魔法科高校の劣等生 ~世界をひっくり返す錬金術師~   作:カイナベル

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横浜騒乱編 第五話

 達也たちは一足先に出ていった錬の後を追って、正面玄関に向かって走っていた。その道中には十人近くの男たちが倒れていた。脈はあるため、死んではいない。この光景を見て、錬がやったのだと気づいた達也たちは表情を引き攣らせ、再度錬の能力の高さを認識した。

 

 廊下に倒れる男たちに何度も視線を送りながら、廊下をひた走っているとようやく錬に追いつき、駆け寄る。達也は状況を確認するために、錬に話しかけようとするが、錬は達也たちが迫っていることに気付かずに敵に向かって飛び出していく。その左手の汎用型CADは起動式が読み込まれていた。 

 

 猛然と飛び出した錬は敵にとっては絶好の標的に見えたことだろう。敵の銃口はプロの魔法師から、錬へと移り、その銃口から一斉に弾丸が放たれる。しかしその銃弾が錬に届くことはなかった。

 

 錬の前には対物障壁が二重に張られており、一枚目の対物障壁が弾丸を防いだのだ。しかし敵側はそれに怯まずに弾丸を打ち続ける。そして数秒のうち、対物障壁が砕かれ、二枚目へと到達する。すると二枚目が弾丸の侵入を防いでいる間にもう一度対物障壁が展開される。再び障壁が砕かれるが、再度張りなおされる。

 

 こうして弾丸を受け続けている間に錬は敵勢力の人数を確認した。確認した後、錬は特化型CADを操作して、魔法を放つ。発動した魔法はエア・ブリット。だが、その威力は学校の訓練で加減していた時の比ではない。空気弾が敵に直撃すると、敵は数メートル吹き飛び、意識を失う。その光景に絶句した男たちはさらに殺気を高め、再び錬に弾丸を放つが、対物障壁に防がれ、錬に傷一つ与えることができない。錬は再び空気弾を放ち、一人の意識を刈り取った。

 

 紙のように吹き飛ばされていく仲間たちを見て、うろたえ始めた男たちが錬に意識を集中させていたところ、その後ろから二発の弾丸が男たちに向かって駆け寄る。その人物に銃口を向け、対処しようとするが、目を離した錬から空気弾が放たれ、二人の男が吹き飛ばされる。再び連に意識が向くが、それこそ錬の思うつぼ。二発の弾丸は素早く確実に、錬と協力して侵入者を無力化していった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出る幕がなかったぜ…」

 

 錬と達也、エリカの三人が、侵入者を制圧した後、レオが後ろから出てきて不満を零す。残念そうにしているレオを見て、エリカは肩を叩きながらなだめる。レオの後ろからやってくる深雪と幹比古はいつも通りであるが他の三人は刺激の強い光景に少々顔をゆがめている。しかし、達也が気遣うような視線を送ると、普段の、とは言えないが、笑顔を見せる。すると、雫は錬に近づき、戦闘の最中の出来事を質問する。

 

「ねえ、なんで二つのCADの同時操作ができたの?発動していた魔法は別系統だった。別系統の魔法を同時に発動することは理論上できないはず」

 

 この疑問は雫一人のものではなかった。達也も同じことを考えていたが、聞けるような状況ではなかったため、雫に内心感謝していた。

 

「ああ、それはこのCADの力だな」

 

 錬は左手につけたCADを袖をまくり上げ露出させ、雫たちに見せる。そのCADはレオのそれと同じくらい大型であり、手の甲側には刃渡り三十センチの模擬刀、手のひら側には細身の銃口にあたる部分とタッチパネルが存在していた。

 

 このCADは達也が開発した小通連の改良版、特化型CAD、汎用型CADの三つが備えられており、状況に合わせた対応のできるCADとなっていた。だが、同時にCADを操作し、魔法を放つという疑問の解決にはなっていない。

 

 さて、なぜ魔法が発動できるのかというと、CADに組み込まれた素材による効果だった。そもそも同時に魔法が発動できない理由としては混信による干渉波によって、発動障害が起こるためである。そこで錬が作り上げた素材は干渉波が生じる前に素材から発せられる波動により、干渉する前の波を打ち消すという特性をもったものだった。八種の魔法に対応した素材それぞれがCADの外装として使われているため、どの魔法にも対応できる。

 

 このCADは同時に発動できる魔法の数にこそ限界はあるものの、それ以外であればいわゆる万能型と呼ばれるCADへと仕上がっていた。 

 

 しかしこのことを伝えてしまうと、錬がユニラ・ケテルであることが達也にばれてしまう(実際は達也にならばれても問題ないと思っている。伝えない理由としては勘のいい誰かがケテルの正体に気付くのを恐れているため)と判断した錬はそのことを誤魔化すことにした。

 

「今はそれどころじゃないから、説明は後ででいいか」

 

「本当?絶対に後で説明してね?」

 

「あ、ああ」

 

 普段の雫にはない気迫につい錬は確約するような返事をしてしまう。これで説明することは免れなくなってしまった。早計な返事をしてしまったことを後悔しながら、達也に今後の計画の提案を促す。促された達也は冷静に今後の計画を話し始める。達也は現在の状況を知りたがっており、そのための方法を模索しているようだった。すると、達也の言葉に耳を傾けていた雫が提言する。

 

「VIP会議室を使ったら?」

 

「VIP会議室?」

 

 雫の言葉に達也は珍しく疑問の声を上げる。雫によると、そこは閣僚級の政治家などの使用する部屋のため、たいていの情報は傍受できるとのこと。その言葉に何故達也ですら知らなかったのかの理由がはっきりとした錬は小さく納得するように頷いた。情報収集のあてができた達也はそこに案内するように雫に頼み、雫はそれを了解したこうして一行はVIP会議室へと向かった。

 

 

 

 会議室内で受信した警察のマップデータがモニターに映ると、全員がその情報を見て顔をしかめる。データによると、横浜はどこもかしこも危険地帯になっており、敵は少なくとも数百人以上の規模を誇っていることを表していた。このデータから次の行動を模索していた達也はシェルターに避難することを進める。

 

「じゃ、地下通路だね」

 

 エリカの言葉に達也は否定するように首を横に振る。

 

「いや、地下はやめた方がいい。上を行こう」

 

 その言葉の少し後にエリカはその意図に気付いたように納得顔を見せる。その少し後に錬もその意図に気付く。ほのかや雫はまだ気づいていないようだったが。そして避難を開始しようとする面々に達也は待ったをかける。

 

「今のうちにデモ機のデータを処分しておきたい」

 

「あっ、そうだねそれが敵の目的かもしれないしね」

 

 納得したように幹比古は相槌を打つ。確かにそのとおりであり、敵の目的かもしれないデモ機を壊さずにこの場から逃げ出すのは完全なミスになってしまう。それを防ぐために達也は時間をもらってまで破壊することを選択したのだろう。全員でデモ機のあるステージ裏に移動する最中、一行は克人に声をかけられ、引き留められる。

 

「お前たちは先に避難したのではなかったのか」

 

「念のため、デモ機のデータが盗まれないように消去に向かうところです。彼女たちは、その、ばらばらに行動するよりはよいかと思いまして」

 

「しかし他の生徒は地下通路に向かったぞ」

 

 その言葉に達也は眉を顰める。その表情の変化に気が付いた沢木がその理由を達也に聞く。すると、達也は地下通路では敵部隊との遭遇戦になるかもしれないという意図を伝える。すると、服部はその状況を想定していなかったためか大きく驚く。克人はそれを聞き、服部と沢木に中条の後を追うように伝える。後を追って駆け出した沢木たちを見届けた達也たち一行はデモ機のもとへと急いだ。

 

 デモ機のおかれたステージ裏に到着すると、そこでは市原、五十里、平河がデモ機をいじっており、その周りを真由美、摩利、花音、桐原、壬生が取り囲んでいた。どうやら市原たちも同じ意図だったらしく、デモ機のデータを一心不乱に消していた。五十里たちに指示され達也たちは他校の機材を破壊しに行動し始める。その最中、摩利は錬を引き留める。

 

「しかし、君が侵入者を撃退して、会場内に入ってきたときには驚いたよ。あの光景を見た時には少し体が震えたよ」

 

 摩利は錬の肩に手を回し、笑いながら錬に話しかける。しかし肩にかけられた手は気づかない程度であるが、震えていた。摩利もまさかここまでも事態になるとは思っていなかったようで、無意識化で緊張しているのだろう。が、摩利も実力者だ。自分で気持ちの区切りをつけるであろうと、錬は納得して何も言うことはなかった。錬は達也たちの後を追うように機材の破壊に向かった。

 

 

 

 控室に全員が集まり、これからどうするかの作戦会議が始まる。全員の敵の目的の推測はおおむね同じであり、魔法協会にある資料、あるいは論文コンペに集まった研究者というのが、主であった。狙いの推測を終え、これからどうやって脱出するかの相談に移る。

 

 避難船は、避難民に対してキャパがここにいるものが使うという案は却下された。三年生を皮切りに、それぞれの案が出される。二年生も意思を伝え、ついに一年となった時、そのリーダー格である達也の視線は、摩利たちの方ではなく、全く別の方向に向いていた。

 

 達也は壁に向かって銀色のCADを構える。その行動に驚いた真由美がマルチ・スコープを発動し、壁を、壁の向こう側を見始めた。壁の向こう側の正面入り口方向から装甲版に覆われたトラックが特攻してくるのを見て、真由美は驚愕した。

 

 達也はトラックを消去するために、自身の魔法、分解でトラックを消去するためにCADにサイオンを注ぎ込む。自身に視線が集中していることは今は気にしている場合ではなかった。いざ、魔法を放とうと引き金を引こうとした瞬間、トラックが謎の横からの力を受けて、横転した。そのままトラックは慣性に従い、横滑りを起こし、階段にあたり、一、二段乗り上げることで停止した。

 

 目の前で起こった光景の原因を探るため、達也は攻撃の方向にあてを付け、そちらに視線を移動する。すると、そこには車から身を乗り出し、ランチャーを構えた人物がいた。その人物が攻撃をしたことによってトラックが横転したということが状況から読み取れた。がしかし、気になるところはそこではなかった。達也にとってはその人物の服装と、乗っている車体には見覚えがあった。

 

 服装は黒いローブにペストマスク。車体は黄色のスポーツカータイプ。まさしく今近くにいるはずの錬のモノだった。そのことにさしもの達也も驚きを隠せず、錬の方を向いていまう。しかし、それは驚きを隠しきれず、声に出してしまった真由美によって気づかれることはなかった。

 

「何、今のは!?」

 

「落ち着け、何があったのか説明しろ」

 

 摩利に促され、真由美は落ち着くように一息つくと、壁の向こうで起こった出来事を話し始める。その間、達也は錬の隣に移動する。

 

「トラックがここに突っ込んで来ていたんだけど…、それを第三者がランチャーで吹き飛ばして、止めたのよ」

 

「第三者?何者なんだそいつは?」

 

「顔はわからないわ。けど黒いローブを着て、変なマスクをつけて、黄色いスポーツカーに乗っていたわ」

 

「ん?どこかで聞き覚えが……」

 

 真由美の説明に心当たりのある一年生二人顔を見合わせながら、摩利の声を遮って話し始める。

 

「それって!」

 

「ブランシュ事件の時のあいつだな!」

 

「そうか、思い出した。ブランシュを単独でつぶしたというあいつか!」

 

 摩利の言葉に室内がどよめく。達也は錬の隣に立っていた。

 

「しかし、あれの犯人は甲司によれば錬君だとか言っていたそうじゃないか。その張本人は目の前にいるぞ?」

 

 摩利の言葉に反応して、全員の視線が錬に集中する。一方渦中の錬は携帯端末に視線を向けており、何かを一心不乱に見ていた。その行動にその場の全員が「ああ、いつも通りだな」と思ってしまう。

 

「正直、そこも気になるけど、今はどうでもいいわよ」

 

 真由美が話を切り替える。その一方、真由美たちが会話している間、達也と錬は別の会話をしていた。

 

「錬、あれはお前の車だよな」

 

「ああ」

 

 錬は端末に視線を送りながら、短く返答する。

 

「じゃあ、ランチャーを打ったのは、いったい誰なんだ?」

 

「あれは俺の優秀な部下だ。これは貸しだと思っておいてくれ」

 

「自分のためでもあるから、なしでいいんじゃないか?」

 

 達也はその言葉の意味が一瞬分からなかったが、すぐに理解する。錬の部下がトラックを止めたことにより、達也の分解が少なくとも真由美に露見することはなかった。これが達也のメリット。では錬のメリットは何かというと、ここで錬以外の人物が事件の際に現場に会った車に乗って、行動したことでブランシュ事件の犯人が錬であるという疑いが完全になくなった(別にばれても構わないとは思っているが、ばれるとそれはそれで面倒なことになりそうだと思い隠している)。達也はこんな状況であるにもかかわらず、変わらない錬の性格に苦笑する。

 

 話を戻すが、話しながらも視線は正面玄関に固定していた真由美の視線は、ミサイルが飛んでくるの捉える。達也は再度、CADを構えようとするが、端末を見ていた錬に引き留められる。すると、ミサイルは横から飛来したソニック・ブームによって阻止され、爆砕した。爆発するとともにスポーツカーはその場から離脱する。

 

 真由美と達也は視線を元に戻すと、それを見計らったかのように、一人の女性、藤林が入ってくる。その恰好は軍服に身を包んでいる。藤林は入ってくるとともに真由美ににこやかに微笑みながら、挨拶をする。すると藤林の後ろから少佐の階級章をつけた壮年の男性が入ってくる。その男性は困惑している達也の前に立つ。横に並び立った藤林は、達也に向かってきっぱりと呼びかける。

 

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 

 この言葉で達也は困惑から立ち直り、姿勢を正すと、その言葉に対して敬礼で答える。その一連の行動を見た錬と深雪以外の面々は、驚きの表情を浮かべ、達也を見つめていた。達也が見つめられている間に目の前に立つ少佐から自己紹介がされる。その間、錬は本棚でその少佐についての詳しい情報を探っていた。名前は風間玄信、達也の上官にあたる人物だった。

 

 すると、藤林から現在の状況が話される。現在の状況は陸軍が侵攻軍と交戦中。魔法協会関東支部の義勇軍は自衛中。とても優勢といえる状況でなかった。

 

「さて、特尉。現下の特殊な状況を鑑み、別任務で保土ヶ谷に出動中だった和形芋防衛に加わるよう、先ほど命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官にも出動を命じる」

 

 この言葉に真由美と摩利は疑問を解消しようと、口を開きかけるが、風間は視線のみで二人を制する。

 

「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置であるとご理解されたい」

 

 厳めしい単語、重々しい口調、そして視線の力でその場の全員を制する。情報統制をするためにはやむを得ないことだろう。(もっとも錬に関していえば、この場の全員の情報が筒抜けであるというのは内緒である)

 

 達也は指示に従ってその場を後にしようとする。その一連の流れが圧倒的に衝撃的であったためか、誰も達也のことを止めることができない。が、達也を引き留める人物がいた。

 

「お待ちください、お兄様」

 

 深雪は達也を引き留める。その表情を見た達也は、これから深雪が何をしようとしているのかを察し、深雪の前に跪く。そして深雪は達也の頬に手を当て、目をつぶった達也の額に唇を落とす。

 

 すると、周りに劇的な変化が訪れる。光の粒子が達也の身体から沸き上がり、目を焼きかねないほどに活性化したサイオンが、達也を取り巻く。渦巻くサイオンに皆が圧倒される中深雪は達也に向かって、膝を折り、一言告げる。

 

「お気をつけて」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美たちは藤林とともにこれからどうするかを話し合っていた。自動車はあるが、それは弾薬を運ぶものであった。人が乗るものではなかった。そもそも全員が乗れるキャパはない。藤林に話かけられた真由美は状況を確認しながら、迷いを含んだ口調で提案をする。

 

「えっと…予定通り、駅のシェルターに避難した方がいいと思うんだけど」

 

 真由美は隣に立つ克人に視線を向ける。

 

「そうだな。それがいいだろう」

 

 克人は真由美の提案に即座に頷く。それに真由美がほっとすると、克人は車の貸し出しを要求する。藤林が理由を聞くと、十師族としての責務を果たすために魔法協会支部に向かうためのものだった。それに対して藤林は了承し、二台のうちの一台を貸しだした。

 

 話し合っている最中、雫は今の状況に違和感を感じていた。達也のあの衝撃を受け止めるのに時間がかかっていたというのも相まってその違和感を見つけることができていなかった。ぼーっと真由美たちの会話を見ているうちにその違和感を徐々につかみ始める。首を振り、周囲を見回し、違和感を確信に変える。真由美たちが移動しようという時にその違和感をまずはほのかに伝える。

 

「ねえ、錬君は?」

 

 ほのかはぎょっとした表情になり、雫と同じようにきょろきょろと見渡す。その行動で徐々に周囲にその驚きは広がっていく。全員がそれに気づいた時、真由美はマルチ・スコープで周囲を観察するが、真由美の視覚圏内にはすでにいなかった。いつ消えたのだろうか、などの疑問が沸々とわいてくるが、今は行動をとらなければならない。が、錬を置き去りにするわけにはいかない。板挟みになった真由美は意見を求めた。

 

「今はシェルターに向かうべきだろう。心配無用、とは言えないだろうが、今は行動しなければ私たちも危ない」

 

 摩利は顎で残りの十三人を差しながら、真由美に言葉をかける。藤林にも意見を求めるが、同様の考えだったのか、無言のまま、首を縦に振る。二人の意見を聞き、真由美は自身の考えを述べ始める。

 

「今は仕方ないわ。錬君と合流できることを祈って、今はシェルターに向かいましょう」

 

 真由美の指示に従って、全員が車の先導に従って、シェルターに向かい始めた。

 

 





 CADの見た目は龍騎のドラグバイザーの龍のモチーフを取り払って、そこに模擬刀をつけ、手の甲部分に、タッチパネルをつけた感じです。




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