ソードアート・オンライン 覇王と絶剣   作:高島 秋

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思ってたのと違う感じかもしれないけど許してw

では!どうぞ!


解放

 

工藤裕文は悩んでいた。その理由は敵が社会を巻き込む大胆な作戦を実行したことにほかならない。全ALOプレイヤーを巻き込んだこの大事件は、最早隠し通せるものでは無くなっていた。だが、事実を全て伝えるわけにはいかない。よって警察庁が公式に発表したことには何点か、いやほぼ全て偽装したものを伝えた。

 

・敵の正体及び狙いはわかってはいない。

・アミュスフィアによって死ぬことは無い。

・強制ログアウトは不可能。

 

マスメディアから何回か鋭い質問が飛んできたがそれを全て躱し終えた頃には20時を回っていた。実に6時間もの記者会見だった。

 

まず、強制ログアウトが可能かどうか試みた。結果は不可能。アミュスフィアの制限機能のお陰で死ぬことは無い。だが、記憶が一部消える。酷ければ植物状態、脳死になる可能性があることが判明した。程度の差はあれ、後遺症が残る確率が高いことにより強制ログアウトの試みは中止された。

そしてもう一つの問題点。現在のALOはアンダーワールドと同じように時間が加速させられている。その為患者の処理が遅れる可能性もある。案の定、事件から2時間がたった頃には犠牲者が出始めた。

肘から下の感覚がない。そう報告された患者もいた。これによりALO内部ではペインアブソーバが無いことも判明。精神が不安定になる患者もいた。痛みや恐怖に人は簡単には耐えられない。簡単に人としての尊厳や存在を消すことが出来るということに直面した初めての光景だった。

 

これは、単に死ぬより辛い。いっそ死んでしまった方が、本人も、周りも救われるであろう光景が現実に復帰してきた患者の殆どに見られた。

 

医者としての治してやりたいという思いはある。だが今の私にはそれ以外にやることが多すぎる。

まずシステムに介入。だがこれは全員がログアウトするまでこちらが先手に回ることは無いだろう。

メディアへの説明。連日どこから嗅ぎつけるのか患者の容態、ALOはどうなっているのかと追求してくる。これを斥けるのは中々苦労した。

敵の把握。細かく言うと本拠地に探りをいれること。だがこれも難航。今まで継裕に頼りっぱなしだったというのもあるが単に人手が足りない。それに警戒しているのかALO内部以外では目立った活動がない。5万人以上の日本人を機能不全に追い込みたいだけなら確かに有力な手段だがそれだけの為にこれほどの騒ぎを起こすのか。もし狙いが継裕なのだとしたら現実であっても問題は無い。いやそっちの方が的確だ。捕らえるにしろ、殺すにしろ、だ。となるとそれ以外に狙いがある。戦力の半減か?確かに部下の中にALOプレイヤーがいるがそれでも動くことに支障は生まれないほどの人員はいる。火の車状態だが不可能ではない。

分からない。

継裕が言っていたように、単に楽しんでいるだけなのだろうか。それならまだつけ入る隙はあるが、なんというか不気味だ。こうも後手に回るのは慣れていない。

 

「久しぶりだな」

「!?」

 

髪は真っ白に染っており全体的に長めだが縛っているからか目元ははっきりと見える。二重の瞼に大きい瞳。だがその瞳に光はなく闇に沈んでいる。小ぶりの鼻に薄らとかかった唇。一言で言えば整った顔。だが肌が白すぎて体が悪いのかと思うがそうでは無い。こいつは、継裕と同様、つくられた人間、コーディネーターだからだ。

 

「なんか言うことは無いのかよ。あんたに会うのは初めてじゃないはずだが?」

「あぁ、そうだな。だがどうやってここに来た?」

「ん?決まってるだろ。全員殺してきたよ」

 

さも当然のように言ったがここに来るまでに20名もの部下がいたはずだ。全員に自動小銃を持たせてもいたのである程度なら仕留める若しくは撃退程度は可能な配備をしたはずだった。それすらくぐり抜けてきたというのか。武器無しでか。

 

「まさか、素手で殺したのか」

「まさか。刀持ってきてたんだけど最後の一人を口から差し込んできてやったのさ」

「俺を殺すつもりで来たんじゃないのか」

「そんなつもりは無い。交渉しにきたんだよ」

「交渉?」

「そっ。こっちの要件はただ一つ。工藤継裕を引き渡せ」

 

殺せ、ではなく引き渡せ、か。確かに戦力面でいったら喉から手が出るほど欲しいだろう。だがその必要は無い。目の前にいるこいつも継裕と同じパラメータを持っているんだ。これ以上データのとりようもない。はずだ。

 

「どうした?簡単なことだろ」

「理由はなんだ」

「彼の体を複製するためさ」

「なん、だと」

「彼ほどの人間なら有力なクローンがつくれる。それが10人、いや、100人1000人つくれれば最強の軍隊さ。その辺の小生意気な奴らを沈めるには十分」

「待て、それなら引き渡す必要が無い。お前で充分なはずだ」

「それが困ったことにねぇ。僕の複製であるアルバは継裕に勝てなかったじゃん?だからこそ彼が必要なんだよ」

 

いやそれはおかしい。アルバと呼ばれる女との戦闘後の継裕は満身創痍の体であったし何より左腕が切り落とされていた。なら彼女は複製としてはもう完成系だろう。それ以上何を望むというのだ。

 

「彼はまだ、本気を出していない。出したことがない。だからこそほしい。いやぶっちゃけその辺はどうでもいい。僕は彼の本気がみたい。彼が本気で人を殺す時、どれほどの力を発揮するのか!」

「……まさか、今回のこの事件は、」

「あぁそうだよ!?こうして彼の大切なものを封じ込め殺せば、彼も本気にならざるを得ないだろ!?」

 

狂気に充ちいている。いや、狂気に充ちいているのは我々の方か。こうしてこのような性格になるようにしたのは我々なのだから。

 

「さて、僕は帰るよ」

「は?」

 

音を立てることも無く、彼は立ち去っていった。後に異変を感じた部下数名が私の部屋に来る頃には事件から丁度5日過ぎていた。

 

 

 

 

 

「キヒロ、まとめ終わったぜ」

「ありがとうキリト。どうだ?」

「被害人数は約3000ほど。怪我人も含めたら3500ほどだな」

「そうか。わかった」

 

被害は深刻だった。今回の戦闘、いやほとんどの者にとっては殺戮に近いものに対して血が流れすぎた。果たしてこれは償いきれるのか。少なくとも、俺を助けようと奮闘して死んだものもいる。そんな彼らに対して俺は何ができるだろうか。

 

「キー君。ログアウトがまだできない状況だ。気は抜かないでくれ」

 

アルゴ、姉さんかそっと耳打ちする。こんな困惑した状況だからかまだ気が付かれてはいないがじきに騒ぎになるだろう。だがこればかりはどうしようもない。いや、確か地下迷宮にシステムコンソールがあったはずだ。アルバを倒した今、権限が剥奪されているはず。今の状態ならシステムに介入できるはずだ。なら誰に行かせる。決まっている。それは

 

「なんだ、あれ」

 

エギルが呟く。その視線の先に目を向けると黒い球体が浮かんでいた。距離にして約500はあると思われるがその距離でも大きく感じる。一体あれは。

 

「なぁキヒロ。あれ見覚えあるか?」

「いやない。俺も初見だ」

 

キリトが聞いてくるという事はアンダーワールドでも無いものなのだろうか。旧ALOでもあのようなものは存在していない。そしてアルマトランでもない。となると一体どこの

 

「2人とも!あれは、あの魔法は!」

 

アリスが慌てたような驚いたような、絶望しているような表情で訴えかけてきた。

 

「あれは、アンダーワールドで暗黒術師たちが放った、呪詛系術式、死詛虫です!」

「どういったものなんだ?」

「人の、生命を利用したものです。天命が1番高い者に襲いかかります。あれは剣や盾で防げるものではありません。それにあの大きさ、私が以前見たのはあれの半分、いや3分の1程でしょう。その時は3000もの命が使われました」

「さ、3000!?」

 

規模が違いすぎて驚いてしまった。それにその死詛虫とやらがまとまってる球体はまだ大きくなってる。アリスの話によれば現時点で既に1万もの命が使われている。いやその前にアリスはあれを呪詛系術式だと言った。つまりまだ誰か生き残っていることになる。しかもあれほどの大魔法を使える者がいる。

 

最終的にはアリスの知っているやつより10倍ほどの大きさらしい。魔法が効かないという事はないみたいなのでそれなりに対策はたてられるが。問題は時間だ。

 

「ユウキは結界を貼ってくれ。多少は時間稼げるだろう」

「ボクもいくよ!?」

「だめだ。ユウキが出たら誰が守る」

「でも!」

「俺なら大丈夫だ。もう、大丈夫だ」

 

そう。これは、この戦いは、ソロモンとしての最後の戦いだ。

力を、貸してくれ。

俺の最高の仲間たち。

 

左手が新たにうまれ、傷も全て消え、光り輝くソロモンの前に1柱、また1柱と光の柱が降りてくる。そして現れたのは、ソロモンのアルマトランでの仲間たち。72柱の魔人たち。

 

「我らがソロモン王よ。ご無事であられたか!」

「あぁ、そして毎回済まないが今回も力を貸してはくれないだろうか」

「何を申しまするか!このアモン!全力を尽くす所存にありまする」

「ありがとうアモン。さて、今回は君たち全員で最強の防御結界を張って欲しいんだ」

 

それぞれ固有の得意な魔法がありそれが絶大な威力を持つ彼らからしたら呼ばれてこの内容は拍子抜けするものだろう。だが、ソロモンの向ける視線の先にある物体を見るやいなや視線が鋭くなった。魔術に特化しているからこそ、あれの驚異がわかるのだろう。

 

「承りました。してどのように」

「シバが中心となり君たちが魔力を送ることによって強固にする形だ」

「シバ様もご無事なのですか!?」

 

完全に忘れていた。そう言えば彼らとの最後の戦いはシバが死んだ後だった。

 

「あぁ、無事だ。バアルが指揮をとれ。あとは頼んだぞ」

「お任せ下さい!」

 

こうして俺は死詛虫の元へ飛び立った。

 

 

「来たか人類最強の男よ。今度こそ仕留めてやる」

 

 

 

「展開!」

 

ユウキが展開した防御結界はかなりの強度を誇っているようだ。それぞれ距離をとった3重の結界にさらに重複している感じだ。お陰で死詛虫がこちらに届くことは無い。ただ、見ているしかできないというのもなんだか落ち着かないが。

 

 

「くそ!」

 

この死詛虫とやらは俺との相性は最悪だ。俺の固有の魔法では殺しきれない。防御をユウキ1人に任せて全員でかかった方が良かったかもしれない。それを嘆いても仕方ないし後悔はしていない。なぜなら俺はこれ以上、仲間が気づつく姿を見ているのは耐えられないからだ。虫が良すぎるがそれが今の俺の本音だ。勝てなくてもいい。向こうに行かないようにできれば十分だ。向こうに行ったのはこっちに引き寄せるようにしなければ。

 

熱魔法(ハルハール)

水魔法(シャラール)

力魔法(ゾルフ)

 

この3つを合わせた調律魔法。

大閃光(デストラクション)

これを更に多数展開。その数実に100。

 

大閃光・滅(デストラクション・インケラード)

 

これでどのくらい倒せた。認めたくはないんだが、ほんの一瞬しか視界がひらけなかった。すぐに気味の悪い音をあげる虫が覆い尽くした。魔力尽きるまで放つつもりだがこいつもやられっぱなしという訳では無いらしい。すり抜けたヤツらが俺の右足に絡みついた。心臓に向かって伸びてくるが膝上で切り落とすことによってそれ以上の損失を回避。

とてもじゃないが製造が追いつかない。焼き尽くすにしてもそれだけの時間をかけている間に他から回り込まれたらお終いだ。それにあまり天命を減らしすぎるもユウキの元へ向かってしまう。天命を維持しつつある程度は消さなければならない。半分まで消せればあれが使えるんだが。まぁ使ったら怒られそうだが。

 

 

「やはり我らが出るべきでは…」

「何を言うアシュタロス。王が任せろと言ったのだ。それを邪魔するのは無粋というもの」

「しかしわかってるだろアガレス。あれはジリ貧だ」

「いざとなったら私が出る」

「ベリアル。貴様でもあれを消し去るのは難儀だろう」

「ではどうしろと!ここで我が王を見捨てろと!?」

「落ち着けベリアル。王はやり遂げる。我々が目を向けるのはその後だ」

「バアルの言う通りじゃ。ここでワシらが出てもかえって邪魔になる」

 

 

王よ。私は悟りました。貴方様と我々が相見えるのはこれが最後なのだと。この世界に突然召喚された我々にはこの防御結界を維持するのが精一杯。仮に戦闘に参加しても極大魔法を1回放てるかどうか。

そしてそれは貴方様と同じ。もう尽きかけている魔力を使い、空間に散らばる魔力までをも利用して戦っておられる。我々にはその芸当は不可能。そしてそれでも倒しきれないことも承知している。

あれを完全に消し去るには根本から消さなければ復活する。一部焼けきった程度ではすぐにまた追いかけ回してくる。よって貴方様が最後にとる手段は…

 

 

もう魔力はない。ここが俺の限界だ。空間リソースもお互いに消耗仕切った今、残された手段はこれしかない。

 

「喰らいたければ喰うがいい虫ども!!!エンハンス・アーマメント!!!!!」

 

その瞬間、キヒロを中心に取り囲んだ死詛虫はキヒロの魔法に巻き込まれ全て爆散した。

 

 

「あ、ぁあ、あぁ、あぁ!!!」

「やったのか?」

 

その場は歓喜に包まれた。それは魔人たちも同様だ。3人を除いて。

 

「キー君…」

「いやぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」

 

ユウキが飛び出したことにより結界は解けた。物凄いスピードでキヒロの元へ飛んでいったが何がそんなにユウキを突き動かすのだろうか。

 

「アル」

 

アルゴも気づいたら飛び出していた。何が何だか理解出来ていない時、1人の魔人が話しかけてきた。

 

「少年よ」

「あ、とえーと」

「バアルだ。シバ様が飛び出した理由が知りたいのだな」

 

心を読まれていたのだろうか。だがこれに関しては知っても損は無いので頷いた。だがその内容は、決して知りたくはなかったと後悔する羽目になる。

 

「王が最後に使った魔法。あれは、"自爆魔法"であります」

「……………は?」

 

咄嗟に視線を2人が向かった方へ向けると猛スピードで帰ってくる2人がいた。そして一緒にいるキヒロには、胴から下が無かった。

 

「ザガン!君治癒得意でしょ!」

「確かに私は治癒が得意にしておりますが、これは、施しようが」

「なら誰か!誰かいないの!?」

「ソロモンは死んだ」

 

そう発言したのは、キヒロのソロモンとしての姿とよく似た男だった。髪は白く、体の至る所に刺青が入っており先に太陽の形がした飾りが杖の先に付いていた。

 

「何者!」

「名か。そうだな。僕の名前はゲーティア、と名乗っておこう」

「なんだと!?」

「貴様ら72柱が善なる者だとしたら僕は悪なる者。と考えていればいい」

「お前があの術式を発動したものですか!」

 

アリスがそう問掛ける。そしてゲーティアと名乗る男はアリスを一瞥したあと、気になることを呟いた。

 

「君が光の御子か。なるほど」

「!?」

 

アリスの表情から察するに奴は初対面だと思われる。そしてアリスが光の御子だと知っているのはアンダーワールドにログインしたものやラースの人間だけだ。つまりこの男はオーシャンタートル襲撃チームと何らかの繋がりがあるとみていいだろう。

 

 

「いやいやいや。思わぬ副産物を得た。だが任務はこれにて終了。あぁ、もう帰っていいよ君たち」

「なんだと!?」

「僕の目的は果たした。だからもうログアウトしていいよ」

 

そう言って男は消えた。きっとログアウトしたのだろう。

結局何がしたかったのだこの男は。

言葉からは何一つ有益な情報は得られなかった。

一体、何者なのだろう。

 

ここでシステム音声が流れた。

 

全プレイヤー強制ログアウト、開始します。

 

「最後後味が悪いが、我々もこれにて解散だ。大した手助けを出来なくて申し訳ない」

「いえいえ。手助けありがとうございました。さよならバアルさん。またどこかで」

 

この少年、いや青年はどこか王と似ている。見た目とかは全然、いやそれなりに違うが心の通った強い青年だ。もしかしたら、王は彼に託したのかもしれませんな。彼に、未来を。

 

「……はい。またどこかで」

 

バアルらが消えたあと、そこら中に散らばっていた死体が光に包まれながら消えていった。それにはキヒロにも例外はなかった。そうして全てが無に帰った時、俺達も光に包まれた。

 

 

これにて、約1週間に及ぶ戦いは終わった。とても、とても多くの犠牲を払って、俺たちは現実世界へ帰還した。

 

 

次回 再会

 

 

 

 




思ってたより現実のほう少なくて笑った。
詰め込んでしまったけどそれなりに理由はあるので気にしないで!w

(*´∇`)ノ ではでは~

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