魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~ 作:カイナベル
横浜騒乱編 第一話
楽しい楽しい夏休みも終了し、一校では新生徒会が発足した。会長中条あずさ、副会長司波深雪、書記光井ほのか、会計五十里啓となり、新風紀委員長には、アイス・ピラーズ・ブレイクにて優勝を果たした千代田花音が就任し、風紀委員の引き継ぎも錬が作成した書類のおかげで滞ることなく終了した。当初、達也が生徒会に移籍するという話がもあったが、新委員長である花音やほかの風紀委員の必死の抵抗により、それは阻止された。では、なぜそこまで抵抗したのか。その理由は説明すると長くなるため、省略するが、結論から言えば、実務をしない人物の代わりとしての実働部隊の確保である。その理由の根拠は自身で考えてほしい。こうして達也は今年度中は風紀委員に残留することとなった。
その問題の人物は現在、図書館地下二階資料室で調べ物をしていた。調べ物に夢中になっていた達也は背後から近づいてくる人物に気付いていなかった。その人物から達也に柔らかな声がかけられた。
「お兄様、調べものですか?」
深雪は達也の隣に立ち、達也に視線を向けたまま、訊ねる。
「『エメラルド・タブレット』に関する文献だ」
「最近ずっと錬金術関係の文献を調べておいでのようですが……?」
「知りたいのは錬金術そのものではなく、『賢者の石』の性質と製法なんだけどね。もっとも賢者の石の精製こそ錬金術の目的と説く文献もあるんだが」
「物質変換…に挑戦するおつもりではありませんよね?」
「そうじゃないよ。『賢者の石』は卑金属を貴金属に変換する魔法に作用に作用する触媒だ。触媒というからにはそれ自体が材料となる物ではなく、術式に発動させるための道具だろう」
達也は深雪に賢者の石について丁寧な説明をし、深雪はそれに対して納得したように頷く。
「卑金属を貴金属に変換する魔法は、材料に『賢者の石』を作用させることにより貴金属を作り出すと伝えられている。他に魔法的なプロセスを必要とせず、石を使うだけで物質変換魔法が使えるのであれば、『賢者の石』は魔法式を保存する機能を有していると考えられる
「魔法式を保存、ですか?」
深雪は大きく目を開きながら、驚きの声を上げる。
「変数を少しずつ変更しながら重力制御魔法を連続発動するノウハウは飛行魔法の実現によって収集できた。これで重力制御核融合を維持する方法については目処がついた。だが魔法師がずっとついていて絶えず魔法をかけていなければならないのでは意味がない。これでは魔法師の役割が兵器から部品に変わるだけだ。動かすのに魔法師が不可欠。しかし同時に魔法師を縛り付けるようなシステムではあってはいけない。そのためには魔法の持続時間を必須単位に引き延ばすか、魔法式を一時的に保存して魔法師がいなくても魔法を発動できる仕組みを作り上げるか。どちらも手探りの状態だが、安全性を考えれば後者の方が望ましい」
「それで『賢者の石』について調べられているのですね」
達也は虚空を見つめながら、夢のようなシステムについて愛する妹に語り、深雪はその言葉を微塵も疑わず、頷く。深々と頷くその姿に達也は少し気恥しくなる。
「まあ、その『賢者の石』を作れそうな人物がいるんだけどね」
「そういえばそうでしたね。ご協力を仰げればいいのですが…」
しかし、この世界では達也の発言は夢ではない。叶えられないことではない。一人の協力で確実に実現できることだった。
「難しいだろうね。もし協力してくれたとしても法外な金額を取られそうだ」
「傍若無人といいますか……、自由な人ですからね。あの人は」
深雪は苦笑いを浮かべながら、噂の人物の顔を頭に思い浮かべる。達也も深雪の表情を見るのと同時にその人物を思い浮かべ、同様に苦笑いを上げる。すると、深雪がここに来た本来の目的を思い出したような表情に変わる
「そういえばお兄様。市原先輩がお探しでした。なんでも、来月の論文コンペのことでお兄様にご相談だとか」
「どこでだ?」
「魔法幾何学準備室です。廿楽先生のデスクでお待ちになっていらっしゃると」
「分かった。深雪、すまないがここの鍵を返しておいてくれ」
「かしこまりました」
達也は深雪にカードキーを渡すと、急いで魔法幾何学準備室に向かう。鍵を受け取った深雪の姿は、子犬のようだった。
達也が呼び出されているその一方、錬は風紀委員本部に呼び出されていた。正確には本部にいた錬のもとにその人物が訪れたの方が正しいが、そこに対した意味はない。問題なのは、訪れた人物とその理由にあった。
「ごめんなさいね。急に訪ねてしまって」
「久しぶりだな。ここに来るのは」
訪れたのは真由美と摩利。デスクに座って事務作業をしていた錬の隣に立ち、摩利に至っては肩に手をかけ、逃げられないようにしている。その行動に錬は一抹の不安を覚え、今にも逃げ出したくなった。
「……どのような御用でしょうか。忙しいので大した用でないなら帰っていただきたいのですが」
「ごめんなさい。結構大事な用で。すぐに帰ることにはいかないのよ。話だけでも聞いてくれないかしら」
「…お話は聞きましょう」
その言葉に真由美は喜色満面を体現したような顔になり、摩利に至っては小さくガッツポーズをする。その姿に呆れながら、錬は席を立ち、二人分のコーヒーと自分の分のミルクティーを準備する。整理されたテーブルの前の椅子に座った二人の前にコーヒーを差しだす。
「で、お話というのは?」
「あなたには正式に論文コンペの警備部隊に参加してほしいのよ」
「……続けてください」
話を聞く姿勢を取った錬に手ごたえを感じた真由美は口角を小さく上げ、話の続きをする。
「あなたの魔法力と戦闘技術を、今回の論文コンペの警備に生かしてほしいのよ。こちらもそれなりの人材を集めているけれど、それでもまだまだ足りない部分が多いわ。だからあなたに足りない部分を補ってほしいのよ」
ここで真由美が一度口を噤み、代わりに摩利が話し始める。
「君の戦闘能力は言わずもがなだ。それに知識も豊富だから、何かが起こった時の対応策を考えることができるだろうからな。経験に関しては問題ない。これからさんざん訓練をするからな」
摩利の話は、錬には経験が不足しているのかのような話しぶりであるが、経験であればそこらの魔法師以上にあることは内緒である。
「一つ二つ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「なぜお二人が頼みに来たのでしょうか。本来であれば、服部会頭のような人物が来ると思われるのですが」
「私たちが説得するってはんぞーくんに頼んだのよ。それにはんぞー君が来たら話すら聞かなかったでしょ?」
「…否定はしません」
真由美の持ってくる話には必ず面倒事が絡みついていると錬は思っている。しかし、服部と真由美では付き合いが長い関係上、真由美の方が話を聞こうという気にはなる。そのため、今回の話を聞こうとも思った。
「もう一つなんですが、俺が警備担当につくと聞いて、反対した人たちはいなかったんですか?風紀委員で一度も実務をしたことの無い俺が」
摩利が口を開き、話し始める。
「反対する人物がいなかったわけではないが、君が私に模擬戦で勝ったことを伝えると、風紀委員の面々は納得してくれたよ。風紀委員は君の仕事の真面目さに関しては知っているからな。納得していなかった人物たちも説得したら、納得してくれたよ。定期考査で一位を取っているというもの大きかっただろうな」
「じゃあ、最後に一つ。それを引き受けて俺にメリットはあるんですか」
「無いわ」
あけすけと言い放つ真由美の言葉にさすがの錬も驚いてしまう。
「正直な話、このお願いも半ば十文字君からの強制みたいなものだしね。それでどう?引き受けてくれるかしら?」
錬は少しの間黙り込み、考えるようにして真由美たちから目線をそらす。その姿に真由美と摩利は大きく手ごたえを感じていた。そして数瞬の後、錬は真由美たちの方に向き直る。
「…分かりました。お受けしましょう」
「ありがとう!」
「でも意外だな。強制といっても正直引き受けるとは思わなかったよ」
「ただの気まぐれですよ」
「それでも私はうれしいよ。君が引き受けてくれると、実力が数段引き上げられるからね」
「俺は一介の魔法師でしかありませんから、そこまでの力はありませんよ」
「とりあえず一旦はその話を終わりましょう。引き受けてくれるということでいいのね?」
「ええ」
錬は首を縦に振りながら、真由美の問いに答える。
「それじゃあはんぞー君たちに伝えておくから、明日合流して頂戴ね」
「心配だったら、沢木たちを頼るといいさ。もちろん私たちもだが」
「それじゃあ頑張って頂戴ね」
そういうと、二人は本部から出て行ってしまう。その後ろ姿を見届けた錬は自分の前に置かれているすっかり冷めてしまったミルクティーを一気に飲み干した。
錬は、錬たちはいつもの喫茶店に集まり、ささやかな茶会を楽しんでいた。その中で飲み物に口をつけていた幹比古が達也の話したことに驚きの声を上げる。
「えっ、達也、論文コンペの代表に選ばれたんだ?」
「正確にはコンペのメンバーの補佐だけどな。正式なメンバーではない」
「でもかなり深いポジションでの補佐なんですよね。それってやっぱり達也さんの実力が認められたってことですよね」
美月が達也に向かって話し始める。その声色には技術者としての尊敬が込められていた。
「でもやっぱりすごいことだよ。あの大会の優勝論文は『スーパーネイチャー』で毎年取り上げられているし、二位以下でも注目論文が掲載されることも珍しくないくらいだから」
「でも確かもうあまり日がないんじゃなかったですか?」
また幹比古の次に美月が話し始める。この二人の間で会話が成立しており、その様相はさながら夫婦漫才のようだった。
「学校への提出まで、あと九日だな」
「そんな!本当にもうすぐじゃないですか!」
「大丈夫だよ。俺はあくまでもサブだし、執筆自体は夏休み前から進められていたんだから」
顔色を変え、驚きの声を上げるほのかに対して、達也は皆に対して丁寧に説明をする。その姿に「それもそうか」と一同は安堵の息を漏らしながら頷く。すると、話を変えるためか思い出したように話し始める。
「そういえば錬。風紀委員会本部に七草先輩と渡辺先輩が来ていたようだが、何かあったのか?」
「ああ、今回の論文コンペに警備担当として参加することになった、その頼みで来ていたんだ」
「それはそれですごいな。それって戦闘能力が前会長たちに認められてるって事だろ」
錬が言った内容に生粋の肉体派であるレオが感嘆の声を上げる。
「渡辺先輩と戦って、勝っているから当然と言えば当然」
レオの発言に雫が反応する。その声は少し得意げだった。
「でも意外ね。錬君のことだから、あの女の頼みなんて聞かないと思った」
エリカが錬に向かって摩利と同じことを言う。あの女というのがいったい誰のことを指しているかは全員把握しているため、何も言わず、苦笑いを浮かべており、錬は内心摩利のことを嫌っているくせにこういうところでは息が合うのかと思っていた。が、口に出せば、エリカが不機嫌になってしまうことは間違いないため、口には出さなかった。
「でも大丈夫なのか?風紀委員としての事務作業もあるんだろう?」
達也が錬に話しかける。しかしその表情は心配の色は見えない。どうやら単に話をつなげるためのただの口実だった。錬はそれに気づいていながらもしっかりと答える。
「心配ない。できないときには出来る限り千代田先輩にやらせる。仕事を覚えてもらうのにもうってつけだ。ちょうどいいから論文コンペまでは仕事をしないでほかの人たちにやらせるっているのも手かもな」
「やめてやれ。先輩方が絶叫するぞ」
顎に手を当てながら、さらりとえげつないことを言う錬に達也は苦笑し、つられて一同も苦笑し始める。一同はその後も喫茶店で楽しく会話を楽しんだ。今日は平和である。
帰宅後の錬は、その日の出来事をアストラに話しながら、CADの組み立て作業をしていた。
「そうですか。重力制御魔法式熱核融合炉ですか。学生でありながら、加重系魔法の三大難問に挑戦されているとは、錬様のご友人は優秀な方が多いようで」
アストラが本心か、それとも話の流れで行ったかもわからないような感嘆の声を上げる。その薄っぺらい言葉に内心ため息をつきながら、錬は手を動かす。
「ところで、錬様は誘われなかったのですか?錬様の成績であれば、選ばれてもおかしくはないと思いますが?」
「誘われなかったよ。上の方で話し合って俺を警備担当にしたんだろう。もし来たとしても断っていただろうな」
「エネルギー面は錬様の興味の範囲外ですからね。至極当然の事かと」
錬は動かしていた手を止め、地下室の一角へ移動する。そこにはきらびやかに光る一つの物体がその後ろには一本のコードが伸びており、一部分から大量に枝分かれしている。その分岐したコードは家中に張り巡らされていた。
「これだけでうちの電力まかなえてるからな。おまけに半永久ものときたもんだ」
「しかし、一般化できないのも事実。その装置の重要部品は錬様にしか作れませんから」
「そもそも一般化なんてするつもりはないさ。こんな小さな装置から原発二基分の電力が供給できるなんて知れたら、戦争の引き金になりかねんぞ。それにこれを作るために奴隷のような生活もさせられたくないからな」
「承知しております。そのために私たちはあなた様をお守りするという使命がありますから」
「それは本心か?それともシステム上の返答か?」
「本心ですよ。あなた様に作られて一度も揺らいだことはありません。そしてこれからも」
「そりゃよかった」
錬はリアクターの前から作業台の前に戻り、椅子に腰かける。そのまま作業に戻らず、机の傍らに置いてある金属を手に取る。
「しかし、これどうするかね。ノリで作ったはいいが、活用方法が全く思いつかん」
「……ご意見してもよろしいですか?」
「言ってみろ」
錬は働かなくなり、固まってしまった能を再び動かすためにアストラの意見に耳を傾ける。
「はい。その案というものが……」
「……いいなそれ。よし採用だ」
「恐縮です」
錬は作業台の方に向き直り、一般人離れした速度で設計図を書き始める。その姿を後ろから見ていたアストラは、その行動力に心の中で感嘆の声を上げながら、錬が作業していたCADと組み立てを始めた。
錬は野外演習場にて、一人の生徒、服部と向かい合っていた。服部は手に何も持っておらず、左手には腕輪型のCADをつけている。向かい合う二人は開始の合図もなしに同時にCADに手を伸ばす。錬は拳銃型特化型CADを操作し、加重系魔法を二回を放つが、服部は巧みな魔法発動技術で錬の展開速度に汎用型CADで追いつき、回避する。しかし、錬はこの魔法を当てる気などさらさらないため、動揺することなく、左手に巻いた汎用型CADを操作する。発動するのは、気流操作の魔法。地面を這わせるように発動し、地面の砂を巻き上げる。服部は舞い上がった砂煙を対処するためにCADを操作しようとするが、突然体にかかる重圧に冷静さを失い、CADの操作を中断してしまうと同時に錬の姿を見失ってしまう。発動したのは錬のお家芸である時間差魔法発動。服部は首を回して錬を探すが、舞い上がった砂煙の中では、見つけるのは困難を極める。服部はCADを操作し、再度砂煙を吹き飛ばそうとするが、すでに手遅れだった。錬は服部の腕を取り、投げ飛ばし、関節を極め、抑え込んだ。
「いてっ!園達、ギブアップだ」
錬は極めていた服部の手を放し立ち上がる。服部の方は大丈夫のようで、極められていた手を抑えているが、大事には至っていない。服部は手を抑えながら錬に近づいて話しかける。
「いてて…、しかし、技能もそうだが、まさか体術までできるとは…。少し油断したか…」
「二発目の加重系魔法が発動した時点で、俺の崩しは完成していましたから、あまり気にする必要はないと思いますよ」
「しかし、一校の中でも五本の指に入る実力者であるお前がこうも簡単に崩されるとは、俺たちもまだまだってことだな」
いつの間にか服部の背中に近づいていた沢木は、服部の背中をバシバシと叩きながら、声をかける沢木。服部の顔は背中の痛みと敗北の悔しさで歪んでいる。服部が沢木と話している間、もう一人の取り巻きである十三束が錬に話しかける。
「しかし、二回目の加重系魔法はどうやったんだい?汎用型で発動したのは気流操作の魔法だろう?」
錬のテクニックを知らない十三束のために錬は丁寧に説明する。
「あれは同じ魔法を発動時間を変えて、同じ座標に発動したんだ。時間差発動というやつだ」
「そんなテクニックがあったのか。盲点だったな…。近接発動の魔法に応用したりできるかな?」
「やりよう次第だろうが…、今は思いつかないな」
「いや、あんなテクニックを見せてもらっただけでも、こっちが礼を言いたいくらいだよ」
十三束は錬に向かって小さく会釈する。錬はその動きを横目で見届ける。すると、服部と会話していたはずの沢木が錬の肩を叩く。
「よし、園達。次は俺と勝負だ!」
沢木は笑いながら、錬に勝負の提案をする。その言葉を聞き届けた錬は溜息をつきながらも沢木との戦いのため、距離を取り、CADを構えた。この試合形式の訓練は呼び止められるまで、続いた。
いかがでしたでしょうか。
やっと錬がサブカルチャーからインスパイアしたものを出せました。錬の家が電気代が一切かからない理由はこれです。機会があればまだまだどんどん出していきたいと思います。私が知っているものしか出せないことはご了承ください。