魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~   作:カイナベル

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 夏休み編はビーチの話は書かないことにしました。錬がほとんど動かないので。

代わりに三校女子の二人がたくさん出るので許してください。

それではお楽しみください。


夏休み編
夏休み編 第一話


 

 九校戦も終わり、魔法科高校の生徒は本格的な夏休みに突入していた。あるものは海へ行きと夏の淡い思い出を作ったり、あるものはテーマパークで友達とはしゃいだり、あるものは知らず知らずのうちに日本を救っていたりと、多種多様な過ごし方、楽しみ方をしていた。かくいう錬も楽しんでいる者の一人であり、表情にこそ全くでないものの、大変有意義に夏休みを満喫していた。錬自身精神的に安定しているためか、いつもより睡眠が一時間ほど長く取れ、錬としても喜ばしく思っていた。が、この時の錬は知らなかった。この後平穏を脅かす、強大な台風がやってくるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………」

 

「だいぶお強くなられましたね、安定感も増しておられますし、技の切れも増しております。このままでは私が敗北を期すのは時間の問題かと」

 

 二年間も慈悲もなくぼこぼこにしておきながら何を言っているんだと思いながら地面にうつぶせで倒れ伏す錬。その前には運動用ロボットに入ったアストラが立っている。錬はいつもの肉弾戦闘訓練をしていた。朝早くに行われたそれ。結果はいつものように惨敗。いつものように地面とキスをすることになってしまっており、地面の冷たさを額で味わっていた。地面に寝転がりながら、今日の訓練の反省をしていると、近くに置いてあった連絡用の端末が鳴り響く。相手の確認をするために、手を上げ、アストラに見えるように、持って来い、という意味を込めた動きをする。すると、アストラは無駄のない動きで端末を持ち上げ、錬のところへ迅速に持ってくる。受け取った錬がディスプレイ上に表示された相手の名前を確認すると、良く見知った名前が書かれていた。このやり取りも何度めか、と思いながら、連絡してきた相手とつなぐ。

 

「どうされましたか。閣下」

 

「今日のところは少々頼みがあって連絡をさせてもらったよ。忙しかったかい?」

 

「いえ、別に忙しくはありませんが…、それより頼みとは何でしょうか。例の件ならばお受けしませんよ」

 

「いや、今回はそれとは別件だ。光宣のCADの製作をお願いしたのだ」

 

「それは構いませんが…。料金はいただきますよ」

 

「もちろんだ。かのユニラ・ケテルにただ働きをさせるわけにはいかないからね」

 

「分かりました。料金はこれから話し合いで決めましょう」

 

「そのことなんだが、明日君の家にうかがわせてもらってもいいかね?」

 

「何故でしょうか。電話越しではいけない理由でもあるのでしょうか?電話越しの方が光宣とも直接話せるのでこちらとしてもその方がいいのですが

 

 錬としてはオートクチュール性を売りにしているため、本人の要望をしっかりと聞いて満足のいくものを作りたいというのが本心であり、烈のこの要望は錬のケテルとしての心構えを知っている錬としてはかなり不可解なものであった。

 

「聞かれたくないからそちらに向かわせてもらうんだよ。光宣に気付かれてしまう可能性がある」

 

「サプライズ、ということですか」

 

「端的に言ってしまうとそうだね」

 

 相変わらず少年趣味の爺さんだなと思いながらも孫思いのいい人だと錬は感心する。ケテル個人としてはしっかりとこだわりたいところであるが、サプライズとなれば仕方がない。

 

「光宣はそんなに鋭くはないと思いますがね」

 

「ああ見えても自分のことに関しては割と敏感な子だ。自分の境遇のせいでね」

 

烈の声のトーンが少し落ちる。まずいことを言ってしまったと思い、すぐに謝罪をする。

 

「すみません。失礼なことを言ってしまって」

 

「気にしなくてもいい。君であるならば光宣も許すだろう・君が光宣の辛さを知っているように光宣も君の辛さを知っているからね」

 

「そうですか。話を戻しますが、明日は特に用はないので来られても大丈夫ですよ」

 

「そうかね。であれば伺わせてもらおう」

 

「分かりました。それでは失礼します」

 

 そう告げると、通話を終了し、端末から手を放す。仰向けに直るとアストラがいつもの家事用ロボットに入って覗き込むようにして話しかける。

 

「どのようなご用件で?」

 

「明日閣下が家に来る。家の前を掃除しておいてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 そう告げると、アストラは錬に背を向け、部屋から出て行ってしまう。錬も行動を再開し、ゆっくりと体の調子を確認しながら、立ち上がる。ゆっくりと伸びをし、体をべたつかせている汗を流すためにシャワーを浴びに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汗を流し終わり、服を着ていたところで端末に着信を伝えるメロディーが鳴り響く。誰かと思い、ディスプレイを確認すると、着信では初めての相手だった。面倒ごとに巻き込めれるような予感を肌で感じつつ、着信の相手に出る。

 

「…もしもし」

 

「おお!やっと出たのう!わしじゃ」

 

 声、口調から電話の相手が一体だれかが即座に脳が理解する。今端末越しに錬に話しかけているのは、四十九院沓子。九校戦で顔見知りになった人物だ。その人物がなぜ一色愛梨にしか教えていない自身の端末の連絡先を知っているのかを疑問に思いながら、平静を保ち通話を続ける。

 

「どうしたのかを、簡潔に伝えてくれ」

 

「わしらいま、遊ぶために東京に向かっておるんじゃがのう。東京に来るのは久しぶりでのう。少々不安じゃから案内役が欲しくてのう」

 

「早く用件を伝えろ」

 

「案内役やってくれんかのう?」「断る」

 

 電話越しの人物が三十秒間黙りこくってしまう程にきっぱりと、錬は拒否の反応を見せる。

 

「ええい、何でじゃ。どうせ暇じゃろ?」

 

「暇じゃない。明日やることがある。だから暇じゃない」

 

「ということは今日は暇ということじゃな!ということは案内できるな!じゃあ案内してくれ。決定じゃ!それじゃあ頼むぞ!必ず来るんじゃぞ!」

 

 まくしたてるように話を勝手に終わらせると、一方的に通話を終了させてしまう。その振る舞い方に錬は呆れてしまい、頭を抱えながら、どうするかを考える。

 

「……」

 

 錬は部屋に向かい、家用の部屋着から外出用の服装に着替え、身だしなみを整える。財布や端末を服のポケットに入れ、玄関に向かう。

 

「お出かけですか?」

 

「急用ができた。帰ってくるのは夕方になると思う」

 

「分かりました。お気をつけて」

 

 アストラに送り出され家を後にする。駅に向かうため、キャビネット乗り場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと着いたぞ~」

 

 東京に着いた沓子と一色は電車から降り、狭苦しい車内のから解放された肉体をいやすように大きく伸びをする。身体を元に戻すと同時にきょろきょろと周囲を見回している沓子に向かって一色が話し始める。

 

「というか本当にくるんでしょうね?」

 

「当り前じゃろう。約束したからのう」

 

「あんなに一方的じゃ約束とは言わないわよ。あれは強制っていうのよ」

 

「細かいことは気にせんでもいいじゃろ」

 

そう沓子が告げると同時に一色の持っている端末が鳴り響く。その相手は噂の人物だった。

 

「はい、もしもし」

 

「俺だ。そもそもどの駅にいるか聞いてなかったんで教えてほしいんだが」

 

「そういえばそうね」

 

 隣でうれしそうに一色の会話を見ている沓子に恨めしそうな視線を送り、現在地である駅の名前を告げる。すると、錬が向かっている駅だったらしくあと五分もあればつくとのことらしい。それだけ伝えると、錬はすぐに通話を切ってしまう。

 

「あと少しで着くらしいわよ」

 

「ほら、やっぱり来たじゃろ。わしの言う通りじゃったじゃろ」

 

 二人が会話を繰り広げているうちに五分という短い時間はあっという間に過ぎ、約束の時間になる。また一色の端末が鳴り、到着を告げる。

 

「いまどのあたりにいる?」

 

「ちょうど駅の昇降口の前よ」

 

「分かった…、見つけた」

 

 錬が見つけたということは視界内にいるであろうと、判断した一色は周囲を見渡し、錬の姿を探すと、形容しがたい人物が悠然と近づいてくるのが確認できた。その様相に楽観的な沓子ですら唖然としていた。

 

「あ、あなた、その恰好でここまでやってきたの…」

 

「そうだが…何か変か」

 

「変も何も……」

 

「「ダサい」」

 

 錬の恰好は上下ともにジャージであり、明らかに女性をエスコートするような恰好ではなかった。学校では完全無欠のように見られている錬ではあるが、芸術的なセンスはかけらほどもない。絵を描かせれば、公園を書いたはずなのにミミズがのたうち回る殺人現場が出来上がり、歌を歌わせれば、ボイストレーナーが全力で白旗を上げるほどの卑声を響き渡らせる。なぜこんな奴からデザイン性の高いユグドラ・シリーズ等が出来上がるのか甚だ疑問である。

 

「少なくともこれから女性を引き連れて街を歩こうという男の恰好ではないのう」

 

「もはやあり得ないほどの感性だわ」

 

「そういわれてもなあ。外用の服なんぞほとんど持ってないからなあ」

 

 頭を掻き、二人から向けられている侮蔑の視線をさらりと流す錬。その表情には反省の色は全く見られなかった。

 

「私たちが目いっぱい遊ぶ予定だったけれど、少し予定を変更しましょう」

 

「わしも賛成じゃ。ちゃんと着飾ればどんな感じになるのか気になるからのう」

 

「俺の服を買いに行くっていう話なら遠慮する」

 

「そういうわけにもいかないわよ。今度いつだれかと外出するかもわからないんだから、外出用のちゃんとした服装くらい持っておかなきゃだめよ」

 

「………」

 

 実際問題その通りであるが、錬としては必要最低限しか外に出たくないため、そもそも外用の服が要らないと思っている。そのため、買ったところでお飾りになってしまうと思っているのだ。

 

「とりあえずお飾りでもいいから買いましょ。なくて困ることはあってもあって困ることはないんだから」

 

 そう告げた一色は端末を触りながら、さっさと四人乗りキャビネット乗り場へと向かってしまう。続いて沓子も行ってしまい、後ろ姿を見ることとなった錬は頭を掻きながら、止めることを諦め、足早に二人のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?」

 

 錬は一色と沓子が選んだ服を着用して試着室から出る。錬が着ているのは長袖のシャツに男物のカーディガンを羽織り、ベージュのパンツをはいていた。さてここで問題である。錬は高い魔法力を擁した魔法師であり、その実力は並の魔法師を寄せ付けないレベルである。そして優れた魔法師は優れた容姿をしていることが多い。錬は今まで服装に気を遣うことがなかった。今日の服装がまさにそうである。その錬がしっかりとした服装をするとどうなるか。想像に難くないのは明らかである。試着室の前にいた二人は感嘆の声を上げ、店員は小さく悲鳴のような声を上げた。

 

「流石の魔法力なだけあるのう。モデルが霞んで見えるほどじゃ」

 

「やっぱりあなた容姿は良いんだから、ちゃんと着飾ればいいじゃない」

 

 それでもやはり目の下のクマが気になったのか、一色はすぐそばにあった伊達メガネを手に取る。そして錬のもとに近づくと、錬の顔にそれを添えるようにかける。かけた後手持ち無沙汰になった手は錬の頭に行き、着替えの際に乱れた髪を軽く直す。すべて終え、一色が改めて距離を取り、全体像を確認すると、満足そうにうなずく。

 

「うん、いいんじゃないかしら」

 

「そうか」

 

「それじゃ、次のに着替えるわよ」

 

「……まだやるのか?」

 

「当り前よ。せめて二セットよ」

 

 今の錬は自分の顔が容易に想像できたであろう。その顔を確認したのであろう沓子がゆっくりと近づく。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、問題はない」

 

「そうか。それじゃあわしも選んでくるかのう」

 

 そういうと、沓子は一色に続いて立ち去ってしまう。一人取り残された錬は試着室で先ほどまで来ていた服を脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十回ほど着替えを行い、一色と沓子、そして錬が気に入った計三セットを購入することとなった。比較的高級店の部類である店に連れてこられたため、合計金額は少々高めではあるが、天下のユニラ・ケテルとして稼いでいる錬にしてみればそこまで痛い金額ではなかった。会計を済ませ、カーディガンのセットを着て帰ることとなった錬たち一行は店を後にした。

 

「さて、次は私たちに付き合ってもらうわよ」

 

「仰せのままに」

 

「それじゃあいくかの」

 

 三人はそろって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 錬たちは今、若い女性向けのファッションビルに来ていた。文字通り女性向けの店舗ばかりが入っており、下手な目的がない限り男のみで入ることはなく、ビルの中を歩いているのは恋人のご機嫌を取りたい男を含んだカップルか女性単体というものが大半であった。しかし、錬たちは例外に当てはまる。世間一般から見て美しいといえる容姿の女性を二人引き連れている。この光景は端から見ればかわいらしい女子を二人侍らせているようにしか見えないため、男性からも女性からも非難を込めた視線が浴びせられていた。さすがの錬もその視線のあまりの量に流すことができなくなり気になり始めていた。幾度となく顔を上げ周囲を確認する錬に流石に気になり始めたのか、一色も沓子も気にかけ始めていた。

 

「大丈夫?休んだ方がいいかしら」

 

「いや大丈夫だ」

 

「気にするでないぞ」

 

 その会話を続けている間も二人は歩みを止めることなくウインドウショッピングを楽しんでいた。そうしているうちに二人は一軒の店に入り、商品を手に取り始める。その様子は年齢に見合ったものであり、楽しそうな姿は年齢に見合わない大人びた様子を忘れさせるものだった。錬は店内から出て外で待つことにし、携帯端末でニュースを確認していると、向かいの店のある商品が目に入った。歩みを止めることなく惹かれるようにしてその商品の前までやって来ていた。

 

「どうしたんじゃ?…っといいペンダントじゃな、これ」

 

 錬の見ていたものに気づいた沓子が声を発する。その声には意外という意味がこもっているように錬は感じられた。

 

「意外か?」

 

「そうじゃのう。あんなファッションセンスの人間が選ぶ目が結構よかったということに驚きじゃ」

 

 失礼なことを言いながらも別の部分に視線を向ける。すると、一色も買い物を終えたようでペンダントを見ていた錬たちの背後に立ち同様に興味を持つ。

 

「あら、いいペンダントね。意外。これに興味があるの」

 

 沓子が言ったことと全く同じことを告げる。一つ違うところといえばなぜこれを見ていたのかということを聞いてきたことだろう。

 

「昔、同じようなものを見たことがあってな。懐かしくなって、つい。といったところだ」

 

「確かにこれいいわね。買おうかしら」

 

 そう言った一色は悩んだように手を顎に当て考え始める。そしてARアプリで値段を確認した一色はその端正な顔を驚きの表情へと変えた。端末を覗き込むようにして覗き込んだ沓子も同じように顔をしかめた。

 

「高いわね。これ」

 

 一色は錬に端末を差し出し値段を確認するように促す。錬はそれを覗き込み、端末上に書かれた数字を確認する。確かにその値段は高く、二本で五桁を越える値段である。少なくとも学生が手を出せる値段ではない。しかし錬はケテルとして活動しており、その収入も暇つぶしのCAD製作でも一般的なサラリーマンの収入をはるかに超えている。家の光熱費等も家では事情によりかからないため、現在、金は入ってくるがなかなか使わないという状況であった。そのため、貯蓄はかなりのもので一般家庭が預金を見たら、目が飛び出るほどの貯蓄がある。そのため、正直これもそこまで痛いとは感じなかった。

 

 錬は一色の差し出した端末を一瞥する後、ペンダントを展示していた店内へと入っていってしまう。途中、一色は確認を取ろうと止めようとしたが、錬は気にも留めていなかった。一色が何もすることができず、店内に入っていくのを確認して数分。店内から出てきた錬の手には一つの紙袋が握られていた。

 

「買っちゃったの?あれ」

 

 錬はその問いに首を一度縦に振ることで答える。その答えに沓子は感嘆の声を上げ、一色は呆れかえるような表情をする。その姿を見たチラリと視線を紙袋に移し、中をごそごそと探る。そして取り出したペンダントの一つを一色に差し出す。

 

「え、ええっ!?」

 

「欲しかったんじゃないのか?」

 

「確かに欲しかったけれど別にあなたからもらおうとは思ってないわよ!」

 

「俺はもう一つの赤の方が欲しかったんだ。別にこっちは必要ない。だから服選びの礼ということで受け取ってくれ。それともこんなところで渡すのはマナー違反だったりするか?」

 

 錬の手に置かれている白のペンダントはビルの明かりを反射して輝いている。一色は少々悩んでおり、顎に手を当てそっぽを向いている。すると思考が定まったのか、再び連の方に向き直る。

 

「いいわ。それじゃあお言葉に甘えていただくことにするわ」

 

 一色は錬の手からペンダントを受け取る。そして受け取ったペンダントをつけようと首の後ろに手を回す。錬はその姿を確認しながら錬のことを楽しみそうに見つめている沓子の方を向く。その姿を見た錬は紙袋からブレスレットを取り出す。

 

「これはブレスレットか。ペンダントの二、三個隣にあった奴じゃのう。しかしこういったのもののセンスはあるんじゃのう」

 

「失礼だな。これでもセンスはある方だと思っている」

 

「その変わらない表情で言われても、冗談だか、本気だか分からんな」

 

 苦笑いを浮かべながら、満足そうにブレスレットを装着する沓子。その姿を横目で見ながら一色の方に視線を向けると、ペンダントをつけるのに苦戦していた。一色はつけられないことにイライラし始めているのか、少々表情が怒りに染まりつつあった。一色は一度手を首から元に戻し、顔を上げたその先で錬と目が合ってしまった。痴態を見られてしまったと勘違いをした一色は顔を赤くし、それは耳まで到達した。照れ隠しのためか、赤い顔のまま錬へと近づきペンダントを手渡す。そして一度大きく深呼吸をすると、錬にあることを頼む。

 

「つけてもらってもいいかしら?」

 

 この言葉が錬には、混乱し、思考が崩壊した脳で考え、何も考えずに発した言葉であると考えていた。あのプライドが高い一色がこんな冷静さを欠いた行動をすることはないだろうと錬は思っている。現に一色の行動を見た沓子はにやにやと笑っている。恐らく今までにこんな冷静さを欠いた行動を見たことがないのだろう。視線を一色に戻すと、錬に背中を向け、髪をかき上げ、うなじが見えるように待機している。顔の赤みはすでに首元まで来ており、プルプルと震えていた。ここで錬が断ってしまえば、一色は完全に恥をかいてしまうこととなり、これから先の良好な関係は確実になくなるだろう。錬にとってはそれでもいいかもしれないが、一色家は数字付き。下手な言いがかりをつけられてしまっては錬には百害あっても一利なしである。というわけで錬には了承する以外の答えは存在していなかった。大きくため息ををつき、了承するという意思を伝える。

 

「仰せのままに」

 

 ペンダントを一色の身体の前に持っていき、金具部分を首の後ろに回す。そのまま何が起こることもなく、金具を取り付け、ペンダントをつけることに成功する。

 

「終わったぞ」

 

「そう…、ありがとう」

 

「ゴホン!そろそろ別の店に行ってもいいかのう?」

 

 二人の間に妙な雰囲気が流れるが沓子の一言で霧散する。沓子を先頭にして別の店に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い物等も終わり、周囲は夏といえどめっきり暗くなっていた。日帰りで来ていた一色たち二人は

帰りの電車に乗るために駅へと向かっていた。

 

「すまなかったのう。突然呼び出して付き合わせて」

 

「別に構わない。有意義でなかったわけではないからな」

 

「それはよかった。こちらもプレゼントは大切にさせてもらうからのう。っとついたみたいじゃのう」

 

 キャビネットを降り、三人はたがいに別れを告げる。一色と沓子は駅構内へと消え、錬も家に帰ろうと駅を後にしようと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錬と別れた一色たちは駅の中で足止めを食らっていた。

 

「は?電車が止まっておるじゃと」

 

「どうやら故障したらしくて私たちの帰る方向の電車が動いていないらしいの」

 

「じゃあ今日はここで一泊か?ホテルを取らんといけないということか」

 

「親に連絡しておいた方がいいわね。復旧はお昼過ぎ辺りになるらしいから、もう少しくらい遊べるわね。どうする」

 

 一色が沓子に明日について提案すると、沓子の表情筋が面白いこと思いついた、と言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

「…園達のやつをつけよう」「は?」

 

「これから園達のやつを尾行て、家を特定して明日サプライズで押し掛けるんじゃ」

 

「彼、明日用事なんでしょ。迷惑になるでしょう」

 

「ちょっとの間だけじゃから大丈夫じゃろ。それじゃいくぞ!」

 

 沓子は一色の制止を振り切り、キャビネット乗り場へと走っていってしまう。その行動を見てストッパーとして動かなければという使命感が働き、沓子についていってしまった。興味がないといえばウソだろうが、その時はそのことで頭がいっぱいだった。

 

 

 




 今回は細かくファッションについて書いてみましたが、ファッションって難しいんですね…。調べていて少し頭痛くなりそうでした…。でも細かく書いているのは楽しかったので次は女性ものも書いてみたいものです。

 それでは次回までお楽しみに。



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