<Infinite Dendrogram>-枝葉末節:超級異譚-   作:チャシェ

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“公平無視”セントの場合 vs“最強”

 □【煌騎兵】レイ・スターリング

 

「そういえば、兄貴の知ってる<超級>ってどんな奴がいるんだ?」

 

 ある日のこと、クマの着ぐるみを着ている兄と一緒に食事をしていた俺は、なんとはなしに話を切り出した。

 

『いきなりどうしたクマー?』

「いやさ、俺も多少は外に目を向けるべきかなと思ってさ」

 

 俺もこれまで何人かの<超級>、現在確認されているエンブリオの最終形態である<超級エンブリオ>の持ち主に会ってきた。何を隠そう目の前の兄もそうだし、フィガロ(“無限連鎖”)さん、女化生(“月世界“)レイレイ(“酒池肉林”)さん、迅羽(“応龍“)フランクリン(“最弱最悪“)魔将軍(“矛盾数式“)獣王(“物理最強“)等々。

 後になって知った人も含めているとはいえ、片手の指で足りる量を超え、今では両手の指に届きそうな数だ。

 しかし、当然のことではあるがその大部分は王国と皇国の超級に絞られている。

 

 「暫くは王国から出ることもそうないだろうし、戦争で戦うのも皇国のマスターだけだろうけど、その先出逢わない保証もないしさ」

 

 まあありていに言えば、いい加減何か起こる度に皆の解説を聞いてばかりというのもなんだかな、とふと思い立ったのである。

 ぶっちゃけ俺も解説したい。物知りだなとか言われたい。

 故にゲーム最古参組であり<超級>でもあるこの兄に、恥を忍んでコッソリと皆が知らないであろう知識を教えてもらうのだ。

 

「それでよいのかレイよ……」

 

 今はネメシスはそっちで飯を食っているといい。この店の料理は絶品らしいから。

 今日はサービスでいつもより量大目でいいぞー、たらふく食うといい。お子様ランチとかおススメらしいぞ。

 

「わーい、と言うとでも思ったか!」

 

 あれ、ネメシス(暴食の化身)なら食べ物用意すればいけると思ったんだが。

 だが諦めない。この知識は絶対に俺だけのものにするんだッ。

 

「哀しくなるぐらいの不屈の意志だのう……。しかたない、飯代は弾めよ」

 

 くっ、かなりの出費になるだろうが仕方がない。

 ドヤ顔で情報通の皆に語る為と思えば懐は痛いが安い犠牲だ。

 

「と、言う訳で兄貴、よろしく頼む。できればマリーとかが知らなさそうで且つ強いマスターがいいな」

『中々に細かい注文だなお前……、まあいいクマ―。このお兄様が聞かせてやろうではないか、弟よ』

 

 そこそこうざいがまあいい。ここは讃えて上機嫌にさせる作戦でいこう。

 

「ツヨクテカシコイオニイサマオネガイ―」

 

『そこまで棒読みになる奴初めて見たクマー……』

 

 そう言いつつ、兄は語りだした。

 

『ある<超級>の話をしよう。奴は【破壊王()】でも()()()()()()男だ』

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■かつてのどこか 【剛闘士】セント

 

 俺は今、ある相手と向かい合っている。人とヤマアラシの姿をした二人一組の化物だ。

 その正体はなんと驚き“()()()()”【獣王(キング・オブ・ビースト)】とそのエンブリオ【怪獣女王】。西方三国で最強と呼ばれるまごうことなき強者。

 本来同格の筈の<超級>でさえもそいつには一歩譲らざるを得ない、誰もが恐れる絶対強者だ。

 

「そこをどきなさい。たとえエンブリオの到達形態が同じだとしてもあなたに超級職はない。この至近にて【獣王】と【怪獣女王】に勝てる訳がないのは解るでしょう。」

 

 実にその通りな降伏勧告だ。かの音に聞く“魔法最強”ならば単独でもこいつに勝てる可能性はあるが、しかしこの距離では不可能だろう。

 お互いの距離は100m前後。普通はどんな魔法職であろうと魔法が効果を発揮する前には敗れ、エンブリオの誇る<必殺スキル>でもどちらかを倒す間にどちらかにやられる。

 ならば近接職になら勝機はあるか。いやいやまさか。

 「()()()()()()()()()()()()()()()」の【獣王】に近接戦で勝てる可能性があるのはステ特化型超級職マスターぐらいなものだろう。

 そうでもなければ、単純に「速度について行けずに力で負ける」というどうしようもない現実があるだけだ。

 

「御忠告痛み入るね。流石は頂点の一角、慈悲深いことだ」

 

 すなわち彼女の発言通り、普通に考えて超級職でない俺にはこの状況・この距離で勝つすべはない、ということになる。

 そう、()()()()()

 

「だがいらない心配だな。あんたの趣向には合わないだろうが、あんたを倒す方法くらいはある」

 

 しかしこの俺も条理を超越せし<()()>。普通などという言葉はとうの昔に置いてきた。

 たった一手、その一手を打つだけでひっくり返すには事足りる。

 

「……なるほど、あなたのエンブリオはテリトリー系列ですか」

 

 TYPE:テリトリー、それは結界型のエンブリオの総称。一定範囲内に何らかの独自法則を敷く力を持つ、実体無きエンブリオである。

 その能力は自他の強化・弱体、制限など多岐にわたり、<超級>ともなれば自他の装備品の封印やアバターの変化などの変わり種もいる。

 

「へえ、頭が随分と回るものだ。脳筋型だとばかり思っていたが……いや、()()()()()()のかな。

 参考までになぜ解ったのか聞かせてもらってもいいか?」

「……簡単な話です。あなたが仮に私に勝利できるとしたら、エンブリオの<()()()()()>ぐらいのものでしょう。

 その手に持つ剣は見た所どこぞのUBMから得た(ドロップした)特典武具でしょうが、威圧感からして伝説級にも届かない最下級。その程度では<超級>である私達には届かないですからね。

 そしてチャリオッツやキャッスルでないのは見ればわかります。

 ではガードナーか? それもまた周囲に何もいない時点で除外してもいいでしょう。」

 

 TYPE:チャリオッツやキャッスルはその名の通り乗騎や住居の形をしたエンブリオだ。見ればだいたいわかる。

 仮に俺がこのタイプだとしても今出ていない以上出して乗る前に殺されることだろうし、乗っても何かする前に破壊される可能性の方が高い。

 頑丈さに全てを賭したエンブリオならば破壊は免れるかもしれないが、それでは勝てるとは言えないだろう。

 

 TYPE:ガードナーは名前の通り護衛役(ガードナー)のエンブリオ。こちらも見れば解る場合が多い。

 物理系のステータスが非常、否異常に高い彼女達ならたとえ極小のエンブリオであろうと見抜ける筈だ。

 或は()()()()()()()事に特化したエンブリオならば気付かれないかもしれないが、その場合火力が足りず、特典武具の類でそれを補強しても地に立つヤマアラシと人型を同時に仕留めるのは困難を極める。

 マスターを殺せばエンブリオも共に消えるが、彼女のHPは膨大だ。消えかける一瞬で仕留められる事は想像に難くない。

 

「ではアームズ(道具類)かテリトリーということになるでしょうが、仮に強力な武具を持ったとしてもそれだけで仕留められるほど“物理最強”は甘くはない。

 最低でもハイブリット(数種複合型)として、こちらの能力の制限等を持つテリトリーが入っているのは間違いない、そうでしょう?」

 

 ……驚くべきことに、彼女の推理はほぼ完璧だった。ここまで看破できるという事は、日頃から最強である為にそれだけ弱点に注意しているという事だろう。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。敵を知らず己を知れば一勝一負す。敵を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず危うし。ゲーマーとして傾向と対策は基本という事だろう。

 

「流石は皇国最強、伊達や酔狂、怠惰でその地位にいられる訳がないってことか。

 しかしどうする? このタイミング・()()()()()その程度の事を看破した所で、俺の切り札の効力は変わらないが」

 

 

「簡単な事です。そちらに踏み込まずに攻撃すればいいだけの事。効果範囲が限られるテリトリーは、その範囲の外に出てしまえば一切の効力を受けない。

 ならば適当な武器でも投げれば、それだけでステータスの低いあなたは砕け散る。

 仮に発動していないとすれば、スキルの名称を唱える隙か、発動する素振りを見せた一瞬で殺すだけの事です」

 

 技キャンセルとはまたえげつないことを考える。流石は怪獣、蹂躙するのはお手の物と言う訳だ。

 そうその通り、彼女の対策は極めて正しい。()()()()()()()()()()()()()()()

 本来ならばそれを告げる必要はないが、ここまで問答無用でこちらを倒さず、礼儀を持って接してくれた()()に敬意を表して、あえてこちらも話をしよう。

 

「なるほど、なるほど、なるほど。しかし致命的にお前達が失念していることが一つある」

「……さて、なんのことでしょうか」

 

 おや、さすがの獣王も解らないらしい。いや、それとも気付かないふりだろうか。

 

 告げる。

 

「俺のテリトリーは、()()()()()()()()()

 

 しかして、その言葉を皮切りに戦闘が始まった。

 当然のように“物理最強”は俺より早く動き、ヤマアラシの突撃と素早く後ろに下がった人型の投擲斧が迫る。

 

 そして――――――

 

 

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 

 

 □■カ■■■ナ辺境

 

 

 “物理最強”の連撃がセントに迫る。

 迫り――――これまた当然のように、武器を大地に突き刺した上で、その攻撃を()()()()()

 

「……チッ」

 

 必殺スキル等の奥の手を使っていないとはいえ、神話級クラスのエンブリオ(ガードナー)超級職(獣王)奥義(獣心憑依:EX)を使っているマスターのコンボ。

 所詮は上級職どまりのマスターには本来止められる筈もない攻撃だ。

 ならば、そこには何らかのイカサマが行われているという事に他ならない。

 そしてこの場合のそれは、彼の必殺スキルである。

 

「間に合ってよかった、とでも言っておこうかね。タイミングを外したら俺が死ぬからな」

「何を白々しい…この効果であれば事前に仕掛けておくべきもの。それをしなかったのは自信の表れでしょう、こちらの行動タイミングを完璧に読み切れるという。」

 

 彼のエンブリオの名は【劣悪平等 ガクモンノススメ】

 必殺スキルは《天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず(ガクモンノススメ)

 その効果は「半径一㎞以内の円柱状の範囲内の存在を無差別に対象とし、対象のSTR()AGI()END()の数値の内最高と最低の物を自身の最高と最低と同値とし、それを基準に元の全てのステータスの比率を合わせる。そして対象のスキルの発動を封印・効果を無効化する」というもの。

 

 すなわち、『相手のステータスを自身と同程度に制限し、自他のスキルを封じる』スキル。

 相手を自身と同じ土俵にまで引きずり下ろし、自分の得意な土俵で勝負をつける、正に悪平等の象徴ともいえるエンブリオだ。

 

 ステータスへの補正はなく、そのリソースの全てを必殺スキルに注ぎ込んだ特化型であるが故にその効力は非常に高く、防ぐことはほぼ不可能に近い。

 まして、必殺スキル発動前の全力を出していないエンブリオでは()()()()()()()()()()

 一度嵌ってしまえば、強制的にスキル抜き、レベル差無視、相手と同能力での戦いを強いられる。

 当然ながら魔法は使えず、純粋な自らの五体と武器を操る技量を試される戦闘へと強制的にシフトさせられる。

 

 そして、このようなエンブリオを持つマスターの技量が、当然低いはずもなく。

 故に“物理最強”でさえも、この場では有利な戦いを運べる道理はない。

 

「……だとしても、こちらは二体、そちらは一人。数の有利はこちらにある。仮にそちらの技量が高くとも、そう容易く倒されるつもりはない」

「思ってもいないことをよくも言う。なるほど確かに人と同程度の筋力を持つ小型のヤマアラシと人型の連携を止めるのは容易ではないだろうな。しかし、困難というほどの事でもないさ。

 そして、気づいてるか? 既にあんたが挑まれる側ではなく、()()()()()()()()()()()()

 

 事実として、この状況で精神的優位を持っているのはセントだ。

 身体能力のバランスこそ失ってないとはいえ、超高AGIによる思考加速を失った【獣王】では常にやっている長考ができず、結果的に行動のキレも奪われる。

 一見平等な条件に見えて、やはりどこまでも都合のいい悪平等。否、()()()()である。

 

 

「さあ、かかって来いよ“物理最強”。たまには数に任せて敵を襲う()()の側に立つといい」

調()()()()()()()()()()()()。“物理最強”の名に懸けて、【獣王】と【怪獣女王】が必ず勝つ」

『――Ganking』

 

 

 そして戦闘が再び始まり、そして暫しの後に終わりを迎えた。その場所に佇む影は()()だった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □【煌騎兵】レイ・スターリング

 

「え、ってことはつまり……」

『ああ、勝ったのはセントだ』

 

 うっそだろ。あのフランクリンでさえも一目置くらしい、皇国最強にサシで勝てるなんて。

 いやまあ迅羽(ワープモツ抜き)フィガロさん(ほぼ無限強化)とかなら或はワンチャンあるだろうし、<超級>同士なら相性差はあれど勝ち目はあるのかもしれない。

 

「<超級>ってやっぱみんなすごいんだな。でも能力的に兄貴なら割と楽に勝てるんじゃないか?」

 

 兄のジョブである【破壊王】の奥義スキル、《破壊権限(デストロイオーダー)》は、たとえ実態を持たない結界(テリトリー)であっても外から破壊することが可能だ。

 更にリアルチートとも称される兄の格闘・先読み技能が有れば仮にスキルを封印されて能力が同程度になっても勝てないってことはないんじゃ…

 

『いや、それが場合にもよるけど最初に言った通り完封されかねないんだ。アイツのスキルは実はステータスの上限や下限だけで合わせることも可能でな?』

 

 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ……。

 

『つまり俺みたいにステータスの一部が突出して高い奴が平均して低い奴の上限に合わされた場合、こちらの高い値が普通の値になって、比率変化で低い値が死ぬほど低くなるんだ。

 いくら俺が普段速度が十倍の相手に十倍の先読みで対応してると言っても、それは常人よりはるかに高い数十万のSTRがあるからってのが大きい。

 それも封じられちまった上で接近戦を挑まれたら、()()()()()()()()を持つアイツ相手じゃちょっとキツイな』

 

 ……今、さらりとさらに空恐ろしいことが聞こえたような気がしたが。

 

「さすがに冗談だよな?」

『いや、事実だ。とはいえ、それはそこまで驚くことじゃない。元々俺がガチで格闘に打ち込んでたのは学生の頃だしな。腕が落ちないように一応鍛えてたとはいえ、物心ついた時から今に至るまでひたすら武術修行してるアイツに劣るのはしょうがないクマー』

 

 確かにそう聞くとまともそうに思えてくるが、そもそも十年と鍛えずに格闘ジュニアチャンプの座に輝き寸分違わない先読みをできる時点でこの兄はかなりおかしい部類なのだ。

 いくら長い時間をかけてるとはいえ、そのおかしい兄を超えられるのは非常におかしい。

 というかそんな奴が同状態での戦闘を強制するエンブリオを持ってるって、ひょっとすると最強連中よりもヤバいのではないだろうか。

 

「勝てる奴いるのかそれ?」

『流石にそこまででもないクマ―。近接戦闘者でも同じくらい強い奴がいないわけではないし、俺でも数キロ先からバルドルの戦車・戦艦状態で砲撃食らわせれば勝てる』

 

 あ、そうか。半径が一㎞ならその外から遠距離物理攻撃を仕掛ければいいのか。

 俺のディサピア―(レーザー光線)が届くかはなんともいえない(そもそもそこまで長いと当てる技術がない)が、まあそれぐらいなら射程距離が長い類なら軽々届く距離だ。

 バランスがぶっ壊れてるとも揶揄されるこのゲーム(世界)だが、時々こうして旨い塩梅になっていると思わせられることもある。

 

「たしかセフィロトってクランに所属してる“魔法最強”も相当な広域殲滅型だと聞くし、最強相手でもやっぱり相性って大事なんだな」

『そうだな。そこを弁えておかないと強者殺し(ジャイアントキリング)が容易く起こるのがこの世界だ。まあ獣王は弁えててもどうにもならなかったらしいが……そうだな、次はそういう話でもするか』

 

 お、どうやら次の話が始まるらしい。

 最初はドヤ顔の為だったが、中々面白くなってきた。

 

『とはいえ内容はさっきの話の続きだクマ―。自信を過剰に持つとどうなるか、一瞬の油断が命取りっていい教訓になると思うクマよ』

 

 ◇◆◇

 

 □カルディナ辺境 【剛闘士】セント

 

 獣王達を倒してから少し経ったある日の事。俺は新たな依頼を受けて再びこのカルディナ辺境の砂漠地帯を訪れていた。

 俺はもともと旅人。今回の依頼が終わったらまた旅に出るつもりだ。元々なんとなく居心地が悪くないのでこの国に留まっていたが、いい加減潮時だろう。

 今度はどこに行こうか。神造ダンジョンがあるアルターとか、機械の国とか言うロマンがあるドライフ…は獣王を倒したから行きづらいな。まあ適当に決めるか。

 そうこうしている内に教えられた場所についた。まあ見渡す限り、十㎞近く広がる砂漠の中。目印になるものと言えばこの目の前に建つ()()()()()()()()()()()()()だけだ。

 

 さて、そろそろなにかアクションが欲しいものだが……通信機だろうか。おそらくドライフ製と思われる機械が置いてある。

 

『聞こえますか?』

 

 おだやかな……それでいてどこか空恐ろしいものを感じさせる声が機械から聞こえてきた。

 どうやらすっぽかされた訳ではなかったらしい。

 

「聞こえてますよ【()()】さん。いや、“()()()()”殿とお呼びした方がよろしいですかね?」

『ですからファトゥムで構いませんよ。()()はどうもありがとうございます。私はいいと言ったのですが、皆さんに止められたものですから』

 

「いえいえ、セフィロトの皆さんのご心配はもっともですよ。このタイミングで“物理最強”と“魔法最強”の勝敗が着くのもさることながら、あなたがたがぶつかっては周辺被害が大きくなりすぎる。あなたが<U(ユニーク)B(ボス)M(モンスター)>を倒している間に俺が獣王達を倒す。これが被害を最小にし、かつ特典武具(ドロップ)も奪わせない最良の方法でしょう」

 

 まあつまり、カルディナという国に所属しているわけでもない俺が獣王と戦った理由はそういう事だった。

 何故かは知らんがお忍びで観光に来ていた獣王達がカルディナで発生した<UBM>の情報を嗅ぎ付けた。

 しかしこのタイミングで動かせ、なおかつ間に合う位置にいたセフィロトの<超級>は()()()()()()ファトゥム(【地神】)だけ。

 そのままぶつかり合えば周辺都市どころか地域が丸ごと壊れても何ら不思議ではない、どころかそうならない方がおかしい戦いとなる。

 だが黙って見逃し、他国の超級に取られるには特典武具は少々惜しい。故に地味で周辺被害という言葉とは縁がなく、一度目ならほぼ確実に相性勝ちできる俺が依頼を受け、華麗に達成したと言う訳だ。

 まあ他国の超級を国家所属に近いマスターが倒したことが知られれば問題になりかねないし、俺のような旅人を使用するのは悪くない選択肢だったのだろう。

 更に超級とはいえほぼ無名に近い奴にやられたとなれば向こうもばらせば恥をさらすことになる。そこまで念を入れずとも、自国の最強がやられたなんてマズイ話だ。勝手にもみ消してくれると思うが。

 

「まあそれはさておき、まさかあなたから()()()()()()の依頼が来るとは。俺はあなたの魔法しか知らないが、近接にも手を出してみる気になられたので? 最強の名を持つあなたに技を教えられるとは光栄だ。どういった方向性にしますか? いやそれとも実は武術家だったのかな。それはそれで楽しみですが――」

『いえ、今回はそういう用ではないのですよ。機会があればそういったことも楽しそうとは思いますが』

 

 ……うん? どういうことだろうか。

 スパーリングというからてっきりそういう話かとばかり思ってしまったが……。

 

『ですがその前に、この前の話はどうでしょうか。()()()()()()()()()、或はカルディナへの所属。セフィロトは()()()()()()()()()()()()であり、カルディナのクランランキング一位。さらにカルディナは世界の全てが流れてくるとも言われる場所。あなたにとっても得るものは多い、悪い話ではないと思いますが』

「お言葉はありがたいのですが、私は旅好きの根無し草。自分以外の人間に縛られるのはあまり好みませんし、ここは実に見て廻りたい世界です。申し訳ありませんが、この話はなかったことということで……」

『そうですか、それは残念です。()()()

 

 やけに強調してくるな……。まあこちらも受けるにやぶさかではなかったが、しかし特定の国家に所属すると色々面倒そうだからな。

 特に他国への侵略を狙っているという噂のカルディナとか、絶対どこかで恨み買いそうだし。

 

「それはさておき、ですが近接でないとなると私と戦って得られるものはありませんよ? それこそただの一方的な蹂躙に……いやまさか」

『そのまさかです。私は今回【戯王】から、()()()()()()()()()()と言われているのです』

 

 

「……は?」

 

 蹂躙だと? 何故だ。いや理由は解らなくもない。要するに警告だろう。「我々と敵対すればこうなるぞ」というわかりやすい脅しだ。

 そりゃ誘いを断った相手を普通に見逃さないというのはよくあることだ。一発ぐらいかましてやるというのはわからなくもない。

 特に俺は遠距離物理攻撃系、たとえば長距離砲撃能力を持つあのクマあたりと組めばかなりの確率で大抵の<超級>を葬れる。

 他国につかないよう脅しておくべきという心情は至極最もだ。ファトゥムさんも普段の対応がいい人だから忘れがちだが、ただのいい人が超級にまでなれるわけがない。

 いやそんなことはどうでもいい。今すぐここから離れ――

 

『残念ですよ……本当に』

 

 いや、もう遅い。()()()()()()

 

『《魔法発動加速》“ノータイム”、《魔法範囲指定拡大》“五千メテル”、《魔法発動隠蔽》、《魔法射程延長》“八千メテル”――《ボトムレスピット》』

 

 そして、魔法系超級職【地神】である“魔法最強”の膨大なMPを使い、数km遠くから大地に()k()m()の巨大な落とし穴を開ける魔法が――()()()()()()()

 

『おや、これはどういうことでしょうか。ちゃんとあなたのエンブリオの外からエンブリオを囲むように放ったつもりだったのですが』

「ちなみに、話したら見逃してもらえたりしますかね?」

『それはあり得ません』

 

 ですよねー。

 まあここで話しても話さなくても、俺が死ぬこと(デスペナルティ)には変わりがない。

 ファトゥムさんの試行錯誤が増えるかどうかなものだ。ならおとなしく諦めて楽な死に際にしてもらうべきだろう。

 

「俺のエンブリオは、相手がスキル・魔法を発動する際、その能力の初期発動範囲に俺のテリトリーが被ると無効化できるんです。要するに俺のテリトリーを含んだ落とし穴なんかは効かない、という訳ですね」

 

 まあ魔力が通ったりなんだかんだするんだろう。その繋がりから逆算して無効化の力が流れて行ったりしているのだろうか。

 その辺の理論をリアルに検証してる連中もいるが、実際にどうなのかはいまいちよく解っていないらしい。

 おっと現実逃避している間に俺の周囲数kmを囲うように城壁ができた。壁だから俺の所(中心部)には何もエネルギーは流れなかったんだろう。或は工夫したのか。

 逃がさない為とはいえ、念を入れることだ。上手く死んだふりをして逃げる作戦もこれでは論外となるだろう。

 

『それでは、さようなら。次に会うときは敵じゃないといいですね』

 

 次の瞬間、俺の足元が急激に一㎞程盛り上がり、俺は空中に投げ出された。

 まあ俺のエンブリオは天ならともかく大地の下の範囲はそれほどない。故にわざわざ数キロ下で発動して押し上げたのだろう。砂漠だからこそできる芸当だ。

 まあ空中を移動するすべも一度きりとはいえ緊急回避としてそこそこの距離転移するすべも無くはないが、それをしたところで今度は他の方法で殺される。砂漠で【地神】相手は無理がある。

 そもそも射程外から一方的に攻撃してくる上、逃げ道を塞ぎおそらく認識から逃れる類の特典武具を使用してくる相手なんてどうしようもない。

 

 結局あんな怪しい依頼に手を出すべきではなかったのだ。物理最強を完封したから、まあ最悪相手が本気でやる気でもなんとかなるだろうという油断がこれ()を招いた。まともな戦闘にすらする気がなかったとは。

 普段の俺ならあの依頼を見た瞬間即座に逃げ出していただろう。それでも逃げられなかった可能性が高いが。

 そんなとりとめのない考えは近づいてくる大地によって終わりを迎えることになる。

 

(とりあえずデスペナ明けたら一度アイツぶっ殺そう)

 

 そんな小さな決意を残して。

 

 

【致死ダメージ】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □【煌騎兵】レイ・スターリング

 

「ひどいオチだな」

 

 二重の意味で。

 というか“魔法最強”が強すぎる。〈超級〉なんて皆そんなものではあるのだが。

 俺だったらどうするか。落下ダメージは何回かは《カウンター・アブソープション(ダメージ吸収)》で耐えて、《応報は星の彼方へ(追尾式防御無視攻撃)》で――いや、溜めの時間でやられるか。シルバー(煌玉馬番外機)に乗ってもまとめてやられるだろうしな。

 まあでもシルバーを使えば空中機動は可能だし、同じ手では死なないだろうが、問題はそんなことじゃない。

 それが【地神】にとってただの通常攻撃でしかないのが問題なんだ。

 

『実際、エンブリオの性質によっては落とし穴の類はそれほど苦にしない奴らは多いだろう。しかし、それらはアイツにとって山ほどある通常攻撃の一つでしかない。()()()()()()()()()みたいなアイツにとっての決め札も、討伐一位として当然持ってる特典武具の数々も、超級職としての奥義もほぼ使ってない状態でさえ相性差もあるが本来同格の〈超級〉を封殺しかねない力になりうる。故にこそアイツは“最強”の一角であり、最も超級の多いカルディナ最大戦力にして最強を名乗ってるわけだ』

 

 まともに正面から戦闘するなら圧倒的な(ステータス)を持つ獣王(“物理最強”)(破壊王)のような奴でなければこの上なく厳しいだろう。

 それが絶対強者とされる“最強”の名を持つ者なんだ。

 

 そんな“最強”連中の一角である獣王とこの先戦うかもしれないってのは心底恐ろしいが、それでも俺達はドライフとの戦争に勝たなくちゃいけない。

 兄や他の〈超級〉が手伝ってくれたとしても勝てるかはわからない。だからこそ色々な戦いや強者について知っておけばどこかで役に立つかもしれない。

 そうも思って聞いてはみたが、予想以上に〈超級〉の出鱈目さを聞かされることになってしまった。

 

 だとしても……可能性はいつだって、俺の意思と共にある。

 極僅かな、ゼロが幾つも並んだ小数点の彼方であろうと……可能性は必ずある。

 例え小数点の彼方でも、諦めなければ決して可能性は消えない。

 

 だから今はその可能性を少しでも上げる為に、自分磨きと洒落込もう。

 

「それで、他にどんな〈超級〉がいるんだ?」

『まあまあそうせかすなクマ―。じゃあ次はな……』

 

 

 話は結局昼前から日暮れまで一日中続き、その日はそれで潰れてしまった。

 

 ……完全にほっておかれて拗ねた上ヤケ食いを続けていたネメシスと目を背けたくなる飯代を残して。

 

 

 To be continued……?

 

 




構想は出来てるのでそのうち別のキャラでもやる予定

設定・キャラへの質問や話の感想等、まあ内容に関するものなら何でも感想お待ちしております
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