魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
(え?今までも別によくないって?知ってるけどどうしようもないんだよ!)
これで夏休み編は終了です。次からは横浜騒乱編に入ります。
一色たちと別れ、帰宅しようと自宅に向かって歩いていた錬。しかし、錬の頭は別の部分に向いていた。錬の思考は背後から向けられる不躾な視線に向けられていた。素人であることは錬自身分かっていたが、いつ襲撃をかけられるかわかったものではないため、気が気ではなかった。しかし、いまだに手を出していないため、錬もそこまで危険性のない相手だと判断した。しかし視線を向けられ続けるのは気に食わなかった錬は視線を振り切るために走り出した。しばらく走り続けていると、錬の感じていた視線は消え、ようやく落ち着ける状況が出来上がった。再び歩き始めた錬は家に向かって歩き始めた。こうして家に着くと、錬の身体には今までに感じたことの無い疲れが溜まっていた。その日はCAD製作もせずに部屋で眠ってしまった。
普段と違い、二、三時間という短い時間ではなく、四時間眠ることのできた錬はすこぶる体調がよかった。烈は午前十時ころには錬の家を訪れることになっている。そのため、錬が起きた午前一時からはかなりの時間があった。その時間は特にすることがなかったため、CAD製作にあてていた。こうして午前九時十分頃までCAD製作をしていた。その後、シャワーを浴び、CAD製作に戻ろうとしたところで家のインターフォンが鳴り響いた。錬は烈が来たのかと思ったが、烈が約束の時間を違えたことはなく、こんな時間に来客の予定もなかったため、首をかしげた。リビングの玄関モニターを覗き込むとそこには頭を抱えるような光景が広がっていた。沓子が錬宅のインターフォンカメラを覗き込んでいた。その後ろには困ったような、ワクワクしたような顔をした一色が後ろに立っていた。錬はその時前日の視線の正体に気が付いた。あの時、錬をつけていたのはこの二人であり、素人臭さが出ていたのは、以前の雫たちのような下手なくせにうまくやろうとするが故の現象であった。錬は烈が来る前に沓子たちがノーアポで家に来たことに頭を抱える。
「おーい。おらんのかー?」
沓子がとうとうしびれを切らして大声でインターフォンに大声で話し始めたことに焦りだす錬と一色。このままでは近所に迷惑になってしまうと判断した錬は、インターフォンでの応対をなくし、一直線に玄関へと走りだし、玄関のドアに手をかけ、勢いよく引いた。
「とりあえず、入れ」
玄関を開けた先で、満面の笑みを浮かべる沓子に軽い殺意を覚える錬。一色と沓子を家の中に招き入れ、玄関のドアを閉める。
「とりあえず聞くが、何で来た?」
「なんとなく気になった方じゃのう」
その答えに表情こそ変わらなかった錬であったが、内心かなり腹が立っていた。それが雰囲気に出てしまったのか、一色の表情がひきつる。が沓子は気づいているのか、気づいていないのか、リビングのソファーに座り込む。
「まあ、いいではないか。用事の時間までには帰るから」
あけすけとした口調で話す沓子。錬としては来客自体は悪いことではない。しかし来るのであれば、アポイントを取ってくれというのが内心であった。が、家に上げてしまった以上、もてなしをしなければならず、このまま帰れと言うことはできなかった。
「………紅茶でいいか」
「ええ」
五秒ほど沈黙した後、錬がキッチンへと向かい、ケトルのスイッチを入れる。一色は簡潔に答え、沓子は座ったまま無言で手を振る。その姿が錬には妙に憎たらしく感じる。ケトルでお湯を沸かして紅茶を入れる。それを茶菓子とともに、一色質の座るソファーの前のテーブルの前に持っていく。それに向けて一色は遠慮がちに、沓子はいつものように手を伸ばす。
「改めて聞くが、何でうちに来た?出来る限り詳しく話せ」
「えっと…、昨日帰ろうとしたら、電車が止まってしまっていてのう。それでこっちで一泊泊まったんじゃが、その時にサプライズで家を訪ねようという話になって」
「それじゃあ、昨日俺の事を尾行ていたのもお前たちか?」
「そうじゃ」
錬から発せられるオーラが徐々に黒くなっていく。その変化を敏感に感じ取った一色は顔を青くしていく。が錬は決して鈍感な人間ではない。その様子を見て、無意識のうちに出ていた黒いオーラを引っ込める。錬は頭を抱え、ソファーによりかかる。
「…もういい。大体わかった」
「迷惑だったかのう?」
その言葉に今まで楽しそうだった沓子の表情が陰りを見せる。その言葉に錬は正直に対応する。
「隠さずいえばそうだな。電話の一つでも入れてから来てくれ」
「ということは電話すれば来ていいということか?」
「当日に電話して、家に来るとかだったら話は別だからな」
こうして話している内に、九時四十五分になっていた。約束の十五分前になっていたため、そろそろ一色たちを帰さねばならないと思い、錬は立ち上がる。その瞬間、家のインターフォンが鳴り響く。これに対して錬は今までに見せたことの無いような反応を示し、まさかと思いながら、モニター前に駆け寄る。そしてモニターでドアの前に立っている人物を確認し、モニターを暗転させた。
「……二人とも一旦部屋の外に出て俺の部屋にいてくれ」
「来客が来たのね。わかったわ」
一色と沓子は頷きながら、部屋から出て、錬の部屋に案内される。が錬は後々省みて、なぜその場で帰してしまうという発想に至らなかったという後悔を抱いた。
一色たちを部屋に移し、リビングにあったお茶と一色たちの靴を片付ける。そして玄関の扉を開け、来客を迎え入れる。
「お待たせしてしまって申し訳ありません。閣下」
「構わないさ。もともと約束の時間より早くやってきたのはこっちだ」
錬は烈を家に上げ、リビングに案内する。そして錬は烈にコーヒーを淹れ、目の前に持っていく。ここまでの一連の流れで、烈は違和感を感じ取っていた。
「ふむ、私の前に来客が来ていたのかね?」
「何故でしょうか?」
「部屋の中にかすかにだが紅茶の香りがしている。それにお湯が沸くのが速すぎる。普段紅茶などをめったに飲まない君がお湯を常備しているとは考えにくい」
「流石ですね。ええ、来ていましたよ」
「そうかい」
推理を言い終え錬の賛辞を聞くと、烈は目の前に差し出されたコーヒーを啜る。
「それにしても、閣下はサプライズがお好きですね」
「そうかね。このくらいであれば普通であると思うが」
「サプライズというのは相手の意見というものが聞けませんからね。少なくとも私は嫌い、というか苦手ですね」
「そうかい。それではお客さんにも意見を聞いてみようか」
烈と錬は一瞬のアイコンタクトでお互いの考えていることを理解し、錬はリビングの扉の前に音を立てずに近づき、開け放つ。
「なにしているんだ。お前たちは」
扉の向こうには沓子と一色が聞き耳を立てていた。リビングの扉が開け放たれ、リビングに座る人物がいったい誰であるかを確認した二人は壊れたロボットのようになった。
「君たちは、一色家と四十九院家のご令嬢だね」
「「は、はい、そうです」」
沓子と一色は目の前に現れた余りの大物に動揺を隠せず、普段流暢に話している日本語がどうにもたどたどしくなっている。
「来客というのは君たちの事だったのか。どれ、君たちもこっちに来て一緒に話をしないか」
その言葉に烈以外の三人が驚く。三人は共通して何言ってんだ、と反射的に思った。錬としては大した問題ではないが、二人からしてみれば、日本の魔法師界の頂点である烈の前に座り、その上、話をするなど、光栄なことではあるが、神経をすり減らすことであるのには間違いない。その思考が真っ先に働き、驚きから帰って来た一色が口を開いた。
「い、いえ。お二人のお話のお邪魔をするわけにはいきませんので、一度失礼させていただきます!」
一色は九十度になろうかという深々とした礼をすると、さっさと部屋に戻ってしまう。一拍おくれて意識を取り戻した沓子が同じように礼をして部屋に戻ってしまう。いなくなってしまった二人を見送り、錬は扉を閉める。
「ふむ、寂しいものだね。地位が高いというものは」
扉付近にいる錬の向かって、烈が話しかける。
「軍の関係者、十師族レベルであるならばまだしも高校生、しかも不意打ちであればああなってしまうのも当然でしょう」
烈の言葉に当然であるように答え、溜息を吐く錬。錬はソファーに座り、改めて話し始める。
「話を戻しますが、CAD製作の件ですよね」
「そうだね。よろしく頼むよ」
「形状は腕輪型ということですが、デザインや色はどうしましょうか?」
「君に任せることにしよう。光宣も君のデザインを気に行っていたからね」
「ありがとうございます。それでは承らせていただきます。製作費は…このくらいで」
錬は値段の書いた紙を烈の手元に差し出す。
「ふむ、市場に出回っているものより少々安いようだが」
「あれは勝手に値段が吊り上がっていっているだけです。本来の値段はこんなものですよ。まあ多少普段お世話になっている分引いていますが」
「それでは君の好意を受け取らせてもらおう。代金は後日振り込ませてもらおう」
そういうと烈は胸元に紙を入れる。そして用事の終わった烈はすぐに錬の家から帰るために玄関の前に行く。
「今度は年の瀬辺りにまた来させてもらおう」
「機会があれば、と言わせてもらいます」
烈は玄関の前につけていた車に乗って去っていく。錬はその姿を見届けながら、家の中に戻り、一色たちがいる部屋の扉をノックする。すると、三回目のノックで扉が勢いよく開き、二人が飛び出す。
「どういうこと!何であんたの家に九島閣下がいるのよ!」
「緊張のし過ぎで死ぬかと思ったわ!」
「単に俺はユニラ・ケテルと交流があってな。閣下がお孫さんにCADを作りたいらしいから俺のところにわざわざアポまで取ってお越しになられたってことだ」
「そ、そうなの…、でも本当に寿命が縮むかと思ったわよ」
「しかし、ユニラ・ケテルと知り合いとはのう。どういう経緯で知り合ったんじゃ?」
「守秘義務ってものがあるからな。秘密だ」
「そうか、残念じゃの」
会話をする三人は、リビングに戻り改めて用意した紅茶を飲み始める。しかし、一色たちは先ほどの光景があまりにも衝撃的だったのか、落ち着かない様子だった。会話もなく、ただ紅茶を啜る音がリビングに響き渡る。すると、一色に目を向けた錬は気になったことを見つけ、何も考えずに発言する。
「そういえば、一色。お前昨日あげたペンダントつけているんだな」
「え、ええ当り前じゃない。わざわざもらったものを一日で外すほど人でなしではないわよ」
「外したら人でなし、とは思えないがな」
「ちなみにわしもつけておるからな」
この会話から会話が広がり、一色たちが帰るまで会話が途切れることはなかった。そうしていると電車が復旧する時間になり、一色たちは帰ることとなった。
「それじゃあな。もう今回みたいなことは勘弁だ」
「今度はアポ取ってくるからの~」
小さく礼をしながら家を後にする一色。元気そうに声を上げながら、家を後にする沓子。すると、一色は何を思ったのか、振り返り錬のもとに戻る。沓子はその行動に不可解そうに首を傾げ、その場に立ち止まる。
「そういえば、何で私のことは苗字で呼ぶのかしら」
「特に理由などない。単に名前呼びはなれなれしいと思ったからだ」
「沓子は名前で呼んでなかったかしら?」
「流石に四十九院は長いからな」
「別に私のことも名前でいいわ。というか呼んでちょうだい」
「そっちがそういうなら別に構わない」
「それならいいわ。じゃあね」
何かに納得したような愛梨は、手を振りながら小走りで沓子のもとに戻っていく。その後ろ姿を見送った錬は名前呼びを頼んだ理由に見当がつかず、頭を抱えながら家の中へと戻っていった。
沓子が礼儀知らずのようにかいていますが、単に作者が話が動かしやすいように少し破天荒もどきに書いているだけです。好きな人がいたらごめんなさい。