では!どうぞ!
さよなら。継裕君…私はあなたみたいに強くなれなかった。私を守るために何人も犠牲になって、その仇討ちすらできず、そして防衛線も突破されてしまう。このまま何も為すことなく、消えていってしまうのだろうか。
「どうしたのかしらアスナ。もう終わり?」
もう嫌味を言う気力すら湧かない。それどころか、体が動かない。こうして地面にうつ伏せになったことなんてあったかしら。アインクラッド最高日和とかいう日に草むらで寝そべった時や、団長の強制麻痺の時と比べてると徐々に感覚が消えていく気がした。比喩とかじゃない。手段は分からないけど、胸の息苦しさから指先へかけて感覚が消えていく。土の香りも薄くなっていき、アルバの声も段々と遠くなっていく。僅かに映る青空も段々と白夜に晒されているみたいに真っ白に染まっていく。さっきまでどんどん重くなっていった体が急に浮くように軽くなった。これが幽体離脱というものかしら。となると、私は、そうか。
死んでしまったのか。
でも、彼には託せた。生きて、この世界に、幸せを、見つけてね。
「アスナァァァァァァアアアア!」
「あら。今更来たのソロモン。少し遅かったみたいね」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
演舞 水羅斬刹
軽く避けられ、その先へ視線を向けると夥しい数の魔導士がそこにいた。生き残っていた残りの戦力のどれ程なのだろうか。もう、終わりなのか。ここぞという時に誰一人守れないのが、俺の人生なのだろうか。
魔導士の詠唱が聞こえてくる。同系統の魔法を重ね合わせより強大な魔法へと作り変えていく。あれを止める手段は今の俺にはない。キヒロである以上、あれを防ぐ術はない。ソロモンなら何とかできるだろうが。魔力をほぼ使い切ってしまっている今、ソロモンになることは出来ない。つまり、詰みだ。
「ハルハール」
「ラムズ」
「ゾルフ」
「アスファル」
「シャラール」
「「「「「インケラード!!!!!」」」」」
熱系、雷系、力系、風系、水系の極大魔法がキヒロを抉る。為す術がない以上ただ耐え続けるしかない。だがそれがいつまでも持つはずがない。自分の限界を感じ、そして漸く解放されるかもしれないという思いが吹き出してきているのを感じた。このまま楽になれるだろうか等ということも考えていた。ただそれは認められなかった。
「大丈夫!?キヒロ!!」
「………ユウキ」
「ここはボク達に任せて!」
ユウキがそう言うと、右翼に回っていた整合騎士2人に加え、スリーピングナイツの皆、エギルにクライン達。そして、キリトがいた。
「待ってろキヒロ。すぐ片付けてくる」
あぁ。彼みたいなのが英雄と呼ばれるに相応しい。どう考えても無謀としか言い様がないこの状況下で立ち向かうなんて英雄と言わずしてなんと言えよう。彼らは肝心な時に必ず、立ち上がりそして、必ず救ってきている。彼らこそ光だ。俺は彼らみたいな光にはなれない。だって、諦めてしまったから。打つ手なしの状況に陥った時、このまま死ぬのも悪くないと思ってしまった。いや、もっと簡単に言うと、このまま死んで自分の運命から解放されたいと思ってしまった。イスナーンらにあんな説法を説いておきながら自分はこのざまだ。こんな自分と分かり合うなど誰ができようか。
だけど、俺に新たな気持ちが芽生えた。この光達とともに歩んでいきたい。行けるところまで行ってみたいという願望、欲望が芽生えた。これまで散々周りを巻き込み傷付けながら言う台詞では無いだろう。だが、芽生えた欲望を抑えるのは難しいししたくない。決めたんだ。俺はもう、過去に、周りに、自分に囚われながら生きていくのは辞めるんだと。俺は、自分がしたいことをする為に生きていくのだと決めた。
「雨緑、いきますよ!」
「ボルグ・アルサーム!」
「リリース・リコレクション!」
「エンハンス・アーマメント!」
アリスが飛龍に乗り、その飛龍と共に広範囲殲滅攻撃を施し2割程消し去る。ユウキ・シバの攻撃に加え、キリトの全てを包み込む記憶解放術、ファナティオの悪を切り裂く武装完全支配術。皆の、守りたいという思いが織り成す心意攻撃。こちらにも被害は多少なりとあったが遂にアルバ一人まで追い詰めた。これで終わると思った。終わって欲しかった。
「ここまできて、終わってたまるかぁぁああ!!」
アルバの姿が更に変わる。額には三日月形の金属装飾が、直径5センチほどの大きな耳飾り。茶色の髪が所々青みがかっていき背丈ほどの神杖が2本展開されそのうちの一本は、ソロモンの杖だった。
「全てを消し去るのに貴方の力を使うのは少々癪だけどこれ以上ない絶望になるでしょう!!」
そう言って引き攣った笑みを見せながら、アルバは自身とソロモンの魔法を合わせた攻撃を放ってきた。
「獄滅力裂!!!」
地面を、空を、大気を、人を裂いたその魔法の威力は絶大だった。たった一度の攻撃で殆どの者が戦闘困難な状況に陥った。単に魔法の力だけではない。アルバの心意が、俺たちを滅ぼすという思いが彼女の力を増幅させている。打ち破るにはそれ相応の力が必要となるが今俺の脳裏にはその術が思いつかない。
駄目だ。また思考が良くない方へいっている。決めたじゃないか。自分の未来は自らの手で決めると。そう心に強く言い聞かせ、俺はアルバに向かって走り始めた。
あれをもう一度撃たれては終わりだ。だから、まずはそれを阻止する。
「気が狂ったのかしら?そのまま突っ込んできて勝てると思わない事ね!」
勝算があるとしたら、これしかない。俺の全魔力を使って、支点の位置を思い出して、アルバを誘導して、張る。
「ん?なっ!?ああっ!!」
「どんだけ威力が高くても、使えなくては意味が無いだろ?」
「絶縁結界!?くそっ!きさまぁあ!!」
「お前の負けだ」
次の瞬間、俺は肩口から胸にかけ切り裂かれた。
「くはっ」
「んふふふ…あはははははは!!!」
アルバが持っているのは、ノーチラスを最後まで支えたであろう剣だった。左手にはアスナの相棒を携えていた。
「こうなったら仕方ないわ。面倒だけど、1人ずつ、殺してあげるわ!」
「くそっ!」
この結界が、逆に仇になってしまうとは。整合騎士2人は神聖力を使えないため戦力はガタ落ちだ。シバの能力も利用出来ないためこの人数を守りきるのは難しい、いや不可能だろう。
ソードスキルを使うのは最終手段だ。硬直は彼女の前では命取りになる。ただでさえ速すぎるのだ。発動しても捉えることは出来ず、隙が生まれてしまうだけなら使うわけにはいかない。それは全員理解している。現段階この人数差で互角なのは認めたくはないが認めざるを得ない。誰一人として、彼女に傷一つ付けられなかったからだ。
「あらあらあら、私を封じるための結界が、まさか自らの首を絞めてたなんて。なんて滑稽で無様なんでしょう」
その通りだ。俺はまた、何も出来ずに…
「あら?まだ息があったのあなた。もう死んでいいわよ」
視線を向けると今まさに、1人の女性が突かれているのが見えた。それは、アスナであった。血が噴水のように湧き出て、体が海老のように跳ねる。この場にいる誰もが、もう救えないと思った。
「さて、これでこの結界も終わりね」
スタスタと歩いた先にある支点をアルバはたった二振りで破壊し、絶縁結界を解いた。いよいよ、後がなくなってしまった。だがその状況を好機とみたか、5人が飛び出しそれぞれ技を放った。
「頑張りは認めるけど、残念ね」
武装完全支配術、記憶解放術、極大魔法。それら全て技を放った本人へ返っていった。自らが放った技に自らが焼かれる。いや放った以上の威力を受けていた。
「ガハッ…」
「ふふふ。これがソロモンの見ていた世界ね〜。素晴らしい!この世界が見えていれば私は負けない!」
それを聞いて俺は察してしまった。俺がソロモンへとなれない理由。それは、アルバにその力を奪われてしまったからだと。最早魔力の問題ではないのだということを。
「冥土の土産に教えてあげますよソロモン。あの日、私と交わった日に残された魔力から辿って貴方の根幹となるものを得たのよ」
あの時から、アルバはこれを見越していたというのだろうか。いやその推測は今必要ではない。今必要なのはこれからどうするかだ。突撃した5人は暫く動けないだろう。今動くとしたら、俺しかいない。だけどさっきので魔力は枯渇している。どうすればいい。
この時起きたのは、まさに奇跡と言っていいだろう。無念に散っていった仲間達のリソースが魔力へと変換され、俺の元へきたのだ。声など聞こえるはずがないのに、ユージーン、サクヤ、キバオウ達左翼部隊。ベルクーリ、エルドリエ、デュソルバードら右翼部隊。シリカやリズ、アスナらの中央部隊。全ての状況を把握していたわけじゃない。だが、こうして集まった魔力を通じてみんなを感じる。そして知る。大切な人をこんなにも沢山、なくしてしまったことを。彼らは俺に語りかける。後悔していないと。私たちが守った世界の行く末を見せてくれと。その想いの光が集まり、俺の体の中へと収まっていく。そして感じる。彼らの痛み、悲しみ。そして願いを。その想いを決して無駄にしては行けないと心に強く誓う。
あとは頼んだよ。工藤継裕…
「なんの茶番かは知らないけどどっちにしろあなた達はもう終わりよ!」
「いいや、まだだ」
アルバへ向け、二刀を振り回す。
炎獄熱殺
村正、村雨を同時に振り辺り一面を炎の海と化す。それはアルバを囲みその灼熱はアルバを燃やしつくそうと、なんとか抜け出そうとするアルバを追いかけ燃やし続ける。決して消えることはなく永遠に燃え続ける地獄の灼熱と化す。
「ふはははは!!無駄よ!!」
アルバは自分の分身を炎の海の外へ新たに作りだし、それに自らの意識を移す。これによって、対象となっている元の体から抜け出すことによって受け続けるダメージから逃れる。だがこれには大量の魔力を消費する為、何度も続けられはしない。
「その程度は想定済みだ」
上空へ飛び、村正を思い切り振り下ろす。
荒星流災
荒い岩が流星の如く対象に振り続ける。その岩は技の使用者の支配下にあり、どう動くかは使用者の自由。また、この技が通り過ぎる頃には辺り一面が真っ平らの荒野へとなる。更に岩どうしのぶつかり合いは爆発的な高エネルギーを生み出し、周囲を吹き飛ばす。
だが力のベクトルを操る立場へとなったアルバには半分程支配下を奪われてしまい相殺されてしまった。しかし、この展開的に、アルバはまだソロモンの力を完全に行使できている訳では無いことがわかる。もし完全に手中に持たれていたら全て、支配下を奪われていたからだ。
「いつまで続くかしら?」
「お前が終わるまでだ」
音狂殲鬼
村正と村雨をある特定の動きによって擦り合わせた時に起こる振動を利用して空気中に分散させ、対象の聴覚から入り込ませ狂わせる。使用者には防御系の波が発生し、物理攻撃を全て弾く。なお、この効果は約10秒間である。
そしてこれは今や半ソロモンと化したアルバには聞きづらい。だが右耳から血が吹き出し、右目から血の涙が流れていることから多少なりと効果があるようだ。
「くっ!」
「まだ終わりじゃない」
キヒロはアルバへ最接近し二刀で無数に切り刻んだ。
華毒粉爪
斬られた又は刺された部位の傷口に花のような綺麗な痣が浮かび上がる。その毒は爪の先まで回ると体が激しく痙攣し頭痛、目眩などの症状が出る。周り切るまでには大体30〜60分ほどかかるが直前まで効果が出ないため、油断しやすい。又、深く刻まれれば刻まれるほど毒のまわりは早い。
そしてそれを察したアルバは自らの分身を作り終わったあとに、毒に侵された体を爆発させ、キヒロに毒を付与する。
「自らの技で苦しんで死ね!」
「その前に片をつける」
地面に落下している力を利用し、アルバの心臓へ力いっぱい突き込む。
薙突命力
突いた先を圧縮した重力が吹き飛ばす。溜めれば溜めるほど威力が増すチャージ型。段階は10段階あり1段階ごとに威力は10倍あがっていく。10段階目にもなると100人ほど一瞬で塵へとなる。使用者へのダメージも大きいためある制限を超えると使用者諸共吹き飛ぶ。
これによりアルバは全身、キヒロは左腕が消し飛ぶ結果になったがまだ魔力を削りきっていないため何度目かの復活をされる。
「このままじゃジリ貧じゃないかしら?」
「それはどうかな!?」
新たに作られたアルバの前に、正面に立ち右腕を上段に構える。そして振り下ろされた先には漆黒に染まった満月型の球体が地面を、アルバの体の一部を抉った。
冥闇残月
満月型に切り取られた箇所はブラックホールの如き闇に葬り去られる。切り取られた箇所は生命としての活動を奪われ、人であれば意識を向けても動かすことは不可能になる。これを治す手段はない。と言うより、治しようがない。切り取られた感覚がどこへ消えていくかは使用者ですら把握出来ない。
「なっ!何をしたおまえぇぇえええ!!!」
右手、左足が動かない。痛みは全くないのに、そこに残っているのに、どこかに忘れてきてしまったかのように、1ミリたりとも動かせない。更に魔力までもがどこかに封じ込められてしまった。後一歩だったのに!また邪魔されるのか!!
「アルバ!これで、終わりだ!」
村雨の切っ先が光り輝く。そして放たれた八つの光線はアルバを完全に包んだ。
八光大蛇
八首の大蛇が全てを無に返す光線を放つ。その場にあった対象を散り散りに貫いてしまう為使用には周りに十分な配慮が必要。
また副作用で、八光大蛇を受けたものは自分自身が成りたかった願望や希望を思い出し、その光景を見ながら消えていく。
後にも先にも苦痛や痛みを決して与えることはない。
私は、ただ。認めて欲しかった。ここに、私という人が生きているって。物じゃない、兵器じゃないんだって。人間なんだって。
生まれかたは普通じゃない。でも、人としての機能を持ち合わせているし、私は人でありたかった。
でも、誰も認めてくれなかった。コーディネーターの細胞から生まれたクローンである私を、誰も、この世に生まれた1人の人間として、見てくれなかった。
私は、ただ、人でありたかっただけ。それ以上は望まない。だから、次は、
ただの、人でありますように。
思考があやふやになってきていた時、誰かに話しかけられた。それは光の膜が人のかたちをしただけのなにか。特に興味は無かったが、思わず話しかけられたことに反応してしまった。
『俺は忘れない。お前という、人間が、ここにいたことを。ここで、生きていたことを。お前が、人として、1人の女として生きてきたことを』
この感じは恐らく、私の中に残っていたソロモンだ。かのアルマトランで彼が伝えたかったこと。
あぁ…
彼だけは、私を、人として、女として見てくれていたのか。
私は、報われたのだろうか。
キヒロが放った光は直径100メートルもの光の柱となり上空を包み込んでいた暗雲ごとその場を吹き飛ばした。
その様子を安堵の表情で見つめられるのも数秒。歓声、泣き声、拳をあわせる音。こちらに寄ってくる足音が俺をその景色から引き戻した。
継裕くん。ごめんね。愛しています…さよなら。
風が流れ、髪が靡くなか、彼女の声が聞こえた気がした。
守ると決め、守れなかった人。
俺はこの光景、この景色から目を背けられなかった。
眼前に映るものが、俺がこれからの人生で、背負うものだ。
そう、強く誓い、その場を後にした。
一応終わったけどまだ現実サイドについてとか書くから
終わってはいない()
(*´∇`)ノ ではでは~