<Infinite Dendrogram>-枝葉末節:超級異譚-   作:チャシェ

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“鼠算”ウェーザーの場合 後篇 最も無限に近き者達

 □■【獣将軍(ビースト・ジェネラル)】について

 

 【獣将軍】という職業は、本来将軍系としては()()とされる。

 それはこのジョブが、【獣戦士(ジャガーマン)】系統の超級職であるからだ。

 

 獣戦士系統は、ステータスの伸びが悪く、スキルを固有である《獣心憑依》しか持たない微妙なジョブとかつては言われていた。

 《獣心憑依》の効果は「従属キャパシティ内のモンスター内、一体の元々のステータスを自身のステータスに足す」というもの。

 しかし獣戦士系統はキャパシティが小さく、上級職である【獣戦鬼(ビーストオーガ)】がスキルレベルを最大の10にしても足されるのは六割が限界。

 超級職の【獣王(キング・オブ・ビースト)】は例外的に十割足せるとはいえ、従えられるモンスターは純竜クラスがせいぜい。

 ティアンのみの時代には評価されなかった系統である。

 

 しかし<エンブリオ>であるガードナーがキャパシティを消費しないことから、<マスター>の時代からは評価され始め、ガードナー獣戦士理論という最強ビルド論まで生まれることとなった。

 純竜をはるかに凌駕するガードナーのステータスを自らに足し、戦闘用のスキル構成のみを考え他のジョブを取る。

 最終的に、ステータスに特化した、ガードナーの純粋上位互換たるガーディアンの<超級エンブリオ>を持ち、【獣王】の座に就いたベヘモットを生み出して理論は完成を迎えた。

 そのベヘモットが“物理最強”と呼ばれ恐れられていることを考えれば、理論としての完成度は頷けることだろう。

 

 さて、では【獣将軍】はどんな職業なのか。

 基本的には他の将軍系と同様、自身の配下である大勢の魔獣を強化して、連携して戦う広域制圧型ではある。

 ステータスは低く、スキルが多様。それだけを見れば、差異はそれほどない。

 

 異端と呼ばれる訳は、【獣王】と同じレベルEXであり、()()()()()()()()()《獣心憑依》にこそ存在する。

 そして、その効果とは――――――

 

 

 ◇◇◇

 

 

 時間比例強化と装備数反比例強化の二つの力に、必殺の極限強化。その三つをもって無限に等しい強化を行うフィガロ。

 百万の毒を持つ鼠を、自らが死なない限りほぼ永続的に生み出し、なおかつ()()()()()()で無限に近い力を振るうウェーザー。

 

 そんな二人の初手は、ほぼ同時だった。

 ウェーザーとフィガロは闘技場で向かい合い、そして即座に行動に移る。

 二人は()()後ろへ跳躍し、距離をとった。

 その動きに、レイは違和感を覚える。

 

(召喚前に殺される危険があるウェーザーさんが距離を取るのは解る。でも、どうしてフィガロさんが距離を取るんだ?)

 

 そして、その疑問はすぐに解消されることとなる。

 

 ウェーザーは鼠を生み出し、その鼠が更に鼠を呼び出す。一呼吸の合間にその総数は十万を越え、ウェーザーは鼠の中に姿を消した。

 そしてそれに対しフィガロは装備を変更、下半身の袴と右手の剣のみにする。

 その剣から――いきなり()()を生み出した。

 

 それは初手で放った故、フィガロの全力、()()()()の力を最大限に強化した《極竜光牙斬(ファング・オブ・グローリア)終極(オーヴァードライブ)》の熱量には圧倒的に及ばない。

 しかし、ある程度の熱量があれば一瞬で死ぬ鼠が相手ならば、それで十分消し飛ばせる。

 さらに炎の波を出す斧や風の刃を飛ばす刀、雷を大地に走らせる鎚などで広範囲攻撃を次々行う。

 鼠が近づく間どころか再誕が間に合わないレベルで消し飛ばし、一瞬で鼠は1%、すなわち一万匹を残すばかりとなった。

 

 そのまま鼠ごと隠れたウェーザーを消し飛ばす為の連撃を放つフィガロに対し、()()()で黒い影が飛来した。

 フィガロは咄嗟に武器で防ぐが、即座に笛での連撃が飛来する。ステータスの補正が大きい装備に切り替えるが、それでもなお押し込まれる。

 

 そう、()()()()()()超音速で連撃を出し、STRを強化する武器をさらに強化したフィガロを押し込んでいるのだ。

 

 本来<エンブリオ>のステータス補正が皆無に近く、将軍というステータスが上がりづらいジョブに就いているウェーザーにはできるはずがない攻撃。

 その種は、【獣将軍】の持つ《獣心憑依》、レベルEXの効果にある。

 その効果は「従属キャパシティ内の()()()()()の元々のステータスの五割、又はパーティ内の魔獣の一割を足す」というもの。

 

 それこそが将軍の中でも異端と呼ばれる理由。配下の魔獣よりも自らの方が強く、配下が死ねば死ぬほど弱体化する。

 配下を率い圧殺する広域制圧型の将軍が、配下を危険にさらせないという矛盾。

 無論他の将軍と同様純粋な数の力を発揮することは可能だが、そうしないほうが圧倒的に強い。

 最大の力を発揮しようとするのならば配下を危険のない場所まで下がらせ、単騎で当たるのが最善となる。

 最初にこのジョブについて知った<マスター>には、「軍を率いるより単騎で戦う方が強い将軍ってラノベキャラかよ」と言われさえした頭の悪いジョブである。

 

 本来この職業は、【獣王】程ではないが小さな従属キャパシティではなく、パーティとして支配下に置いたモンスターの一割を足して自らを強化するのが基本となる。

 そしてガードナー獣戦士理論と同様に、強力なガードナーを入れればその五割が足されたステータスを発揮できる。が、この超級職は【獣王】と違いプレイヤーにはほぼ人気がなかった。

 仮に獣王と同じ様な超高ステータスを持つガーディアンをこの枠に当てはめたとしよう。

 それで足されるのは五割。同等のステータス特化型<超級エンブリオ>でさえ二体必要な計算となる。

 半分でも四体。十分の一、数万のステータスでさえ二十体は必要だ。神話級モンスターに近いステータスが二十体。<超級>でさえ得られるかは微妙なレギオンだろう。

 故に微妙なスキル。ティアンだけの頃は【獣王】よりは評価されたが、<マスター>の時代になってからは評価が逆転した稀有な例。

 

 ここで、さらに数を広げて考えてみよう。

 百分の一、数千のステータスならば二百体。とある<エンブリオ>の超級時の出力を考えれば、現実的な数値である。

 千分の一、数百のステータスならば二千体。余裕がありそうな数値だ。

 

 そしてウェーザーのレギオンのステータスはすべてぴったり十。数は百万体となる。

 すなわち最大値は()()()。一万体でさえ、前衛系超級職に匹敵する五万のステータスが発揮される。

 超級職と<超級エンブリオ>のシナジーによる、異常としか言えない強化。

 無限にすらも勝利し得る、まさに()()のステータス。

 

 

 そのシナジーを、フィガロもまたシナジーにより打ち破る。

 武器を切り替え、射程延長と自動索敵攻撃を持つ【紅蓮鎖獄の看守(クリムゾンデッドキーパー)】を腕に六本、手に超級武具【極竜光牙剣 グローリアα】を持つ。

 数を増やし続ける鼠を絶え間なく鎖で狙い、超高熱を放ち容易くは受けられない剣でウェーザーを攻撃する。

 

 当初は鼠の再誕速度の方が優れていた。それに伴うステータスの上昇に対し、フィガロもステータスを向上させしのぐ。しかしそれは、鼠への対応に割り振るリソースが欠如することを意味する。

 絶え間ないお互いの強化の上昇。時間経過によって数値を上げるフィガロと、フィガロの手が弱まった隙をつき増加量を減少量より増やし、ステータスを更に引き上げるウェーザー。

 リソースの喰い合いが起こり、戦闘時間が伸びていく。数分、数十分、そして――ついに一時間を超える。

 気を利かせ、シュウが闘技場の時間設定を操作したことにより外からは数分の出来事だが、本人達からすれば上昇したAGIもあり数十時間にも感じる戦闘。

 

 【獣将軍】のバフによる鼠への強化と、それをものともせずにブチ抜く強化された武具。

 威力が十分に向上したグローリアαの《極竜光牙斬・終極》と、それを回避し、又上がったステにより一瞬耐えるウェーザー。

 インフレの極致ともいえる争いは互いの能力を極限まで鍛え上げ、超級職であろうとかすっただけで死ぬ領域にまで引き上げる。

 そのステータスは既に十万を優に超え、百万すらもいずれ超える。そう確信できる戦い。

 

 そんな狂気的な強化に、先について行けなくなったのはウェーザーだった。

 

「ごふっ」

 

 フィガロの剣の一撃をまともにくらい、吹っ飛んでいくウェーザー。

 まだ限界値の五百万には遠く及ばないが、しかしこの結末は当然の現実。

 

 その理由のまず一つに、能力特性の違いが存在する。

 自身を自身の力で強化し、その数値に限界も低下もないフィガロとは違い、ウェーザーは造り出した鼠の数にステータスを依存し、なおかつ鼠の力は変わらない。

 いくら鼠を地下に逃がし余波を避けさせ、上がった分の数値を自分に向けさせているとはいえ、限界が来るのは当然のこと。

 そして二つ目。これが致命的だった。

 そもそも【黒鼠笛 ラッテンフェンガー】の能力特性は増殖。それには鼠だけではなく、毒の増殖も含まれる。

 通常スキルだけ見ても、二つのスキルが共に純粋な武器の性能強化に繋がっているフィガロとは違い、ウェーザーは今は必要のない毒という要素にもリソースを割り振っている。

 それは決して否定されることではない。<エンブリオ>単体で見れば、数が多いが攻撃力に欠ける鼠に、攻撃能力を与える当然の選択。

 自身から毒を生み出す訳では無いため、リソースも最低限で済む安く質の良い買い物。

 しかしこの瞬間、純粋に強化値のみを競う勝負では、()()()()()と成り果てる。

 或いは数にのみリソースを費やしていれば、その数は数千万にも達していたかもしれない。それだけいればフィガロでも半分も殺せなかったかもしれない。

 しかしそれはあくまでifの話でしかなく、それ故にこの場での勝敗は覆らない。

 

「ありがとう。君もまた、素晴らしい強敵だった」

 

 フィガロは鎖で更に鼠を減らしつつ、ウェーザーの真上に飛び上がる。

 そして強敵への感謝と賛辞を胸に、極限に近く強化された剣を振るう。

 

 本家本元の《OVERDRIVE(終極)》をも或いは超える極光は、眼下の鼠とウェーザーを丸ごと消し飛ばした。

 闘技場の地面に底が見えないほどの穴を開け、決闘の終了によって全てが元に戻る。

 今再びの<超級激突>は、決闘王者、フィガロの勝利で幕を下ろした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「いやあさすがに闘技場で王者に勝とうとするのは無理があったか。強かったよ。さすがは王国最強」

「いや、初手で数を減らしていなかったらあぶなかったよ」

 

 決闘が終わった後、二人の<超級>はお互いの健闘を讃えあっていた。

 俗に、勝負は天の運、地の利、人の技と言う事がある。元となった言葉とは離れてしまった、曲解された言葉ではあるが、間違いではない。

 技自体は互角だった。使える技に限りがあったとはいえ、それは双方同じこと。リソースの差があったとはいえ、それだけならばまだ可能性はあった。

 故に()()勝敗を分けたのは地の利。闘技場の中で十全を発揮できるフィガロと、より広範囲に鼠を散らばらせることで回避を狙えるウェーザーの違い。

 闘技場の王者の面目躍如という他ない。

 

『いやーまったくいい試合だったクマ。ところでこれで二連敗だって自覚あるか?』

「やっぱお前とは決着を付けないといけないようだな。ちょっと待ってろ。流石に遠慮していたがそこのルーキー相手にステータスの暴力で勝つから、その後お前な」

『ルーキー相手に全力とか恥ずかしくないクマ?』

「大丈夫、まだ伏せ札はあるから全力じゃない。本気ではあるが」

 

 全力ではなくとも容赦なくルーキーを殺戮しようとする<超級>がここにいた。

 

 その後も闘技場で闘いは続き、勝ったり負けたりを繰り返す。

 <超級>三人の乱戦や、ルーキー(レイ)との時に手札を封じ、時に手札を解禁した三連戦。様々な戦いを日が暮れるまで繰り返し、最終的には街の外で三人、デスペナルティになるまで戦った。

 

 その際の勝敗は……ここでは語らないでおこう。

 

 ちなみに。

 ルーク・ホームズは最初から最後まで自身のガードナーの膝の上で泡を吹いていた、ということだけは最後に語っておく。

 

 

 To be continued

 

 

 




ルーク君好きに嫌われそう(小並感)
でも鼠モチーフならやるしかないかなって思ったんや
 
・【獣将軍(ビースト・ジェネラル)
 基本的にはスキルで潜水能力などの耐性や状態異常を与える攻撃能力(簡単に言うと炎のパンチ、氷の牙みたいなの)を与える。純ステアップ系はそれほど効率が良くない
 魔獣製作・召喚能力はなく、地道にテイムするか特典武具や今なら<エンブリオ>での召喚・生成が必要。
 それだけなら微妙な性能だが真っ当な広域制圧型だったのが、困ったことに一番性能を発揮できるスタイルが個人戦闘型となってしまう。
 全部《獣心憑依》レベルEXが悪い。
 「個々が結局強くない」という弱点は実は奥義によって改善できるが、それをやると本当に個人戦闘型になる本当に残念な仕様である。

・全ステ最大値五百万について
 我ながらクソだと思う。
 ただし依存先が鼠なので現状の手札では広域殲滅型には割と弱く、通常値がカスなので奇襲されると心底マズイ。
 逆に相手の索敵範囲外で鼠を作っておけば、数キロ先からでも一瞬でブチ殺せる。
 また地下に鼠を逃がせるので多少は広域殲滅型にも対抗できるが、地下しかないのと索敵範囲の広さも相まって【地神】は結構天敵。
 奥義を先出し出来ればワンチャンある。
 この十分の一にしようかとも思ったが百万のわかりやすさには勝てなかった。

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