<Infinite Dendrogram>-枝葉末節:超級異譚- 作:チャシェ
□【聖騎士】レイ・スターリング
「はい、これで今回のインタビューは終わりとなります。この度はありがとうございました」
「いえ、こちらこそお役に立てたなら幸いです。ありがとうございました」
さて、唐突だが、俺はついさっきまで取材を受けていた。
元はと言えば兄が持ってきた話で、まあ最近のアルター王国で起きた騒動にかなり関わっている俺に取材をしたいやつがいる、ということだった。
本来なら気恥ずかしいので断ろうと思っていたんだが、是非にと言われたのと兄の推薦、そして
……こんなこと初めてだからちょっと浮かれて結構話しちゃったが、それでもやっぱり終わった後は気恥ずかしさが残るな。
受けて後悔したとまでは言わないけど、顔赤くなってないか心配だ。
「それで、今回の件の報酬なんですが、どうしますか?
鉄板として<UBM>の情報や話せる範囲での皇国含めた他国の内情等。世界終焉の危機のようなヨタ話に近いものから今流行りのデートスポットまで、およそ情報と呼べるものならだいたい提供できますが。
ただ流石に他のマスターやティアンのまだ身内しか知らないような秘密情報に関しては倫理に反するので言えませんが、匂わせるくらいなら可能ですね」
皇国の内情は最低限は聞いてるし、それ以上のことは俺が聞いてもどうしようもないだろう。デートスポットは行く相手がいない。
世界終焉の危機ってのは気にならなくもないがそれこそ今の俺が聞いても何もできないし、ヨタ話でせっかくの権利を使うのはもったいないな。
<UBM>の情報ってのは気になるけどある程度は掲示板に載ってるし、無料であの<DIN>の記者に話を聞けるんだからここでしか聞けないことを知りたい。
……だから、ここで聞くべきことは一つだろう。
「じゃあ、あなたのことについて聞かせてもらえませんか?」
「……私ですか。いえかまいませんが、そんなたいした人間じゃないですよ私」
「
俺がそう言うと紗記さんはキョトン、と目を丸めた後大きくため息を吐いた。
「やれやれ、君の兄が言ったのかな? あの人にも困ったものだ。多少関わった事件を大袈裟に書いたからって報復のつもりなのか。人が隠してることをバラすのはマナー違反に近いと思うんだけどねえ」
それ日頃から他人の隠してることを暴いてると評判の記者のセリフじゃないよな……。
というわけで、俺がこの取材を受けたのはそういう訳だった。
非戦闘職の<超級>でさえ数は少ないし、その人達も大抵は戦闘関係の能力であることが多い。俺が知ってる奴で言うとフランクリンなんかがそうだが、あいつのエンブリオもその例にもれずモンスターを造る能力だった。
そんな中、戦闘が一切できないという制限を持っている【記者】系の<超級>のことを取材の依頼とともに兄に聞き、気になって受けることにしたのだ。
俺にはエンブリオの位階を知る能力は無い為、ぶっちゃけ兄に騙されてたら赤っ恥だなと思っていたんだが、まあ事実だったようでよかったよかった。
「ま、仕方ないか。流石に完全には話せないけど、ある程度までは僕の<エンブリオ>のことについて教えてあげよう。
記者やってるだけあって能力もそっち系でね、情報取得能力さ。数キロ程の範囲の情報を把握するテリトリーに近いエンブリオで、俺は【万物把握 ラプラス】と
この能力の特筆すべき点はアイテムボックスの中身やアイテムや職業等のテキストまで読めるだけでなく、
このおかげで遠距離から安全に戦闘を見守れるし、上位プレイヤーの戦闘記事で好評価を得られててね。個人的趣味の“田泥都市伝説コーナー”なんてのもやれてるんだ。ありがたい話だよ」
依頼報酬にあったヨタ話みたいな世界終焉云々って個人的趣味の産物だったのか……、確かに一昔前にあった雑誌の都市伝説コーナーみたいな内容ではあったけど。
というか記者の割に異様に口が軽いというか、やったら自分の事について楽しそうに話すもんだな……。
「そんなに驚くことでもない、記者なんてみんな話好きなものさ。そうじゃなければ不特定大多数相手に記事を書いたりしないだろう?
それに記者にとって自分のことを話すことなんてそうそうないしね。むしろ聞いてくれてありがとうと言いたいぐらいだよ。
それで話を続けると、僕のエンブリオは効果時間や範囲・情報の精度と能力自体の優先度、そしてクールタイムが関連しててね。何かを上げれば何かが上下する。限られたリソースを配分するって意味じゃある程度可変式なこれはお得なスキルだよ。
まあ大抵スキルはそこまで自由度はないから効果からその他の数値を予想すればいい。例えば
他人の情報までボロボロこぼしてんじゃねえか……。
いやまあたぶん話を聞いてる俺へのサービスだとは思うけど、この人が対象のほぼすべてのスペックを把握するような能力持ってるのは空恐ろしいな。
この人の胸三寸によっては自分の情報が全て敵に流出すると言っても過言じゃない。
特定の国に属さない<DIN>にいてよかった、と言うべきだろう。それでもだいぶ怖いけど。
なんで情報しか扱わない<DIN>がこの世界で幅を利かせているのかという事の一端を理解できた気がする。
「まあ後はちゃっちい動体視力を向上させるスキルと自身の観測系スキルを強化するスキルがある、といったところかな。
普通の戦闘職や生産職ならこんな何にも影響を及ぼすことのないエンブリオ、控えめに言って遠慮したいと思うけど、それが<エンブリオ>の能力である持ち主のパーソナリティや行動を分析してのアジャストってことだろう。
逆に言えば卓越した人物観察眼と推理能力を持った人間なら、特定の人のエンブリオについて詳しくは知らなくてもマスター本人から逆算して能力を理解することができるかもしれない。
まあ普通に不可能だと思うけどね。でもこのゲームで人の取材してるとぶっちゃけお前らほんとに人間なのと思うような奴との遭遇も多々あるし、探せばどこかにいてもおかしくないんだよなー。君の仲間の……ルーク君だっけ、彼とかどうだい? 結構観察眼に光るところがあるとか聞くけど」
「いやそこまでは……。少なくとも俺は聞いたことはないですね。さすがにそれは難しいと思いますよ」
あのルークでもさすがにそこまで出来るとは思えないな。でもひょっとしたら出来るかもしれないし、折を見て聞いてみようか。
びっくり人間には兄と姉を含めて今まで何人か遭遇してるしな……。うぅ、思い出したら嫌な思い出がよみがえってきた。
「おいおい大丈夫かい? ひどい顔色だ。休んだほうがいいんじゃないかい?」
「あ、いえ、大丈夫です。取り敢えずお話ありがとうございました。ためになりました」
「そうかい、まあ少しでも参考になったならよかったよ。また何か知りたい情報があったら言ってくれ。多少安めにしてあげよう」
商魂たくましいな……。いや、ここは流石は記者だと言うべきところだろうか。
「あ、そうだ。最後にちょっと、君達が獣王と戦った場所と日時の詳細を教えてもらえないかい?
そういうところに観光に行くマスターやティアンも実は意外といてね。事件が起こった場所や日時をまとめた地図ってのもそれなりに人気があるんだ。
それに動画が上がってるとはいえ、細かい詳細を記した解説記事ってのもそれなりに人気があるものだしね。勿論そちらは君達の手札が割れることにもつながるし、そちらは基本的には戦争後にまとめる、という形にさせてもらうつもりだから安心してほしい。
その時は詳細を確認しにまた取材に来るから、是非君のクランの仲間やその他の人とも一緒によろしく頼むよ」
「本当に商魂たくましいですね……。まあ、わかりました」
そして場所と日時を伝えて、それで本当にその日の話は終わりだった。
まあインタビューは気恥ずかしかったが、色々聞けたからよかったとしよう。
今回の戦争もいい結果を出して、次の取材もいい話として話せたらいいな、と思わせるところまでが思惑だったのかもしれない。
やる気も出たし、少し遅い時間だけどレベル上げにでも行くとしよう。
今回の取材では無用扱いされてその辺で紗記さん持ちでやけ食いしてるネメシスもちゃんと拾ってかないとな。
◇◇◇
□■国境地帯・戦場跡
レイ・スターリングを取材し終えた記者、紗記礼汰は<DIN>本部に向かわず、数日前に講和会議が決裂し、戦場と化した国境地帯に来ていた。
一度の戦闘によって出来たとは思えない、しかし事実として<超級>同士の激突によって出来たクレーターやひび割れた地面、崩壊した山岳。
加えてそこから十キロ以上離れている、それほど壊れてないがやはり地形に傷跡が残っている議場跡。
その双方を一望でき、ほぼ同一の距離を保つ位置に立ち、地図を見ていた。
「この位置・この時間なら使えるか。ギリギリになってしまったが、問題はないな」
そう呟いて、
「《効果時間》“五秒”、《形状指定》“直方体”、《範囲指定》“五平方キロメテル”、《時間指定》“
そのエンブリオの秘奥、
言うまでもないことだが、<エンブリオ>の<必殺スキル>とは、
そしてアクティブの<必殺スキル>を発動させる場合、およそ二つの使用パターンがある。
無詠唱で使用できるものと、
故に彼の発言は必殺スキルの名であり、同時に自らのエンブリオの名に他ならない。
【万象観測 アカシックレコード】 それが彼のエンブリオの真の名である。
(話を喜んで聞いてくれた彼には悪いが、嘘は吐いてないから問題はないだろう。僕がこのエンブリオを常日頃から【万物把握 ラプラス】と呼んでいるのは事実だし、全ては語らないと明言していた。ただでさえ<エンブリオ>というものはパーソナル以上にモチーフから能力を推察されがちなんだ。隠している能力を未来視と勘違いしてくれれば都合がいい)
そして紗記が隠していた事実はもう一つ、そのエンブリオの神髄が
未来視とは違いその力は未だ起こっていない未来を予知することは出来ないが、かつて起こったことの詳細、そしてそこにいた何者かのその時点での能力を知ることができる。
少し前に<超級>が戦った場所に訪れその能力を調べることも、そこで起きたログを閲覧することも可能。
しかし<超級エンブリオ>の段階ではどれだけ縛りを入れようと数週間過ぎればほぼ観測不可能となるため、知られてしまえば実質効果は半減以下となってしまう。
自分の居た場所を一定期間封鎖するだけで事実上無効化できてしまうのだから。
よってエンブリオをラプラスの悪魔と、必殺スキルをその神髄である未来視と勘違いされることは紗記にとって至極都合が良かった。
知らないはずのことを知っていても未来視と思えばそれ以上は考えない。これから起きる計画をバレない様にしていれば、終わった後には気を配らなくなる。
そこまでうまくはいかずとも選択肢が増えるだけで相手のやることは増え、そこに隙ができる。
仮に自分が取材できなくても、他の記者が入る隙が生まれることも起こり得る。
紗記はあくまで<DIN>の記者の内の
紗記はその後しばらく戦場跡をうろつき、数回必殺スキルも使いつつ情報を取得し続けた。
そして手に入れた情報の吟味を終え、懐からなんらかのマジックアイテムを取り出しそれに向かって話を始めた。
「あ、もしもし編集長? ええ、ええ、大丈夫です。今回の調査で次の戦争の主力と思われる存在の能力はおよそ確認が終了しました。前の愛闘祭で【狂王】ハンニャや【超闘士】フィガロ等も確認してますし、後は皇国側に新たについた【車騎王】マードックと
はい、戦争にも参加はするつもりです。適当に<AETL連合>あたりに王女関係の情報を流して名義貸ししてもらうのがベストですかね。無論戦争への協力は一切しませんので、逃走・隠蔽に強い奴を送っていただければ……あ、あいつが、ほう、わかりました。それなら戦争終了まで見てられそうですね。はい、勿論取材はしっかりと。
あ、今回手に入った目玉情報ですか? やはり
上司との通信を終え、マジックアイテムを懐にしまい、紗記礼汰は再び歩き出す。
さらなる取材のため、記事の完成度の向上のため、そしてなにより――――彼自身の好奇心を満たすために。
この世界のすべてを観測するまで、彼の歩みは止まらない。
To be continued
一つ終わったー。やっとこれで短編集と言える
レイ君のインタビュー内容もその内書きます
内容に関するものなら何でも感想お待ちしております