<Infinite Dendrogram>-枝葉末節:超級異譚- 作:チャシェ
□とある系統について
【
その一例としてこの系統は記者系統の様にOFFにできないスキル、《因果応報》というパッシブスキルを持つ。
その効果は「指名手配された犯罪者を相手にするとき、STRをスキルレベル×100%し、犯罪者以外が相手の時スキルレベル分の一にする」というもの。スキルレベルの上限は下級で5、上級で9まで。超級職ではスキルレベルは10、よって十倍の攻撃力を手にするが、指名手配犯以外には十分の一となる。
犯罪者に対しての強化と、犯罪者以外に対しての弱体化。
言ってしまえばそれだけではあるが、相手が指名手配を受けていなければ意味がないどころか確実にマイナスの能力。
故にこの職業に就く者は一族として犯罪者の対処を行ってきたティアンや、指名手配されたプレイヤーを狩るためにPKが稀に就く程度。はっきり言って二桁いるかどうか。
その超級職である【
故に今回、指名手配犯ではないPKである三人に勝つ能力を秘めているのは彼、SFMの超級職としての能力ではない。
それは当然――
◇◆◇
□■闘技場
銃声と同時に動き出した者は三人。マリー、バルバロイ、狼桜のPK組である。
情報が足りていないのは三人とも理解している。それによるリスクの存在も同様に。
しかし初見殺しへの対策とは、出される前に殺すことに他ならない。
故に歴戦のPKたる三人は即座に
「《
『《
「《天下一殺》!!」
マリーが出したのは自身の<エンブリオ>の必殺スキル。防御突破用の貫通能力を付与する“緑の貫通”と聖属性閃光弾の特性を付与する“銀の閃光”によって描かれた弾丸生物であり、目潰しを兼ねた防御を貫く攻撃である。
バルバロイが出したのは<エンブリオ>の固有・必殺スキルと上級職【
狼桜が出したのは超級職である【伏姫】の初撃に限り威力を超上昇させる奥義。十万を優に超える突きの一撃である。
それぞれが直撃すれば<超級>をも殺し得る必殺であり、出し惜しみのない全力の一撃。
それが一歩も動かないSFMをめがけ三方から飛来し――――そして、体表を
幸い攻撃はお互いに当たらなかったが、自身の必殺が一切効かなかったことを警戒し三人は即座に離脱。
この場にいる者で唯一そのタネを多少知っているマリーは、苦虫をかみつぶしたような表情で思考を巡らせる。
(やはり通じませんか。貫通特化の“ウルベティア”ならいけるかとも思ったんですが、まったく面倒な能力もあったものです。カルディナの“万状無敵”と戦ったらどうなるんでしょうか)
この現状を起こしているのはSFMの<エンブリオ>の固有スキルが一つ、《万古不磨》の力である。
このスキルは自身と周囲の物体の表面に摩擦ゼロの形状自在の膜を張るというもの。
膜自体の強度はそれほどでもないが、摩擦がないという事は威力が伝わらないという事。貫通能力も例外ではなく、冷気や熱気も全身を覆えば完全に遮断され、この世界の魔法も多くは物理現象の形で出る以上、大抵の魔法も逸れていく。
本来は光をも逸らすが、今は透過させている為外部から姿を視認できている状態である。故に不意打ちで閃光系の攻撃をすれば効果はあるが、この三人では純粋な光攻撃はできない為意味はそれほどない。
これと
そして周囲の物体にも張れるのであれば、その用途は防御だけにはとどまらない。
「チッ」
『な、ん……?』
「なんなんだいこの地面!」
開始から一歩も動かないSFMの周囲をある程度の距離を保ちながら動いていた三人が、突如として足を滑らせた。
立ち上がろうとしても地面に手を立てることすらできず、ただ延々と円を描くように滑り続け、最終的には立てない状態で闘技場の壁に当たり、三人が纏まって身動きがとれなくなる。
そんな状態でも狼桜は必殺スキルを使用し外骨格を形成、防御を固めているが……意味はない。
SFMの右手に握られた剣は断頭に特化した武器。頸部以外の全てを透過し、頸部のみ防御力を無視して切断する武具【断頭剣 ギロチン】。
元は処刑人の一族だったティアンの家に代々伝えられていた「指名手配されていない犯罪者を殺すための武器」だったが、ある事情で彼の手に渡っていた。
その経緯は今は省くが、重要なのはその効果。いくら防御を上げても意味はなく、受け太刀ができないという問題も、体で受けられるSFMには関係ない。
勝利を確信したのか、SFMは身動きがとれない三人に向かって無造作に歩き出していく。
そしてその距離が数十センチにまで近づいたタイミングで、唐突にSFMに向けてバルバロイの右手が突きつけられた。
『《
それは無形の結界たるテリトリーの利点。自身の<エンブリオ>を圧縮することによって効力を増加させる秘奥。
今はまだ修行中でロスも多く、真円の範囲を四分の一にし、五百倍の重力を三倍の千五百倍にするところまでしか至っていないが、それでも強力な超重力結界。
しかも指名手配されていない相手と戦っている為、素ではギリギリ五桁のSTRが十分の一の四桁、なおかつENDはさほど高くないSFMでは、状態異常である【拘束】も含め身動きができなくなり下手に動けば負荷に骨がへし折れる。
そして動きが封じられ、それでもなお口を開き何かを呟くSFMの口に、大型単発式拳銃の銃口がねじ込まれた。
その銃を握る手の先にいたのはマリー。隠密系統超級職である【
それによってSFMの目の前まで近づき、隙をついて銃を口にねじ込んだのだ。
「いくらなんでも体内にまで膜は張れないでしょう。不意打ちはPKの華ですし、悪くは思わないでくださいね」
その銃から放たれるのは“爆殺のデイジー・スカーレット”。それは数百メテルを更地にするほどの爆発を起こす赤い少女。
そんなものが口内で炸裂すればどうなるか、もはや語るまでもない。
狼桜の巨大な外骨格によって目線を遮り、バルバロイの重力結界により動きを封じ、奥義によって近づいたマリーが必殺スキルで仕留めるコンビネーション。
アルター王国で名を馳せるPK三人の、プレイヤーを殺すことに慣れている者としての直感的な即興連携。
その鮮やかさを見れば、誰もが彼女達が歴戦のPKであることを疑わないだろう。
「《
そして致死の一撃が――
「……?」
マリーは困惑しながらも引き金を何度も引くが、まるで弾詰まりでもしたかのように弾丸生物が出てくる気配はない。
それでも使えないと見るや銃を手放し、取り出した短剣を口内に突き込もうとするが、一手遅い。
重力結界によって動きが阻害されている筈のSFMが、まるで重力など感じていないかのように動き出した。
まずマリーの頸が刎ねられ、そのまま身動きの取れないバルバロイと狼桜の頸も斬られる。狼桜は身代わり能力のある特典武具で一度は防いだものの、二度目で死亡。
それで、模擬戦は終了だった。
◇◇◇
□【死兵】レイ・スターリング
勝負が終わり、決着は着いた。結果から見れば当初の自信通り圧勝である。
これがカシミヤが斬れないと思った理由だろう。マリー達がこけたのを見るに摩擦操作能力だと思うけど、物理系しか攻撃手段がない者にとっては天敵も天敵。
「私たちのスキルも多くが無効化されてしまうのう」
《
カシミヤは《
「しかし最後に使った能力はなんでしょうか。マリーさんの必殺スキルを封じた力。彼の必殺スキルかなにかでしょうか」
『おそらくはその通り、スキル無効化の類だろうな。具体的な能力は何とも言えないが――』
「俺の<エンブリオ>、【天地無能 ファンブル】のスキルだ。対象を取る類のスキル・魔法の対象に取られない《万魔超越》と、相手のスキル発動を失敗させる《
バルバロイの場合重力力場自体は対象を取らないが【拘束】は対象を取る。【拘束】を無効化できれば後は用意していた耐重力装備で多少は動ける様になる」
なんか高校時代の友人がやってたカードゲーム思い出すな……対象を取るとか取らないとか墓地に送るとか捨てるとか。ややこしいシステムだった。
しかしスキルだけ見てもかなり強いな。物理系の攻撃は効かず、対象を取る魔法・スキルも効かず、それでも突破できそうな空間系のスキルや闇属性の魔法も封じられる。
しかも足元が覚束なくなり、自由に動けなくなれば後は首を斬られるだけ。
しいて言えば必殺スキルが届かない超遠距離から、空間跳躍によって体内に直接攻撃できる迅羽なら勝てるだろうけど、決闘の場合は闘技場の範囲がある。迅羽の場合細かい座標の指定が必要だし、どちらかと言えばSFMさんの方に優位があるな。
「でもそんなに能力の詳細を言ってしまっていいんですか?」
「君達には先程世話になった。気にするほどのことでもない。それに決闘専門ならともかく、俺は元々PKK。不意を打つのが俺の方である以上、能力がバレてもさほどの問題もない」
生真面目な人だなあ。
まあ種を知っていても対応は難しいし、簡単に対策を用意できるものでもない。
不意を打たれればまず敗北は免れないだろう。スキルも魔法も使えない状態ではあの防御を抜くことは不可能に近い。
そういう意味では自身の能力に対しての自信の表れと見るべきかもしれないな。
「さて、釘刺しも終わった以上、俺がここにいる意味もない。帰らせてもらうとしよう。
君達も行きたい場所をがあるのなら送らせるが」
「いえ、せっかくですのでこちらで決闘を見ていきます。ちょうどもう一試合始まりそうですし」
え、ルークそれってどういう……。
「あんた達が上手く決めなかったせいで負けちまったじゃないか!」
「いえあれはどこぞの鎧がちゃんと重力で封じてなかったからです。あなたから重力結界取ったらただの鈍間な多少堅いだけの置物じゃないですか。これだから趣味でPKやってる人は」
「じゃあ殺し屋の癖に決められてねえお前はなんなんだよ。AGI型の癖して対応が遅せえ。銃の引き金引いて二度駄目だったら困惑してねえで即座に剣を抜けマヌケ。それに外骨格形成するだけしかしてない奴にも言われたくねえ』
あー荒れてる。負けた責任の擦りつけが始まってしまった。まあ宣言通り三対一で勝たれたんだから悔しく感じるのも無理はない。
あ、マリーが銃を抜いた。先輩も楯を構えた。狼桜も槍と髑髏出した。これは数秒後には殺し合いが始まるな。
まあ闘技場だしいいか……。
「そうか、解った。レイ・スターリングとルークホームズ。今回は世話になった。重ねて礼を言わせてほしい。
カシミヤ、君はこのまま優良なPKとして頑張ってほしい。君は若いからこの先なにか困ったことがあるかもしれないが、その時はどうか最寄りの交番に声を掛けてくれ。深刻な悩みから軽い困惑まで、お巡りさんはいつでも君の相談に乗るだろう。
それとシュウ・スターリング。指名手配されないように気を付けろ。善行はよく聞くが、悪行もまた多い。ノズ森林の件とかな」
『それはほっとけクマ』
そして、SFMさんは去って行った。ほんとに釘刺しだけしかしなかったな。
PKがいる以上、被害を受けたプレイヤーからの依頼は絶えないだろう。次もまた、PKに会いに行くのだろうか。
「PKKとはもっと恨み骨髄でPKと見れば
そこはよかったって言うところじゃないかな。
流石は小学生にして元天地出身のPK。野試合にためらいがないどころか大歓迎って感じだ。
でも確かになんでPKKなんてやってるんだろう。PKに恨みがあるわけでもなく、PKが嫌いなわけでもない。
子供に対して親切だし、そういうプレイヤーを守る為とかなのかな。
『おし、せっかくだし空いてるスペース使って稽古をつけてやろう。二人同時にかかってこいクマ―』
「ほら、レイさん」
まあそんなこと考えても仕方がない。せっかくの模擬戦だ。頑張って、少しでもものにしないともったいない。
模擬戦が終わった後はギデオン周辺で狩りをして、そこそこレベルも上がった。
講和会議ももうそれほど遠くない。俺もがんばらないとな。
◇◆
□■決闘都市ギデオン
闘技場を出て来た道を辿りながら、SFMはアイテムボックスにしまったメモ用紙を確認していた。
「次の依頼は……また<
嘆息し、紙を確認していくSFMだが、何の偶然かそこに載っているのはほぼ<IF>のメンバーの名前である。
どうするか思案するもなかなか答えは出ず、結局何も思いつかないままギデオンの外に出る。
「次の目的地はどうする?」
今日一日の同行を依頼されていたバイク乗り、赤星龍伍が待っていた。
正確に言えば直前まで空を駆けており、空から来るのを見てSFMが来るより先に戻っただけなのだが。
「難しいな……。依頼はあるものの相手の所在が不明だ。<IF>は神出鬼没、足取りを追うこともままならん」
「カルディナのある都市で【
彼の告げた言葉に、さしものSFMも目を見開き、驚きを露にする。
それもそのはず、【殺人姫】エミリー・キリングストンといえば<IF>の初期メンバーにして万単位でのティアン殺害を為した人物。
その後も様々な事件を起こしているが、いまだデスペナルティになったことがないとも言われる怪物だ。
「本当に本物なのか? コルタナで事件を起こしていたが、その後所在は不明だったはず。【
「間違いない。ついさっき珠関連の事件を取材するために行っていた<DIN>の記者からの情報だ。隠蔽されてこそいたが、間違いなく本人だと言っていた。今ならまだ間に合うかもしれない」
SFMはその言葉を聞き少し考え込むが、すぐに顔を上げ決断する。
「隠蔽されていると言うのであれば確度は高いか。よし、そこまで頼む」
そう言いながらバイクの後ろに乗り込み、即座に出発した。
バイクを走らせている赤星龍伍に、運転中であることを気にしつつ話しかける。
「だが何故それを俺に告げる?
そこまで重要な情報だ。よく<DIN>の記者を乗せて走るお前でもなければ、一般の<マスター>が知る事はできまい。それを――いやまて、それがなぜお前に来る? お前が<IF>のメンバーの所在を知る理由などないはずだ。俺から聞いたのならともかく」
「友人の望みを手伝うのに理由が必要か?」
言葉を遮り、赤星龍伍が告げたその一言に、SFMは再び驚きながらも笑みを浮かべた。
「さて、相手は子供だとも聞く。大丈夫なのか」
SFMの子供に対する優しさを知る彼は心配してそう聞くが、SFMの眼は揺らがない。
「問題ない。暴力を振るってしまう子供を止め、説教するのも――
アバター名は
「次こそは止めてみせる。あんな顔を子供にされてたまるか。
ゲームなんて物は―――
情熱を心に燃やし、静かに覚悟を決める。次こそは、今度こそはと闘志を固める。
そんな価値観が古臭いことは解っている。
それでもその理想が正しいと信じているから。
To be continued
これでシュウとも戦わせて負けさせてバランスを取るつもりだったが、いい勝負させて負けさせる方法が見つからなかったので断念
こいつが元は<超級>相手に嫌がらせをするクズにされる予定だったとは誰も思うまい
内容に関するものなら何でも感想お待ちしております