魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
九校戦九日目夜。ミラージ・バット本選決勝。
天候は午前中とは違い、雲一つない快晴であった。上弦の月が選手たちがこれから舞い踊るステージを明るく照らし、選手たちを包み込んでいる。これから行われるのは妖精たちが優雅に舞い踊る舞踏会。観客たちはいかなる舞が行われるのであろうと胸を高鳴らせ、心を躍らせていた。舞踏会の参加者は一校、二校、三校、五校、六校、九校から一名ずつ。その中で園達錬は一校一年の面々と深雪の活躍を目に収めようと観戦にやってきていた。
(メンツから見て…、深雪と一色の一騎打ちになるのは間違いないだろうな。深雪が優勝するのはほぼ間違いないだろうが)
錬の見立てはほぼ正解に近いものだった。正規の歴史では深雪が優勝しているのは周知の事実であるが、一色というイレギュラーが入ってもその強さは揺るがない。それほどに深雪の力は高くまとまったものである。その証拠に深雪はその美貌だけでなく、余すことなくあらわにされた可憐さやその身に似つかわしくない覇気を纏って観客の注目を集めていた。そのオーラに選手ですら一命を残し一歩引かせるレベルのものだった。頭の片隅でそのようなことを考えていた錬の思考を停止させたのは、隣に座る少女であった。
「錬君、優勝するのはやっぱり深雪かな?」
隣に座っているのは北山雫である。疑問を問うそのトーンは純粋な疑問ではなく、どこか確認と一体とがこもっているように感じられた。
「十中八九、深雪だろうな。予選と同じ戦いをしてきたら、飛行魔法を扱う深雪には勝てないだろうし、もし他校も飛行魔法を使ってきたら、深雪ほどは使いこなせないから勝つことは難しいだろうしな」
その言葉とともに、開始の合図のチャイムが鳴り響き、妖精たちは飛び上がった。
「ほら」
「錬君の言う通り」
二人は二人の間で納得する。やはりどの高校も飛行魔法を使っており、どの選手も地面に降りることはない。だがこうなってしまうともはや思うつぼ。どんな使い方をしても深雪に飛行魔法の使い方で勝てる者は選手の中にはおらず、想子を使い切るのがオチである。
錬の推測通り、選手たちは一人、また一人と脱落していき、最終ピリオドでは三人しか残っていなかった。現在のポイントは一位が深雪、その後ろに一色がなんとか食らいついている。三位の選手は最終ピリオドが始まってすぐに限界が訪れ、湖上の足場で荒々しく息を吐いていた。現在のステージで踊っているのは深雪と一色。だが、一色の胸中はかなり苦々しいものであった。
(司波深雪…、私と同じペースで同じ時間飛び続けているにもかかわらず、疲れた表情一つ見せないなんて…、いったいどんなサイオン量をしているの…。私が認めた相手なのだからそのくらいはしてもらわなければならないけれど…、さすがに、負けるのは、悔しいわね…)
息絶え絶えの状態で空を飛びまわっていた一色が目の前に現れたホログラムを取ろうと、手を伸ばしたとき、飛行魔法の安全装置が作動し、ゆっくりと舞踏会のステージから降ろされる。しかし、その顔は悔しそうではあるが、どこかすがすがしそうな表情であった。一色が足場で膝をつくことはなく、立ったまま、深雪の舞を見続けていた。
こうして深雪は大差をつけて優勝し、ミラージ・バット本選で一年生ながら優勝という快挙を成し遂げた。
競技終了後、一校の面々はミーティングルームに集まり、プレ祝賀会の名を借りたお茶会が催されており深雪を中心にほのか、雫、レオ、幹比古、果てにはエリカや美月といった一年の面々、他には真由美や鈴音がいた。がその中に影の一校優勝の立役者、達也や九校戦で暗躍し続けた
(達也は一体何をしてるのかね…)
そう部屋で考えた錬は、目をつぶりじっとすることで休息を取り始めた。
九校戦十日目、最終日。本日の日程はモノリス・コード本選。錬は部屋でコンピュータをいじりながら知識欲を満たしていた。錬が観戦に行かなかった理由としては、単に面倒だったというのもあるが、それと同等にあったのが暇つぶしにもならないからというものだった。十師族の名は絶大なもので、それこそ錬でも知っているほど名を轟かせている。その党首候補が出てくる時点でほぼ勝利は確定しているものである。事実ファランクスを使った十文字克人は攻守ともに学生レベルでは太刀打ちできないほどになり、チームとなればさらに強力になる。そのため、錬は一校の優勝は火を見るより明らかだと思っており、それを見るよりかだったらアーカイブでも見るなどの暇つぶしをしている方がましと判断したのだった。
十日間という短くない期間の激闘を終え、選手の多くはパーティー会場でフレンドリーに会話を繰り広げていた。それの例外に当たる人物たち、達也と錬はホールの端で会話をしていた。その服装は達也はサイズの合わないブレザー、錬は十二日間の中で一度しかつけなかった眼鏡をつけていた。二人に話しかけようと、機会を伺い、ちらちらと待っていた連中はいたが、錬たちが繰り広げていた会話の圧倒的内容に聞き耳を立てていただけでも頭が痛くなり、リタイアするものが大半であった。
常人であれば絶対に理解できないであろう内容の会話を繰り広げていた錬のもとに一通のメールが届く。それを送ってきた人物はとても知った人物であり、その要望にすぐに応じることとした。
「悪い。少し外す」
「急用か?」
「まあ、そんなもんだ」
そういいながら、錬は達也に背中を向けて会場から外の庭園へと向かい始めた。
一方そのころ、うっとうしい取り巻きをあしらい、錬を探していた人物たちがいた。三校のエースの女子たち、一色、四十九院、十七夜であった。三人が探している理由としては単に長く話をする機会がなかったため、話がしたいと理由であり、他の男子たちと話をするよりましであるとの判断もあった。もう片方は、雫。その目的はこれから行われるダンスの相手を確保しようというものだった。ほのかは確実に達也を誘いに行き、達也はそれを了承するであろう。ならば私も、と思い、まず真っ先に思い付いた人物である錬を探していた。この二組、どちらが先に見つけるのであろうか。それは神のみぞ知るといったところであった。
庭園に呼び出しを受けた錬はある人物がいる場所までやってきていた。呼び出しをした人物は九島烈。もはや定番と化し始めている。烈はそこにあったベンチに腰掛けており、いつもとは違った雰囲気を醸し出している。烈は錬の姿を確認すると、微笑み、声をかける
「来たね。まあ、まずはかけたまえ」
その言葉に錬は素直に応じ、烈の隣に腰を下ろす。
「それで?今回はどのようなご用件で?」
「単刀直入に言おう。やはり私の理想に力を貸してくれんかね」
「何度も言ったはずです。俺の力をそのように使うつもりはないと。この力は使用者である俺の良心のみに従って行使します。それがこの力を持った者の宿命と使命ですから」
二人の間に緊張が走る。一触即発とは言えないが、独特の緊張感が漂い、火を入れると爆発しそうなほど広がっていく。
「……ふっ、やはり君は優しいな」
「目の前の人物、命の恩人の頼みを断った直後にその言葉は皮肉にしか聞こえませんよ」
「本心だとも。その強力な力を自制するなど常人には難しい」
「自分のためには使っているので自制しているとは言えませんよ」
「ともかく、今回は諦めることにしよう。気が変わったらいつでも話してくれたまえ」
「気が変わったらですがね」
烈はベンチから立ち上がり、振り返らずにその場から立ち去る。残された錬は自分の力を自分の良心だけで扱うことを改めて心に固く決める。そして緊張感から解放された心を休めようとしたところである人物に妨害された。
「あなた、何でこんなところにいるのよ…」
目の前に立っていたのは一色愛梨。息こそ切らしていないが雰囲気や挙動から少々走ったことが見て取れる。
「そっちこそなんでこんなところに?」
「私はただの散歩よ」
「俺は人酔いしてな」
一色は錬の座っているベンチの隣に座る。その行動を間近に見た錬は少々座っている位置からずれ、一色から遠ざかる。二人の間に静寂が流れ、耳に入る音は会場から聞こえてくる音楽のみであった。その不思議な感覚にしびれを切らした一色は一分ほど黙った後いきなり立ち上がり、錬の前に仁王立ちする。
「踊ってもらっていいかしら」
一色は踊ってほしいことをアピールするように手を差し出す。その行動を見た錬は露骨にいやそうな顔をし、一色にあることを問いかける。
「選択肢とかあるか?」
その問いを聞いた一色は勝ち誇ったような顔をしながらその問いに簡潔に答える。
「イエスかはいよ。それ以外はないわ」
答えを発した一色は満足そうに微笑み、答えを聞いた錬は溜息を一度大きくはいた後、一色の前に手を差し出す。その差し出された手を一色は優しくつかみ、掴まれたことを確認した錬はゆっくりと立ち上がる。そしてダンスの体制をとるように一色に近づいていく。そして二人は小さく聞こえる音楽をBGMにダンスを踊り始めた。その最中、二人は他愛もない世間話を楽しんだ。
ダンスを踊り終えた二人は会場に戻ってきた。ホールに入ると新たな曲が始まり、多くの生徒が新たにダンスを踊り始める。一色は錬が目を話は少しの間にいなくなってしまい、代わりに雫が近づいていた。
「ずいぶん、仲いいんだね」
一色と歩いていたのを見ていたのか、ジト目で二人の関係性を問うような言葉を投げかける。この状態の雫にうそを言っても火に油を注ぐだけだと判断した錬は素直に話すことにした。
「外に出ていたら、たまたま会ってな。音楽も聞こえていたし、ちょうどいいってことでそこで踊っていたんだ」
「…どっちから誘ったの?」
「俺から誘えると思うか?」
その言葉を聞いた雫は何か思いついたように少し口の端を上げ、錬の方を向き口を開く。
「……踊ってくれる?」
雫はその小さな手を錬の前に差し出し、握られることを心待ちにしている。一色の手を握ってしまってため、雫の手を握らないわけにはいかず、錬は下げていた手をゆっくりと上げる。
「喜んで」
か細く小さな手を握り、二人は踊り始める。二人の踊る姿は、王家の王女と、角の生えた悪魔のような幻覚がうっすらと見えたという。
ちなみにその姿を見られた錬はその後、真由美や摩利、エイミィなどの女子にもダンスをせがまれ、最後の曲まで踊ることになったとのこと。
これで九校戦編終了になります。次は夏休み編に入ります。しかし海回はやるか正直検討中です。正直やらない可能性もあります。やるにしろやらないにしろ、五話以内に簡潔にまとめたいと思っています。投稿は一か月以内を目指したいと思います。
それでは次回までゆるゆるお待ちください。