魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~   作:カイナベル

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 最近文が安定しない……


横浜騒乱編 第四話

 

 本日は論文コンペ当日。錬は平河の警護とともに会場警備として横浜へ向かおうとしていた。しかし、会場に向かう前に自宅で錬は妙な胸騒ぎを感じ、家で頭を悩ませていた。

 

「うーん?」

 

「どうされましたか?」

 

 作業場の机の前に座る錬の後ろからアストラは背中越しに声をかける。その前には、普段のCADより大型のCADが置かれており、それが通常のCADとは違った性能をしているということは技術者が見れば一目瞭然であった。

 

「いや、一応こいつを持っていこうかと思ってな」

 

「お荷物になるのでは?」

 

「病院のこともあるし、このまま事件が終わるとは思えないんだよな。実地テストも含めて、使えるんだったら、御の字なんだよな」

 

「明確なビジョンがあるのであれば、私はお止めしません」

 

「だったら持っていくことにしよう」

 

 錬は目の前のCADをケースの中に入れる。それに合わせて自分の装備を整え始める。

 

「そういえば、いやな予感がするからお前たちも横浜に待機していてくれ。これを着用してな」

 

 錬はそういうと、黒のローブと仮面を手渡す。それは以前錬が身につけ、克人たちの目を欺いた服装であった。

 

「よろしいのですか。あのままの車体では、目立つように思いますが」

 

「黄色は確かに目立つからな。目立たないような車体と色に変えておいてくれ。あいつがごねたら、最悪そのままでいいが」

 

「了解いたしました。すぐさま準備いたします」

 

 アストラは運動用ロボットに入った状態でいそいそとローブを着始める。その姿を見ながら、錬も自身の装備を整えていく。そして準備を終えると、横浜に向けて自宅を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場に着き、錬は共同会場警備隊総隊長である克人のもとへ向かった。そこには各校から選抜された警備隊の面々が集まっており、そこには一条将輝や十三束、沢木の姿もあった。そこで克人から警備の担当を伝えられ、解散する。こんな状況であるにもかかわらず、錬はやはり一人であった。

 

 そのことがいまいち疑問であった錬は克人に直接理由を聞いたところ、「以前の訓練でとっさに連携を合わせられることから、単体で誰とでも連携を行えるようにして、自由に動かした方がいいと判断したため」とのことだった。

 

 錬は解散後に会場警備のために付近を歩き始めた。すると、警護中にエリカやレオたちに遭遇した。

 

「やっほー、錬君。会場警備のお仕事?」

 

「そういうエリカたちは達也に言われて警備の手伝いか?」

 

「ええそうよ。ここでこいつをしごいた成果を見せるんだから」

 

 エリカはレオの背中をバシバシと叩きながら、悪そうな笑顔で錬に話しかける。すると、レオは叩くのが強かったのか、痛そうに顔をゆがめる。すると、どこから聞きつけてきたのか、その場に花音が介入してくる。この二人が遭遇した時点で嫌な予感がした錬は、面倒事を避けるため、二人に軽く挨拶をして立ち去った。その場から立ち去る錬が最後に聞いたのは引き留めようとするエリカの悲痛な声だった。

 

 エリカたちと別れ、警備のために巡回をしていると、次には三校の愛梨たち三人と出会った。

 

「あら奇遇ね。お久しぶり」

 

「久しぶりじゃのう」

 

 愛梨は片手を上げ軽く微笑みながら、沓子は錬に近づいて、栞は何もしゃべらずに会釈をして、錬との再会を喜ぶ。

 

「会場の警護かしら?」

 

「その通りだ。それはそうとそっちは何でここにいるんだ?」

 

「あら、同じ三校生徒の発表を聞きに来たらいけないかしら?」

 

「滅相もない」

 

 愛梨は錬の言葉を聞くと満足そうに微笑む。その表情には勝ち誇ったというより、目の前の男に持ち上げられたように返された喜びの意味がこもっていた。

 

「わしらが来た理由に関してはいいんじゃが、何で主一人なんじゃ?一条も二人一組で組んどったぞ」

 

「それは成り行きだ。特に深い理由はない」

 

「成り行きにしろ、一人で任されるというのもなかなかすごいことじゃと思うぞ」

 

 沓子の褒めの言葉を表情に出さないが、素直に受け取る錬。ふと愛梨を見ると愛梨の首元にはきらりと光る、白のペンダントがついていた。そのことを無意識に口に出す。

 

「そのペンダント、まだつけていたんだな」

 

その言葉の意味に気付いた愛梨は錬の方に視線を向けながら、手でペンダントを弄ぶ。

 

「ええ、デザイン性もいいし、軽くて邪魔にもならないから、気に入ってるわ」

 

「もし気に入っていなかったら、捨ててもいい、と思っていたが、その必要がないみたいでよかった」

 

「あなたは女心を学ぶ必要がありそうね。これほどのモノをもらってうれしくない女性はいないわ」

 

 錬はその言葉に信ぴょう性を得るため、二人の方に無言で視線を向ける。すると、二人は無言のまま、首を縦に振る。沓子は制服を軽くまくり、ブレスレットを見せるというおまけつきだった。

 

「それじゃあ私たちはそろそろ行くわね」

 

 愛梨は手を振りながら、他の二人を先導するように、その場から立ち去る。その姿を見送った錬は警備を再開しようと、歩き始めると、不意に後ろから声をかけられ、脚を止める。

 

「ずいぶん仲良さそうだったね」

 

「…雫か」

 

 錬が振り返ると、雫が一人で立っていた。その表情は少し不機嫌そうであり、どことなく雰囲気もいつもとは違っていた。

 

「何の話してたの?」

 

「他愛もないただの世間話だ」

 

「…ペンダントがどうとか言ってたように聞こえたけど」

 

 雫は一体どこから聞いていたのか、と思いながら事の顛末の説明を始める。その間の雫は目に見えて取れるほど不機嫌になっており、表情をむくれさせていた。

 

「……ふーん」

 

 説明を終えた後の雫は今までに見たことがないほど不機嫌になっていた。この場に美月がいたら、確実にいつもとの違いで引いていただろう。

 

「……楽しかった?」

 

「少なくともつまらなくはなかったな。服も選んでもらえたからこちらとしても得があった」

 

「服を選んでもらった?」

 

 雫の視線がギラリと光り、錬を睨みつける。錬は何故睨みつけられなければならないのかが分からず、思わずその眼光にたじろいでしまう。

 

「あ、ああ。まともに着るものがなかったからな」

 

「……じゃあ、次は私が選ぶ」

 

「…なんでだ?」

 

「いいから」

 

「まあ、機会があったらな」

 

 錬の言葉に雫の表情が少々和らぐ。その表情を見て錬はすこしほっとする。

 

「わかった。それじゃあね」

 

 雫は錬のもとから離れていく。錬はその姿を見送り、完全に見えなくなると、なぜか振り回されたような感覚に陥り、どっと心労が出た。が、これから長くなる警備にそれを持ち込むわけにはいかないため、気持ちを切り替えて、警備のために再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 論文コンペはつつがなく進み、錬は昼食をとっていた。昼食を半分ほど取っていたところで、無線から克人の声が聞こえてくる。

 

「各員に告ぐ。午後からの警備は防弾チョッキを着用。繰り返す。午後からは防弾チョッキを着用せよ」

 

 錬のいやな予感が徐々に現実のものになろうとしていた。克人も錬と同じように感じるところがあるのか、何かを感じ取っているのだろう。錬は昼食もそこそこに防弾チョッキを着始める。そして万が一を考え、持ってきていたCADを装着した。

 

 着用して会場警備を再開すると、達也と遭遇する。その時の達也の面持ちはどうにも複雑な表情であった。声かけたくないような、かけたいような、そんな面持ちであった。そんな達也の代わりに錬から声をかける。

 

「よう、達也。装置の方は良いのか?」

 

「ああ、今は市原先輩たちが見ている。それに七草先輩もいる。俺が特に心配する必要はないからな」

 

 達也の口ぶりから三年生三人組がいるのだろうと読み取った錬は、次の話題に移ろうとする。すると、次は達也の方が先に口を開く。その内容は錬と同じものだった。

 

「突然だが、敵は来ると思うか?」

 

「来るな。それも百パーセントだ」

 

「やはりお前もそう思うか…。何が目的だと思う」

 

「魔法協会の貴重な資料、論文コンペの研究内容。あるいは俺の身柄だろう。病院の件で俺の身元はあっちにばれただろうからな」

 

 錬はあけすけと自分が狙われていることを口に出す。もちろんこれは根拠があって言っているわけではない。しかし、錬は推理と、持ち前の勘で自身が狙われていることを察知していた。すると、その言葉を聞いた達也は急激に神妙な面持ちへと変化する。

 

「………なあ。お前が敵側に狙われるにしろ、なぜ敵側が錬の能力を知っているんだ?どこが来るかもわからないはずだろう?」

 

「いろいろあるんだよ。調べたかったら調べて別に構わない。どうせ何も出ないだろうからな」

 

「…一応言質として受け取っておくぞ」

 

 曇る錬の顔を気にしていないかのように達也は返す。これは達也がいつも通りに接した方が回復が速いであろうと判断したためだ。

 

「話は変わるが、何やらまた新しいCADを持ち込んでいるらしいな」

 

「ああ、ケテルの依頼で実地演習を頼まれてな」

 

「…ケテルも戦闘があることを想定しているのか」

 

「ケテルは実験バカのリアリストだから、戦闘が起こりそうならデータを取っておきたいんだろう実践なんて貴重だからな」

 

「また以前のように変わっているのか?」

 

 達也は九校戦の時のCADを頭に思い浮かべながら、錬に問いかける。実際、達也の頭には特化型と汎用型を組み合わせることはあっても、あのような発想はなかった。達也はユニラ・ケテルの技術力だけでなく、そのような発想力にも一目を置いていた。(目の前の人物がケテルであるんじゃないか、と内心思っているのは秘密である)

 

「ああ、ある種の変態CADといえるだろうな」

 

「中条先輩が喜んで食いつきそうだな。実際是非お目にかかりたいものだな」

 

「機会があったらな」

 

 達也は少し微笑むと錬に背中を向け会話の終了を告げながら、その場を立ち去る。今日はいやに見送ることが多いな、と内心思いながら、錬も巡回を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後三時になり、第一高校のプレゼンテーションが始まった。一校の研究は加重系魔法の技術的三大難問の一つという超高校級の内容であるため、かなり注目を集めていた。

 

「核融合発電を拒む主たる問題は、プラズマ化された原子核の電気的斥力に逆らって融合反応が起こる時間、原子核同士を接触させることにあります」

 

 この電気的斥力に対して先人たちは強い圧力をかけることによって対抗しようとした。しかし、格納容器の耐久の問題、燃料の補充の問題など様々な問題によって安定した核融合を生み出すことはできなかった。

 

 鈴音は説明をするとともに、その背後でスイングを切り返す実験機器の隣に立つ。ヘッドセットをつけると、アクセスパネルに手を付ける。すると、スイングを続けていた電磁石が突然その動きを止め、轟音を轟かせる。

 

「しかし、電気的斥力は魔法によって低減させることが可能です。今回私たちは、限定された空間内における見かけ上のクーロン力を十万分の一に低下させる魔法式を開発しました」

 

 鈴音の言葉を聞き、会場がどよめきに包まれる。その間にエリカが電球と称したデモ機が舞台下からせりあがってくる。鈴音はそのデモ機を使っての説明を始める。

 

 装置内では放出系魔法によって水素をプラズマ化、重力制御魔法とクーロン制御魔法を使い、プラズマによって核融合を起こす。その後、振動系魔法で急速に冷却、冷却された水素ガスを熱交換用の水槽に送り込む、これの繰り返しによって断続的に核融合を起こすというのが市原の考えだった。

 

「現時点では、この実験機を動かし続けるために高ランクの魔法師が必要ですが、エネルギー回収効率の向上と設置型魔法による代替で、いずれは点検に魔法師を必要とするだけの重力制御魔法式核融合炉が実現できると確信します」

 

 市原が締めくくるとともに会場から割れんばかりの拍手が起こる。これが実現すれば、魔法師が戦闘だけでなく、産業面でも役に立てるということが立証でき、世間からの魔法師への視線もだいぶ変わるだろう。これを見越した鈴音のアイデアは素晴らしいの一言に尽きるもので、聴衆からは惜しみない拍手が送られた。

 

 一校代表がステージから降り、三校生徒が準備を始める。一校の発表の興奮冷めやらぬ中、会場の外で轟音が鳴り響いた。この事件は人類史の転換点となり、後に『灼熱のハロウィン』と呼ばれる事件となった。

 

 現在時刻、西暦二〇九五年十月三十日午後三時三〇分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場の外で鳴り響いた轟音は会場と聴衆の心を大きく揺るがした。その音に聴衆はどよめき始める。その中でも特に冷静さを貫いていたうちの一人は最も重要とする人物の名を呼んだ。

 

「深雪!」

 

「お兄様!」

 

 司波兄妹はお互いに名前を呼びあって駆け寄りあう。達也の口調はいつも通りであるが、深雪はかなり動揺した口調であり、表情も少々強張っていた。

 

「正面出入り口付近で擲弾が爆発したのだろう」

 

「グレネード!?先輩方は大丈夫でしょうか」

 

 深雪は心配そうな声を上げる。が、この論文コンペには学生の警護だけではなく、プロの実戦経験のある魔法師も警護についている。しかし、藤林からもらったデータカードや錬の言葉もあったため、少々悪い予感がしていた。

 

 すると、しばらく銃声が聞こえたのち、靴音とともにライフルを持った集団が会場内に乱入してきた。その光景に達也は心の中で悪態をつく。

 

 まず最初に行動を始めたのは三校生徒。CADを操作し、乱入者に魔法を発動しようとするが、突段放たれた凶弾によってCADの操作が止められる。程なくして警備の生徒とともに会場の生徒は制圧され、身動きの取れない状態になる。そしてステージ前に立っていた達也にもその指示は下される。

 

「オイ、お前もだ」

 

 達也に向けて銃口を突き付け、慎重な足取りで近づく乱入者。その侵入者を達也は冷ややかな視線で観察する。その視線は乱入者の一挙手一投足のつぶさに観察していた(厳密には別のところも見ていたのだが)

 

 すると、乱入者を見ていた達也の視界で変化が起こる。近づいてくる乱入者の後ろに立っていた男の足元に魔法式が浮かび上がるとともに、いきなり入ってきた出入り口から出て行ってしまったのだ。正確には引っ張られていったの方が正しいであろうが、この場からいなくなったことには変わりない。その光景を見ていた全員が驚き固まっていると、その出入り口から新たに乱入者が入ってくる。その人物は白の一校制服を着ており、両手には完全に気絶した、乱入者と同じ服装をした男を引きずっていた。達也の目に映っていたのは紛れもなく錬であり、先ほどの現象が錬によって起こされたのが、達也にははっきりとわかった。

 

 錬は会場に入ると、引きずっていた男を一人投げ捨てる。すると、錬が同胞を引きずっていたのがよほど感に触ったのか、達也に近づいていた男は警告もなしに錬に向かって発砲する。ハイパワーライフルから放たれる弾丸は通常の銃の何倍もある威力を誇っており、あたってしまえば重大な障碍になってしまうのは明確だった。次に起こりうるであろう光景が予想できた聴衆は思わず声にならない悲鳴を上げそうになる。しかし、そのような光景は何時まで経っても訪れなかった。

 

 男の前に立つ錬は片腕を上げており、その体に一片の傷もなかった。何が起こったのかが分からない目の前の男は頭に血が上り、さらにトリガーを引こうとする。しかし、それは敵わなかった。錬がもう片方の手に持っていた男を自身の前に掲げたからだ。これでは必然的に男も撃ってしまうことになるため、男はトリガーを引くことをためらってしまう。しかし、そのためらいが仇となり、音もなく背後に回っていた達也に意識を刈り取られるのだった。

 

 目の前で起こった光景に思考が止まっていた警備の生徒は錬が向けた視線によって、即座に回復し、乱入者の取り押さえにかかった。程なくして乱入者は全員制圧され会場には一抹の安堵が訪れた。拘束のきっかけとなった男は片手に握っていた男を興味なさげに投げ捨てると、達也のもとに近づいていく。それとともに二人の男に声がかけられる。

 

「達也君!」

 

「錬君!」

 

 二人を呼ぶエリカと雫の声は完全にそろってしまう。二人は心配ないようなそぶりを見せる。達也はほぼ何もしていないし、錬は打たれた弾丸を「錬成」で分解しただけなので、怪我をするはずがなかった。それでも雫は心配そうに錬の手を取り、見つめている。すると、エリカがそんな二人を他所に達也に向かって質問する。

 

「それにしても随分と大変なことになってるけど…これからどうするの?」

 

「逃げ出すにしろ、追い返すにしろ、まずは正面入り口の敵を片付けないとな。錬、今の状況はわかるか?」

 

「詳しいことはわからないが、今戦闘が行われているのは正面入り口のみだ。そこさえ制圧してしまえば、とりあえずは安全だ」

 

「そうか」

 

 達也が短く返答すると、エリカは目を輝かせながら達也に問いかける。

 

「まさか待ってろなんて言わないよね?」

 

「別行動で突撃されるよりましか」

 

 その言葉に肉体派であるエリカやレオのみならず、ほのか、挙句には雫や美月も喜色を浮かべる。その表情を見た錬は先行するために一足先に会場を後にする。吉祥寺は聞きたいことがあるのか、錬に詰め寄ろうとするが、錬のよどみない素早い行動に口が追い付かず、聞けずじまいで言葉をぶつける場所がなくなってしまった。錬の動きを見届けた達也たち一行は、真由美やあずさに忠告を残すと、足早に会場を後にした。

 

 

 




 
 新しいCADの性能は次回明らかになります。ただちょっと怪しい部分があるので、その時はごめんなさい。

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