魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
それではお楽しみください。
入学式が終わって二日目の朝、一般的な学生ならまだ高校入学の興奮が冷めず気分が高揚している事だろう。しかし、錬に関していえば全くの逆で眠れないことによる最悪のテンションと身体の倦怠感とともに二日目を迎えた。いまいち寝付くことができなかった。
「おはようございます、錬様。そのお姿を見る限り、寝付けなかったご様子ですが。目の下にいつものようにクマが。」
「…ああ。悪い、栄養ジェルくれ。」
「朝食は体調の基本。ちゃんとお食べになるべきなのですが…。」
「分かってる…。」
俺お手製の3Hに入って話す使用人、もといアストラから栄養ジェルを受け取る。ちなみにこのAI・アストラは俺が作ったAIで名前は星々の神アストライオスから取っている。この名前は俺の魔法にも関わっているのだが…、それは後々話すことにしよう。今日は朝食をとる気分ではないのでジェルで手早く栄養補給だけでもして、学校に向かう。
キャビネットに乗って学校に着くとどうやら少し学校に来るのが早かったらしく校内にいる人はまばらで教室にいるのもかなり少なかった。自身に充てられた端末を見つけて手早くインフォメーションのチェックと受講登録を始める。インフォメーションをざっくりと読み解き、画面に様々な情報を高速で打ち込んでいく。ちなみにだが視線ポインタや脳波アシストという便利なものが世に出回っているが俺はキーボードオンリー派だ(かなり少数派であるが)。俺はこっちの方が得意だし、視線ポインタや脳波アシストはいまいち好かん。というわけでこの方法を使っている。それにこっちの方が慣れると速いのだ。
おおよその情報を打ち込み終わり、あと少しで終わる、といったところで俺の斜め後ろから声が聞こえた。
「す、すごい。こんな速さ見たこと無いよ」 「うん、私の周りにもこんな速さで打ち込む人いなかった。」
顔を上にあげ、声の主を確認するとこっちを、正確には俺の端末をじっと見つめている光井さんと北山さんがいた。
「…何か用か?」
「あ、いえ、何でもないんです。ただキーボードだけであんなに早く打つ人を初めて見たので…。」
「慣れればこれくらいだったら誰でもできると思うが?」
「慣れてもあの速さで打てる人はいないと思う。あと私のことは雫でいい。」
「ええ!じゃ、じゃあ私もほのかでいいです!」
「分かった。俺のことも錬でいい。それじゃあ改めてよろしく、雫、ほのか。」
ざわっ
ほのかと雫に挨拶をすると、教室がざわめき始める。教室の出入り口を見ると、新入生総代を務めた女子、達也の妹の司波深雪が立っていた。司波深雪が近づいてくる生徒たちに誰もが感心するような挨拶をしている。チラリとほのかたちの方に目線を向けるとほのかがそわそわしていた。どうやら司波深雪に挨拶に行きたいらしいが戸惑っているようだ。
「……挨拶に行くのであれば、早いほうがいいと思うぞ。」
「そうだよ、ほのか」
「わ、分かりました。…で、でも緊張するから雫ついてきて…。」
ほのかが雫を引き連れて司波深雪のもとに挨拶に行った。途中で焦りすぎて自分の脚に躓いていて転んでいたが、それが吉となったのか、挨拶から良い関係が築けた様だ。一方の俺は残りの情報を端末に打ち込むために机に向き直る。さっさと残りを打ち込み、学内資料でも検索して読んでいようと思い何を読むかを考えていると、誰かが俺の横に立っているのが横目に映る。その人物を確認するために机に向けていた身体を横に向ける。
「…何か用か。」
「初めまして、園達 錬さん。司波深雪と申します。」
「知ってるよ。達也の妹だとか。昨日の答辞、とても素晴らしいもので、惚れ惚れしてしまったよ。」
形式的に昨日の彼女の活躍を褒め称える。
「入試成績総合一位の方に褒めていただけるとは光栄の極みです。お兄様からもお噂はかねがね。」
深雪の突然の皮肉が込められたカミングアウトにクラスがざわめく。反応は各々であるが全員から見て取れるのは驚きの感情。全員の視線が俺たち二人に集中する。
「なぜ総代をお断りしたのですか?」
顔を近づけながら、問いかけてくる。
「達也から聞かなかったのか?面倒だったから降りたって。」
「……本当にそれだけですか。」
さらに顔を近づけてくる。
「ああ、嘘偽りなく本当だよ。あと顔近い。」
「あ、すいません…。」
司波さんが顔を遠ざけていく。
「申し訳ありません。疑ってしまって。それでは改めて。私は司波深雪、気軽に深雪とお呼びください」
「…園達 錬だ。錬でいい」
改めて自己紹介をする。その直後に予鈴が鳴り、皆が席に着く。席に着こうと横を通り過ぎた雫の目はまるで「一位だったこと隠してたんだ。」と言わんばかりだった。別に話す必要もないとは思うが。
ガイダンスも無事に終わり、これから専門課程の授業見学だ。これからどこをふらつこうかと机から離れ教室から出ようとすると、背中から声がかけられた。振り向くと、深雪、ほのか、雫の三人が立っていた。
「錬さん、よろしければこれから一緒に回りませんか?」
一緒に回らないかと、誘いを受けた。男子たちの怨嗟の視線が集中するが、俺はそんな視線では動じるようなタイプでないと自覚している。
「とても嬉しい提案ではあるが遠慮させてもらう。別で見たいところがある」
「そうですか…」
男子からの怨嗟の視線が強まる。やれやれ誘われて恨まれ、断ったらなおのこと恨まれるとは。俺は一体どうすればいいのだろうか。深雪たちに軽く謝罪をし、教室から出る。最後に教室の中に見えたのは我先にと三人組を誘おうとする男たちの姿だった。その後軽く一周見て回ったところで校舎の隅で本を読んでいた。それこそ下校時刻になるまで。
放課後になり、そろそろ帰宅しようと重い腰を上げ校門へ向かうと、何やら校門のあたりが騒がしい。面倒事は嫌いなので、さっさと逃げ帰りたいが、帰るときにどうしても隣を通ってしまう。騒ぎの中心は達也、深雪、ほのか、雫、名前を知らない多数の男女に対して生徒会長ともう一人がCADを向けていた。何かしらのトラブルを起こしたらしい。しかも魔法関係の。できるだけ気づかれないように横を通り過ぎようとしたら、そうもいかん、と言わんばかりに雫が声をかけてきた(もっとも巻き込もう、という意思はさらさらないのだろうが)。
「あっ、錬さん」
面倒ごとの臭いを本能的に嗅ぎつけ、ため息が出そうになるがそれをぐっとこらえ、返答する。
「どうしたんだ?」
「ちょっと深雪関係で」
「ふーん。それでどっちかが魔法を使おうとしたと」
「…随分察し良いね…」
雫の関心がこちらへ向いているときに会長の隣の人が大声を発する。
「会長もこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように!」
雫たちが一斉に頭を下げる。警告をした女子生徒、後々に知ることになった風紀委員長は踵を返して後ろを向く。
「君の名前は?」
「一年E組、司波達也です」
達也と風紀委員長のやり取りをよそに七草会長がなぜかこちらに近づいてくる。それもかなり笑顔で。かなり間合いが詰まり、とうとう接触するといったところまで近づいてきたとき、ふいに顔を俺の耳元に近づけてきて
「ちょうどよかったわ。明日お昼休みに生徒会室に来てくれる?」
と小声で言ってきた。
「おい、真由美、行くぞ」
会長が風紀委員長に呼ばれて、小走りで帰っていく。一体何だったんだ。すると達也たちが向こうの一科生との不毛なやり取りを終えてこちらに向かってくる。
「すまなかったな。巻き込んでしまって」
「気にするな。俺は終了直前で現れただけだ。それよりも…」
「…ああ、俺の力か。俺はこの力より実技の能力が欲しかったんだがな…」
「それでもすごいと思うぞ。なかなかできることじゃない。それに後ろの女子の動きも恐らくすごいんだろ?今年の二科生は粒ぞろいなのか?」
「へえ、わかるんだ。なんでそう思うの?」
「あっちの一人がCADを落としてたしな。そっちのデカい方は距離が若干遠かったし、警棒持ってるあんたが叩き落としたんじゃないかと思ってな」
「すげえ洞察力だな。でもデカい方っていうのは余計だ」「ちょっと見ただけでそこまでわかるのね…」
感嘆の声が上がる。別にこんなのはただの推理力でしかない。今回は場を見て推理してたまたま当たっただけに過ぎない。
「おっと、紹介が遅れたな。改めて、俺は西城レオンハルトだ。よろしく」
「私は千葉エリカ。よろしくね。ほら美月、あなたも挨拶して」
「うん、私は柴田美月です。どうかよろしくお願いします」
達也と一緒にいた三人が挨拶をしてくる。
「俺は園達 錬だ。…錬でいい」
「おう、よろしくな!」
レオが気さくに返してくる。俺はそれを聞きながらほのかたちの方を向く。
「挨拶するなら、今のうちだぞ」
「そうだね。私は北山雫」
「わ、私は光井ほのかです」
二人が挨拶を終えたところで達也が口を開く。
「さて、いつまでもここに止まっているわけにはいかないし、帰ろうか」
「そうですねお兄様。ほのかたちも一緒にどうかしら?」
「ぜ、ぜひお願いします!」
「俺はパスさせてもらう。ちょっと用事があって早く帰らなきゃならなくてな」
「そうか。それじゃあな」
「じゃあな」
全員が先に帰る俺に向かって手を振って優しく見送ってくれた。
入学してから三日目、今日も寝付けなかった。目の下のクマの色が濃くなってくる。俺にとっては日常のことなので何とも思わんが、心配されるのはごめんだ。
「おはようございます、錬様。また今日もですか」
「…栄養ジェルと、栄養ドリンクくれ」
「今日はジェルでなく、こちらをお飲みください」
そう言いながら、野菜ジュースを差し出してくる。俺は乱雑に受け取り、一気に流し込む。弁当を作るためにキッチンに立つ。今ではHALなどがあり、自分で作る必要性はないのだが俺は自分で作る派だ。
手早く弁当作りを済ませ、学校に向かう。途中で司波の兄妹と遭遇した。一緒に登校することになり、その後さらにレオたちと合流した。六人で学校に向かい駅からの道を歩いていると、
「達也くーん」
後ろから会長が駆けて来る。面倒ごとの臭いがし、今すぐにでも逃げようかと思ったが、それを察した達也が俺の進行方向に立ち塞がる。
「達也くんに錬君、オハヨ~。深雪さんもおはようございます」
「……おはようございます」
挨拶を返す。他の面々も同様だ。
「何でしょうか、会長」
挨拶ついでにわざわざ走り寄ってきた理由を聞く。
「今日、少しお話があるのですけれどお昼はどうするご予定かしら?」
俺はあえて何も答えない。
「食堂でいただくことになると思います」
「達也くんと一緒に?」
「いえ、兄とはクラスも違いますし…」
軽く達也の方を向き、俯き加減で深雪が答える。
「深雪、お前がそんなことを気にする必要はない。もっと自由にしていいんだ」
達也が深雪の頬に手を当てながら答える。なぜあの空気から、こんな甘い空気が出せるんだ。レオとエリカは完全に呆れかえってるし、美月は顔を赤くしている。会長が甘い空気を変えるようにして提案をする。
「じゃあ、生徒会室でご一緒しましょう!生徒会室にはダイニングサーバーもあるからそこで昼食も取れるわよ」
「でしたらお言葉に甘えさせていただきたいと思います。昼にお伺いさせていただきます」
「そうですか。それじゃあまたお昼休みにね」
達也たちとの会話が終わり、やっと解放されると思ったら、会長が近づいてきて耳元に背伸びをして顔を近づけると、
「逃げちゃだめよ?」
と小声でささやいてきた。そのささやきは俺には小悪魔のささやきにしか聞こえなかった。その後スキップをし出しそうなくらい軽やかな足取りで去っていった。まるで台風のようにやってきて去っていった。台風一過を迎えた六人、その中でもさらに一人が重い足取りで学校に向かっていった。俺は学校に向かう道中でこんなことを考えてしまった。
「昼休みなんて来なければいい」と。
いかがだったでしょうか。なんかこの話が一番変わっていない気がする。でもほかの話には変わっているところがあるので、その話まで待っていてください。
それでは読んでいただきありがとうございました。