キノの旅 ~ Traveler's memory~ 作:枯渇性資源
「………」
目の前には機械が異様に発展した国。
街を闊歩するのは人ではなく、鉄と歯車で作られた機械たち。
そんな訳の分からない世界に一人ポツンと立ち尽くしている俺は、此処にきた経緯を思い出す。
ある日、俺は死んだ。
人並みに生きてきた俺は、学校からの帰宅途中、高層ビルの建設中、作業員が誤って落とした鉄柱から、少女を身を挺して守り、死んだのだ。
そこで俺の人生は一度終わりを迎えた訳だが、暗い闇の中を漂っていた俺は偶々目をつけられた神によって神様召喚の選択肢を与えられた。
「……ふーむ。まず何処の世界に召喚されるのかを教えて貰わない事には決められないな」
『面倒な。はぁ、そうだな。お前を召喚する世界は【キノの旅】の世界だ』
「キノの旅? ……聞いた事はあるけど、男装した少女と喋るバイクが旅するってくらいしか知らないんだけど。原作知識は貰えないのか?」
『そんなものを与えたらつまらんだろう。大丈夫だ、主人公の特徴が分かっているなら何とかなる』
「いや何とかなるとか……今思い出したが作者は銃マニアで結構物騒な世界なんだろ? 原作知識はこの際仕方ないとしても何か能力が欲しいんだが」
『ああ、折角送り出した魂が即座に死んでしまったら貴様に説明した私としても無駄骨だからな。何の能力が欲しい?』
缶ビールを片手に持ち随分高圧的に見える女神に聞かれ、どうしたものかと迷う。
キノの旅って言うくらいだから旅するんだろ? 俺の記憶ではバイクに乗って移動するわけだ。それなら俺も移動手段が欲しいと……いや、何で俺は主人公についていく前提で考えているんだ。普通に過ごして、この際容姿は平凡でも良いから優しい女性と結婚して、妻と子供と平和な暮らしをすればいいじゃないか。
『……因みに言っておくが、原作に関わらないと貴様を不幸に落とす』
「ーーいや怖ぇよっ! 畜生、主人公と行動すればいいんだろ!? 分かったよ」
俺の顔を若干の侮蔑を孕んだ眼で見る女神に、こいつは本当に俺を不幸に落とすだろうと確信する。それでも殺すと言わないのは流石に女神か。
……まったく、なんで女の子を助けて死んだのにこんな扱いをされなきゃならないんだ。そこは、少女を救った貴方に、好きな異世界に行く権利を与えましょう。とか、そういう展開だろ。
理想と現実とのギャップに苛立ちを覚えながら、思考を戻す。
主人公と一緒に行動しなきゃならないんだったら、バイクに匹敵する移動手段を確保しなければならない。向こうの世界で何らかの移動手段を都合よく得られるとは考えない方がいいな。……よし、決めた。
「決めたぞ女神、俺の望む能力は『時を自由に止められる能力』だ」
時を自由に止められれば、移動も歩いて何とか主人公に置いて行かれずに済むだろう。何かあっても時が止まればこっちのものだ。……徒歩は流石にきついが、仕方がない。時を操作する能力とかだと女神に強すぎるからって拒否されそうだしな。
『……ふぅん? そんなもので良いのか。貴様の事だからもっと欲張った能力を提示すると思ったが、まあ人の身にはそのくらいが妥当か』
女神が意外そうな表情をするが、一体何をもってそう思ったのか知りたい。俺は自分でも使いこなせそうな能力にしただけだ。――漫画や小説で、身に余る強大な力を得た人間がどうなったかを俺は腐るほど見てきた。それにしても……
「さっきから貴様貴様って、俺にはサトウカラヤっていう立派な名前があるっての!」
『くくっ、貴様こそ私の事を女神と呼ぶではないか、お互い様だ。それでは貴様に、時の導きがあらんことを――』
「お前絶対性格悪いだろ性わ――――
こうして、俺は目の前でふんぞり返っている女神にそう吐き捨てる途中、異世界に飛ばされたのだった。
一通り思い出した俺は、機械だらけの街をぼうっと眺める。
「はぁ……ありえねー。アレが本当に女神とかありえねぇわ。顔が良くても、俺は絶対に許さん。――このクソ女神っ!!ふざけ――っおぉ!?」
空を仰ぎ女神を罵倒しようと大声を上げると、虚空から不意打ち気味に物体が飛んできた。
反射的にそれを掴み、よく見てみれば女神の飲んでいた缶ビールだった。
そういえば女神は俺の行動を監視しているんだったな。そりゃ声も聴こえるか。
「………」
缶ビールを一度足元に置き、その場から少し離れる。
俺は街の角を曲がると、道端に中身の入った缶を見つけた。
「おぉ! こんな所に少し中身の入った缶ビールがあるじゃないか! くそぅ、俺食糧とか移動手段何も持ってないから喉渇いてるんだよなぁ」
笑顔から急に真顔に戻し、
「……仕方ない、あと3分以内に食糧問題と移動手段が解決しなかったらこの缶ビールを飲むか」
今頃あのプライドの高い女神はバタバタと焦っているだろうか。まあ容姿だけは良いからな。学校の帰宅途中だったから普通に喉渇いてるし3分くらい経ったら飲むか。
俺は缶ビールを拾い上げると、街の散策を始めた。
それにしても、人が居ない。街の大通りに召喚されたが、見渡す限り一人も人間の姿を見る事が出来ない。
現実ではなく小説の世界なんだからこういう国もあるのかもしれないが、何とも奇妙だ。
「――おい、貴様。早くその缶を返せ」
誰も居なかったはずの後ろから、突然話しかけられたのでびくりとしたが、聞き覚えのある声だったのですぐに振り返る。
そこにはバイク素人の俺から見ても、渋く格好良いバイクの荷台に荷物を入れている女神の姿があった。急いで来たのだろう、髪が良い感じに乱れている。
俺は左手に持っていた缶を女神に投げ渡すと、空中で跡形もなく消し飛ばされた。
若干ビビっている俺を冷たい眼で見ながら、
「次私を貶めるような事をしたら、この缶ビールの様に貴様を蒸発させてやる」
「は、はいぃっ!」
殺意満天の視線で人を殺すでなく蒸発させる宣言をした女神を、俺は初めて見た。
……もう怒らせないようにしよう。
俺の情けない返事に少し溜飲が下がったのか、女神は溜息をつく。
「女神相手にこんなことをする奴は初めてだ。まあいい経験をしたとでも思っておこう。……荷台に食糧はある、サトウ、貴様はバイクに乗れるか?」
「あ、あぁ」
「それでは私は帰る」
さっきまでの怒りはどうしたのか、あっさりと帰ろうとする女神に、少し罪悪感が湧いてきた。
背を向ける女神に、ふと名前を聞いていなかったと気づく。
「ちょっと待て女神様、名前はなんて言うんだ?」
「――今更様呼びか。良いだろう、ただの人間如きにここまでしてやる私を精一杯信仰するがいい」
脚を止めず振り返りもしなかったが、笑っている事は何となくわかった。
『――ラマシュトゥだ』
「やっぱり邪神の類じゃねぇか!」
ラマシュトゥは俺のツッコミを嗤いながら、忽然と、最初からいなかったかのように、消え去った。
「さて、あの女神が此処に召還したってことは、此処に居れば主人公に会えるってことで良いんだよな?」
誰にでもなく呟くと、俺はバイクの荷台を漁り始める。
荷台の中には二日分くらいの食糧と、小振りのナイフが一本だけ革の鞘に納まって入っていた。
女神の良心で俺が言ったもの以外のモノを入れたとは考えづらい、何か仕掛けでもあるはずだ。
革の鞘からナイフを抜くと、まずその軽さに驚く。そして次に、ピッタリと手に納まる握り心地に心が震える。
俺はナイフを何度も振るいその性能の高さに笑みを浮かべるが、その姿を他人が見たら不審者以外の何物でもない。
暫くすると、エンジンの鈍く低い音が聴こえてきた。
俺はナイフの納まった鞘をズボンの裾に取り付け――
――主人公か? やばい、主人公に会ったらどうやって旅について行けば良いか何も考えていなかった。
結局何も考えが纏まらないまま、肉眼で確認できる程近くまで来てしまった。
主人公、キノも人が一人も居ない事に疑問に思っているはずだ。此処で逃げたら怪しすぎる。
「こんにちはー」
「――こんにちは。君も、旅人か?」
主人公の姿は俺の朧気の記憶と一致して、黒い短髪に大きな瞳の整った顔つきをしており、一見すると少年にも見える少女で、茶色いコートを羽織りゴーグルの付いた特徴的な帽子を頭に被っていた。実際に見るとその若さに違和感が満載だ。
「君もって事は、お兄さんも旅人なんですね」
「ああ、俺もこの国に着いたばかりでな。人が全く居ないからどうしたものかと思ってさ」
取り敢えず、俺も旅人で、この国に来たばかりだと言っておこう。この国の住人なんて言った日にはどうして人が居ないのか聞かれてしまう。
「おにーさんそんな装備で旅してるの?」
「あ、ああ、そうだ。……と言っても、前の国で銃が壊れてしまったからだけどな」
突然バイクに話しかけられたので動揺して適当な事を言ってしまったが……。そうだ、俺今日本の若者の間で一時期流行ったダボダボの服着てるわ。古今東西何処の旅人を見てもこんな動きにくい服で旅をしている者は居ないだろう。
「……それにしてもバイクは話せるのか?」
「バイク? 僕の乗っているのはモトラドっていって、話せるのは結構一般的だと思いますけど……」
無機物が意志を持って話すのが当たり前の世界とは。下手なことは話さない方が良いな。ボロが出る。
「そうなのか……、いや、実は俺、旅にでてそれ程長くないんだ。俺の故郷ではこの二輪車の事をバイクって言って、言葉も話さなかったから正直驚いた」
「そうなんですか。――いつかその国も回れると良いね。エルメス」
「キノが行きたいなら何処でも行くよ」
「ははは、とっても遠いぞ? ……さて、ここで俺の提案だが、この国の間だけ、一緒に行動しないか?」
俺の突然の提案に、主人公も目を丸くする。
「いや、信用ならないっていうなら仕方ないけど、こんな訳の分からない国に来たのは初めてでさ。ほら、武器もナイフ一本だろ? 足手纏いにはならないから!」
此処で断られたらもれなく不幸がやってくる。
「――えぇ、三日間後にこの街から出るので、それまでの間なら別にいいですけど……」
俺の決死の願いが向こうにも届いたのか、了承の言葉が返ってきた。
「よしっ!! これからよろしくな! タメ口ではいいぞ、俺の名前はカラヤだ」
「え? これから? 三日間だけだよね? ――僕の名前はキノ、こっちはエルメス。よろしく、カラヤさん」
すまんなキノ嬢、俺は女神の気の済むまで着いて行くぞ。
――こうして俺達は握手を交わし、共に行動をすることになったのだった。
この作品をクリスマスにご覧の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
主は今年も独りでクリスマスパーティーです。
彼女デ㌔彼女デ㌔彼女デ㌔彼女デ㌔彼女デ㌔………。
この作品は、そんな皆さんが楽しく読めればなぁと思い書き始めました。
恋愛要素は、きっとあるかな?
この作品は原作を読みながら、同時に執筆する方法を採用しております。
キャラ崩壊はなるべくしないように心がけますが、出会ったばかりの時は主もそのキャラの事を詳しく知らないという不思議な現象が起こるので、多少は目を瞑ってくれるとありがたいです。
その関係でプロットもありません。まあこの原作は基本一話完結型なので、何とかなると思います。(思考放棄)
さあ、彼氏彼女が居る皆さんも、独り身の皆さんも、せーので唱えましょう!
――メリークリスマス!!!