達と戦っていた那霊は、黍亞から攻撃を受けている。数分、那霊の体に触手を突き刺し、捕食していた黍亞だが、飽きてしまったのだろうか。今度は貫いたまま離さず、残った触手で那霊の体を取り込んだ。その取り込まれた中から那霊が暴れているのが見えたが、次第にそれは収まっていった。霜の巨人族程あった体躯を取り込んだ物は、みるみる小さくなっていき、遂には黍亞の体へと触手はしまい込まれていった。

 

「ふぅ。あんまりにも暴れるから消化に時間がかかってしまったわ。お待たせして申し訳ありませんね皆様。これからは、私が、御相手致します。」

 

そう言って黍亞は着ていた着物の上を脱いだ。胸部にはサラシが巻かれておりそして腹部には、強欲の文字が、新たに刻まれ始めていたのだ…これからの戦闘にこれまで以上の劣勢を強いられることは確実である。そう意味しているみたいだ。そしてそれを悟るのは容易であった。

 

「さぁ、楽しい楽しい、お食事会の時間です!!」

 

そう言って黍亞は気味の悪い触手を俺達へと伸ばしてきた。

 

 

 

 

「これが、兄として、の、最期の、術、だ…」

 

「はい。お兄様。後は私に、お任せ下さい。」

 

その光景に、目を疑った。有り得るのだろうかあんな事は。少なとも、人界では禁忌に反している。いやそれ以前に、あんな魔法を習得し、行使する者がいるとは思えない。晴明は恐らく瀕死に近い状態。だからといって、"自らを蓮香に取り込ませるとは"思いもしないだろ。全てを取り込み終わったのだろうか。蓮香はスっと立ち上がった。

 

「お兄様を殺した者を、私は絶対に許さない!!」

 

右目には新たに、傲慢の文字が浮き出した。ただ、それ以外に身体的特徴の変化はない。その為、どれ程パワーアップしたのかかなり分かりづらい。単純に、晴明も技も使えるのだろうか。それとも、何かしら制限があるのだろうか。また鬼化の影響はあんなものなのだろうか。色々気になることは多いが、目の前の事に集中せねば。

 

「血鬼術、"連鎖氷結"!!」

 

先程と同じ技なのだろうか。今確かに、血鬼術と言った。だが技は晴明の物だ。合わせ技なのだろうか。

先程は氷そのものが飛んできたが今回は真紅に染った氷だった。威力速さは先程より格段に上がっており、掠っただけで、そこが燃えるように熱く、電流が走ったみたく痺れる。寸前でわざと爆散させ、体の中へ取り込ませられる。すると全身が痺れ始めた。これは、毒の一種か。

 

「お兄様の素晴らしい術式に、私の血を少し加えただけでもこの威力。ふふ、流石ですわお兄様。」

 

「全く持ってその通りだ蓮香よ。やはり僕と蓮香の合わせ技は何度見ても爽快だ!見ろ蓮香!!お前の毒に悶える奴らを!」

 

「はいお兄様!!素晴らしい景色でございます!」

 

ちょっと待て。晴明は死んだのではないのか。生きているのか?蓮香の中で。いやそれとも蓮香が創り出した妄想の類か何かか?それとも蓮香の毒のせいで幻聴まで聞こえ始めているのだろうか。

 

「何やら私たちの状態に困惑しておりますよお兄様。」

 

「だろうな。まぁ冥土の土産に教えてやろう。僕達は元々、"2人で1人"なんだ。さっきまでの苦しんでるのは全て演技だ!」

 

「なん、だと…」

 

俺らの驚愕している表情を見て、蓮香がくすくすと笑っている。それもそうだろうな。奴らからしてみれば、やっと1人倒したと思ったら実は倒せてなかったなんて、笑い話にしかならないだろう。おまけに、会話できるという事は、入れ替わりなんてお手の物で、なんなら2人の技を合わせて使える。まるで死角が見当たらない。

 

「僕達は2人で1人。」

 

「傲慢、嫉妬の化身である私達。」

 

「「序列2位の我々が、お前たちの相手をしてやる!!」」

 

序列2位か。2人合わせてであるのなら、どちらが強いのだろうか。いや2人の実力は五分で、合わせると欠点らしきものが無くなるからこその2位なのか。いずれにせよ、厄介であることに変わりはない。このままでは、敵の本陣へたどり着けるかどうか…まずはここで、死なないようにしなくてはな。

 

「「さぁ、始めよう!!楽しい時間を!!」」

 

 

 

 

「どうした。先程までの威勢の良さはどこへいった。」

 

螺啤が格闘技の熟練者であることは間違いない。そして槍の使い手としても一流。重心のとり方、間合いの詰め方、呼吸の整え方、見切り方、状況判断、そして何より経験。全てにおいて俺を上回っている。人を殺すということに関してはスペシャルリストなんだろう。急所への攻撃、致命傷となりうる攻撃を躊躇なく放ってくる。今のところギリギリ交わしてはいるが掠っただけでもビリビリと振動がくる。これを諸に受けてしまったら終わりを予感させられる。

 

「ふむ。先程から俺の攻撃を避け続けるとは。賞賛に値する。少しばかりお前への認識を改める必要がありそうだ。」

 

「なにをっ!」

 

ここから俺は、二刀流での連撃を繰り出し、反撃した。一応は俺の相手をするが、螺啤とやらの注意は終始ユウキに向けられているようだ。俺の方へは目すら向けない。それでも俺の攻撃全てを交わし続けるのだから心が折れそうになる。ユウキの方に少し視線を向けると、顔に青筋が立ちまくっているのがわかる。要するに激怒しているわけだ。だがその剣筋には怒りに任せたものでは無く、冷静に己が磨き上げた剣技を遺憾無く発揮しているように見える。

 

今、ボクの思考はかなりクリアだ。螺啤が次何をしてくるか。手に取るようにわかる。分かるけど、後謂ってが出ない。なんでなんだろう。にしても、戦闘中に、こんなにも思考がハッキリしているのは初めてだ。姉ちゃんの腹を貫かれて怒ってはいるけど、なんと言うか。螺啤を倒してしまえば助かるかもしれないと思う自分がいる。分かってはいる。あの傷はどうしようもないと。それなのに、怒りで心が、身体が、支配されない。まるで、別人に乗っ取られたみたいに。

 

この女…確かアルバ様の情報によれば、ランとか言うやつは実の姉であったはずだ。それなのに、恋人のキリトと比べると感情の起伏が殆どみられない。なるほど。確かに厄介な存在だ。殺してしまうのが惜しいほどだ。無駄かもしれぬが、話してみようか。単純に、この女の存在に興味も湧いたしな。

 

「ユウキと言ったか。貴様、我々の仲間になるつもりはあるか?」

 

「血迷ってんのかな?ボクがそっち側に行くとでも思ったの?」

 

「そうか、残念だ。」

 

そう短く応えると、またしても猛撃が始まった。ユウキは受けられるが攻めへ転じられないといったところだ。なら今、奴の注意がユウキに逸れている間に、俺のできることを考える。1つは、UWでの姿になり、武装完全支配術等を使えるようにすること。もう1つは、エクスキャリバーの解放。エリュシデータに本来の力が発揮されたあの日以来。俺はエクスキャリバーでもそれが可能なのかずっと考えてきた。確信はないが、これかもしれないというのはある。失敗したら笑い物だが、成し遂げられるかもしれないとも思っている。疑心暗鬼になっているが、これを振り切らなければ…

 

「やはり貴様を失うのは惜しい。だが、致し方あるまい。」

 

「喋っていると舌噛むよ。」

 

「ふっ。"火炎柱"。」

 

螺啤の槍の先から放たれたのは、半径1メートルほどの火柱だ。威力は絶大。地面すら焼けるほどだ。火というよりマグマに近い感じだろうか。ユウキへのこれ以上の追撃を許してはいけない。あれを食らって無事とは思えないからだ。ここからは、俺の出番だ。

 

「なんだ。生きていたのか。眠っていればいいも」

 

「ああああ!!」

 

ジ・イクリプス。二刀流ソードスキル最大の連撃数を誇るものだ。この世界では、ソードスキルでの硬直がみられない。正確に言えば、この戦争が始まってからだ。だからシステムアシスト何てものも無いので、本当に魔法有利の世界だ。だけど、何千何万と同じ技を使ってきたSAOサバイバーには関係ない。もう、体に染み付いているからな。

 

妙だ。先程までははっきり言って余裕だった。だが、今はギリギリでしか躱せない。なんと言っても、本当に微妙にだが、"地形が変わってる"。足が少し縺れるほどにだ。この辺の地形は完全に頭に入れて置いたはずだ。となると誰の仕業だ。こいつは違う。俺を斬ることで他に頭は回らない。だとしたらユウキか。そんな能力はアルバ様から聞いてはないが…ん?奴の金色の剣が、変化しているか。なかなか面白くなってきたなこれは。

 

「エクスゥ、キャァリバァァアア!!」

 

エクスキャリバーは万物を断切する剣。その剣に切れるものはなしと言われたほどだ。27連撃目、螺啤の左肩へ切先が向かう。そして、刃がくい込んだ。

 

「なに…?」

 

「そのまま、断罪しろぉぉおおお!!」

 

このエクスキャリバーという剣。俺の左肩に切れ込みやがった。今までどの攻撃も、どの刃も、どの宝剣すら弾いてきたこの肉体に、傷が付いただと…侮っていた。このキリトという男を。

(認識を改めろ。お前の中での常識が通用しない相手など多くいる。少なくとも、お前の中での常識では、俺を倒せなかっただろ。)

ふん。あんな男のことを思い出すとは。だがこの男には感謝しよう。こいつのお陰で、俺はまた一歩。高みへ歩めそうだ。

 

硬い。エクスキャリバーでも通らないのか。だったら、もう一本。重ねてやる。装飾がSAOの頃に戻ってきているのがわかる。あの時と同じだ。諦めなければ、必ず、勝機が巡ってくる。今が、その時だ。

 

「まだだぁぁああ!!」

 

なんだこれは。話に聞いてないぞ。もう一対はエリュシデータでは無かったのか。所々情報が違う。いやそうじゃないか。こいつが、戦闘中さえ、進化してきているということか。些か認めたくはないがこれは事実だ。だがそれがなんだと言うのだ。エクスキャリバーは既に弾いた。そして傷も塞いだ。もう、これ以上ない好機をこいつは逃したはずだ。なのになんで、心が折れない。

 

この至近距離で避けられると思うなよ。螺啤、これで終わりだ。

 

 

 

 

「ふふふ、ははは。」

 

「何がおかしいソロモン。」

 

なんで笑いが込み上げてきたのだろう。よく分からない。考えてみれば、俺の分身がなんだって言うんだ。それなら今までだって相手してきたじゃないかあいつらは。そしてそれを全て打ち破ってきた奴らがいるのに、何を心配しているんだ俺は。あぁ、だから笑ったのか俺は。"安心して"。

 

「いや何。"俺の分身如き"がどうしたって話だ。」

 

「なに?」

 

「要するに、"俺だと相性が悪いんだろ"?だから、"お前達が俺の相手"をしにきたってわけさ。」

 

アイツらも熟知しているはずだ。俺の長所短所くらいは。だったら俺の分身程度なら、やられはしない。分身なんだから、恐らく殆ど一緒の筈だしな。まぁ、だからこそ、俺との相性は最悪だろうがな。

 

「その通りだソロモン。だが、あいつらには絶大な効果を発揮するだろうな。」

 

「だろうな。だが所詮贋作。じきに終わる。」

 

「はぁ!?てめぇ、"俺達"をなんだと思っている!!」

 

俺達…?ワヒードは確かにそう言った。俺の分身とやらの話をしていたのに急に自分達の話をしてきた。どうやったら話が繋がるのだろうか。いや、こうして自問自答してれば嫌でも気が付く。ワヒードが言ったのは、言葉通りそのままだ。俺達と、俺の分身とやらは多分。

 

"ほぼ、同一な存在なのであろう、と"。

 

だからこそ彼等は俺に対して怒っているのだ。俺の存在そのものを、許せないと思うのだ。だって、俺がいなければこいつらは。

 

"生まれてくるはずが、無かったからだ"。

 

「そうか。お前らも、俺の分身の一部なのか。」

 

「ちっ!ああそうさ!!俺達は、お前の"クローン"なんだからな!!だからこそ俺達はお前の存在が憎い!お前さえ居なければ、お前さえ居なければ!俺達は、こんな苦しみを背負うことなんて無かったのに!」

 

「ワヒードの言う通りだ。お前の存在自体が傲慢の象徴。お前の存在のせいで、何人の人達が犠牲になり、醜い思いをし、死んでいったと思う!?」

 

「そうよ!貴方がこの世に生を受けた時、そして私達が生まれた時、成長していく過程で私達は気づいた。私達の存在は、貴方の存在のために生まれた、歯車の一部でしか無かった時のこの絶望悲しみ憎悪を!一生背負っていかなければならないと悟った時の私たちの気持ちが貴方に理解できるかしら!?」

 

お前達が俺を憎み妬み嫉みする気持ちは理解出来る。

全てに絶望し、全てを恨み、全てを破壊したいと思う気持ちも理解出来る。俺も最初はそうだったから。だが、俺はいつの日か、俺の存在を尊み、欲し、愛する者がいることを知った。こいつらにもきっといたはずだ。まだ、会えていないだけで。そしてそれは、俺では決して救えない。俺と関わってしまった人達ではこいつらを癒せない。だから、こいつらがせめてこれ以上苦しまないように、俺はしなくてはいけない。それがせめてもの情けだ。

 

「知っているとも。かつて俺もそうだった。だが、それによって失われた人の命の数々を俺は見捨てるわけにはいかない。」

 

「やはり傲慢だ貴様は!その役目を、なぜ貴様がする!!」

 

「俺がこの世に、生まれてきてしまったからだ。」

 

「っ!?」

 

「演舞。雷鳴一閃。」

 

ソロモンは左手に握っていた刀を上空へ手放すと、村雨と言っていた刀を引き気味に構えた。そしてイスナーンへ一閃。瞬きする間もなく、イスナーンは雷の槍みたいなものに貫かれていた。ダメージの入り方的に、イスナーンが使う雷撃より高度なものかもしれない。

 

雷鳴一閃。

雷鳴の如く、素早く鋭く、敵に一直線に向かって貫く技。言うなれば、人口の雷と言ったところだ。動きを止めるのに最適な技だ。

 

「よそ見している暇はないぞワヒード。演舞。氷柱傷愴。」

 

爆発音がしたと思ったら、ソロモンは俺達より上空にいた。そして放り投げていた刀、村正を今度は握り、そして振り下ろした。昔針千本飲ませると言った約束事をする時の話があったような気がしたのを、唐突に思い出した。針千本とはどのくらいなのだろうかと疑問を持ったもんだが漸く納得がいったような気がする。この氷は、決して致命傷にはならない。次へ次へと繋げる技なのだろう。一撃自体は大したダメージにならないのが特徴だ。

 

氷柱傷愴。

氷柱を槍状へと変化させ、降り続ける技。決して致命傷には也はしないが、同時にこれを避ける手段はない。例え1度吹き飛ばしても、その次には自分の体へ突き刺さっている。更にこの氷には、微量の血を吸う呪いが込められている。

 

「演舞。風牙暴滅。」

 

体中に突き刺さった氷を引き抜くと同時に、血も吸われているような気がする。そして今度は二刀流で風を起こしたらしい。いやあれは風ではない。凝縮したトルネードと言った感じだ。対象となった者を切り刻み、瀕死へと追い込むといった感じだろうか。先程までの技と比べると、殺傷能力が高い。いよいよ私達を殺しに来たと言うわけか。

 

風牙暴滅。

鮫の牙のような風が、細かく対象物を切り刻む技。一度対象範囲に入ったが最後。終わるまで永遠と切り刻まれ続ける。例え防御結界を張ってもすぐ様破られる、技として一級品のもの。

 

「演舞はあと8つある。こちらとしてはあまり耐えて欲しくないものだ。」

 

「ふん。全て耐えきってみせるさ。そしててめぇを殺す!」

 

「あくまで抗うというのか。お前たちは早く楽になるべきなのに。」

 

 

深く刻まれた感傷に浸る暇などは無い。戦いは終わってはいない。

 

 

 

「貴方、その姿は一体…」

 

「例えどんな姿になろうと、私はここを通さない。」

 

 

彼と、約束したから。

 

 

 




長くなってしまった…(過去最長?)
話が進めば進むほど、
増えるという謎現象が起きていますが、お許しを…

そろそろ決着付けたいなぁ()

(*´∇`)ノシ ではでは~

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